液状化で町全体が地盤沈下した茨城県潮来市日の出地区は、今も道路のアスファルトが波打ち、電柱も傾いたままだ。電気とガスはほぼ復旧しつつあるが傾いた家には戻れず、26日現在、住民約110人が2カ所の避難所で暮らす。地盤を補強するには国の補助上積みが不可欠だが、市災害担当者は「当面の生活立て直しが最優先」と被災者支援に追われ、激甚災害申請まで手が回らない状態だ。
「ドーンとすごい音がして、突き上げるような縦揺れがきた」。元タクシー運転手、君和田恒雄さん(63)は避難所の市立日の出中学校体育館で振り返る。慌てて自宅から飛び出すと電信柱が揺れ電線は「ビーン、ビーン」とうなり、道路には土砂と水が噴き出していた。近くの公園に避難後、自宅に戻ると、塀と家が傾き、屋内は噴き上げた砂で畳が持ち上がっていた。
常陸利根川に面する日の出地区は内浪逆浦(うちなさかうら)と呼ばれる入り江だった。戦中、戦後の食糧増産で干拓されたが、農業の役割を終えると鹿島開発による人口増を見込み住宅地が造成された。盛り土には浪逆浦の砂が使われた。
被害の最も大きかった日の出4~6丁目は、地盤沈下で水道の土管が取り残され、アスファルトがはがれて約50センチ突き出している。校舎や集合住宅は土台がむき出しとなり、固い地盤を残し街全体が沈んだように見える。
主婦、稲田京子さん(51)は「埋め立て地で地盤が弱いと聞いていたが、こんなことになるとは」と嘆く。主婦、佐々木輝美さん(65)は「電気は回復したが、上下水道は5月下旬になると聞いている。雨風がしのげるだけましと思わなければ」とため息をついた。
ある被災者は家を復旧するには建物をジャッキで持ち上げ、土台に砂利を入れ凝固剤で固める工法が必要で、500万~700万円掛かると建設業者に見積もられた。1棟だけやっても意味がなく、町単位で地盤を補強する必要があるという。
日の出中体育館は新築されたばかり。20日の完成式前に震災に遭い、12日には約1000人が避難した。松田千春市長は「避難所になるために体育館を新築したようなものだ」と複雑な心境を話す。
茨城県内では、12日は市町村の約8割で水道が断水し、66万戸で停電、約7万7300人が公民館などに避難した。26日現在、潮来市など10市町の約4万世帯で一部断水が続いている。【岩本直紀】
毎日新聞 2011年3月27日 19時46分(最終更新 3月27日 20時06分)