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[26613] 【ネタ】銀の戦姫(IS×おとボク2)
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/25 14:12
 私立藍越学園への試験会場を目指していた筈が建物内で迷子になった一夏の目の前に、信じられないほど美しい少女がいる。

 神秘的な銀眼に、流麗な銀糸の髪。
 顔や手などの露出した肌は、ありえないほどにきめ細やかな絹のよう。
 どことなく不機嫌そうな表情を浮かべている可憐な顔には、凛とした佇まいとあどけなさが同居している。
 あまり胸はないようだが、それにさえ目を瞑れば彼女のプロポーションは女性の理想と言って良い。
 どういうわけか、着ている服は男物のようだ。
 年のころは恐らく一夏と同じ位。

 初めて出会う少女。
 テレビや雑誌でもこの少女を見かけた事はない。
 いくら朴念仁だの唐変木だのと言われている一夏でも、この少女を一目見て忘れる事などありえない。

 しかし一夏は、この少女を見たことがあった。

 と、少女が口を開く。

「あなたはどこに行くつもりですか?
 この先は女子校の試験会場ですよ。
 あまり面倒な事にならないうちに退散してください。」
「え゛? そうなのか……っと、ちょっとまって。
 俺、君に渡す物があるんだ。」
「へ? え、と、僕に……渡す物……ですか?」

 今朝、郵便受けの中にあった、この少女の写真。
 その裏には見覚えのある筆跡で、
「この子へのプレゼントがあるから、ここに連れて来て♪」
と書かれたメッセージと手書きの簡素な地図が書かれていた。

 今朝、写真の裏のメッセージを読んだ時の一夏は
「一体何を考えてるんだ、束さんは……」
と、思ったのと同時に、ごく親しい人間以外には極端なほど冷淡な彼女が自分の知らない少女にプレゼントなど用意するものだろうか、と不審に思う。

 束の考える事など自分に分かる筈もないと結論付けた一夏は、ひとまず写真をカバンの中に入れて受験会場へと急いだのだった。
 見ず知らずの少女とうまく遭遇する可能性など低いのに、彼女は一体何を考えているのかと思いながら。

 そして受験会場で道に迷い。
 ものの見事に写真の少女と遭遇して冒頭のシーンとなる。

 なお既に試験開始の時間は過ぎており、現時点で一夏が落ちるのは確定している。

 一夏はそこまでの説明を少女にして、彼女自身の写真を手渡した。

「ほ、本当に僕の写真だ……でも、なんで?
 僕は彼女とは会った事も無いのに……」
「……いや、そりゃありえないだろ?
 あの人の他人に対する拒絶反応ってハンパじゃない筈だぞ?
 それが見ず知らずの相手にプレゼントだなんて。」

 君が驚くも分かるが、俺だって同じ位驚いているよ。
 写真を手にして驚愕する少女を見て、一夏は内心そうごちる。

「……行ってみるか? この建物内みたいだし。」
「建物の中というか、屋上みたいですね。この地図の示す先は。」

 迷子などと言うしょうもない理由で受験勉強を棒に振った一夏は、もうこれ以上失うものはないだろうという気持ちで少女に話しかける。
 藍越学園に入れなくなった以上は、もはや姉に止められた中卒採用で社会に出る以外の道は選べない。
 より学費の高い高校に行って、中学生の年齢の頃から女手一つで育ててくれた姉にこれ以上の負担をかけるわけには行かないからだ。

 なのですでに若干やけを起こしている。

 一方、少女は逡巡しているようだった。





=============





「……あの、貴女大丈夫!?」

 銀の瞳と髪を持つ非常に美しい少女は、気が付くと見たことのない街角でベンチに横たわっていた。
 その少女を、通りすがりの少女が揺り起こす。

「え、ええ。」
「それなら良いけれど、最近の女尊男卑の世の中で鬱屈した男が性犯罪に走るって話がよくワイドショーに出てるから、こんな所で寝るなんて止めた方がいいわよ。
 特に貴女はものすっごく綺麗なんだから、もっと警戒心持たなきゃダメ。」
「は?」

 女尊男卑という言葉を聞いた銀の少女の目が点になる。
 世の中が女尊男卑になっている。
 銀の少女にとって、そんな事はあるはずがなかった事だからだ。

「え、と、女尊男卑!?」
「へ? ほら、白騎士事件で女性しか使えないISがダントツで世界最強の座に君臨してから、世の中そんな感じになっちゃったじゃない。10年も前の話よ。」
「しろき……ISって、インフィニットストラトス!?」

 銀の少女の目は驚愕に見開いた。
 白騎士事件の事は少女も知っている。
 IS……インフィニットストラトスがどのような物かも、まあ大体は知っている。
 しかし……ありえる筈がなかった。

「何よ、こんなの赤ちゃんでも知ってるくらいの一般常識じゃない。
 貴女もIS学園の試験を受けに来たんでしょ?
 そんなんで大丈夫なの?」

 銀の少女にとって、それらは物語の中にしか存在しないものだったから。

「あ……すみません、僕違うんです。
 IS学園なんか受けませんよ。」
「そうなんだ。まあ、すんごい難関校だもんねぇ。
 じゃあ大丈夫そうだし、あたしもう行かなきゃ。」

 銀の少女は起こしてくれた少女の後姿を見送ると、そっと呟いた。

「っていうか、根本的に入れるわけないじゃないか。
 僕は男で、ISが反応するわけないんだから。」

 少女……否、少年の名は御門 千早と言った。





「さて、これからどうしようか?」

 マトモな方法で帰ることは最早諦めている。
 何しろ先ほどの少女が嘘をついているのでない限り、ここはインフィニットストラトスの世界、小説の世界なのだ。
 確認の為ゴミ箱の中にあった新聞を広げてみると、そこにはIS関連の記事がデカデカと載っており、またISとその装着者もイラストなどではなく実写だった。
 イタズラ好きの親族がドッキリを仕掛けている可能性もあるが、ここまで手が込んだドッキリと言うのも考え辛い為、少女の話は嘘ではないと考えてよい。

 となると、彼の家とは根本的に世界が違う為、マトモな移動手段で家に帰れるはずがない。

「となると……」

 帰る為にはマトモではない移動、平行世界間を移動する手段が必要になる。
 家には守りたい……守りたいけれどもそのためにどうすれば良いのか分からない母と、妹のように思っている少女が待っている。帰らない、帰るのを諦めるという選択肢はない。今後も絶対に。

 そしてインフィニットストラトスの世界で平行世界移動が可能そうな人物といえばただ1人、篠ノ之 束しかおらず、千早が帰る為には彼女を何とかして探し出して頼る他ない。

 だが彼女は妹の箒、親友の織斑 千冬とその弟にしてインフィニットストラトスの主人公である一夏以外の人間をマトモに認識できず、極端に冷淡な態度で拒絶する問題人物。
 ハッキリ言って交渉が成り立つ相手ではない。
 となると、箒・千冬・一夏のうち誰かに渡りをつけねばならない。

 思案する事0.1秒。

「……一夏1択だな。他の2人は接触自体が難しすぎる。
 でも3人のうち1人だけ彼女との連絡手段を持ってないんだよなぁ……」

 と、ココまで言って気付く。
 さっき起こしてくれた少女は何と言った?
 あなた『も』IS学園の試験を受けに来たんでしょ?

「……彼女はIS学園の受験者で、今日がIS学園の試験日。
 という事は、今日がISの冒頭のシーン……なのか!?」

 インフィニットストラトス。
 千早は読んだ事はなかったが、断片的なあらすじ程度の概要ならば把握している。
 確か一見ハーレム物のように見えても、相当シビアな裏側が設定されていた筈だ。
 その一環で主人公一夏が、世界で唯一の男性IS装着者という立場のせいで政治的に危うい立場に立たされてしまい、時に命を狙われたりもしていた場面もあったと思う。

「小説だったから助かってたみたいだけど、実際にずぶの素人があの立場に立ったら何度か死んでいるような……」

 千早は知っている限りのインフィニットストラトスのストーリーを思い起こす。
 結論として、一夏の存在がどうしても解決に必要な問題は一切なかったはずだ。
 シャルルの件が微妙に当てはまる気がしないでもないが、彼女の件はそもそも一夏さえいなければ発生していない。

 となると……一夏はIS学園に入学するべきではない。

 誘拐事件の事を考えると自衛手段としてISを持っていた方が良いかも知れないが、一夏の戦闘力はISに登場する全専用機持ちの中でもダントツで最弱。
 その底辺という地位が、6巻時点まで全く小揺るぎもしない。

 それはそうだ。
 一夏はちょっと前までISやそれに伴う軍隊教育・専門知識とは全く無縁だったド素人。
 天才的な素質を持っているらしいが、どれ程凄まじい素質を持っていようともつい最近まで民間人だった男が、軍事教育でみっちり鍛え上げられたヒロインたちの領域までそう簡単に辿り着ける筈が無い。
 何しろ彼女達は素手でマシンガンやショットガンを持った男を制圧できる人外レベルの戦闘力を有し、演算能力・反射速度なども明らかに人類の範疇を超えている超人兵士・代表候補生なのだ。
 唯一そうでないヒロインであり、他のヒロイン達に絶対的なほど劣る実力の箒でさえ、女子中学生剣道日本一。生身同士ならば一夏を一方的に蹂躙でき、専用機同士でも以下同文。
 そしてモブの少女達も厳しい倍率のIS学園入試を掻い潜ったエリート達で、その中には軍事訓練を受けるなどして箒と比較しても遜色ない実力を身につけるに至った少女も決して少なくない筈。軍関係者がヒロイン達だけという事も考え辛いからだ。それはつまり、モブですら機体性能差を考慮せず本人の実力だけを見れば、一夏を超える者が多いという事。
 あげく、一夏の姉である千冬にいたっては地上最強の生物ときたものだ。

 この状況下で、本来なら瞬殺される以外有り得ない戦闘においてそれなりの見せ場がある時点で、主人公補正がかなり効いていると言わざるを得ない。

 とはいえ、最弱は最弱。
 身柄を押さえようとしたり殺害しようとして襲い掛かってくる刺客に対抗するには、あまりにも頼りない。
 そう考えると、最弱の力などないのと同じ。
 そんな役立たずな最弱の戦闘力を得るためのリスクとしては、政治的に非常に危うい立場になるというリスクは余りにも巨大すぎた。


「IS学園入試会場の場所、聞いておけば良かったかな。」


 かくして千早はIS学園入試会場へと急ぐ。一夏がISに触れる事を防ぐ為に。

 そして……その一夏から自分の写真を手渡されるという、全く予期しない展開に目を回したのだった。




===============






 だから一夏と出会った少女は、千早は逡巡する。
 このまま一夏を伴って屋上へ行っても良いものかと。

 そして。

「まってください。これは僕宛の贈り物のようです。
 これに関してはあなたは関係ないようなので、屋上へは僕1人で行きます。
 あなたはもう帰った方が良いんじゃないんですか?
 これからまだ受験を受け付けている学校とか、中卒採用をしている企業とか、色々と探さないといけないでしょう?」

 束はISの発明者。その彼女からの贈り物なのだから、IS関連の物である可能性が高い。
 千早はそう判断する。
 何故男性である千早にそんな物を贈るのかが分からなかったが、千早は一夏をISから遠ざけるべく彼を帰らせる事にした。

「そりゃそうだけど、見るだけなら別に良いんじゃないか?
 そもそも君を『連れて来い』って書いてあるって事は、俺がその場にいること前提じゃないか。」
「それは、そうですけど……」

 千早は一夏の同行を断る適当な理由を探そうとするが、どうにも思い浮かばない。
 結局、千早は折れた。




 屋上への鍵は開いていた……否、一夏がドアノブに触れる直前まで閉ざされていたのだが、二人はその事に気付かない。

「で、このドでかいダンボールがその贈り物なのか?」

 扉を開けた先に見えたのは外の風景ではなく、間近に迫るダンボールの壁。

「そうなんじゃないんですか?」
「でもこれじゃあ、開けて中を確かめるどころかどかす事もできないぞ。」

 一夏がそう言いながら、何気なくダンボールに触れる。

 すると突然ダンボールを突き破って出現した刺又のような物が2人に襲い掛かり、拘束するとそのままダンボールの向こう側に引き寄せる。
 突然の事に、一夏は勿論、千早も反応し切れなかった。

 そして2人が引き寄せられた先には……




===============




「……何をしているんだ、お前は。」

 いきなり屋上に未確認のISの反応が2つも発生したとのことで、試験用ISを装着した千冬がIS学園入試会場から急行してみると、彼女の弟である一夏と見知らぬ少女が拘束された状態で屋上に転がっており、その2人の傍らにはそれぞれ見たことのないISが起動状態になって佇んでいた。
 動けなくなっている2人は、丁度傍らのISに触れた状態になっている。

 他に人の姿がなく、素直に見れば……少女と、そして男性である弟が触れた事によってISが起動した、という状況に見える。

「いや、俺にも何がなんだか……なんか頭に情報が流れ込んでくるってーか、そもそもなんで男の俺が触ってISが動いてんだ!?」
「それ……僕の台詞ですよ……」

 一夏は勿論、少女にとっても想定外の状況のようだ。
 そして少女の方も一夏と似た状況のように見受けられる。

「何が原因で、どういう経緯でこの状況になった?
 答えろ、一夏。」
「いや、ちょっと待って、千冬姉。
 問答無用で流れ込んで無理やり分からされてる情報が多くて、ちょっと他の事に頭が回んねえ。」
「……お前は?」
「僕もです……」

 と、千冬のプライベートチャンネル……IS装着者間で行える、互いの脳内に直接声を伝える通信機能……で、屋上の様子を尋ねるIS学園教員の声が聞こえてくる。

『こちらも状況が見えん。
 どうもあの馬鹿がまたぞろロクでもない事をしてくれたという事と、未確認ISが起動状態のまま誰にも装着されていない事、起動させている連中が装着したくても出来ない状況下にある事しか現時点では分からん。』

 千冬はプライベートチャンネルでそう返答する。
 一夏がISを起動した事実は伏せたい。そんな彼女の心境が反映された返答だった。

 だがそれも意味のない配慮だったようだ。

「織斑せんせーい、私も応援に来ちゃいました……って、ええ!?
 なんで男の子がISを起動させてるの!?」

 最悪のタイミングでやって来た後輩の姿に、千冬は思わず頭を抱え込んでしまったのだった。

 その後、一夏と少女の様子が落ち着くまで要した時間は2時間ほど。
 それほど膨大な量の情報が、ISから2人の脳内に流れ込んでいた。 





===============




 千冬は御門 千早と名乗った銀の少女から、その身に起こったという話を聞いていた。
 千冬にとって、千早の話は信じ難いものだった。

 一夏が主人公の小説「インフィニットストラトス」の存在。
 6巻まで刊行されているが、一夏は主人公であり才能に恵まれていながら全くのド素人という出自の為、他のキャラとの差を少しずつ詰めてはいるものの最弱の座から一歩も動く事ができないでいる。
 そんな最弱の力を得るのと引き換えにしたのは、かけがえのないなんでもない日常。
 いかに弱くとも、「世界唯一の男性IS装着者」という立場は恐ろしいほど巨大な政治的意味を持ち、一夏は単なる民間人として生を全うする事が不可能になってしまったのだ。
 そして「世界唯一の男性IS装着者」という立場は、時に暗殺という形で一夏を押し潰してしまおうとする。
 物語の中の一夏は専用機を持つ他のあらゆる登場人物より弱いものの主人公補正のお陰でなんとか生き延び、時には主人公補正のお陰でそれなりの見せ場を得たりもしているが、今ここにいる一夏が同じく主人公補正に守られているとは限らない。

 その小説で言えば冒頭の場面に当たるIS学園入試に出くわした千早は、主人公一夏の運命を狂わせた「迷い込んだIS学園入試会場でうっかりISに触ったら何故か起動してしまった」という事件を防ぐ為、IS学園入試会場へとやって来たのだという。
 そして、小説とは全く別の形、彼女自身の写真を餌にしたトラップに引っかかり、あの状態に陥ったらしい。

 全く、正気を疑うに充分なほど荒唐無稽な証言である。
 しかし……

「それ以上に、お前が男だという事の方がはるかに信じ難いんだが。」
「はるかに……ですか……」

 可憐という言葉を具現化すればこうなるであろうという容姿の銀の少女は、ガックリという擬音が明確に聞こえるようにうつむいてしまった。
 だってそうだろう。この少女が男だというのであれば、この世から女などという人種は消滅してしまう。
 千冬は本気でそう思った。

「あの、小説「インフィニットストラトス」の事よりも、僕が男だって事の方が信じ難いんですか?」
「ああ、何しろ束の事だからな。
 私達の事が描かれた小説が存在する平行世界に行く、その程度の無茶はやりかねん。
 そもそもアイツに常識を当てはめるほうが無理なんだ。
 ISからして非常識にも程がある代物だからな。
 だが……お前が男だというのには、束は関係ない。だから信じられん。」
「……そうですか……」

 そうだ、束だ。
 もし仮に千早の証言が本当であるとするなら、束が「インフィニットストラトス」を読んでいる可能性は高い。
 束が一夏に千早の写真を持たせた事とその後の出来事を見るに、千早を元の世界からこのインフィニットストラトスの世界に連れて来た下手人は間違いなく束だからだ。
 世界中から追われ、直接会いに行くことは不可能だが、何故か千冬からのコンタクトには高確率で応じてくれる友人。

 千冬にしては間の抜けた話だが、彼女自身が自分が束にコンタクトを取る事が出来る事に気付いた丁度その時、千冬の携帯電話が鳴り出した。
 画面を見れば、そこに示された名前は『メタルウサミミ』。

 千冬は千早に「ちょっとまて」と言ってから電話に出た。

『やーやーやー、そろそろ私からの連絡が欲しくなったかなー、と思って電話してみたよ。』
「……お前、この状況をどっかから監視してるだろ!?」
『うん、まー白式と銀華にちょっと盗聴器なんかを。』
「ほう。」

 千冬の額にビキビキと怒りマークが現れたように見えてしまう千早。
 なお、白式と銀華は先の未確認ISの事で、白式は一夏専用機、銀華は千早専用機となっている。

「で、今回のこれは一体何のつもりなんだ?」
『いやーねー、「インフィニットストラトス」あたしも読んだんだけどねー。
 ぶっちゃけあのお話でいっくんが弱いのって、ライバルキャラがいないからかなーなんて思っちゃったりなんかしちゃったりして。』
「…………それで一夏のライバルとして、御門を連れて来た、と。」

 千冬の声のトーンが一気に下がる。
 地上最強の生物がドスを効かせた声で、電話の向こうの天災科学者に話した。

 ああそうだった。人の迷惑顧みないというか、織斑姉弟と箒以外の人間はマトモに認識する事が出来ないという社会不適合者に、人様の立場や家族などを思いやる気持ちなど芽生えよう筈がないのだ。

 分かっていた筈だったが、今回束がしでかした事は千早に対する誘拐である。
 かつて誘拐の被害にあいそうになった彼女としては、到底看過できる所業ではない。

 だが馬耳東風とは良く言ったもので、束はそんな千冬の怒気など意に介さない。

『そーそー。
 だってねー、同じIS初心者で同じ男性IS装着者で同じ高機動型接近戦用機。
 それで生身だったらいっくんよりつよーーーい。
 もう見事なまでにライバルに相応しくってぇ、つい♪』
「つい♪ じゃないだろう、この誘拐魔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 って、同じ男性IS装着者!?」
『うん、わたしももんのすっごくビックリしたよー。もう口から心臓が出ちゃいそうな勢いで。
 すっごいよねー、女の子として完璧な容姿を持った男の子なんて千早君見るまで想像もしてなかったよー。』

 先ほどの怒りはどこへやら。
 千冬は自分の耳から血が噴出したような感覚に囚われ、ハタから見ていた千早も彼女の耳から血が噴出する幻覚を見たような気がした。
 そのお陰で一瞬ビクッとする千早。

「念のため聞くが、どうやって調べた?
 本当に御門は男なのか!?」
『えーとねー、おふr』
「いや、いい。止めておこう。」

 なにやら不穏当な返答をしようとする束に対して不吉な予感を感じた千冬は、彼女の返答を遮った。

『ぶ~~~。
 ……本当はね、千早君をそっちに送ったのって、ちーちゃんを精神的に追い詰める為だったんだ。』
「は?」
『千早君の世界にはISは存在しない。あるのは小説「インフィニットストラトス」。
 だから千早君の世界にいっくんを送ってしまえば、いっくんは暗殺されたり誘拐されたりする心配がなくなる。
 それをちーちゃんが自分で考え付くか千早君が提案するかして、そのお別れが刻一刻と迫る、その焦燥感をちーちゃんに感じて欲しかったの。』

 突然のトンでもない束の告白に戸惑う千冬。
 電話の向こうの束の声は、普段とは比べ物にならない真剣なトーンが感じられる。

「ちょっとまて、そんなもの私に感じさせてどうするつもりなんだ!?」
『だってちーちゃん、いっくんをISに関わらせない事で守ろうとしたんでしょ?
 でもそれって、ISに関わらないって事は「織斑千冬」にも関わらないってことだよ。
 実際、ちーちゃんってば月に2,3回しかいっくんと一緒に過ごせてないじゃない。
 その路線の行き着く先は、ちーちゃんといっくんの永遠の別れ。それでいいの?』
「…………」

 束の指摘に押し黙る千冬。
 今指摘された事は、以前から自分でも分かっていた事だった。
 一夏が誘拐された時も、その原因は一夏が自分の、「織斑千冬」の弟だった事だ。
 ISに関わる事は危険かも知れないが、一夏は千冬というこれ以上ないほどのISとの接点を持っており、ISとの関わりを絶つのであれば、千冬との関わりを絶たねばならない。
 ……分かっていた事だった。

『それに「インフィニットストラトス」でいっくんが誰よりも素質があるって言われてるのに弱っちいのは、ISと関わるのをずっとちーちゃんに妨害されてたからなんだよ。
 もっと前からISと関わっていたら、女の子達とそんなに変わらない訓練を受けれた筈だもん。それなら、一番才能があるいっくんが一番弱いなんてありえないもの。
 そんなちーちゃんのせいで弱虫になっちゃったいっくんが、自分の弱さに苦労させられる「インフィニットストラトス」を読んじゃったらさ、ちーちゃんを責めないわけにはいかなくて。』
「……全ては私の勝手だったという事か?」
『少なくとも私はそう思ったよ。』

 千冬は押し黙る。そうせざるを得ない。

『なんだったら、今度会った時にいっくんを千早君の世界に送っちゃう?』
「っ!! やめろっ!!!!!!!」

 ほとんど反射的に千冬は叫ぶ。ほとんど、否、完全に悲鳴だった。

『だよねぇ~~。いっくんがいない人生なんて、ちーちゃんにとっては死んじゃったのと同じだもんねぇ。』
「…………」

 千冬は黙るしかない。
 会話のイニシアティブを完全に持って行かれた事も自覚せざるを得なかった。

『いっくんと千早君に関しては、あたしからの要請でIS学園に入れてもらうよ。』
「……お前に言われずとも、男性IS装着者である一夏は強制的に入学させられる。
 御門については……お前に押し付けられた専用機があるからな。こいつの方も強制入学だろう。」
『うんうん。そーそー。
 千早君に関しては親御さんに説明求められちゃってねー、とりあえず無事を伝えたら、結構あっさりIS学園入学を認めてくれたよ。』
「……そうか。よく怒り出さなかったな。」
『なんかねー千早君、自分の殻に閉じこもったっきりで人との付き合いが出来なくて、おかーさん心配してたんだって。
 それで全寮制の学校なら人との関わりも出来るだろうって。』

 お前がそれを言うか。
 思わず口をついて出てきそうになるその台詞を、千冬は飲み込んだ。
 今更言ったところで直るものでもない。








 後にして思えばこれが、織斑 一夏と御門 千早のIS学園入学が決まった瞬間だったのかもしれない。
 千冬がそんな風に考えられる余裕を取り戻したのは、この1ヶ月以上後の話だった。



==第一話FIN==


 自分じゃ書けないと思ったので、雑談の「こんなネタ」スレに書き込んだネタですが、一向におとボク×ISを見かけないので書いてみました。
 そんなわけでその他板の恋楯クロスには期待しています。

 本当は束が言っていたような展開で話を進め、3巻で終わりという形を考えていたんですが、流石に親友相手にそこまでねちっこくは出来ないだろうという事で、この辺で手打ちにしました。
 まあぶっちゃけ異世界への移動で一夏の安全を確保するのであれば、IS学園入試以前の段階で拉致った方が良いわけで。
 3巻で終了という道筋を既に絶ってしまったため、完結はあまり期待しないで下さい。


しかし、ちーちゃんの男の子口調がよー分からん。
たぶん史相手に話した時の口調なんだろうけどうまく書けない……
基本、男の子モードで話を進めなきゃいけないのに。



[26613] IS世界の女尊男卑って、こーゆーとこからも来てると思うんだ(短いです)
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/21 23:20
 一夏と千早はIS学園入試の3日後にIS学園にやって来た。
 千早から「インフィニットストラトス」の冒頭部分で一夏のニュースが連日連夜報道されていたという話を聞いた織斑姉弟が、マスコミの大攻勢が始まる前にIS学園に引き篭もってしまったほうが良いと判断した為だ。

 だが、たった2,3日でIS学園への入学を捻り込む事など出来ない。
 よって正式な手続きはまだしておらず、一夏と千早は寮に入る事ができない。

 なので、当面は千冬の部屋に居候という形になる。
 しかし2人は、正式な手続きが済んだ後でも寮に入るつもりはなかった。

 何故なら2人は

「千冬姉。俺達、夜寝る時にIS着て寝たいんだけど、どうにかなんないかな?」
「……一夏、お前一度死んで見るか?」

ISを着込んだ状態で就寝したいと思っていたからだ。
 千冬はその発想に呆れ果て、氷のように冷たく強烈なツッコミを入れる。

「べ、別に何の根拠もなくIS着て寝たいって言ってるわけじゃないぜ。
 一応根拠があるんだよ。」
「ずぶのド素人の思いつきに根拠も何もあるものか。
 大体何なんだ、その根拠と言うのは。」

 何だかんだいって弟には甘い千冬である。
 本来なら切って捨てて聞く耳持たない素人の思い付きにも、相手が弟であれば多少聞く耳を持つ。

「えーとな、ほら夜寝てる時の脳の活動って、色んな情報を頭ん中で整理してるって話があるじゃないか。
 だから寝ている時にIS着けてれば、ISの操作方法込みで脳内の情報を整理できて、より早くより自然に直感的にISを操縦できるようになるんじゃないかな~~、なんて思ったんだよ。」
「……そんなものIS無しでやれ。」

 と斬って捨ててはみたものの、確かに一夏の言い分にもそれなりの理はありそうである。
 それに「ISを着用して就寝する」という発想は非常に新鮮であり、それでいてその操作方法が脳の活動と直結しているISが睡眠中の脳の活動と無関係という事も考え辛い。
 男性IS装着者という特殊ケースでデータ取りというのも考え物ではあったが、それでもISを装着したまま眠った時のデータは取ってみる価値がありそうだった。

「……男女が同じ寮で生活するのは好ましくないとして、お前達がアリーナ辺りで寝泊りできるかどうか上の方に打診してみよう。
 アリーナならば、ISを制限なく使えたはずだからな。
 だが……あまり期待するなよ?」

 やはり弟には甘い千冬であった。

「ああ、後、その電話帳の中身は4月になる前に全部憶えておけよ。
 それ全部がISに関する基礎知識で、ウチの授業についていく為には全てが必須だからな。」

 ただし締める所は締める。

 一夏は「電話帳」と揶揄されるソレを見てゲッソリする。
 こんなものの中身を完全に把握するなど、何年がかりになるか知れたものではない。
 一方の千早も同様だったが、彼に関しては一夏とは違う懸念も抱いていた。

(IS学園の入試倍率から考えて、女の子はこの電話帳の中身をある程度把握しているのが当たり前で、完全に把握している子も少なくない。
 その一方で、男の方は全く知らない分からないのが当たり前……普通ならISなんて動かせないんだから当然か。
 分野的な偏りはあるけれど……この世界って、男女間で知的水準にかなり大きな差が出来ているのかも知れない。
 ……なんだか、そっちのほうが地味に女尊男卑よりも深刻な問題のような気がするな……)

 とはいえ、それを千早がどうにかする事も出来ないので、千早は大人しく一夏と共に電話帳を前にして苦悶する事にした。





===============






 一夏と千早は電話帳とノートを前にして突っ伏していた。
 電話帳のページは全体の40分の1もめくられてはいない。

「あ、頭が割れる……」
「確かに……これはキツイですね……」

 一夏は単なるバイト中学生だった身である。
 専門知識が山盛りにされている電話帳の中身に、脳がショートしてしまうのは当然である。

 だが……彼のかつての同級生たちのうち、女子達は全員がこの内容を最低でも半分程度は理解していたのだ。
 女の子ならば誰しもがIS学園に入学する事を夢見て、この電話帳と何年にも渡って格闘するからだ。
 なので彼女達は電話帳に記載されている専門的かつ複雑な計算式にも平然と対応できる。
 一方、一夏を含むIS学園に入る事などありえない男子生徒達の計算能力は、千早の世界の一般的な中学生とほぼ同レベル。
 数学的能力だけを切り出せば、大学生をも遥かに凌駕する女子と中学生レベルの男子と言う構図となる。
 勉強のさなかにその話を一夏から聞いた千早は、やはりかなり深刻なレベルで男女間の知的水準に差が出来ている事を実感した。

 一方、千早の知的レベルは元の世界の水準に当てはめれば恐ろしいほど高い。
 ハッキリ言って、彼に比べれば一夏など問題外と言って良いレベルである。
 ……のだが、彼はISが実在しない世界の住人であり、ISに関する専門知識など全く持ち合わせていない。
 勉強といえば一を聞いて十を知るばかりであった千早にとって、訳の分からない専門知識の塊を相手に苦闘すると言うのは全く未知の体験だった。
 ゆえに理解度は一夏よりも高いものの、疲労の色も一夏より濃い。

「休んでいる暇はないんだけどな……洒落になんないだろコレ。
 なんで女子連中はこんなもん把握できてたんだ……」
「小学校時代からの積み重ね……裏を返せば、その時点で既に男子よりも段違いにハイレベルな教育を受けていたという事なんでしょうね。
 はあ、僕も疲れましたよ。」

 千早は頭を抱えながら仰向けに寝転がり、ため息をついた。

 2人の前途は、暗かった。
 まあ2人いるという事と、電話帳を捨てずに入学前から勉強し始めている時点で「インフィニットストラトス」の一夏よりは恵まれているかも知れないが、彼には主人公補正がついている。
 ソレを思えば、どちらがマシな境遇といえるか微妙な所であった。





===============


 一方その頃。

「……まさかアリーナでの寝泊りが普通に許可されるとは思わなかったな。」

 などと千冬が言っている横で、一夏と千早の入学手続きが今まさに完了しようとしていた。

 これによりアリーナを使用できるようになった一夏と千早が、鬱憤晴らしの為にひたすら飛びまわり続けた事は言うまでもない。


==第二話FIN==



 ホントは一夏VSちーちゃんという模擬戦をやりたかったんだけど、タイミング的に合わず。

 ちなみにこの世界では、一夏の代わりに弾がマスコミに追い回されて偉い事になっています。一夏本人にインタビューできないなら、その親友でいいやという理由で。

 しっかしこれだけ男女間の知的水準に差があると、もう学術研究の世界も女性に制圧されそうですねえIS世界。そしてそっちの意味でも男性の価値が地に落ちると。
 少なくともヒロイン連中の演算能力は人外レベルなのが確定してるからなぁ……



[26613] この人は男嫌い設定持ちです
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/21 14:33
「まったく、毎日毎日毎日毎日、よくもまあ飽きもせずに一夏の事ばかり報道してくれるものだ。」
「仕方がないですよ先輩。
 男の子がISを動かしたっていう事は、ソレくらいの大事件なんですから。」

 千冬は後輩の山田と共に、職員室でテレビを見ていた。
 報道される内容は、あいも変わらず「男性IS装着者出現」つまり一夏の事ばかり。
 その状況がもう半月も続いて、千冬はもうウンザリしていた。

 ちなみに千早については、ほとんど報道されていない。
 何しろ彼は見た目がアレである。
 男というよりも御伽噺のお姫様といった方が遥かに納得できる容姿をしている為、千早が男性IS装着者として報道される事はない。
 もし仮にそういった報道がされた場合を想定してみても……

「あいつを見せられて「これが男性IS装着者です」等と言われて、信用する奴などいるものか。」

 という結論に達してしまう。

 現状、千早が男性であるという事を知っているのは千冬と一夏、束の3人のみ。
 一夏は始めて千早と出会った日の帰りに、千早と共に公園のトイレに行き、千早が男性用トイレで用を足す所を見て、彼が男である事を知ったという。
 その後、織斑姉弟はショックの余り丸一日寝込み、それを見た千早が自分が男だという事はそこまでショックな事なのかとへこんでいたのだが、そんな事は最早過ぎたことでありどうでもいい。

 千早が男性である事を知る者はごく少数だが、別に千早が男性であるという事は機密でもなんでもない。
 初対面の時の千冬と同じように、正直に白状したところで相手が信用してくれないだけである。

 千冬は弟だけでなく千早のためにも男性用の制服やISスーツを用意しようとしているが、業者の方が何故に千早に男物が必要なのかと首を捻るばかり。
 千冬としてもその気持ちは痛いほど分かるのだが、千早は散々女の子に間違われてきた……というか実際には男として認識してもらった頻度の方が遥かに少ないくらいだったせいか、女物を身につける事にはかなりの拒絶反応を示している。
 いかに男物より似合っていようと、本人にしてみれば女装である。確かに苦痛ではあるだろう。

 千早曰く、

「何故にまりや姉さんがいない所でも女装させられなきゃならないんだ……」

との事らしい。

 千冬が「まりや」なる女性について千早に尋ねた所、自分と又従兄弟の瑞穂を好んで女装させてくるパワフルかつ傍迷惑な従姉妹なのだという返答が返ってきた。
 なお、千早と同じようにまりやの被害に遭っている又従兄弟の瑞穂の方も千早と変わらない位女性として美しいらしく、まりやは

「なんで女のあたしより、男の従兄弟2人の方が可愛くて綺麗で女らしいのか。」

と、よく愚痴っていたという。

 ……千冬は同じ女として、まりやという女性の気持ちが痛いほど理解できた。
 なのだが、どうも当の従兄弟2人には彼女の慟哭が余り届いていないらしい。
 いかに見た目が美少女でも、一応彼らは男性である、という事なのだろう。



 その千早の男性的な側面を最近ようやく目にするようになった。
 いや、ある意味では容姿よりも更に女性的な側面か。

 ISが使用できるようになってから、度々千早は一夏に攻撃的な態度を示すようになった。
 それまでは「一夏という人命を保護すべし」という立場から一夏の味方として振舞っていた千早であったが、彼は自分自身が男であるにもかかわらず、かなりの男嫌いだったのだ。






===============






 事の発端は、一夏が

「いずれは千冬姉の事を守れるくらいにはなりたいよな。」

とのたまったのに対して

「そんな事は一生かかっても不可能ですよ。」

と、千早が冷たく反応した事だった。
 少なくとも千冬はそう聞いている。

 二人は口論を始める。
 誰かを守れるくらい強くありたい、強くなりたいという一夏に対して、千早は誰にも勝てない最弱の力で誰かを守る事など出来はしないと斬り捨てる。
 そして続ける。
 そもそも出会った当初から一夏がIS学園に来るのは反対であり、一夏はどう足掻こうとも誰かに一方的に守られる弱者という立場から一生一歩も動く事は出来ない、と。

 それからはもう売り言葉に買い言葉。
 そして丁度ISを身につけているのだから模擬戦で決着をつけようという事になり……一夏の凄惨な惨敗で決着した。

 惨劇は模擬戦の終盤、一夏が白式に装備されたIS用の刀、雪片弐型を振り下ろした時に始まった。

 振り下ろされる雪片弐式のスピードは人間の斬撃とほぼ等速。振り下ろす腕の付け根が人間のものなのだから、当然といえば当然である。そして千早のIS、銀華のスピードはそれを上回っていた。
 振り下ろされる雪片弐式を潜るように避けた千早は、振り下ろされている途中の一夏の右腕を掴み、振り下ろしの勢いを利用して無理に1回転させる。
 これによって一夏の右肩が破壊される。

 その激痛に動きが鈍った一夏の足に素早く取り付いた千早は、高速でスピンして足を思い切りねじり挙げる。それを2回。
 これにより一夏は両足を持って行かれた。

 四肢の内、一夏に残されたのは左腕のみ。そして他の四肢を奪われた時の激痛は引く気配を見せない。
 その状態で千早と銀華を討ち果たす事は不可能であり、最終的には首を捻りあげられて絶対防御が発動し、シールドエネルギーを根こそぎ持っていかれてしまった。

 辛うじて意識が残っていた一夏に、千早はこう告げる。

「同じずぶの素人相手にこの体たらくで、誰かに勝てるつもりなんですか。
 素人相手にこれじゃあ、誰にも勝てない。
 まして誰かを守る事なんて出来るはずがない。」

 それでも一夏は、これから強くなれば良いと食い下がるが、それさえも千早は

「既に僕たちより遥かに強い人達も、もっと強くなる為に軍事訓練を受けていて僕達以上の速度で強くなっていっているんです。
 アキレスと亀みたいなものですよ。
 スタート時点が遅れた僕達は、彼女達に追いつく事なんてけっして出来ないんです。後から来た女の子達に追い抜かれることはあっても、です。」

と斬り捨てた。
 後になって一夏は、この時の自分の弱さをなじる言葉も、半分くらいは千早自身に向けていたようにも感じた、と千冬に話した。
 その時点で、既に千冬はそれが事実である事を知っていたのだが、それはまた別の話である。


 そしてこの決着の直後、2人のISの一次移行が終了する。


 白式は何故か中身、一夏ごと修復され、工業機械然とした角ばった様相から流線型のフォルムを得る。
 とはいえ、白式自体のダメージは軽微だった為、修復されたのは一夏だけと言って良い。白式に起こった事は修復ではなく変化だった。
 通常ISの腕や足というのは人間のソレより大きな物なのだが、白式のそれは人間用の篭手や脛当のサイズまでダウンサイジングされる。しかしソレは小さく弱くなったというよりも、洗練された力が凝縮された、むしろ力強い印象を見る者に与える。
 翼はやや小ぶりになったものの、しかしその力強さはより大型だった以前とは比べ物にならない。
 そして小さくなった分、数が増え、推進力が飛躍的に増大した事は疑う余地が無い。
 かくして大きな手足に本物の手足を突っ込み、背中に巨大な羽根を背負うISに共通する筈のフォルムは、小さく整理され、しかし小さく纏まるのではなく力をより凝縮させたというイメージを見る者に与え、そして事実その通りだった。
 凝縮されたエネルギーは、より強大な力を示す。
 その身に秘めたるあふれんばかりの力を凝縮し、更なる力とした白き鎧武者、それが一次移行を経た白式の姿だった。

 同様に銀華も一次移行によりダウンサイジングされる。
 白式の手が篭手ならば、銀華の手は長手袋。
 白式の足が脛当+甲懸ならば、銀華の足はブーツ。
 腰部装甲の横にはアンロックユニットのスラスターが追加され、頭部パーツはティアラのよう。
 胸を覆う胸部装甲は、しかし動きの邪魔にならないことは明白だった。
 小さくなりながらもかつてより力強さを感じさせる白式に対して、一次移行によって変貌した銀華はどこまでも軽やかだった。









===============







「対ISの関節技なんて初めて見ましたよ、先輩。
 でも御門さんって綺麗な顔してキツい事しますね。」

 二人の模擬戦が行われた日、千冬は一夏の四肢が破壊されたと聞いて愕然とし、なぜそんな事になったのかと、一夏対千早の模擬戦の記録映像を見る事にした。
 他にも束謹製の専用機同士の戦いを見たいと、山田をはじめ多くの生徒や職員がやってきている。
 初心者同士の戦いで操縦技術的には見るべきものなど無いと思いながらも、やはり束謹製の専用機というのは興味がそそられるものらしい。

 そして目にする、IS戦で行われる装着者の関節への攻撃。
 ソレを見たものは皆、物珍しさに目を剥いた。
 しかし同時に、なぜ千早がそんな事をしたのか、千冬のみならず多くの人間が首を捻る。

 そこで一同は、千早と一夏がISを使えない間に行われた二人のISについての調査データを閲覧する事にした。機密に関わる部分以外は、たとえば装備の概要などはそれで分かる筈だった。

 そうして判明する驚愕の事実。
 その二機のISはあまりにも軽装だった。
 白式の武装は刀一本のみ。
 そして銀華の武装は……全く無し。拡張領域すら存在しないため、武装の追加も不可能だった。

「……つまりISの馬力に物を言わせた関節技だけが、御門の攻撃手段だったという事か。」

 理解は出来る。しかし納得は出来なかった。
 生まれて始めてのISでの戦闘で、四肢を破壊される。
 IS同士の戦闘を甘く見ている初心者に現実を見せる為の処置としては、あまりに苛烈で過酷な処置であると思った。
 彼女が弟に甘い事を考慮しても、この感想は妥当であろう。

 だからその場の全員が驚いた。
 両足を破壊されたはずの一夏が、千早を伴って自分の足で部屋に入ってきた事に。











「なんでか分かんないんだけどさ、初期化と最適化が済んだ時に治っちまったんだ。
 損傷したISが一次移行や二次移行を迎えると修復されるって話が電話帳にあったけど、多分丁度そんな感じ。」

 何故動けると訊ねる千冬に、一夏はそう答えた。

「いや、普通そんな事は起こらないんだが……まあ、お前が無事なら何よりだ。」
「いや無事じゃ無かったって。
 肩とかぶっ壊されて、とんでもなく痛いのなんのって。
 ISでの戦闘って、あんなに痛いモンなんだな。」
「むう、まあモンド・グロッソに出場するような奴の中には、骨折でも眉一つ動かさんようなのもいたがな。
 普通は今回のお前ほど痛い思いはせんぞ。
 まあ、被弾時にはそれなりに痛い思いをするが、関節をあんなに乱暴に破壊されるほどの激痛は稀だ。」

 と、千冬は千早に向き直る。

「……お前に、他の攻撃手段がなかったのは分かっている。
 だが感情の部分では割り切りきれん。」
「……でしょうね。」
「それが分かっていながら私の前に姿を見せるか。」

 千冬と千早の間に重い空気が流れる。

「場所を変えるぞ。いいか?」
「はい。」

 千早は頷く。

「じゃあ一夏は1人で記録映像を見ていてよ。
 感想戦は後にしよう。」
「ん、ああ。」

 一夏はそういうと、千早を見送った。
 彼は気付かない。

 今この場にいる人間の中で唯一の同性を退出させてしまった事に。
 また、それと同時に、この場に居る大勢の女性に対する歯止めもまた行ってしまった事に。

 かくして千冬と千早が出て行った直後、一夏は女ばかりで出会いもへったくれも無いIS学園の娘さん達に詰め寄られ、結局二人が戻ってくるまで記録映像を見る事が出来なくなってしまったのだが、それは関係の無い話なので割愛する。



 一方、廊下に出た千冬と千早は、人気の無い一角で話を始めた。

「そもそも今回の模擬戦、お前が一夏に喧嘩を売った事が原因らしいな。
 関節技しか攻撃手段がなかったことを装着者であるお前が知らん筈が無い。
 ……最初から一夏の関節を破壊するつもりだったな。
 何のつもりだったのか、教えてもらおうか。」

 千冬が千早を威圧する。

「……八つ当たりだったのかもしれません。
 出来もしない守りたいという願いを持つ一夏が、母を守りたいと思ってそしてそれができない自分と重なって、どうしようもなく嫌になったんです。
 どうする事も出来ないくせに、守ってもらう側のくせに、守るだなんて妄言を言う一夏が許せなかった。
 知っていた筈なんですけどね、「織斑一夏」という人がそういう人だっていう事は。
 でも、我慢できなかった。
 それだけです。」
「つまり一夏の中に見たくない自分を見て、八つ当たりで痛めつけたと。」

 千早は黙って頷く。

「許容できませんか?」
「したくはないな。
 だが、一夏がああして復活している以上、そして一夏本人がああしてお前を許容している以上、今更お前を痛めつけた所で何も始まらん。」
「本当に、彼の事を大切に思っているんですね。」
「……一夏はお前にとっても友人だと思っていたんだがな。」

 千冬のその台詞に、千早はこう応じた。

「まあ今までは彼の命や生活がかかっていたり、電話帳に圧倒されたりしていて、嫌悪の感情を見せる余裕すらありませんでしたからね。
 ……実は僕、自分自身男の癖に男嫌いなんですよ。」
「……は?」

 千冬の目が点になる。

「はは、まあ驚きますよね。男の男嫌いなんて。
 最初は、そう一番最初は自己嫌悪と家庭を顧みない父への反発だったんです。
 それが今では、嫌悪の対象が父と自分自身だけではなくて、男性全般に及ぶようになってしまいました。
 荒療治の為に男子校に入学しようと思ってたんですけど、この世界に拉致されてそれも出来なくなりました。」
「お前が……男子校……だ、と……?」

 いや、鏡を見ろ鏡を。
 男子校に行くなどと、お前は正気なのか。
 もっと自分を大事にしろ。
 ヤケッぱちで自分を投げ捨てるような真似をするな。
 心に大きな傷がつくからやめろ。

 そんな、千早に叩き付けたいフレーズが千冬の中で乱舞し、お陰でそれらが上手く口をついて出て行かない。
 そして束に内心謝罪をする。

(束、この間は誘拐魔などと呼んで悪かった。
 お前がこの世界に連れてこなければ、千早の人生には拭いがたい傷がついてしまう所だった。)

 千冬は男子校の内情など知りよう筈が無いが、周り中思春期の男しかいない環境下に千早を放り込んだ結果など悲惨なものしか想像できない。
 千早の男子校入学がお流れになった事は喜ぶべき事だ、と千冬は思った。 

 それにしても。

「自己嫌悪か……御門、お前は自分が嫌いなのか?」
「ええ嫌いです。
 全てを上から見ているように見下す自分も、周りとの壁を作る自分も、何も出来ていないくせに母様の傍にいるだけで彼女を守れているつもりになっている無力な自分も、浅はかな判断でその母様を病ませてしまった自分も、嫌いです。
 ココに来た事で、上から目線の自分が以前より嫌いになりましたね。
 ……「インフィニットストラトス」の事がありますから。」
「……そうか。
 お前は嫌いな自分を許せるか?
 それとも自分の嫌な部分を直せるか?」
「どちらも、そう簡単に行けば苦労は無いでしょう。」
「違いない。だが私は一応教師で、お前はこの4月からここの生徒だ。
 多少は頼ってもらいたいな。」

 この時千冬は、千早に対して、教師としての本文を全うする必要性を感じたのだった。












「千冬姉、千早、早く帰ってきてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」





==第3話FIN==

ちーちゃんドSモードは男の子が基本なのに、女の子仕様の口調の方が合うような……うーん。
 Sっ気タップリにする為に、わざと丁寧口調にしてみました。一応、一夏と話す時は男の子口調でも話してますが、なんかまぜこぜ。過渡期か何かだと思ってください。(言い訳)
 白式もなんか原作と違いますが、まあ銀華の一次移行に引っ張られたとでも。初戦の相手自体がブルーティアーズと銀華と、全然違うISですしね。

 あと、同じ初心者同士なのにちーちゃんの方が圧倒的に強かったのは、中の人の性能差がモロに出たのと、ISの相性です。
 おとボク主人公は真ヒロインであると同時にかなりのチートキャラなんで、初期一夏に攻略できるほどヤワではありません。流石に人外の戦闘力を持つISヒロイン達には負けますが、例えば瑞穂ちゃんは100m6秒台と言われるほどの脅威の身体能力を持ち、瑞穂ちゃんに劣るというちーちゃんでも塀をジャンプで乗り越える事が出来ます。
 それとISの相性ですが、ちーちゃんの銀華はPICを極めた運動性特化機。同じく運動性を重視しながらも火力の方にも気を使っている白式では、戦いの展開が運動性比べになってしまいより運動性に特化した銀華に負けてしまいます。
 一方で、防御の硬いISと戦う際には、一撃必殺の火力と充分な運動性を持つ白式の方が有利という感じになります。

 またちーちゃんが一夏の関節を破壊した件ですが、おとボク1で瑞穂ちゃんが暴漢の骨をへし折る描写があるため、その親族であるちーちゃんも必要性を感じたら躊躇無く相手の骨をへし折れるものと解釈しました。まあ今回は八つ当たりですが。

 ……しっかし、ちーちゃんの態度の変貌がちと急すぎたかも。

 なお、一夏の関節を破壊する怖いちーちゃんを忘れてちーちゃんに萌えたい方は、銀華装着状態のちーちゃんを妄想してみてください。
 どこのお姫様だと言いたくなるような仕様になってます。



[26613] こーゆー設定資料的なことはやんないほうが良いと分かっているんだが……
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/21 17:44
 前回の話で、これからちーちゃんが関節技一本のプリンセス金剛拳な戦い方をするのではないかと懸念される方も居られるかと思いますので、銀華(とこの話での白式)の設定を書こうと思います。

 ちなみにちーちゃんの関節技は前回のみです。
 それ以降の関節技の使用は、もう1人のちーちゃんこと千冬さんに使用を止められています。
 まあ一夏以外の相手にやったら、女の子の関節を無慈悲に破壊していく話になっちゃいますからね……


NAME:銀華<ギンカ>
 PIC及び空間制御を極限まで極めた運動性特化機。
 あまりに特化しすぎた為、白式にすら存在する拡張領域を全く持たない、火器管制システムがないなどの欠陥を抱えている。
 展開装甲もついておらず、第四世代とも言いがたい。
 拡張領域もなく固定武装も無いので、一般的な意味での武装を全く持たないトンでもない代物である。

 しかしその代償として得た運動性という名の力はとてつもなく強大。
 最高速度・加速/減速性能は他の追従を許さず、しかもそのスピードで極めて鋭角的なターンが可能。
 どのくらい鋭角的かというと、瞬間的かつ全くスピードを落とさずに180度近く進行方向を変更できるという、とんでもない代物である。
 使用者の反応速度次第では、狭いアリーナ内でも凄まじいスピードで連続鋭角ターンを繰り返しながら敵を強襲することすら可能である……そのためには、常人とは比較にならない超反射神経が要求されてしまうのだが。
 この運動性は、同じく運動性重視の白式ですら真似できるものではない。

 また銀華には正規の武装は無いものの、極めて高度かつ簡便に操作できる空間制御システムを搭載している。
 このシステムは運動性を高める目的で搭載されているものだが、簡単な応用で空間を歪めその歪みが解消される時に発生する衝撃に指向性を持たせる簡易衝撃砲として使用する事が出来る。
 あくまで本来攻撃用でないシステムを応用した簡易衝撃砲である為、射程に問題があるものの、威力自体は甲竜の衝撃砲に劣らない。
 千早は、この簡易衝撃砲の発射台として銀華の手足を用いる衝撃拳を主な攻撃手段とする事になる。

 運動性という特性を反映させる為、通常のISよりも素直なマンマシンインタフェースとなっており、一次移行でダウンサイジングしてしまったのもその為。
 見た目的には、もはやお姫様以外の何者でもない代物になってしまっているのだが、(本人にとっては幸いな事に)千早はISはISであるとしており、彼が銀華のデザインに気を取られている様子は無い。



NAME:白式
 出自的には原作の物と全く同じはずなのだが、一次移行の前に戦った相手がブルーティアーズではなく銀華であった為に、その機体特性に変化が見られている。
 銀華の圧倒的運動性に対応する為、銀華と同じくダウンサイジングしている事もその一つで、これにより運動性が原作の物より上昇。
 また素直なマンマシンインターフェースも共通である。
 かといって他の面で原作の白式に劣るわけではなく、運動性の分原作よりも高性能と考えてよい。

 銀華には劣るとはいえ、やはり束謹製の運動性重視型ISである事には変わりなく、その運動性は中身の技量さえ伴えば脅威の一言に尽きる。
 そして一発がとにかく大きい雪片弐式。
 身につけているのが最弱の一夏でなければとんでもない事になる極悪性能のISである。



[26613] ちーちゃんって、理想的なツンデレヒロインだと思うんだ(短いです)
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/21 20:38
「うう……またやってしまった……」

 千早は銀華を着た状態で膝を抱えてうつむく。
 どうにも一夏に憎まれ口を叩く事が止められない。
 そして今回の模擬戦も、その暴言がきっかけに始まったものだった。

 少し離れた所には、シールドエネルギーを切らした白式を着た一夏が何事かと様子を窺っている。
 初めての模擬戦の時と異なり、千早は空間操作を応用した衝撃拳で戦っている為、一夏は関節を破壊されるほどの激痛を与えられる事無く敗北している。
 千早に散々なじられ、ボコられてもへこたれず、ましてその千早の様子を心配そうに見つめているのは、彼の人の良さや精神的強さの証拠か。

 千早は一夏がやたらモテる理由が分かったような気がした。
 それにひきかえ、千早自身ときたら……

「おい、大丈夫か?」
「負けた方が勝った方に言う台詞じゃないですよ、それ。
 はあ。
 自分の性格の悪さがいつになく嫌になる……」

 千早はそう自己嫌悪しつつ、ため息をついた。

「直せば良いんじゃないか?」
「性格なんてそうそう直る物じゃないでしょうに……はあ。」

 千早の精神状態は余りよろしくないようだ。
 一夏はそう判断して、千早に何か話題を振る事にした。
 そうだ、千早の自己嫌悪といえば。

「そうだ、千冬姉に聞いたけど、お前って男の癖に男嫌いなんだよな?
 でも俺を助けようとしてくれたよな?」
「いや、あれは人命救助ですから。
 流石に男なんて皆死んでしまえとか、そこまで男嫌いじゃないですよ。」

 千早の声は沈んだトーンのままだった。

「でも、なんで男なのに男嫌いなんて難儀な事になったんだ?
 それじゃあ自分の事も嫌になってこないか?」
「いや、それは順番が逆ですよ。僕は男嫌いになる前から自分が嫌いです。
 それと家庭を顧みなくなった父への反発が合わさって、範囲が広がって男嫌いになったんです。」
「……本気で難儀だな、お前……」

 一夏は膝を抱える千早の陰鬱なフィールドが、薄闇になって具現化する幻覚が見えたような気がした。

「ああ……もうこんな女の子だらけのところで、助け合わなきゃいけない唯一の同性に対して弱虫だのなんだの……
 孤立するのも当たり前だよ、僕は……」
「おーい、千早ー、帰ってこーい。」

 どんどんどんどんネガティブ思考になっていく千早に対して、一夏は気遣いの声をかける。

 一夏にとっても、唯一の同性である千早と分かれて女性ばかりのIS学園で孤立するという事態は避けたい。
 なんというか、強烈な物量の好奇の視線の圧力が凄すぎる。
 だが、千早といるとその好奇の視線が心なしか分散するのだ。彼の事を男と知った女性が幾らかいるのかもしれない、と一夏は考えている。

 それに千早といると精神的にも本当に楽になる。
 何しろIS学園で異性として気を使う必要がない相手は千早しかいないのだから。

 「インフィニットストラトス」の一夏を、一夏は尊敬する。
 あんた、千早がいないこの孤立状態どうやって乗り切ったんだよ、と。
 ちなみに一夏は、「インフィニットストラトス」がハーレム物のライトノベルだという事を知らなかったりする。

 さらに一夏が知らない方が良い情報が一つ。
 千早はIS学園のほぼ全ての人間から女性と思われており、その千早と一夏が常時共に行動している為……千早は一夏の恋人だと思われている。
 これは、一夏以上に千早にとって知らない方が良い情報であった。

「おい千早、お前さ、なんで自分が嫌いになったんだ?」

 何でも良いから千早と話さないと、と思った一夏が思わず出した話題が千早の自己嫌悪について。
 これを訊ねた瞬間、一夏は「やっちまった」と心の底から思った。

「え? ええと……僕の双子の姉が死んでしまったのが切欠だったのかな。」

 千早は一夏の質問に反応し、応えた。

「は?」
「……家族が死んでしまったというのに、父は仕事ばかり。
 母様は悲嘆にくれて、僕はその悲しみをどうにか紛らわせないかと思って……
 ほんと馬鹿な事をしたものです。
 僕は娘を失った母様の悲しみを紛らわせる為に、姉の服を使って女装したんですよ。
 姉と僕はとてもよく似てましたから。」
「な……」

 女装を嫌がり、女の子に間違えられてへこむ千早が、自分から女装?
 一夏は耳を疑った。

「最初は効果があったと思いました。
 でも……母様の精神を、僕は歪めてしまっていたんです。
 母様はいつしか姉と僕を混同するようになって……今では自分の娘である姉の事を忘れ、しかもほんの少しですけれど精神を病んでしまった。
 そんなふうに母様を歪めたのは……僕なんですよ。
 確か、これが僕が自分の事を嫌いになった切欠だったと思います。」
「そ、そうか……話し辛い事、話させちまったな。」

 千早自身の精神を更に鬱にさせるような重い話を千早から引き出してしまい、一夏は後悔した。

「人の世話を焼きたがるのは良いですけれど、大きなお世話にはならないように注意してくださいね。」
「……善処します。」

 千早の言葉に、一夏はそう応えるしかない。
 一夏は別の話題を探す事にした。

 共通の話題が中々見つからない。
 そもそも好きなアニメやゲームなどの話をしようにも、千早は異世界の住人だったのだ。
 同じ作品についての話題で盛り上がる事が出来ない。
 一応、向こうにもこちらにもある作品はあるらしいのだが、自分が挙げる作品がソレに該当するかどうかは分からなかった。

 いや……これなら確実だ。

「なあ千早、「インフィニットストラトス」の俺ってどんな奴なんだ?」
「え? いや、基本的にあなたと同じと思って良いと思いますけど……」
「いやそういうなよ。なんかあるだろ?」
「まあ、ああいうお話の主人公の常として、素質はあるみたいな事は言われているみたいでしたよ。
 ただ、昔から鍛え続けているヒロインたちとの差が大きすぎて、いくら素質に恵まれているといっても、そう簡単には追いつけない。
 彼女達との差は確かに縮まってはいるけれど、並んだり追い抜いたりするにはまだまだ長い時間が必要って感じだったと思いましたけど……違ったかな?」
「へえ、なるほど。」

 一夏は気付かない。
 千早が「ヒロイン達」と言っていても、「インフィニットストラトス」がハーレム物である可能性に考えがいかない。
 ヒロインといっても、そもそも一夏でないIS装着者という時点で女性なのだ。
 一夏はそう思って違和感を全く感じなかった。

 その代わりに一夏は、千早のテンションがひとまず回復してくれた事には気付いた。
 千早はあまり「インフィニットストラトス」について一夏が知るのはあまり良くないと思うとして、「インフィニットストラトス」についての話題はここで打ち切った。
 しかし……

「そういえば「インフィニットストラトス」の織斑一夏は、家事能力の無い千冬さんに代わって料理洗濯掃除といった家事が出来るとあった筈ですが……」
「ああ、千冬姉はそんな感じだし、俺も家事全般が得意だぜ。」
「そうですか。僕も料理は多少心得があって……」

 料理という共通の話題に繋がっていったのだった。



==FIN==

 千早お姉さまに比べるとあまりに脆いちーちゃんですが、まあ3年と1年の違いとでも思っといてください。本編中でもエルダーとして成長してますし。
 この2人は主に模擬戦の他に、機体の高機動性についていく為の訓練をしています。具体的に言うと反射神経・反応速度の強化。
 そもそも常人が使う事を全く無視した玄人仕様ですからね、白式にしろ銀華にしろ。

 ちなみに、まだ4月じゃなかったりします……幼馴染ヒロイン二名とちーちゃんの遭遇が怖いな……



[26613] ハードモード入りました(短いです)
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/22 22:07
「お2人さん、ちょっとご一緒させてもらっても良いかしら?」
「え? ええ、どうぞ。」

 一夏と千早が昼食を取っていると、彼らの先輩に当たるであろう女生徒がトレイを持ってやってきた。

 食事をしている一夏と千早に女生徒が声をかけ、同席の許可を求める光景は珍しい物ではない。
 何しろ一夏は世界唯一の男性IS装着者として、今や全世界規模の有名人。
 IS学園の生徒達は、超人的な知性の持ち主達とはいえ十代の少女達であるため、ミーハーな者がかなり多い。
 その彼女達が、超有名人である一夏に群がってくるのは当たり前だった。

 しかもその彼女達にとって、一夏とマトモに接触できるのは食事時のみ。
 食事以外では一夏はずっとアリーナで千早と共に訓練を行っており、そこにやってきて話しかけても指導を請われるだけで、他の話は訓練中の雑談が精々なのだ。
 また一夏達はISと自分を馴染ませる事にも熱心で、座学に関してもIS装着状態で行い、くつろぐ時もISを装着したまま、就寝すらIS装着状態で行っているという徹底振り。
 その為、本当に食事以外では滅多にIS装着自由のアリーナから出てこない。
 ある少女が「疲れない?」と尋ねた所、「ISを装着して寝ても普通に疲れが取れるようになる位には慣れてますんで、大丈夫」という返事が帰ってきたという。

 その為、食事時には必ず誰かしらIS学園の少女が一夏達に話しかけ、一緒に食事を取ろうするのである。

 一夏がこんな訓練漬けの生活を送っているのには、圧倒的に足りていない経験値を少しでもマシな状態に持っていく為という理由もあるのだが、ミーハー根性丸出しで突貫してくる女生徒達をかわす為、という理由もまた一夏の中では大きかったりする。
 千早のほうは何故自分が男性IS装着者として報道されないのか釈然としない物を感じながらも、自分がもう1人の男性IS装着者と広く知れ渡った時に降りかかってくるであろう火の粉にも対処できるよう少しでも強くなっておきたいと思い、一夏の訓練漬けの生活に付き合っている。

 女の園の中心で、もう1人の男と訓練漬けの灰色の青春を送る男、織斑 一夏。
 本人は
「こんな所にいるけれど、俺は色恋沙汰と無縁の灰色で訓練漬けの高校生活を送る事になるんだろうな」
と本当に真面目に考えている。

 彼とて思春期男子である。異性との恋愛に興味が無いわけではない。

 だが、彼の前には電話帳の姿をした絶望と、いくら素質に恵まれ誰よりも強くなる速度が速くても、そもそものスタートが遅れすぎたために誰にも追いつけないもう1人の自分、「インフィニットストラトス」の主人公「織斑 一夏」という懸念材料が存在する。
 オマケにあてがわれた専用IS:白式は、燃費は悪いわ、接近戦しかできないわ、千冬のような人外でなければ不可能な高機動での運用を前提としてるわと、玄人仕様にも程がある代物。
 それなのに非常に高性能で、白式を使っていながら勝てないのは中の人の責任、つまり一夏の責任というのが明白だからタチが悪い。

 そんなこんなで、一夏には
「これからの3年間を色恋沙汰と無縁の訓練漬けの毎日にしなければ、俺は本気で千早がなじっているような役立たずに成り下がってしまいかねない。」
という危機感がある。

 その為には、訓練以外のお誘いなどには反応してはならないと、一夏は思っている。
 勿論彼とて娯楽は欲しいが、デートで一日が潰れるのはちょっと勿体無いと思うのである。恋人が欲しいと思うのは思春期男子として当然の欲求だったが、デートにも応じられない以上は、当面は無理だろうと考えていた。
 娯楽なら漫画などのインドア系やスポーツ、あるいはちょっと趣向を変えて料理などで充分だった。
 これはつまり、「インフィニットストラトス」劇中でヒロイン達が度々行い、今ここにいる彼に対しても行われるであろうデートの誘いは確実に失敗すると、既に確定しているという事。
 千早との出会いは、一夏の朴念仁レベルを少し上げてしまったのだ。

 そのため、一方で彼はこう思っていた。
「みんな物珍しさで俺に声をかけているだけで、俺がモテるなんて事は無いだろう」
 と。

 彼の親友、五反田 弾が知ればこう言うだろう。
「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」
 と。

 そんな彼だから、自分は色恋沙汰とは全く無縁だと本気で思っている一夏だから気付かない。
 自分と千早が何時も一緒に行動しているというのは、御伽噺のお姫様のように見える千早と唯一の男性IS装着者と思われている自分が常時行動を共にしているというのは、外から見るとどう見えるのかという事に。

「にしても毎日毎日、いつも一緒でアツアツよねあなた達。
 ほんっとうに羨ましいなぁ。」

 だから、同席した少女にこう言われた時、彼女が何を言っているのかサッパリ分からなかった。
 ちなみに彼女が何を言っているのかサッパリ分かっていないのは、千早も同様である。

「「へ?」」
「あら~~、驚く声もハモるなんてもう身も心も一緒って感じかしら?」
「あ、あの~~、何の話でしょうか、先輩?」
「いや~~、もうすっとぼけちゃってぇ。
 初々しい恋人同士ってこういうものなのかしらねぇ??」

 コ イ ビ ト ド ウ シ

 2人の脳は一瞬フリーズ状態になる。
 千早は20秒経っても復帰しない。
 一方、一夏は5秒ほどで復帰し、千早との初対面を思い出す。

 あの時、自分は千早をどう思っていたのか。
 見た事も無いほど美しい、銀の少女。

 そこまで思い出して一夏は真っ青になった。

「あれ? もしもーし。」
「え、ええ!?
 ええええええええぇぇぇぇぇえぇええええええぇぇぇえぇえ!?
 お、俺達そんな風に見られてたんですか!?」

 突然一夏が叫び、女生徒は耳を塞ぎ、千早はフリーズ状態から復帰する。
 だが。

「こ、こいびとどうし、こいびとどうしって、こい、こ、あ、あはははは……」

 まだ帰ってきてはいなかった。

「え、だってあんなにいつもいつも一緒にいるのに、違うの?」
「あの……俺、生まれて始めてのISでの模擬戦で、コイツに肩の関節とか色々ぶっ壊されて死ぬほど痛い思いをしたんですよ?
 それなのに、なんで恋人だなんて思ったんですか?
 それともなんですか。
 IS装着者っていうのは、自分の男の関節を壊すモンなんですか?」

 そうだったら、あんなに美人の千冬姉に男がいないのも納得だよな。
 そんな事を思う一夏。

「う~~ん、あたし男の人とお付き合いした事無いから分からないけど、多分違うわよ。」

 何故、そこで考え込むんだろう。
 何故、普通に否定しないんだろう。
 何故、「多分」をつける必要があるんだろう。

 一夏の中に、IS装着者というカテゴリーに入る女性達への小さな警戒心が埋め込まれた。

「って、僕が一夏の恋人って、一体どういう事なんですか!?」

 ここでようやく千早が復帰した。
 いかに見た目は完璧美少女であっても、彼の中身は多少女性的な側面があるにせよ普通に男なのだ。
 同性と恋人呼ばわりされて気分が良い筈がない。

「違うの!?」
「違います!!」

 ここで力いっぱい否定するのは、かえって下手な肯定よりも肯定的な意味を持つのだが、現在の千早の精神状態ではそのことに気付く事は出来ない。
 とにかく否定したい気持ちで一杯の千早は、力いっぱい否定してしまった。

「ふぅぅぅ~~~~~ん?」

 女生徒の目がニヤついている。
 彼女は確信してしまったようだ。
 千早は一夏の恋人であると。

 不幸にも千早はその事に気付いてしまった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……
 な、なんか根本的に勘違いしてませんか?
 例えば僕の性別とか。」
「性別?
 いや、こんなビックリするくらい綺麗な女の子を男に見間違えるわけないじゃない。」
「……いや、それが間違いなんですが。
 僕は男ですよ。」
「まったまた~~♪
 彼氏に嫉妬してるのかしら?
 世界唯一の男性IS装着者だもんね。
 自分もそうだって言いたいのかしら?」
「いや、だから、その唯一っていうのが間違いで、僕も男性IS装着者なんですけど。」
「うんうん、分かる分かる。
 自分だけの物だと思ってた一夏君がドンドン有名になっちゃって、置いてかれちゃうような気がしてるんでしょ?
 それで、自分も男性IS装着者だって嘘ついて、同じステージに立ちたいんでしょう?
 で・も・貴女が男の子なんて無理がありすぎよ♪」

 最早取り付く島も無かった。
 しかも千早は

「僕が男だっていうのが、無理ありすぎって……」

 テーブルに突っ伏して復活する兆しを見せない。
 トドメを刺されたようだった。

「あ、あの~~、先輩。
 信じられない気持ちは本当に痛いほど分かるし、俺も初めて知った時には寝込むほどショックを受けましたけど、こいつ本当に男ですよ。」

 選手交代。今度は一夏が、千早は男だと言う情報開示を試みる。

「ああ、あなたも大変ね。
 そんな見え見えの嘘につき合わされちゃうなんて。
 まあ可愛らしい嘘だもんね。」
「いや、本当ですから。
 嘘をつくならもっとマシな嘘をつきますって。」

 偽らざる一夏の本心だった。
 この場で嘘をつくのなら、一夏は
「おっしゃるとおりですよ。
 千早が男なわけないじゃないですか。」
と言うだろう。

「ふぅぅうん。
 じゃあこの女の子だらけのIS学園で、女の子には目もくれずその男の子の御門さんとばかり一緒にいるのはどうして?」
「周り中女子しかいないって言うのは、結構重圧がかかってくるんですよ。
 あと、性別が違うってことで色々と気を使わないといけない事もありますし。
 そういう気遣い不要の相手が、同性が、ここには千早しかいないんですよ。」

 一夏は正直に話すが……かえって逆効果だった。

「そんな風に心を開けるほどアツアツなんだ。」
「……人の話聞いてましたか、先輩?」

 この後、一夏と千早は自爆を繰り返しながらドンドン泥沼にはまっていき、挙句「千早は男嫌い」という情報を開示してしまったが為に……

「他の男はダメでも、一夏君だけは大丈夫っていう事よね♪」

 より取り返しがつかない事になってしまったのだった。


==FIN==



 ヒロイン達にとってはハードモードな一夏になっちゃいました。
 なお、モブ子達は「一夏には千早という恋人が既にいる」と思っているので、彼にアプローチを書けることはありません。

 アリーナでの引き篭もり生活はやりすぎだったかもしれませんが……まあ、そもそもマスコミの襲撃を警戒してIS学園に引き篭もってる身ですからねぇ。
 しかしこれでは他の生徒との交流がマトモに出来ない事も事実。
 妙子さん(ちーちゃんのママ)の思惑が空振りに終わってしまいますので、どうしようかと思案中。
 まあ授業が始まれば、強制的にアリーナから引っ張り出されますけどねぇ。

 ちなみに今回話しかけてきた先輩はモブ生徒です。
 学年が上ですので、モブでも箒より強いかも。



[26613] ハードモード挑戦者1号
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/24 12:49
 ここは複数存在するIS学園のアリーナの1つ。
 一夏と千早が住んでいる場所である。

 もうIS学園に引き篭もってから1ヶ月以上が経過し、4月も目前に迫ってきたある日、ここではその2人が激しい訓練を行っていた。
 ある程度ISの動かし方に慣れてからほぼ毎日行うようになった訓練で、高機動での運用を前提とした白式・銀華の性能を一夏・千早が充分引き出せるようになる目的で行われるようになった訓練だった。

 2人の様子を見に来た少女達が目にしているのは、引っ切り無しに出現と消滅を繰り返しながらホログラム製模擬弾をばら撒く数十個のホログラムターゲットの間を高速で駆け巡る2機のIS。ホログラムターゲットには青、赤、黄色の3種が存在した。

 白も銀も、目まぐるしくその速度を変えながら、可能な限り己の最大速度、850kmオーバーと940kmオーバーを維持し続ける。
 白の軌道は絡まりあった縫い糸のように複雑怪奇で、銀の軌道は慣性も何もあったものではない鋭角的なありえない代物。
 両者とも連続的にイグニッションブーストを使ってその速度を確保しているらしく、本来の最高速はもっと低速だった。それでも他のISとは比べようも無いほど高速だったが。

 白と銀が飛びまわり始めて既に4時間に達しようかという頃。
 2人は速度こそ維持し続け複雑な軌道で飛び回ってはいるものの、動きが大分雑になっており、決して早くないホログラム製模擬弾によく被弾するようになっていた。
 そして本当に4時間が経過した時点で、ターゲットは一斉に消滅。
 2人は降下して、グッタリとぶっ倒れてしまった。

 息はしているが明らかに荒過ぎる。
 消耗がかなり激しいようだった。
 無論、2人とも汗まみれだ。

 美少女ばかりのIS学園の中でもトップクラスの美貌をもつ銀の少女の苦しげな呼吸も、グッタリとした様子も、全身の汗も、それはそれで彼女の儚げな美しさを演出する小道具となっていた。
 ……実際には男性である千早にとってははなはだ不本意な評価であるのだが、この消耗状態ではそんな事を気にする事は出来ず、またそもそもそのように見られている事にも気付いていない。

「お、おい、大丈夫か?」

 一番長く二人の訓練を見守っていた長い黒髪のポニーテールの少女が、白、一夏の方に話しかける。

「だ、大丈夫に……見え、るか……」

 一夏は呻くように応じた。否、実際にうめき声だった。

「や、やっと……機体性能に…………追い、つけて、来たんだが…………
 4時、間、ぶっ通し……ってのは、ま、まだ無謀……だった、か…………」
「な、何を当たり前な事を言っているんだお前は!!」

 少女は一夏にツッコミを入れる。
 ISというのは使ってみると、あれで中々疲れる代物なのだ。
 ISを着込んで就寝等の普通の生活を送ろうと目論む一夏と千早が異常なのである。

 その疲れるISを身につけての高速ランダム機動を行い続けて4時間。
 息切れの早い白式や銀華を用いての訓練である為、実際にはエネルギーが底を尽く度に補給に行き、その時に多少中身も休めていたとはいえ、正気の人間の時間設定ではない。
 最後の30分ほどは、明らかに精彩を欠く動きをしていたが、一夏と千早の消耗の度合いを考えれば当たり前の話だった。それでも最高速を頑なに維持していたのは大したものだったが。

 と、一夏が話題を変える。

「……つか、お前…………ここ、に、入るの、か……箒…………
 何、年振り……に、なるか……な…………」
「!? 一夏? 私の事を憶えているのか?」
「ちょっとまて。そこの半死人は休ませてやれ。」
「っ! ……分かりました、千冬さん。」
「プライベートならばその呼び方でも構わんがな、今は織斑先生と呼べ。」

 一夏が自分の事を憶えていてくれた事を喜び、彼と話しこもうとする少女、篠ノ之 箒を突然現れた千冬が止める。
 箒は一瞬不満に思ったが、千冬の言う事ももっともだったので引き下がる。

「まったく、ド素人どもが無駄な動きが多すぎたぞ。
 充分な技量があれば、お前等とそう変わらん体力でもそこまで消耗せん。
 一気に4時間と言うのも無謀だ。お前等のような素人が手を出していい設定ではないぞ。
 被弾率も高すぎる。
 飛んでくる弾体よりも早い機体で一体何をしているんだ。」

 千冬は厳しく一夏を叱責した後、

「まあいい。今は休んでおけ。
 ……さて、お前等もここまでしろとは言わんが、自主練の一つ位したらどうだ。
 ここはISを動かす為のアリーナなんだぞ。
 さあ、分かったら散った散った。」

 と少女達を追い払い、

「しっかり休めよ、一夏。」

 と、言い残して去っていった。










===============










「一夏の奴、女といちゃついていると聞いていたんだがな……」

 箒がIS学園に来たのはつい先日。

 実の所、女性である彼女も、一夏や千早のように無理やりIS学園に入学させられたクチである。
 理由は簡単。彼女が篠ノ之 束の妹でなおかつ束にキチンと認識されている貴重な人間という重要人物である為、野放しにしておくと何時彼女の身柄を狙う輩に誘拐されてしまうか分からず、性質上厳重な警備体制が敷かれているIS学園に入学させねばあまりにも危険な立場にいるからである。
 この危惧を抱いて箒のIS学園入学の為に動いた者達の中に、束がいたことは言うまでも無い。

 もっとも、彼女は一夏や千早とは違って彼女は電話帳と揶揄されるISの参考書の中身を完全に把握しており、座学・実技ともにIS学園に入学するのに充分な成績を収めての入学を決めている。
 縁故で入学したと言われる事を嫌った彼女が、ほんの数ヶ月の努力で成し遂げたものである。
 電話帳を前に悶絶している一夏がそれを知ればこう思うであろう。
「あの姉にしてこの妹あり。束さんの妹なだけに頭の良さが尋常じゃないのな。」
と。

 元々彼女はISの存在自体を非常に嫌っていたので、IS学園などとは関わりたくなかったのだが、前述の理由でやむにやまれずIS学園に入学する事になってしまった。
 だがここ最近は一夏が男性IS装着者として世間で持て囃されていたので、IS学園に行けば幼い頃に別れたきりの彼と6年振りに会えると胸を躍らせていた事も事実。

 だから烈火の如く怒ったのだ。
 一夏には、御門 千早という恋人がいて何時も一緒にいる、という話を聞いた時には。

 聞けばその少女は神秘的な銀眼と流麗な銀糸の髪を持ち、さらに少女のあどけなさと凛とした佇まいが同居する美貌に、上質のシルクのようなキメ細やかな肌、胸元が多少寂しいことを除けば女性の理想とも言えるプロポーションを持つという。
 アイドル養成校かと思うほど右も左も見目麗しい少女しかいないIS学園において、その中においてさえ最上位の美しさを持つ銀の少女、それが一夏の恋人たる御門 千早だというのだ。

 相手がどれ程美しかろうが負けないと思った。
 ようやく会えたのだ。
 先に再開を果たしていた千冬が言うには、一夏は剣道を止めてしまい他の事でも鍛えていない為、今は千早と共に鍛えなおしている最中であると聞いた。
 私なら一夏を鍛えなおしてやれると、そう思った。
 今、彼女のいるポジションにいるべきなのは、自分だと思った。
 だから彼女には負けない、負けてなるものかと思った。

 何故か御門 千早は自分は男性であると主張しており、同性の人間同士が行動を共にしやすいのは当たり前、まして周り中異性ばかりのIS学園ではなおの事、という愚にもつかない主張を繰り返しているらしいが、それもどうでも良かった。

 2人はアリーナに篭って四六時中訓練に明け暮れ、ISを装着して就寝する為に寮ではなくアリーナに住み着いているという話も聞いた。
 何を考えてISを装着したまま寝ようと思ったのか知らないが、何たる勝手か。
 箒はそうも思った。


 そこで二人が住んでいて訓練も行っているというアリーナに行き……激しい訓練を数時間に渡って行っている一夏と千早の姿を目にしたのだ。

 その訓練後、息も絶え絶えの一夏が自分の事を憶えていてくれたのは嬉しかったが……彼女は同時に戦慄していた。
 一夏とともに倒れた、銀の少女の儚げな美しさに。

 千早の容貌は下馬評通り、否それすらも超え、妖精か何かのようにすら見えるほど美しかった。
 汗さえも宝石のように煌びやかに彼女の美しさを演出していた。
 勝てない。
 単純に容姿だけの勝負ならば話にもならない。
 それは圧倒的な敗北感だった。

 彼女は何故か「自分は男である」と主張しているのだという。
 一体何の冗談なんだろうか。
 もしあれが男なのであれば、女性としての美しさで千早に劣る自分や友人達、世の女性達は一体なんだというのだ。

 千早が聞けば彼のテンションが奈落の底に落ちるような事を、箒は思い浮かべていた。

 と、そこで彼女は思った。
 そういえば、あの訓練は一体どのようなものだったのだろうかと。
 確かに恋人と言われている千早と共に行っていたが、ぬるい訓練を行いつついちゃついているものとばかり思っていたのに、余りにも苛烈な内容だった。
 2人とも恐ろしいスピードで飛び回っていた為、外野からでは一体何をしていたのかも良く分からない。
 確かターゲットが消滅する時には、必ず一夏か千早がその傍らを通過していたような気がするのだが、なにぶん2人とも非常に速かったので判然としない。

 一夏には聞けない。
 今の彼は、泥のように眠らなければ復活できないだろう。

 そこで箒が周囲を見渡すと、千冬の後姿が目に入ってきた。
 箒達を解散させた後、自分もアリーナを後にしたらしい。
 彼女ならば、訓練の詳細を知っていると思った。
 織斑先生と呼べ、と言っていたので、話し方も他人行儀の方が良いかも知れない。
 そう思って箒は千冬に話しかけた。

「あの、織斑先生。少しよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「一夏達が行っていた訓練の詳細を知りたいのですが、教えていただけませんか?」

 その箒の一言に、周囲の少女達も反応する。
 彼女達も一夏達が行っていた訓練には興味があるらしい。

「ああ、あれか。
 あれは訓練というよりゲームなんだがな。」
「ゲーム?」

 そして、千冬は一夏達が行っていたゲームのルールを説明する。

・一夏や千早がターゲットに攻撃すると、そのターゲットが消滅し、新たに別の場所に別の色のターゲットが発生する。
 一夏が赤いターゲットを攻撃すれば黄色いターゲットが、黄色いターゲットを攻撃すれば青いターゲットが発生する。
 逆に千早が青いターゲットを攻撃すれば黄色いターゲットが、黄色いターゲットを攻撃すれば赤いターゲットが発生する。
・一秒ごとに青いターゲットの総数と赤いターゲットの総数を集計し、それぞれを一夏と千早の得点に加算する。
 無論、青いターゲットの数が一夏の得点となり、赤いターゲットの数が千早の得点となる。
・各ターゲットは色に関係なく一夏・千早の区別なく模擬弾による攻撃を行い、模擬弾に被弾すると1発につき100~1000点減点。
・一旦ゲームを離れてエネルギーを補給している際には、被弾による減点は無し。
・相手を攻撃してその機動を妨害しても良い。

 このような基本ルールの下、自由に時間設定やターゲットの総数、ターゲットからの攻撃の激しさ、被弾時の減点幅などを設定できるという。
 ちなみに今回の設定は、時間設定が4時間、ターゲット総数が50、攻撃の激しさは0.1~0.5秒毎に時速10~700km模擬弾を同時に3発発射程度、被弾時減点が500点という設定になっていた。
 2人とも減点が響いて碌な点数になっていないが、千早の方が高得点だったらしい。

「なにぶんあの2人のISは高機動タイプで、奴等はその速度を使いこなせるようになる事を望んでいるからな。
 高機動ISの装着者が互いに競い合いながら互いを伸ばすのであれば、このゲームは訓練としてそれなりに使えるんだ。」

 箒を含める女生徒達がなるほど、とうなづく。
 そしてそのうちの1人がこう言った。

「流石に篠ノ之博士謹製の高機動ISですわね、織斑先生。
 あの2人、確か初めてISに触ってから1ヶ月ほどだと聞いておりますが、そんな素人にもあんな高速で複雑な機動が可能だなんてとても高性能ですわ。」

 それを聞いた箒は、幾つかの理由でカチンときた。

 一夏は分かる。
 しかし、自分は御門 千早と言う少女を知らない。
 なぜ、姉がそんな少女にISを渡したのか。

 妹の私にはどうした。
 そんな考えも一瞬浮かぶが、頭を振り払う。
 実力もなしに縁故だけでISを手に入れるなど許される話ではない。
 確かにISは絶大な力ではあるが、同時に自分の家族を崩壊させ自分と一夏も引き離した代物でもある。
 一瞬浮かんだ考えは、甘美な誘惑でもあったが同時に酷い悪夢でもあった。

 また、あの2機のIS、白式と銀華というらしいが、通常のISより小型の、ISとしては特徴的なフォルムを持っている。
 それが、何だか2人だけの、一夏と千早だけのおそろいのスタイルという感じがしてしまう。

 そして、全てはISの性能であるとする物言いにも腹が立った。
 だが、これには千冬のフォローが入った。

「その高性能に中身がついていくための訓練だ。
 いくら速くても、その速さを使いこなせなければ何にもならんからな。
 考えてもみろ。
 代表候補生やそれ以上の連中でもなければ、あの2機の最高速を出した途端、壁に激突するぞ。」

 ぐっ、と白式・銀華の高性能を誉めそやした少女のみならず、何人かの少女がたじろぐ。
 彼女達も一夏達が高性能ISにオンブにダッコされているだけ、と内心では思っていたらしい。

「元々、超音速飛行が可能なISの速度をデチューンする必要があるのは、あの狭いアリーナでそんな速度を出せば壁にぶつかるしかなくなるからだ。
 そしてあの2機はデチューンされてなお、壁にぶつかりかねないあの速さで機動する。
 オマケに両方ともその高速機動がなければ、タダの欠陥機としか言いようのない代物ときている。
 だからあの2機を使っていく為には、その高速についていくための訓練に明け暮れなければどうしようもないんだ。」

 千冬の話で、少女達は一夏達が高性能ISを貰って調子に乗っている素人という評価を改めざるを得なくなった。
 既に白式・銀華が接近戦しか出来ない欠陥機である事は知れ渡っていたからだ。

「アイツは精進しているんだな。
 それに引き換え、私は……」

 千冬の話を聞いた箒は思った。
 一夏もまた専用機持ちとして相応しい実力を身につけつつあるのだな、と。
 ……本人が聞けば全否定するだろう。

 彼が千早と共に死に物狂いで目指している先、そこはスタートラインに過ぎない。
 他ならぬ一夏自身がそう思っている。
 2人はようやくIS装着者としてのスタートラインにたどり着けたかどうか、と自己評価しているのだ。









===============










 一夏が目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。
 訓練を行っていたのは午後1時から5時まで。
 つまり5時に力尽きて倒れ、そのまま眠って5時間経過した事になる。
 今は10時だった。

「う、く……汗くせぇよな、やっぱり。
 シャワーまだ使えっかなぁ。」

 一夏はそんな事を言いながら、千早を起こし、手を貸して立たせる。

「おい、大丈夫か?」

 ISを着ていると何故か傷の治りが早い一夏と違い、千早に関してはそんな事はない。
 なので一夏は、訓練直後の消耗度が同じ程度でも、千早の方が回復しきれていないのでは? という危惧を抱いてしまう。

「ん、ああ。
 なんとか、ね。」

 出会って1ヶ月以上。
 その間に、千早は少しずつ素の口調を見せてくれるようになった。
 丁寧語だったのは、織斑姉弟を他人と判断していたかららしい。
 つまり、それなりに良いとこのご令息だったらしい千早は、言葉遣いも躾けられていたわけである。
 その彼が素の口調で話すという事は、一夏を親しい相手としてとりあえずは認めてくれたという事らしい。

「でも丁度良い具合に女の子達との会話を避ける事が出来た。
 あんなに消耗している所で彼女達に振り回されたくはなかったから、千冬さんには感謝しないと。
 それにしても。はあ、一夏の恋人か……
 なんで皆して僕の話を聞いてくれないんだ。
 大体、女の子を演じるつもりだったら、もう少し声色や立ち居振る舞いに気を使うんだけど……」
「……今のまんまの声でも充分女に誤認されると思うけどな、俺は。」

 一夏のツッコミが言葉のナイフとなって千早に刺さる。
 千早の声は多少低くはある物の、十二分に女の子の声として通用するというか、男の声には到底聞こえない代物である。

「でも、ここまでではないと思うのだけれど。」
「ッ!!! なんだ、今のは!?」
「……僕が出せる女の子声。
 これ以上女の子に間違えられたくないから、ここではもう出したくないけれどね。」

 そりゃ確かにそんな声聞かされたら、男の声だなんて思えないだろう。
 明るく澄んだ、鈴を転がすような千早の声に一夏はドキリとさせられた。
 初めて聞いた、女の子以外の何者でもない千早の声だった。

「それにしても、ようやく。か。」

 そう、ようやくスタートラインに立てた。
 一夏はそう呟き、千早が頷く。


 ISを「使う」、ISを「身につける」のではなく、ISを文字通りの意味で自分の体の延長にするという事。
 ISにできる事をあたかも歩くように、コップを持ってその中身を飲むかのように、「当たり前に行う」という事。
 一夏と千早がこれからIS装着者としてやっていく上で、そのスタートラインと定めた水準にようやく達したのだ。

 一夏には「インフィニットストラトスの主人公たる、織斑 一夏」が持っているような凄まじい才能は無い。
 一夏と千早はこう考えている。
 ひょっとしたらあるかもしれないが、そんな有るかどうか分からない物の上に胡坐をかくほど危険な事は無い。

 だから2人は、一夏には才能が無いという前提で訓練に明け暮れていた。
 その目指す先はタダ一つ。
 ISにできる事を「当たり前に行う」事。

 イグニッションブーストなどを一々複雑な演算をして意識的に行うのではなく、あたかも普通に走るようにアッサリと行う事。
 ISの動作には複雑な演算が必要不可欠であるとされている事は重々承知しているが、正味な話、白式や銀華が行うような高速機動中に一々高度な演算などやっていられない。
 だから、ISにできるあらゆる事を、特に意識して演算せずとも出来るよう、徹底的にISに馴染む事。
 それが一夏と千早が目指したもので、ISを装着して就寝するという事もその一環だった。

 そして……2人はそこまで出来て、ようやくIS装着者としてのスタートラインに立てた事になる、と考えている。

 まだまだ代表候補生には敵わない。
 否、物語の主人公たる「織斑 一夏」ならばともかく、一夏では生涯彼女達には敵わないと考えたほうがいい。
 一夏と千早はISという身体を十二分に動かせるようになっただけ。
 他方、代表候補生はISという身体を使った戦闘術に、一国の代表の候補生とされるほどに長けているのだ。
 つまりとりあえず動けるだけの民間人/一般人と、その肉体を凶器とする術を身につけている格闘家や軍人の差が、一夏・千早と代表候補生の間にあるという事だった。

 だから、国家が威信をかけて育成した超人兵士である代表候補生に混じって、最弱ではあるもののそれなりに戦えているような、「織斑 一夏」のような真似は決して出来ないだろう。
 一夏と千早はそう思っていた。

 「織斑 一夏」がどの程度強いのかは知らない。
 小説「インフィニットストラトス」が存在する世界の住人である千早にしても自分では読んだ事が無く、またネットなどで話題に上るのも3巻までの話が多く、新しい巻の物語は把握し切れていないからだ。
 まして、一夏が「織斑 一夏」の強さに見当をつけることなどできはしない。

 だが、代表候補生などという人間兵器の中に混じったせいで最弱のそしりを受ける事になったとはいえ、天才と持て囃されていた位だ。
 恐らく6巻時点の「一夏」が相手ならば、2人がかりでも歯が立つまい。
 それどころか1巻終了時の「一夏」が相手でも危うい。

 それが、一夏と千早の自己評価だった。

 その「一夏」が巻き込まれ、代表候補生さえも単独では切り抜けられないような騒動に「一夏」ほどの才能を持たない自分達が対応するには、ISをとっさに、反射的に動かせるようにならねば話にならない。
 戦闘技術の修得も考えないではなかったが、まずはISを何不自由なく動かせるようになってからでなければ、半身不随で空手を習うような無理が出ると考え、後回しにした。

 そして、走る際に地面を蹴るようなノリでイグニッションブーストを自在に扱える位にまではなんとか漕ぎ着けた。
 やっと、戦闘術の修得に移る事が出来る。
 自分達の体力を根こそぎにした4時間の訓練で、そう確信できる手応えを一夏と千早は感じたのだった。

「やっとスタートライン。
 僕達が男性IS装着者に降り掛かる火の粉に対処できるよう鍛えるのは、ここからが本番だ。」
「ああ……で、誰に戦闘術教えてもらうんだ?
 千冬姉は、俺達が独り占めできる相手じゃないぞ。」
「う~~ん、どうしようか…………
 そうだ、こんな学校なんだから……」




 翌日、2人は千冬に
「古流剣術部とか柔術部とか古武術部とかシステマ部とかCQC部とか、実戦を前提とした戦闘技術の部活動はないのか?」
 を訊ね、彼女に張り倒される事になるのだが、それは完全に余談である。


==FIN==


 ちーと強くしすぎたかも知れませんが、2人で互いに高めあってた結果とでも思ってください。
 2人は早く複雑な機動が出来るだけで、一応シャルやラウラなんかが相手だと多分沈みますんで。
 ……戦闘技術系の部活動、ひょっとしたらあるかもしれないな、IS学園……

 ホログラムターゲットとホログラム模擬弾は……まー一々物質のターゲットなんて用意して射撃訓練したら、ターゲット代だけでも割かし洒落にならないだろうなという事と、この位のホログラムを作る技術くらいはIS学園にならあるだろうという事で。
 実際に模擬戦をやらせると息切れの早いIS同士の短期決戦になってしまう為、長時間最高速度近くかつ複雑な軌道で飛び回らねばならない理由付けがなされた訓練を行えないと、一夏とちーちゃんの反応速度が強化できないなあ、なんて考えてこんなゲームを考えてみました。

 箒さん、完全にちーちゃんを女の子と誤認してますw
 まーちーちゃんは、おとボク2の全ヒロイン中一番綺麗だと公式で設定されていたはずですんで、しょうがないっちゃしょうがないんですが。
 ……容姿で男のちーちゃんに負けたことは恥ではないです。ちーちゃんの綺麗さが異常なんですから。

 ……ちーちゃんの男の子口調、こんなんで良かったかな?
 内心のモノローグとか、わりと砕けていたと思うし……おとボク2で改めて確認しないといけないかも。
 ちなみにちーちゃん、丁寧語を使ってましたけど声色自体は男の子モードでした。IS世界で女の子声を出したのは今回が初です。



[26613] 世の中の不条理を噛み締める
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/25 20:54
 遂にやって来た4月の入学式。

 大勢の少女達に混じって式の席順を眺めていた千早は、難しい表情を浮かべる。
 席順はクラス割表も兼ねているようで、4列ほどの列のまとまりがそのまま1クラスの編成を意味するようになっていた。

「……やっぱり「インフィニットストラトス」とは違うか。」
「どうしたんだ、千早?」

 と、隣にやって来た一夏が千早に尋ねる。
 一夏と千早のみが男性用の制服を着ており、さらに見た目は少女である千早と違って一夏は普通に男性であるため、少女ばかりのこの場では非常に目立った。
 その為、千早は自分の真意をこの場で話す事を躊躇う。

「……後で話す。」
「?? そうか?」
「行こう。もうクラスは確認したよ。
 同じ1-1……あの辺りだ。」

 2人は体育館内に用意された入学式用の自分達の席へと移動する。

 しかし分かっていた事ではあるが、ここは女子校。
 男性である一夏と千早にとっては非常に場違いで居心地が悪い。
 今まではアリーナに篭って訓練漬けの毎日を送る事でやり過ごす事も出来ていたのだが、これから授業が始まるとなるとそうもいかない。
 移動中も、周囲からの視線が痛かった。
 一夏には女子校に男性という物珍しさからの好奇の視線、千早にはその美貌への羨望の視線と一夏の恋人と言う噂に基くやはり好奇の視線が突き刺さる。
 たまったものではなかった。

 だから、千早は意識を他に向けることで視線の重圧をやり過ごそうとした。

(そういえば「インフィニットストラトス」でのIS学園の入学式や始業式って、どんな描写だったんだろう?)

 元の世界でなら本屋に行って「インフィニットストラトス」を買ってきて確かめる事もできたが、ここではそういうわけにもいかない。
 千早は考えるだけ無駄かと、その疑問を切り捨てる事にした。

 しかしそうすると視線の重圧が襲ってくる。
 一夏と話をしようにも「『お』りむら」と「『み』かど」である。
 ここでの席順は50音順らしく、千早と一夏は引き離されてしまった。

 ひたすら視線が痛く、また壇上に立つお偉いさんにも、ISド素人の一夏や異世界人である千早には、それがどこの誰でその話がどれほどありがたいお言葉なのか分からず、話は右の耳から入って左の耳から出て行くばかり。
 かろうじて、千冬が前に立って何かしらの話をした事だけは分かった。

(……「インフィニットストラトス」の冒頭部分の話題で、入学式が話題に上らないのって、こういう事なのか……「織斑 一夏」が入学式の様子を憶えていないんだ……)

 千早はそんな事を思いながら、これからクラスメイトになるであろう少女達についていって1-1にやって来た。
 見れば一夏も同様の状態らしい。
 男2人の脳内ではドナドナが流れていた。

 教室に入った所で限界に達した一夏が、千早の手を引いて彼を教室の隅に連れて行く。

「……きっつい…………」
「その一言に尽きるね……」

 一夏と千早はげんなりした表情を浮かべる。

「まあ、それはそれとして……さっきの席順見た時の、後で話すって言ってた事。
 あれってなんなんだ?」

 そう訊ねられた千早は周囲を見渡す。
 少女達は遠巻きに千早達の方をうかがっているだけのようだ。
 そこで、千早は小声でなら話しても良いかと判断する。

「……今日の時点でもう、状況が「インフィニットストラトス」と明らかに違ってきている。
 具体的には、「インフィニットストラトス」では転校生として途中から登場していた代表候補生達が、今日の時点でもうIS学園にいるんだ。」

 ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 フランスの代表候補生、シャルル・デュノア。
 中国の代表候補生にして一夏の幼馴染、鳳 鈴音

 この3人は「インフィニットストラトス」では転校生として物語の途中でIS学園にやってきている。
 そして前者2名に関しては、1組所属のクラスメイトとなる。
 鈴音は「インフィニットストラトス」と変わらず2組でありクラスメイトではないものの、やはり「インフィニットストラトス」よりも早い時期にIS学園に入学している。

「……何でそんな違いが出てるんだ?」
「さあ?
 でも僕は、何でもかんでもお話の通りに行ったら、そっちの方が不気味だと思うけれど。」
「……まあ、そりゃそうだが。」

 もっとも千早にはあまり考えたくない可能性が思い浮かんでいる。
 千早にとっては嫌な事に、それなりに可能性は高そうだった。

 男性IS装着者は希少だ。
 そしてその遺伝子にも価値を見出す輩は必ずいる。
 ぶっちゃけた話、一夏の子どもであれば男性でもISを使えるのではないかと考える者や、一夏の遺伝子を調査してISを使う為の因子を探すなんて事を考える輩がいてもおかしくは無い。

 そうした考えの者が、一夏の遺伝子を代表候補生に回収させようと目論む。
 幸いな事に彼女達の容姿は非常に美しく、一夏を誑し込み、その遺伝子を回収するには充分な代物と言える。
 「インフィニットストラトス」で、やたら1組にだけ代表候補生が集中していたのは、こうした背景があるのだろうと千早はあたりをつけていた。
 また、鈴音だけはクラスが違うが、彼女には一夏の幼馴染というアドバンテージがあったため、他の代表候補生のように同じクラスに入れる事に固執する必要性が低かったと考えられる。
 「インフィニットストラトス」では代表候補生達の方が「一夏」にほれ込み、自発的にアプローチしていたが、それすらも遺伝子を回収したい連中が「一夏」は異常にモテるという情報を得ていてそれを計算に組み込んだと見るべきだった。

 だが、今この場では問題が発生している。
 織斑 一夏の恋人、御門 千早の存在だ。
 一夏に彼女がいたなら、その彼を誑し込むのは非常に困難になる。
 その為、多少無理してでも代表候補生を4月当初からIS学園に入学させて、少しでも多く一夏と接触させ、彼女達が一夏を誑し込みやすくしなければならなくなったのだ。

(……外れていて欲しいな、この考え。)

 千早は自分の考えにゲンナリさせられてしまった。

 と、そこで副担任だという山田先生が教室に入ってきて、席につくようにと一夏や千早を含む生徒達に声をかけた。
 教室での席は、一夏と千早にとっては幸いな事に隣同士のようだった。

 そして山田先生に促されて、生徒達が1人ずつ自己紹介を行っていく。
 千早が存在する為「インフィニットストラトス」の「織斑 一夏」よりも精神的余裕があるのか、一夏もぼうっとして自分の順番に気付かないという事は無かった。
 ……この相違点には、千早も気付かなかったが。
 彼は「インフィニットストラトス」をキチンと全て読んでいるわけではなく、把握していない箇所も多く存在するのだ。
 ちなみに、一夏の自己紹介は非常に簡潔な代物で、もう少し面白い自己紹介は出来ないのかなどの野次が飛んだのだが、彼が受けていたプレッシャーを考えれば酷というものだろう。

 そしてシャルルの番の事。
 男物の制服を着ただけの愛らしいブロンド美少女が、史上二人目の男性IS装着者だと自己紹介すると、ものの見事に少女達は

「きゃー、美少年よ美少年!!」
「やーん、守ってあげたい男の子~~!!」

 と黄色い声を上げる。
 そこに性別詐称を疑う声は全く無い。

 そこへ入ってきた千冬は、この黄色い声にゲンナリした。

「ま、毎年毎年……今年はとりわけ酷いのが来てるのか!?」

 黄色い声は更にヒートアップ。
 千冬お姉さまのためなら死ねます、などという危ない台詞を口走る者もいる始末だった。

 しかし、千冬に向けられた黄色い声は、千早には聞こえない。
 何やら千早の様子がおかしい事に気付いた一夏は、彼に声をかける。

「お。おい? どうしたんだ?」
「ほ、ほっといて……
 ど、どうして僕の話は全然聞いてくれないのに……」
「ちょっと戻って来い千早。」

 と、一夏に肩をつかまれ揺らされた事で、千早は多少正気を戻す。

「い、いや……僕がいくら男だって言っても誰も信じてくれないのに、シャルルさんは……」
「あー……まあ、その、なんだ。
 強く生きろよ。」

 一夏は「シャルルは女の子」と言う情報を千早から聞いていない為、千早の苦悩を理解する事は出来なかった。
 千早は「インフィニットストラトス」については多くは語らない。
 今回の代表候補生転校前倒しのように、「インフィニットストラトス」とは違う出来事が起きる可能性があり、人々が抱える事情もまた「インフィニットストラトス」とは違っている可能性もあるからだ。

(っていうか誰か気付いてよ。
 どう見てもシャルルさんは女の子じゃないか!!)

 千早は自分の事を棚に上げて、そんな事を思っていた。


 そして千早の番が回ってきた。
 彼が前に出た途端、教室が静まりかえる。
 その静寂に、千早は一瞬怯んでしまう。

(え? 何? 僕、今、何かした?)
(うっわ、なにあのサラサラで綺麗な銀髪……)
(肌の質感とかがあたしなんかとはまるで違う……)
(もう綺麗過ぎて人間じゃないみたい……)

 少女達は千早の美貌に息を飲んでいた為、静まり返っていたのだが、千早はその事に気付かなかった。
 千早はいつまでも怯んでいるわけにも行かず、自己紹介を始める。

「はじめまして皆さん。
 僕の名前は御門 千早と言います。

 僕に関して根も葉もない噂を耳にされた方も多いと思いますが、それらは間違いです。

 何故なら、僕は織斑 一夏と同時に発見された男性IS装着者だからです。
 その証拠に僕の専用ISである銀華は一夏の白式と同様、男性でありながらISを使えるレアケースだからという理由で与えられた代物で、通常の専用気持ちとは事情が異なります。

 ですから、僕が女の子であるとか、まして一夏の恋人であるとかいう噂は事実誤認も甚だしく、僕が彼と行動を共にする事が多いのは同性同士の気兼ねの無さの為なのです。」

 千早はこの際だから、自分にかけられた「女の子である」「一夏の恋人である」という誤解をこの場で解こうと試みる。
 その為に、今回は銀華の存在を利用する事にした。

 だが。

「あれが例の噂の御門 千早さん!?」
「信じられないほど綺麗な人だって聞いてるけど、正直想像以上だわ!!」
「自称男だっていう話も聞いてたけど……まさか本気で信じてもらえると思っているのかしら!?
 あんな綺麗な人が男だなんて、無茶苦茶な妄言だわ!!」
「男? 嘘でしょ!?
 なんで彼女は自分の事を男だって頑なに信じているの!?」

 少女達は千早が非常に無理のある性別詐称をしているとして、誰一人「自分は男である」という千早の主張を聞き入れない。

(……シャルルさんと僕の、この扱いの差は何?)

 千早は少女達の反応に打ちひしがれてしまう。
 ふと一夏の方に目をやると、彼の目は「……強く、生きろよ。」と雄弁に語っていた。

「あ、あの御門さん、嘘の自己紹介は先生良くないと思うの。
 ねえ、何か特技とかは無いのかしら?」

 挙句の果てには、山田先生にもこう言われてしまう始末。
 彼の恨みがましい視線が千冬に刺さる。
 その瞬間、千早と千冬は目と目で分かり合った。

(千冬さん、山田先生には僕が男だっていう事くらい教えておいてくれても良かったじゃないですか!!)
(お前が男だと言う話な、誰に何度話しても一向に信じてもらえないんだ。
 仕方が無いだろう。)
「あの、御門さん?
 織斑先生の方じゃなくて、皆さんの方を向いて自己紹介の続きをお願いしますね。」

 二人のアイコンタクトは山田先生の介入によって中断させられてしまう。
 もっとも、あれ以上続けたところで、不毛な結論しか出ないのは明白だった。

「ハア……」

 千早はため息をついてから生徒達の方に向き直る。

「特技ですか。
 そうですね、料理には多少自信があります。」

 ありとあらゆる技能において千早を凌ぐと言われ、よく千早の比較対照として引き合いに出されていた又従兄弟の瑞穂に対して、千早が打ち勝てる分野。
 それが料理である為、千早は特技として料理を挙げる事にした。

「へえ、一体どんな料理なんですか?」
「和風、洋風どちらもそれなりには出来るつもりですよ。
 もっともこの学校にはとても美味しい学食がありますから、披露する機会には余り恵まれないでしょうけれど。」

 千早の自己紹介はこれで良しとされたらしく、彼は自分の席に戻っていった。
 ふうやれやれ、という気持ちが強かった為に彼は気付かない。
 自分の口調が優しげな女性のようになっていて、自分の声がいつぞや一夏に聞かせた女の子声になっていた事に。
 低身長で愛らしい容貌の山田先生に千早の母性本能がくすぐられた為だったのだが、おかげで彼の自分は男だという主張がより聞き入れられなくなってしまった事に、彼は気付いていない。

「はあ、蕩けるほど優しいお姉様ボイス……」
「普段のハスキーボイスも素敵だけれど、あんな風に優しく何かを言われてみたい……」

 気付かない方が幸せな事実であった。


 そして小柄な少女の姿をしたドイツ軍人、ラウラの番が巡ってきた。
 本来なら愛らしいと形容される容姿でありながら、見る者に冷たく苛烈な印象を与える銀髪の少女。
 そんなラウラは千冬を「教官」と呼び、無力な一夏が彼女の弟であることなど認めない、最強の戦闘力と同じ遺伝子を持ちながら誘拐されるという失態を演じて彼女のモンドグロッソ2連覇を潰した一夏は許さないなどと、一夏を敵視する発言を連発した。

「軍人として厳しい訓練に耐えた貴女が、民間人である一夏より強い事は当然でしょう。
 その強さを傘に来て無力な相手に凄むのでは、貴女の強さが泣きますよ。
 あまりみっともない事をさせないで欲しいと。」

 そのラウラに対して物言いを入れたのは千早だった。

「なんだと?」
「仮にも戦闘力の高さで国家の代表を目指す者が、その戦闘力を民間人を脅す事に使う事は、あまり格好の良くない事だと言っているんです。
 一夏が弱いことだって……」

 と、そこへ千冬が乱入し、ラウラの相手という千早の立場を奪う。

「そいつの戦闘力が低いのは私の責任だ、ボーデヴィッヒ。
 今にして思えばモンドグロッソで誘拐された後にドイツへ連れて行って、民間人の身でお前と同じ訓練を受けるという地獄を見せるべきだったと後悔している。」
「!? 教官!! 何を言っているのですか!?
 教官がこのような弱輩を庇う必要など……」
「弱いからこそ庇う必要があるんだ。
 忘れたのか?
 お前たち軍人というのは、民間人を守る事が本来の役目の筈なんだぞ。」
「ぐっ……」

 千冬の正論に怯むラウラ。

「それが分からん奴は、どれほど戦闘力が高かろうと強いとは言えん。
 それは前にも言った筈だ。
 確かに戦闘を行えば勝つのはお前だが、そんな事ではお前と一夏では一夏の方が強いと言わざるを得んぞ。」

 そのやり取りを見ていた一夏はこう思った。
「千冬姉、庇ってくれてるのはすげえ嬉しいんだけど、こんな所でそんなブラコン発言は止めて欲しいんだ。
 俺、そんな強くねえって。」
と。

 クラスメイトの好奇の視線が、ラウラの自己紹介の時から更に強烈になっているのを一夏は感じていた。
 大方、「織斑 千冬の弟」という有り難い肩書きがラウラの自己紹介によって一夏にくっついたせいだろうと思い、事実その通りだった。
 憧れのお姉様の、実際の弟。
 羨ましい、代わって貰いたいという羨望の眼差しも、好奇の視線に混ざるようになっていた。

 一方、ラウラも相手が尊敬する千冬では分が悪いようで、おとなしく引き下がっていたようだった。

 そんなこんなで、自己紹介も一通り済み、入学式が行われた今日から早速始めの授業が行われたのだった。
 ……なお、電話帳の中身を10分の1も理解していなかった一夏と千早は、ISを動かす際の感覚的なものを頼りに危なっかしく授業についていく事になった。
 とにかくISを使えるようになる事を優先し、高機動に対応する為に論理よりも感覚・直感を優先した結果だった。
 実技の為に座学を犠牲にしたとも言う。

 おかげで
「なぜこれが分からんのにイグニッションブーストをあんなに自在に操れるんだ、こいつ等……」
 などと千冬が頭を抱える事になるのだが、それはまた別の話。


==FIN==


 まーぶっちゃけちーちゃんとシャルの対比をしたかっただけなんですがねw
 ハードモードなので、途中参加と言うハンデはなしにしました。



[26613] ハードモードには情けも容赦もありません
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/25 20:54
 一夏が千早と昼食を取り、午後にはクラス代表決めがあるという話をしていると、ツインテールの少女が一夏に話しかけてきた。

「一夏!! 久しぶり!
 一年振りね。」
「? 鈴、か?
 そういやあの表、お前の名前も載ってたっけな。」
「うんうん。クラスは違っちゃったけどね。」

 彼女の名前は鳳 鈴音。
 僅か1年で代表候補生にまで上り詰めた、「織斑 一夏」の存在さえ考慮に入れなければ最上級の才能の持ち主だった。

 千早が「インフィニットストラトス」において素手の代表候補生達がショットガンやマシンガンで武装した素人を事も無げに制圧したというエピソードが話題に上っている所を見た事があると言い、千冬に代表候補生には実際にその程度の戦闘力がある事を確認して以来、一夏の中では代表候補生とは「少女の外見に恐ろしい戦闘力を詰め込んだ怪物」という認識になっている。

 その為、代表候補生というだけで
「見た目に惑わされてはいけない!!」
という警告音が一夏の中で鳴り響くようになってしまっているのである。

 ゆえに、鈴音は気付いていないのだが

「私ね、中国の代表候補生になったの!
 凄いでしょ!!」

この鈴音本人の一言が、彼女のフラグを潰す結果を招いているのである。
 知らない方が良い現実の、ささやかな一例であった。


 彼女が代表候補生である事は予め千早から聞いていた一夏だったが、それは「インフィニットストラトス」の「鳳 鈴音」の話であって、自分の知る鈴音はそうとは限らないと思っていた。
 しかし今、一夏の前に彼女は確かに代表候補生であるという事実が突きつけられた。

「おお、すげーな。
 たった一年で代表候補生になったってー事は、そんな短期間で単なる女の子から千冬姉を頂点とする人外の戦闘力を持つ怪物達の仲間入りを果たしたって事だろ?
 とんでもねーな。
 凄い才能ともっと凄い努力がなけりゃ、出来ない芸当だぜ。」

 一夏は心の底から鈴音の努力を賞賛した。
 なじみの女の子が、もはや単なる人類では太刀打ちできない怪物に、ただの人間に過ぎない自分の手の届かない領域の存在になってしまったのだという郷愁も含めて。

 だが。

「ちょっと一夏、あんたそれどーゆー意味!?」

 怪物と呼ばれて喜ぶ少女など存在しない。
 鈴音もまた例外ではなかった。

「へ? ちょっと待てよ。俺はお前を褒めたんだぞ。
 強い事が求められるIS装着者、しかも代表候補生が、その強さを人間離れした怪物じみた領域に達してるって言われてんだぞ?
 そこは喜ぶ所じゃないのか?」
「あ、あああ、あああああああ、あんたねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 激昂した鈴音が瞬時に自らのISを部分展開させる。
 それをすかさず千冬が止めた。

「鳳、無許可のISの展開は禁じられているぞ。
 ……そこの女心の分からん阿呆には私から制裁を加えておく。
 引き下がれ。」
「……はい。」

 以前から千冬が苦手だった鈴音は素直に引き下がる。
 彼女の制裁の方が、自分の制裁よりも苛烈だろうという考えもあってのことだった。

 そして一夏を見た千冬は、あらん限りの殺気を一夏に叩き付ける。

「一夏。貴様、女が怪物呼ばわりされて喜ぶと本当に思ったのか!?」
「い、いや、で、でも、鈴は代表候補生なんだから強いって言われたほうが喜ぶだろうと思って……」
「そうだとしても、今のは流石に無いと思うけど。」

 千早とて女心が分かる方ではないのだが、今回は流石にジト目で一夏を見る。

「うぐっ……」
「織斑。」

 千冬が地獄の底から響き渡るような声で死刑宣告を行う。

「ISコアを外した打鉄を身につけてグランド2周だ。
 返事はどうした?」
「は、はい……」

 そして姉に首根っこ捕まれて連れ去られていく弟の姿を見送った千早と鈴音の脳裏には、ドナドナが流れていた事は言うまでも無い。
 ちなみに、小型の白式や銀華以外のISはかなりの重量物である。
 ISコアを失い、単なる錘となった打鉄を身につけたら片足を持ち上げる事も非常に困難なのだが、その状態でグランドを2周しろというのが、千冬の制裁のようだ。
 怪物達の頭領みたいな言われ方をしたのが、えらく腹が立ったらしい。
 弟には甘い彼女からは考えづらい、苛烈きわまる制裁であった。

「……ここ、確かグランドが一周5Kmもあったと思うんだけど。」
「重たい錘にしかならないISを身につけているとはいえ、たった10Kmの道程、貴女方代表候補生ならば容易い事ではないのですか?」
「いや、代表候補生って普通に人間だから。
 さっきの一夏もそうだけど貴女も大げさすぎよ。
 って、貴女は?」

 と、そこで鈴音は千早に意識を向ける。
 見たことも無いほど美しい銀の少女だった。
 流麗な銀の髪も神秘的な銀眼も、どう見ても日本人には見えないが、ここには自分自身も含めて多くの外国人が入学している。
 鈴音は千早もその1人だろうと思っていた。

「ああ、始めまして。
 一夏や千冬さんと同じ1組の御門 千早と言います。」
「へ? 日本……人……?」

 予想外の返答に鈴音は驚く。
 千早は、まあこれが普通の反応だろうなと思いながら話を進める。
 ちなみにこれまでの千早の自己紹介は、自分は男であると主張して相手に否定される展開ばかりであった。

「まあ、よく言われますよ。髪の色が理由で虐められたこともあります。」
「あー、貴女も苦労しているのね。」

 千早は鈴が言った「あなた」が漢字表記では「貴女」になっている事に気付かなかった。

「あたしも日本に住んでたんだけど、やっぱり外国人ってことで風当たりが強くて。」
「まあ、僕の方も似たような事情ですね。」
「でも日本人なのに、なんで銀髪なの?」
「僕はクオーターなんですよ。
 母方の祖母が北欧の方で、隔世遺伝というもので僕が彼女の銀髪を受け継いだんです。
 ハーフの筈の母は、普通に日本人の外見をしているんですけどね。」

 そんな話をしていたら、昼休みが終わりそうになったので、千早と鈴音はそれぞれの教室へと戻っていった。

(にしてもすんごい綺麗な人だったけど……そういえば一夏と食事していたような。
 一夏と一体どういう関係なんだろう!?)

 その後、クラスメイトから千早は一夏の恋人であると聞かされて、鈴音が奈落の底に落とされるまで、あと数分であった。



「か、勝てない……あんなのどーしろと…………」










===============








 一方、1組では一夏不在の状況下で、クラス代表決めが行われていた。

 世界初の男性IS装着者である一夏をクラス代表に推す声も多数見られるが、代表候補生の人数が1人から3人に増えた事、「男性IS装着者」というプロフィールの持ち主が一夏以外にもいる事から、票は上手い具合にばらけており、一夏が問答無用でクラス代表にさせられるような雰囲気は見られない。

(まあ、欠席裁判でクラス代表にされても気の毒だしな。)

 そんな事を考えながらふと外を見ると、打鉄の巨大な足を自分の足の力で何とか持ち上げ、四苦八苦しながらグランドを歩いている一夏の姿が見えた。

「あら、彼氏の心配かしら?」
「いえ、そういう訳ではないですよ。
 一夏は罰を受けて当然の事をしてしまっていますから。」

 千早は自分を一夏の恋人として扱うクラスメイトの声掛けにゲンナリした。

「そういえば、貴女も専用機持ちよね?」
「へ?」

 千早に話しかけた少女は勢い良く手を挙げる。

「先生!! 私は御門さんを推薦します!!」
「ちょ、ちょっと!!」

 不本意だが男性IS装着者としても扱われておらず、また代表候補生ではない千早は、完全に自分は蚊帳の外にいると思って油断していた。
 その為、まさかクラス代表決めに巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。
 千早にとっては青天の霹靂だった。

 だから、千早は立ち上がって訴えた。

「ちょっと待ってください!
 一夏もそうですが、僕もつい先日までISの参考書に触れた事すらないド素人なんですよ?
 年単位で軍事訓練を受けた、国家が威信をかけて育成した代表候補生に混じって何かを競うほどの実力はありません!!」
「辞退は却下だぞ、御門。」

 にべもなく千冬に斬って捨てられる千早。
 じゃあなんで「インフィニットストラトス」では「セシリア・オルコット」の辞退が認められたのだろう?
 そんな不満を抱きつつ、千早は席に座る。

 だが、千早の発言は続いた。

「ですが、辞退を認めなければ埒が明きませんよ。
 現在名前が上がっている人間は5人、クラス代表枠は1人だけ。
 何らかの方法で5人を1人に絞らなければなりません。」

 そこまで言った後、千早は少し考え込んで再度発言する。

「ですから、僕から提案があります。
 代表候補生のお三方の内、誰が一番強いのかを模擬戦で決めてもらいます。
 1対1が3回でも、バトルロイヤルが1回でも構いません。
 戦ってみて、一番強かった人がクラス代表になるべきだと思います。」
「却下しま~~す。」

 千早の提言は、のんびりとした口調で却下された。

「それだとおりむーとちーちゃんが自動的に除外されちゃってます。
 私は、今名前が挙がっている5人で優劣を決めたほうが良いと思いまーす。」
「あの、先程の僕の話聞いていましたか、本音さん。」

 千早がなおも食い下がり、代表候補生のみでクラス代表決めを行わせようと試みるが、

「……決まりだな。」

 千冬の鶴の一声で、千早と一夏もクラス代表選考戦に参加させられる事になってしまった。
 代表候補生達は、どちらかといえば千早の案の方が良かったという様子を見せていたが、ただ1人、ラウラのみは早速一夏を叩き潰すチャンスが来たと喜んでいた。

「だが、人数が人数だ。
 試合後の機体の修理もある。
 今日のうちから試合を始めてしまわねば、クラス対抗戦には間に合わんぞ。」
「まあ、そこはシンプルにグーとチーで分かれましょで良いんじゃないんでしょうか?
 丁度織斑君がいなくて、残り四人だけですから綺麗に分かれますよ。」

 と言う訳で、千早達は前に出てきて第一回戦第二回戦の組み合わせを決めることになった。

「ふん、あの男を始末する前に、奴の女である貴様を痛めつけるのも悪くは無いな。」
「あの、ラウラさん。
 僕は男だって自己紹介したはずですが。」

「御門さん、性能だけがIS戦闘の勝敗を決める決め手にはならない事を教えてあげるよ。」
「いや、それは知ってますから。多分、充分なくらいには。
 ……僕としては、男性でありながら代表候補生になれるほど長いことISについての訓練をしているっていう、貴女のプロフィールの方が気になるんですけどね。
 ねえ、シャルルさん。」
「っ!!」

「よりにもよってこのIS学園で男の恋人を作り、あまつさえ四六時中ともに過ごしているなどと破廉恥な真似をしているような方には、私、負けませんわよ。」
「……あの、僕の自己紹介…………」
「貴女が男だという妄言など、聞き入れる必要性を感じませんわ。」
「…………」
(今の彼女に「インフィニットストラトス」を読ませたら、どうなってしまうんだろう……
 見たいような見てみたくないような……)

 そして決まった組み合わせは……

・第一回戦 御門 千早 VS シャルル・デュノア
・第二回戦 セシリア・オルコット VS ラウラ・ボーデヴィッヒ

 そういうわけで、早速この日の放課後に、一夏と千早が生活しているアリーナでこの2回の模擬戦が行われる事になったのだった。












 ちなみに、一夏が2周グランドを走り終えた時、もうとっぷりと日が暮れて、既に11時を回ろうかという時間だった。
 その為、彼はこの日の午後のクラス活動には、一切ノータッチであり、クラス代表選考戦に知らないうちに組み込まれていた事に愕然とするのだった。


==FIN==

 代表候補生になったばかりに一夏に化け物呼ばわり(褒め言葉)されてしまう鈴と、クラス代表決めで一夏と関われない1組の代表候補生達。
 情け容赦ないハードモード具合です。

 初期の部分展開で悪く言われている事が多い鈴ですが、今回は流石に彼女に正義がありますw



[26613] ちーちゃんは代表候補生を強く想定しすぎたみたいです。
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/26 12:38
・第一回戦 御門 千早 VS シャルル・デュノア
・第二回戦 セシリア・オルコット VS ラウラ・ボーデヴィッヒ

 「インフィニットストラトス」とほぼ同程度の実力差があったためか、セシリアVSラウラは一方的な蹂躙劇となり、描写の必要がなかった。
 セシリアにとっては幸いな事に、ラウラにとって彼女を必要以上に痛めつける動機は無く、単純にシールドエネルギーを削り切られての敗北となった為、損傷は自己修復だけでも翌日には問題なくなる程度の軽度のものだった。

「わ、わたくしともあろうものが……」
「そーは言うがな、正直お前のブルーティアーズは実験機的要素が強すぎる。
 同格かそれ以上を相手にするのは辛いぞ。」
「……ハッキリ言いますわね織斑先生。」

 一方で、その前に行われた千早VSシャルルは白熱した内容となった。










===============










(……御門さんは僕の正体に気付いている。
 それに……)

 彼女、シャルル・デュノアはある使命を帯びている。

(銀華/白式のデータを奪取する事、か……
 その持ち主の2人に近づく為に男の子に偽装させられたけど、こうもあっさり見破られたら近寄りようが無いよね。)

 シャルルはため息をつくと、気持ちを切り替えた。
 千早はあんな事を言ってはいたが、時速900Kmというとんでもないスピードを物にしている強敵なのだ。
 他の事に気を取られていて勝てる相手ではなかった。









===============










 一方、千早もシャルル攻略法を考え中だった。
 代表候補生と多少の武術の心得がある素人。
 マトモにやっては勝ち目が無い。千早はそう考えていた。

「向こうは標準的なIS。大きな手と足を本物の手足に接続している物。
 こちらは僕と一夏だけの小型IS。篭手状の腕パーツとレガース状の足パーツからなり、生身の人間と変わらないスタイル。
 ……何とかして懐なり足元なりに入れば……腕の差はある程度カバーできるかな。」

 もっとも、元より彼には接近戦しかない。
 やるしかなかった。










===============










 アリーナの中央で向き合う銀華とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。
 ISなのでごつい手足を少女に取り付けた外見をしているラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに対して、銀華はプリンセスドレスのように優美な外見をしており、中身が可憐な少女と言う通常のIS以上に戦場には場違いな外見をしていた。
 しかしその優美さの中に、運動性と言う名の凶悪極まりない力が秘められている事を、シャルルは事前に知らされている。
 油断など出来ようはずがない。

 その間合いは15m。
 ISにとってはあまり大きな間合いとは言えず、まして銀華にとっては無きに等しい距離だった。

 装着者は千早の方が長身だったが、何しろ銀華や白式とそれ以外のISでは大きさが違いすぎる。

 銀華の場合、背中のアンロックユニットの翼のみが、ISのパーツとして相応しい大きさを維持し、それ以外が千早本人の身体の大きさに合わせて小さくなっている。

 その為、今は、長身の筈の千早の方がシャルルを見上げるような感じになっていた。
 当の2人には、それがそのまま自分達の力量差のようにも感じられた。

 2人は何も話さない。
 今日であったばかりである上に、こんな場所でなければ話せないような話題もなかったからだ。

 そして試合開始の瞬間。
 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは一瞬で出現したアサルトライフル2丁を発砲し、銀華の姿が一瞬で消え去った。

 と、次の瞬間にラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの手元にあったのはIS用の接近戦用ブレードであり、それがまた次の瞬間にはショットガンに化け、更に次の瞬間にはミサイルランチャーに化けて異常なスピードで飛び回る銀華にミサイルを発射する。
 その後もラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの武装は目まぐるしく変化し、しかしその攻撃が中断される事は無かった。
 攻撃しつつ、武装がいつの間にか変更されているのだ。
 それがシャルル・デュノアの高難度技、ラピット・スイッチだ。

「っ!!? な、何?
 今、何が起こったの!?」

 多くの生徒が一瞬の攻防を理解しきれず混乱する。
 辛うじて

「ふん、何がずぶの素人だ。
 あんな代物をあそこまで使いこなしておいてよくも言う。」
「あ、あんな機動で動けたり、対応できたりする奴が……代表候補生なのか!?」
「あー、でもちーちゃんは代表候補生じゃないよ。」

 代表候補生と本音、そしてかろうじて箒。
 生徒達の中で、彼女達だけが一瞬で何が起こったのかを把握できていた。


 模擬戦開始直後、静止状態からイグニッションブーストを使って瞬間的にとんでもない速度まで加速した銀華は、姿勢を低くし、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの足元に潜り込もうとする。
 最初はアサルトライフルを使用していたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは、足元に迫る銀華をカウンターで迎撃しようとブレードを展開して足元を切り払う。
 ブレードの展開に気付いた銀華は、その斬撃から逃れる為に軌道を曲げ、足元への侵入に失敗する。
 なおも背後に回り込もうとする銀華に対し、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは銀華に合わせて旋回しながらショトガンを発砲し、銀華を引き剥がす事に成功。

 その結果、距離が開いた所へラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが様々な武器を叩き込む。

 それがあの一瞬の攻防だった。

 その一方で、戦況は目まぐるしく変わる。

(御門さんの銀華、運動性特化型とは聞いていたけど……なんなの、このわけの分からない鋭角機動!!)
(時速900Kmオーバーでこれだけ動き回っているのに、こんなにも当てて来るなんて……さすが人間兵器、代表候補生……っ!!
 さっきのブレードの速さから考えても、関節の稼動速度なんかも人間やめてる領域みたいだし……僕や一夏みたいな民間人とは違いすぎるっ!!)

 戦っている本人達は、2人して相手の強さに舌を巻く。

 しかし、今のままでは銀華のシールドエネルギーが底を尽いて、シャルルの勝利となる。
 嵐のように襲い掛かってくる弾丸やミサイルが、少しずつではあるが銀華に命中してシールドエネルギーを削っているからだ。
 千早としてはこのままではジリ貧である。

(だから……そろそろ動く筈!!)

 千早の始めてのISでの戦闘は、白式を纏った一夏を関節技で葬り去ったというものだった、とシャルルは聞いている。
 ならば、千早は人体の構造をISの戦闘に反映させてくるはず。
 いくらISが360度の視界を持とうと、やはり正面の方が背面よりも攻撃し易いのだ。
 なので、シャルルは千早が自分に接近するのであれば、背後、頭上、足元といった腕の稼動範囲の死角になりやすい方向からの突撃と辺りをつけていた。
 そして……

(来た!! ドンピシャ!!)

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは斜め後方から襲ってくる銀華に急旋回して対応し、銀華の移動する先に自身の最強の武器、シールド付きパイルバンカー「グレースケール」の先を用意する。

(これでカウンター!!)

 だが、いくら代表候補生といっても、運動性特化の銀華にパイルバンカーを打ち込もうというのは、虫が良すぎる話だったらしい。
 千早は差し出されたパイルバンカーに沿うようにして、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの腕パーツの先にいるシャルルに接近していく。

 ISの構造上、このようにして人間大の小型ISに接近されては振り払う位しか抵抗しようが無い。
 しかも銀華は、現在稼動が確認されている全てのISの中で最速。
 とても振りほどける相手ではない。

 そして、シャルルが最後に目にしたのは、千早の美しい顔だった。










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 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのシールドエネルギーはまだ全然残っている。
 当たり前だ。
 銀華の攻撃は1発しか命中していないのだから。

 それでも、勝利したのは千早だった。

 理由は簡単。
 彼が衝撃砲を叩き込んだ箇所が、シャルルの顎だったからだ。

 ISは絶対的な防御力を持ってはいるものの、受けた攻撃の衝撃はある程度装着者に与えるようになっている。
 かくして千早の攻撃の衝撃はシャルルの顎にピンポイントで打ち込まれ、彼女を脳を揺さぶってその意識を刈り取ったのだ。

 銀華が小型ISだったからこその芸当だった。

「なんとか、勝てた……か。」

 千早はシャルルを助け起こして、彼女に敗北を宣告したのだった。

「あの、御門さん、僕は……」

 千早はプライベートチャンネルでシャルルに応える。

『貴女の正体については、後にしましょう。』
『……やっぱり、気付いていたんですか?』
『ちょっとした種があるんですけどね……それが無かったとしても、バレバレでしたよ。』

 そこでシャルルとの会話を打ち切った千早は、アリーナをセシリアとラウラに明け渡したのだった。










===============


 セシリアVSラウラが終わった後、翌日の試合が組まれた。
 最も損傷の激しい銀華は除外し、代わりに一夏の白式を補充する形だ。
 勿論、一夏は打鉄を身につけてランニング中であり、この試合組みには関与しない所か、試合の存在自体を知らない。

 一夏の代わりに千早が代表候補生達とグーとチーで分かれましょを行い

・第一回戦 セシリア VS 一夏
・第二回戦 ラウラ VS シャルル

という組み合わせが決定したのだった。




==FIN==






 戦闘描写でした。
 まー、あんな高速機動出来る奴が弱い筈が無く、まして千早ならなおの事という事で。
 本当はこんな時期に、ここまで代表候補生、しかもシャルル相手に戦えちゃいけないはずなんですがね……チート乙とか言われそう。
 でもおとボク主人公なんだから、チートは許して!!

 ……ダメ?



[26613] お忘れですか? 一夏のフラグ体質
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:0055e01a
Date: 2011/03/26 09:42
 入学式の翌日。
 1年1組で専用機同士が合い争うクラス代表選考戦が行われている事が、既に学校中に広まっていた。
 代表候補生が戦う様子が見られるとあって、希少価値でしかない男性IS装着者の事は既に半ば忘れ去られているようだった。

「落ち着いてくれたか。
 まーこっちの方が気楽だわな。」
「「インフィニットストラトス」では割かし長い期間凄かったらしいけど、そうならないですんで一先ずは安心か。」

 何がどの程度凄いのか。
 間違っても体験したくは無い千早と一夏だった。

「んで、俺も出んのかよ。
 思いっきり事後承諾じゃないか。」
「……それでもこの時の「インフィニットストラトス」の「織斑 一夏」に比べればマシな待遇だと思うよ。」
「どんな状況だったんだよ……主役補正の代償ってか?
 物語の主人公って奴は楽じゃねえのな。」

 と、そこへ2人の少女が言い争いながらやって来る。
 巨乳のポニーテールと貧乳のツインテール。箒と鈴音だ。
 一夏は妙な組み合わせだと思った。
 彼の知る限り、この二人に面識は無かった筈だからだ。

 一夏達の所へやって来た彼女達は、凄い剣幕で一夏に詰め寄る。

「「一夏!!」」
「な、何だよお前等!?」
「この女は何者だ!
 お前の幼馴染だとほざいているが、私は知らんぞ!!」
「こっちの箒っていう子こそ何者なのよ!!」

 2人とも、IS学園に入学するまで存在すら知らなかったお互いが、一夏の幼馴染である事に納得がいっていないらしい。

「……あのな、言っとくけど、お前等両方とも俺の幼馴染だぞ?」
「は?」「へ?」
「ほら、箒、お前子どもの頃に引っ越しただろ?
 その後、入れ替わりで鈴がやってきて、去年まで一緒だったんだよ。」

 一夏の説明に、それなら自分が会った事のない少女でも一夏の幼馴染であってもおかしくは無い、と納得する。

「ええと、話はそれだけか?」
「いや、もう一つお前に聞きたい事がある。
 そこの御門 千早という女は何者なんだ?」

 一夏は遂に来たかと思った。
 いつかはされるだろうと想定していた質問だったからだ。

「あー、コイツが男だっていう話よりも信じられない荒唐無稽な話になるぞ。
 多分正直に話しても信じられないと思う。」
「ほう、どんな話なんだ?」
「……俺が、いや「織斑 一夏」が主人公の「インフィニットストラトス」っていう小説がある世界から、束さんの手でこの世界に拉致されてきた異世界人だ。」
「……一夏、あんたあんな事させられたから疲れてるのよ。」

 この鈴音の反応は正常なものだろう。
 しかし、束を直接知っている人間の反応は違った。

「いや……あの女の、姉の行動パターンと能力から言って、その位はやりかねんな。」
「え゛?」
「少なくとも御門が男だという妄言よりは、はるかに信用できる話だ。」

 驚愕する鈴音の隣で、千早が女の子座りで座り込んで床に手をつけて落ち込んでしまう。

「まあ確かに御門さんが男って言うのよりは、御門さんが異世界人って言うほうが納得いくけどさ。」

 鈴音が千早に追い討ちをかける。

「そ、そんなに信じられないのか……僕が男だっていう事は…………」

 そんな風に落ち込む千早を余所に、箒が一夏に質問する。

「なあ一夏。
 何故、御門は拉致されなければならなかったんだ?」
「さあ?
 千冬姉の話じゃ、束さんはコイツを俺のライバルとしてあてがいたかったって言ってたみたいだけど。」
「ライバル?」
「ああ、束さんが言うには「インフィニットストラトス」には「織斑 一夏」とお互いに高めあうライバルが足りないんだと。
 周り中格上ばっかで、高め合うって関係が成り立ってないらしいんだ。」

 まあ、当然っちゃ当然だけどな。
 そう、一夏は続けた。

「た、たったそれだけの事で?」

 箒は唖然とする。
 昔から人の迷惑を顧みない姉ではあったが、そんな訳の分からない理由で人一人を拉致したのかと。

「……まあ何しろあの人だからな。
 「織斑 一夏」って奴はお話の主人公らしく素質にゃ死ぬほど恵まれていたらしいけど、そもそものスタートが遅すぎて結構続いている話の主人公なのに未だに誰よりも弱いんだと。
 んで、一緒になって競い合い高めあうライバルがいればその状況も多少はマシになる、って束さんは考えたらしいんだ。
 ……そんな話、現実の俺に当てはめるのもどうかと思うんだけどな。」
「そこで白羽の矢がたったのが御門さん……と。」
「……大変なんですよ。男の身で女子校に放り込まれるっていうのは。」

 千早が弱弱しい口調で訴える。

「いや、その物言い物凄い違和感あるから。」

 それを鈴音は斬って捨てた。

「でも今の話が本当だとすると、もしかして彼女があんたといつも一緒にいるのって、彼女があんた達姉弟の保護下にあるから?」
「まあ、そんなとこかな?
 俺達っつーよか、千冬姉だけど。」
「なら、お前と恋人同士という話も間違いか?」
「……俺としては、逆になんでそういう話になったのかが詳しく聞かせてもらいたいんだが。」

 その一夏の一言に、少女達は安堵のため息をつく。
 一夏争奪戦において、彼女は余りにも強敵過ぎる。
 戦線に参加していないのなら、それに越した事は無かった。

「話は変わるけどさ、今1組じゃ面白そうな事やってるみたいじゃない。
 ウチは代表候補生があたししかいなかったから、クラス代表がすんなり決まっちゃったけど。」
「……こっちも代表候補生がクラス代表になりゃあ良いと思うんだけどな。」
「……そーいやアンタ、代表候補生を妙な目で見てたっけ。」
「昨日のことは思い出させないでくれ。マジで地獄だったんだぞアレは。」

 一夏は昨日の制裁を思い出すだけで、ゲッソリしてしまう。

「乙女にあんな事いう奴には似合いの末路だったけどね。」
「……昨日のグランド2周の発端は私も聞いているぞ。
 いかに強い事が良い事とされるIS装着者に対して言った事とはいえ、お前年頃の娘に怪物は無いだろう怪物は。」
「……褒めたんだけどなあ……」
「言葉を選べ、言葉を。」

 箒はあきれ返った口調で言った。

「全くアンタって。
 そんな様子じゃ、あたしとの約束も忘れてるんじゃないの?」
「え?
 ええと、お前との約束って酢豚を作る腕が上がったら、毎日酢豚をおごってくれるっていうアレか?」

 その一言に鈴音は凍り付き、箒はその真相を瞬時に察する。
 恐らく鈴音は「毎日お味噌汁」と同じノリの告白として、毎日一夏に酢豚を作ると言ったのだろう。
 それがこう返されては報われなかった。
 その箒の洞察は正確な洞察だった。
 だが。

「そ、そうよね。あんたそういう奴だったわよね……」

 鈴音は気持ちを切り替えた。
 一夏にこの告白が通じる位であれば、彼は今頃何股かけているか分からない。
 それが、未だに彼女がいないという事は、彼女の告白が通じるわけが無いのだ。
 昨年まで一緒だった鈴音は、一夏の生態を学校の誰よりも把握していた。

 そのあたりの事情は大体理解できる。出来てしまっている。
 だが、感情では到底納得のいくものではなかった。

「ど、どうしたんだ、鈴?」
「なんでもないわよ。
 あんたがどういう奴だったのかって、思い出してただけだから。」

 血の涙でも流しそうな様子で、鈴音は一夏に返答した。

 何故かは知らないが、鈴音が落ち込んでしまっているらしい。
 そう察した一夏はこう言った。

「なあ鈴。昨日の分の模擬戦じゃどのISも損害が軽微で、今日もクラス代表選考戦をやるんだってよ。
 今日は俺も出るから応援しに来てくれないか?」
「ふぇ? い、良いわよ。応援に行ってあげるから。」

 どうせ、元より見に行くつもりだったのだ。

「まあ俺と千早じゃ千早の方が強いから、昨日の方が見ごたえがあったと思うけどな。」
「良いの良いの。あたしはあんたを応援しに行くんだから。」

 と、そこで箒が一夏の耳を引っ張る。

「いて、何すんだよ箒。」
「鼻の下が伸びているんじゃないのか、一夏。」


 そうして始まるラブコメ展開。
 千早は男として羨ましいような、そうでないような気持ちを抱きながらそれを眺めていた。











===============










 そして放課後。
 学校中から専用機同士の戦いを見学するべく、多くの生徒が集まっていた。
 1組の人間しかいなかった昨日とは偉い違いだ。

 一夏は思う。
 なんだか場違いな晴れの舞台のような気もするが。
 男がどうの、何時も恋人と一緒にいて破廉恥だのとのたまっている目の前の金髪は、どれほど格上だろうとぶちのめさなければならなかった。

 性別など生まれた時に勝手に決まる物。
 そんな自分で決められない範囲の物事で、そこまで貶められたら堪らない。

 それに貶められている事には腹は立つが、感慨は無い。
 彼女はとりわけ酷い部類ではあるが、彼女の同類にはこれまでにも何度か出会った事がある。
 不快な記憶ではあるが、多少は慣れた。

 個人的には姉や箒、鈴音や弾などの親しい人間を糾弾されるほうが、男だからと蔑まれるより腹が立つ性分だ。
 その一夏にとって、彼女の、セシリア・オルコットの物言いなど、安い挑発に過ぎない。

 千早と一緒にいることが、恋人同士のいちゃつきと思われる事も心外だった。
 一応、一夏は千早を男性と認識しているのだ。

「まったく、さっきから聞いてりゃ男だから弱い?
 素人だから弱いんだよ、俺は。
 アンタと俺の差は男と女の差じゃない、熟練者と素人の差だ。」
「あなたが素人なのも、あなたが男だからではなくて?
 所詮は、IS装着者たれと英才教育を受けられる女と、ほとんどがISを動かす事も出来ず、動かせる者も経験不足で常に女より弱い男では勝負にもなりませんわ。」

 この台詞を聞いた時、一夏はある決意をする。
 ああ、俺は「織斑 一夏」みたいに長々と最弱の座にいちゃいけないな、と。
 何故ならば「織斑 一夏」こそは、最強の才能を持ちながら経験値不足のせいで最弱になっている「織斑 一夏」こそは、まさに今セシリアが言った経験不足で常に女より弱い男そのものだったからだ。
 だから一夏がいかに才能で「織斑 一夏」に負けていようとも、彼のようにはなってはならなかった。
 一刻も早く「織斑 一夏」よりも、そして彼よりも強い代表候補生達のうち、さしあたっては最も弱い者よりも強くならねばならない。
 幸い、そのための味方として、千早がいてくれる。心強かった。

 それに男が女より弱いという前提は、既に一夏の中で崩れている。
 男性でありながら代表候補生であるシャルルと、そのシャルルを打ち倒した千早がいるからだ。
 後は、自分が目の前の女を倒すだけだった。

「国家の代表の座を目指す代表候補生様の割に良く回る口だ。
 そんな大物だったら、もっとドッシリ構えろよ。
 そして、そんなに強いだ弱いだってのも口で言うもんじゃないぜ。
 黙って俺が弱っちい男でお前がお強い女だって事、証明してみせろよ。」
「そうさせて頂きますわ。」

 それが試合開始の合図だった。










===============










 セシリアが何故か銃口を横に、あさっての方向に向けた状態でレーザーライフル・スターライトmkⅢを出現させ、銃口を一夏に向けようとしたその時には、一夏の刺突がセシリアの目前に迫っていた。
 一夏がレーザーライフルの出現位置を察し、改めて銃口を一夏へ向けるまでを付け入るのに充分な隙と判断し、突っ込んだ為だった。

「っ!!!」

 セシリアは首をずらして切っ先を避けるが、次の瞬間、その刃は進行方向を変えて彼女の首に襲い掛かる。
 その斬撃によって、ブルーティアーズは一気に弾き飛ばされるように飛んでいった。
 白式のIS離れした小さな体躯からは想像も出来ない強力な馬力と、少しでもダメージを軽減させようと身体を引くブルーティアーズの機動が合わった為だ。

 首を襲った激痛に耐えながらシールドエネルギー残量を確認するセシリアはギョッとした。
 たった一撃でシールドエネルギーがほとんど持っていかれていたのだ。
 いくら当たり所が悪かったからといっても、白式が手にしている刃渡り2mほどの刀が、ただのIS用ブレードでない事は明白だった。

 一夏を単なるザコから倒すべき敵と認識する為の授業料としては、いささか高すぎた。

「くっ、いきなさい! ブルーティアーズ!!」

 セシリアは機体名の由来となった特殊兵装・ブルーティアーズを射出する。
 浮遊砲台であるブルーティアーズによる多角攻撃ならば、銀華ほどではなくとも高速がウリの白式の動きも封じる事が出来るだろうという目算だった。

 一夏の動きは早いが、動く速度はその最高速である850Km近辺ばかり。
 銀華のような異常な鋭角機動をする事もなく、中身の一夏は所詮素人である為、代表候補生であるセシリアならばその動きを読むことは不可能ではない。
 よってセシリアが一夏にレーザーを当てる事は困難ではあったが出来ない相談ではなかった。
 何しろレーザー。弾速が光速なのだ。
 引き金を引いた瞬間、銃口の先に一夏がいさえすれば、すなわち照準が合いさえすれば一夏に避ける術はない。
 それでもカス当たりが多いのが気になったが、カス当たりでもシールドエネルギーは削れている筈だった。

(突然の事で泡を食ってしまいましたが、このまま距離を詰めさせなければ勝てますわね。)

 しかし、その余裕も次第に消える。
 一夏の動きに緩急が生まれ、狙い辛くなっただけではない。
 明らかにセシリアが攻撃しようと思った瞬間に突然白式の進行方向が変わり、照準から外れてしまう事が多くなったのだ。

「何がっ!!」
「いくら中身が代表候補生なんて化け物じみた代物でも、機体の方がこんな欠陥品なら俺の勝ちだ!!」
「わたくしのブルーティアーズを愚弄するつもりですか!
 欠陥品は接近戦しかできないあなたの方でしょう!!」
「コツさえ掴めば発砲のタイミングが分かっちまう射撃武装よりかはマシだろ!!」

 セシリアは、今なんと言われたのかが分からなかった。
 その一瞬の動揺を衝かれて、白式に距離を詰められてしまう。

「くっ!!」

 セシリアは手元に残しておいた2機のミサイル搭載型ブルーティアーズからのミサイルで、白式を迎撃しようとする。
 今まで速くはあっても直線的なレーザーばかりを相手にしていた所へミサイルを撃ち込まれれば多少は泡を食う筈だった。

 だが、一夏は時速900Kmオーバーを叩き出し、悪夢じみた鋭角機動を行う最速のISと共に訓練に明け暮れた身。
 ブルーティアーズに搭載できるたかが知れた量のミサイルに対応できない筈も無い。

 ミサイルは避けられ、あるいは……

「なっ!!」

 白式がブルーティアーズの陰に隠れ、ブルーティアーズを盾にする事で防がれる。
 自ら放ったミサイルに体勢を崩されるブルーティアーズ。
 その隙を一夏が逃す筈もなかった。

「ブルーティアーズ、シールド残量0。
 勝者、白式。」










「なんで、こんな……」

 そう呟くセシリアに、プライベートチャンネルで一夏が話しかける。

『あんたのビットな、あれ動かしてる時、あんた自身の動きが止まってただろ。
 相手が接近戦しか出来ない俺だから良かったようなものの、あれじゃ射撃武器持ってる奴には七面鳥撃ちしてくれって言ってるようなもんだぜ。
 それとレーザーライフル。いくらなんでも白式みたいな高速機相手にあんなデカブツ、中身がド素人の俺でも当てるのは難儀しただろ?
 もうちょっと装備を考え直してもらうんだな。』
『……アドバイス痛み入りますわ。』

(さて、何とか勝てたけど、今回は最初の奇襲がでかかったな。
 アレが無ければ多分……)

 自分は負けていた。
 そう思う一夏であった。











===============











 機体性能が物を言った一夏VSセシリアとは打って変わり、シャルルVSラウラは中身が技量の限りを尽くす名人戦となった。
 シャルルは遠距離でのラウラの攻撃手段がレールガンのみと判断して、距離を保ちながら射撃。
 そのシャルルにラウラが追いすがるという展開である。

「あれ、昨日あんなに速かった御門さんに当てていたシャルルさんが、大分外してますね。
 ラウラさんはあんなデタラメな速さじゃないのに。」
「ああ、あの2人は相手の照準をひきつけて避けているんだ。
 相手が発砲するその直前に合わせて回避行動を取る事で、弾丸を避ける。
 それができてこその代表候補生。
 だから、連中の回避能力が、銀華を持つ御門とさして変わらんのも当たり前なんだ。
 逆に御門のように速さに任せて照準を振り切るのは、ISでの戦闘では限界がある。
 ……まあ銀華はその限界を突破しかねない代物だがな。」

 そう千冬は生徒に説明する。

「つまり、相手の射撃のタイミングを見切ることが重要と?」
「まあ、弾丸を出しっぱなしにするガトリングガンやアサルトライフルもあるから、一概には言えんがな。」

 ちなみに弾丸をばら撒くそういった系統の火器には、銀華のように高速で飛び回るのが最善である。

 シャルルVSラウラは結局ラウラの勝利となった。
 相手の動きを封じられるAICの存在はやはり大きかったらしい。

 AICの範囲に入るまいと逃げ回っていたシャルルではあったが、狭いアリーナの中では早々逃げ続ける事も出来ず、追い詰められての敗退となった。











===============








 今回は昨日と異なり、どの機体も損傷具合が大きい為、次の試合は来週に回される事になった。
 そして組み合わせは……

・第一回戦 シャルル VS セシリア
・第二回戦 一夏 VS 千早

 と決まったのだった。








==FIN==

 一応、一夏の方もちーちゃんと渡り合えるくらい強い為、セシリアには普通に勝てちゃいました。
 うん、やっぱちょっと強くしすぎたような。

 本人は勝てた理由はビギナーズラックだと思っています。
 そして次回のクラス代表選考戦は、主人公対決となります。


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