きょうの社説 2011年3月28日

◎災害ボランティア 志生かす仕組みを早急に
 東日本大震災から半月が過ぎ、高速道やJR線の一部が再開するなど交通網は徐々に復 旧してきた。だが、被災地ではがれき撤去が難航し、物資が集積拠点に寄せられても、避難住民まで十分に行き届いていないところがある。災害現場で実績のあるNG0や地元の人たちがボランティア活動を展開しているが、支援の需要は増える一方で、人手は決定的に不足している。

 全国で一般ボランティアの事前登録が進み、春休みに入った大学生らも含めて多くの人 が出番を待つ。せっかく集まったマンパワーが、支援を訴える被災地とつながらないことに、もどかしさが募る。

 政府は辻元清美衆院議員を災害ボランティア担当の首相補佐官に任命し、「震災ボラン ティア連携室」を設置して湯浅誠内閣府参与を室長に起用した。ボランティアを災害対応の主体として位置づける、その狙いは理解できる。

 被災地は行方不明者の捜索が進まず、おびただしい倒壊建物が救援活動を妨げている。 通信環境や移動手段、宿泊場所も十分でなく、ボランティアの組織的な活動は難しい状況にある。だが、要介護者や高齢者らの支援は時間を争う。多くの志を生かすためにも受け入れ態勢を早急に整えてほしい。

 東日本大震災は被害範囲が広く、多くの地域で行政機能がまひしている。ライフライン が破壊され、被災者の避難生活は長期化が避けられない。ボランティア活動もこれまで以上に多岐にわたり、多くの人手と息の長い支援が求められるだろう。

 1995年の阪神大震災では延べ130万人のボランティアが参加し、「ボランティア 元年」と称された。その後、新潟中越地震、能登半島地震など各地の現場を経て、災害ボランティアの経験値は格段に高まり、ノウハウや組織力も蓄積されてきた。

 能登半島地震の被災者のなかにも「お世話になった恩返しをしたい」とボランティアの 準備をする姿がある。どこかで災害が起きれば被災した地域が奮い立ち、助ける側に回る。この共助の広がりも各地で活動を重ねた災害ボランティアの功績の一つである。その力を一刻も早く被災地に届けたい。

◎リビア軍事介入 正当でも見えない出口
 米英仏など5カ国の多国籍軍が開始した対リビア軍事行動で、北大西洋条約機構(NA TO)が前面に出ることになった。28カ国が加盟するNATOがリビア上空の飛行禁止空域の監視行動を指揮することにより、カダフィ政権の民衆虐待を阻止する国際社会の意思が一層明確に示される形になる。ただ、米英仏が主導する今回のリビア軍事介入は、人道目的として正当化できても、その出口は一向に見えない。

 国連安保理の対リビア決議は、リビア政府軍の攻撃から「市民を保護」するため、国連 加盟国による武力行使を容認している。自国民を保護する意思も能力もない国については、国際社会に市民を保護する責任があり、虐殺阻止のためなら主権国家への軍事介入も許されるという国連の一致した考え方に基づいている。

 これに対して、リビア政府軍を率いるカダフィ大佐は、欧米の攻撃を「十字軍の侵略」 と非難し、アラブの反欧米意識をあおっている。米軍からNATO軍に指揮権が渡されると、カダフィ大佐のもくろむ「アラブ」対「欧米」の戦いの構図が鮮明になり、泥沼化する恐れは否定できない。

 鍵を握るアラブ連盟は現在のところ、国連安保理の対リビア決議とそれに基づく軍事行 動を支持している。米英仏などによるリビア空爆は2週間目に入ったが、外交的配慮でアラブ諸国の支持を失わないことが肝要である。

 安保理決議は「即時停戦、市民への攻撃や虐殺の完全終結」を要求しており、それを大 義とした空爆でカダフィ大佐が退陣し、新たな民主的政権が誕生すればよい。しかし、人道を旗印にした介入ゆえの限界もあり、その見通しは立っていない。軍事力の行使だけでなく、カダフィ政権の資金源を絶つため国連が認めた経済制裁をさらに強化する必要があろう。

 日本政府が空爆支持をすぐに表明したのは妥当な政治判断であるが、リビアの内戦の激 化、長期化に伴う原油価格の高騰が日本経済に打撃を与え、大震災の復旧・復興活動の足を引っぱるリスクの高まりを避けられない。