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社説:災害弱者の救済 孤立させない支援を

 避難所で他の被災者に迷惑がられたり、集団生活が難しいために狭い車の中や壊れた自宅ですごしている人たちがいる。自閉症などの発達障害児者や認知症のお年寄りたちだ。被災者の救助が進みライフラインが復旧し始めても、最後まで取り残される恐れがある。被災地で孤立している「災害弱者」を早く助け出し必要な支援を結びつけてほしい。

 発達障害の人は日常生活の変化が苦手で、不安になって奇妙な行動をしたり、働きかけに強く抵抗したりする場合がある。感覚刺激に対する独特な過敏さや鈍感さから必要な治療や支援が受けられない人もいる。外見上は障害がわかりにくいために誤解され、周囲とトラブルになることも多い。また、聴覚障害者や視覚障害者は情報が届かずに被害にあい、被災現場でも孤立していた人が多い。専門の医療・福祉スタッフ、手話通訳者たちが自発的に被災地に入っているが、被害の範囲が広くて支援が追いつかないのが現状だ。

 避難生活が長期化するのを覚悟して遠隔地に集団で疎開する障害者や高齢者も目立つ。福島第1原発の周辺の施設にいた500人以上は近隣各県や関東の福祉関係者を頼って続々と避難している。支援スタッフが被災して同行できない場合も多い。持病がある人もおり、慣れない地域での生活には手厚い配慮が必要だ。

 こうした福祉関係者の間には全国的にネットワークがあり、ふだんから情報交換しているところが多い。被災直後からメールで援助のニーズを発信し、それを受けて遠方の事業所がスタッフを派遣してきた。被災地が混乱している間はこのようなネットワークを生かした自発的な救援活動に頼らざるを得ないだろう。

 ただ、被災地に職員を派遣するにしても被災者を受け入れるにしても、その母体となる法人はもともと職員が不足し財政的にも不安定だ。自前の施設が狭く、公営住宅やアパートに被災者を受け入れるところも多い。政府や各自治体は財政支援や制度の弾力的運用によって民間が安心して活動できるよう全面的に援助すべきだ。もちろん、ネットワークから漏れた災害弱者についても忘れてはならない。

 一方、震災後の早い段階から官房長官会見などで官邸の手話通訳がテレビ画面に映るようになった。地上デジタル放送対応のテレビなら視聴者が字幕ボタンを押せば画面に字幕が流れる。まだまだ十分とはいえないが、聴覚障害者への情報保障に努める姿勢が出てきたことは評価できるだろう。

 外国人の被災者にとっては言葉の壁が避難所暮らしをいっそう困難にさせる。長期化に備えて災害弱者へのきめ細かい支援が必要だ。

毎日新聞 2011年3月23日 2時31分

 

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