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目 次 ]      月刊・お好み書き 1999年2月1日号


日本初!聴覚障害者向け字幕付きAV

V&Rの安達かおる監督が制作

 「日本で初めて聴覚障害者向けのアダルト・ビデオ(以下AV)を作ったので紹介して下さい」―。奇妙な依頼が舞い込んできました。さっそく中身を拝見すると、「ア〜…」とか「イクぅ〜」とかのアエぎ声まで字幕スーパーが付いていて、聴覚障害者にも内容がわかるようになっていました。このAVの制作者である安達かおるさん(47歳)に話を伺いました。(大西 純)

AV界の重鎮

 安達かおる―。ちょっとAVを知っている人なら必ず知っている名前だと思う。「鬼のドキュメンタリスト」の異名を持つAV監督であり、本名・三枝進として「V&Rプランニング」の社長。ふたつの名前と“いくつもの顔”を持つ人である。安達が育てたバクシーシ山下、カンパニー松尾両監督はAV界では、すでに「巨匠」といっていいだろう。バクシーシ山下については、お好み書きでも95年12月号で「特殊AV監督」としてインタビューしている。

◆安達かおる
 1952年1月27日生まれ。47歳になったばかり。学生時代はデモに明け暮れるが、セクトとは無縁。テレビ制作会社勤務を経て86年V&Rプランニングを設立。代表作に『ジーザス栗と栗鼠(りす)スーパースタースペシャル』シリーズがある。


障害者と性を撮るAV界の重鎮

 迫真のレイプシーンなどで女性団体等から抗議を受けたこともあるV&Rであるが、AVというやり方で社会問題に切り込んでいくことが同社のひとつのウリになっている。東京・山谷で日雇い労働者のオッチャンと女優をカラませ山谷という街をある種ドキュメントした『ボディコン労働者階級』、パスポートが取得できなかった在日韓国人の男優・女優を長崎県の対馬へ連れて行き釜山の夜景が見える丘でフェラチオをさせる『私が女優になった理由(わけ)〜望郷編』、震災直後の長田区の避難所へ行きかつて出演したシロウト男優の安否を確認、その後同行した女優とエッチさせた『18歳〜中退してから』(これには「男優」が僕の知り合いだったというオマケがついていた。画面を見て、これこそホンマに目が点になりました)。以上3本はバクシーシ山下作品。そして安達かおる作品として『ハンディキャップをぶっとばせ』がある。これはもう障害者と性の問題を描いた完全なドキュメントに近い作品だ(もちろんセックスシーンはあるが)。90年代前半に作られた。何らかの障害を持つ人にも性欲があるのは当り前のことだということがマスコミ等でクローズアップされるずっと前のことである。残念ながら『ハンディキャップをぶっとばせ』はビデオ倫理審査会から審査拒否され未だ世に出ていない。「内容云々じゃなくて障害者をAVに出すことがダメなんですね」と安達は言う。それでもボツボツとであるが『ハンディキャップをぶっとばせ第2弾』を撮りだめしているのだという。

裸から人間が見える

 86年に「V&Rプランニング」を設立するまでテレビ制作会社に勤めていた安達にとって、AVは《「こんなにも斬新な世界があるのか!」》(94年11月発刊『別冊宝島211、1億人のAV』から引用=以下《》内は同書より)という世界だった。
 《まず生録りができる。それに台本がなくても進行できることが新鮮だった。それ以上に、セックスという人間の根源的な行為に立ち入って撮影すると、人間ってなんて面白いんだろう、なんて汚いんだろう、と実に様々なことが見えてくる。面白いことに、TVや映画のように完成度を追究するとエロは薄れていく。女の子の本質を撮ろうと思ったら、撮影の合間ですね。照明が暗かろうが、マイクがセットされていなかろうが、リアルタイムでテープを回す。すると、たかが裸だけど、その裸を媒介にして、政治、文化、国家などすべてのことが見えてくる。人間の本質が見えてくるんだ》
 バクシーシ山下も言っていたが、とにかくセックスシーンさえ入れておけば何をやってもいいという所がAVにはあるようだ。安達の中では、障害者と性の問題に取り組むこともウンコやゲロまみれのビデオを作ることも一本の線でつながっているのである。

手弁当の仕事

 今回、聴覚障害者向け字幕入りビデオを作った動機について、安達は次のように言う。
 「自分の作品を万人に見ていただきたいですからね。耳の不自由な人にも自分の作品がわかるようにしたいと思ったのです。目の不自由な人からも音だけのものを作ってほしいという要望もあるんですよ」
 聴覚障害者向けといったって、普通に出回っている作品に字幕を入れただけである。しかし、安達ひとりの手弁当の仕事である。「この字幕を入れる作業が結構大変なんです」という。
 第一弾は昨年末に発売された『征服株式会社2 試練のリストラ弱肉強食編』(税込4179円)。女が牛耳る保険会社を舞台に男の営業部員たちが蹴りまくられ、オシッコをかけられ、ウンコを食べさせられ、タバコの火を押し付けられるエグイ(けど笑える)内容だ。第2弾は1月に発売されたばかりの『立ち姿女小便』(税込6090円)。文字通り「女の立ちションのオンパレード」である。


『征服株式会社2 試練のリストラ弱肉強食編』
のワンシーン。字幕は「いく」


「マニア」向け?

 ビデオを見たある聴覚障害者の要望に「もっとノーマルな作品に字幕を付けてほしい」というのがあった。安達は次のように答えたという。
 「字幕付きをやっているのが私だけですからねえ…。私の作品は“そういう作品”ばかりですから仕方ないですね。ウチの会社にもノーマルなものを撮っている者もいるんですけど、こればっかりは個人が字幕付きを作るかどうかですから」
 字幕については、まだ試行錯誤の段階のようだ。リード文で「ア〜」とかいうアエぎ声にも字幕が入っていると書いたが、それはごく一部で、いたぶられ奇声を発する男の声は字幕になっていない。また女たちが取り囲んで口々にしゃべりながら男をいたぶる場面でも、誰がどのセリフを言っているのか区別がはっきりしていない。第2弾では改善され、登場人物ごとに字幕の色を変えるなどの工夫が施されている。ただ全編オッシコのビデオなのでアエぎ声がどうなるのかは次作を待たねばならない。それと、僕にとっては字幕が消えるスピードが速すぎるように感じた。もっとも字幕に慣れた聴覚障害者には問題ないのかもしれないが。これは当事者に聞いてみないとわからない。


『立ち姿女小便』のワンシーン。字幕は「小ちゃい人には
小ちゃいなりによさがあると思います(そうだろう そうだろう)」
前の部分は女性の言葉で後のカッコ内は安達監督の言葉(脅し?)


7本出たのみ…

 安達は、いくつかの聴覚障害者関係のホームページに、字幕入りのAVができたという情報を流した。「不適当な内容」として情報を抹消されたケースもあった。「いきなりアダルト関係の書き込みがあったらびっくりしますよね。抹消は残念だけど仕方ないです。全然腹は立ててませんよ」と言う。宣伝といっても、あとは自社のホームページに情報として載せるくらいである。「問い合わせがあった方に送ってるんですが、1月末時点で私が把握してる範囲で7本が出ただけです」。これでは、とても採算は合わない。


『立ち姿女小便』のワンシーン。字幕は
「一ヵ月に一度しかウンコがでないんです」


 PRの方法とか、ほかにないのだろうか。レンタル店に置いてもらうようにするとか…。
 「これからは、もちろん雑誌等にも字幕版もあることは告知していきますよ。ただね、流通がネックでね」
 何か規制でもあるのだろうか?
 「いや、そうじゃなくて、『タイタニック』なんかと違ってAVってレンタル店1軒に同じモノをそんなに置いてないでしょ。1本だけというのがほとんどですね。その1本を普通版にするか字幕版をあえて置くかとなった場合、まあ普通版になるでしょ。あえて字幕付きを選んでくれる店が出てくればいいですけど…」

文字に興奮する方にも

 全くの手探り状態ではあるが安達は本気である。「私の作品に関しては、これから全て字幕付きも出します」ということだ。
 もうひとつ大事なことを忘れていた。PRのチラシにこう書いてある。
 「なお、聴覚障害者以外の方でも購入はできます。文字に興奮する方にも最適です」
 残念ながら、僕は「最適な性癖」を持ちあわせてなかったことを報告して締めとさせていただきます。





◆聴覚障害者向け字幕スーパー付きAV
購入方法&問い合わせ先
株式会社V&Rプランニング
〒154-0012 東京都世田谷区駒沢1-19-8アーバネスト駒沢2F
TEL.03-5481-6987 FAX.03-5481-3705
電子メール:vandrpln@vandr.co.jp
ホームページ:http://www.vandr.co.jp/
(本ページのビデオ・パッケージ写真はV&Rの同ホームページより)


大西 純
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