■【主張】教科書検定審委員 ふさわしくない一坪地主
中学歴史教科書の検定を行った文部科学省の教科用図書検定調査審議会委員の中に、沖縄の米軍基地に反対する一坪反戦地主が含まれていることが分かった。文科省は事実関係をきちんと調査すべきである。
問題の委員は、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の天児慧(あまこさとし)教授だ。天児氏は「琉球大(助教授)在職中に親しい人から一坪反戦地主会に入るよう頼まれ、断れなかった。十年以上前から脱会を申し入れているが、許可されない」と話し、現在は日米安保条約の役割も否定しないとしている。
しかし、沖縄の一坪地主運動は反米思想が色濃い政治運動であり、今もその一員である学者が公正であるべき検定審委員を務めていることは、好ましくない。一坪地主であることを文科省に知らせず委員を引き受けた天児氏の対応は問題である。
検定審は、文科省に検定申請された複数の教科書(白表紙本)の内容を調べ、学習指導要領に沿って検定意見をつける文部科学相の諮問機関である。それだけにバランスのとれた歴史観や教育観が求められる。天児氏の職歴などを十分に調べず、委員に任命した文科省の人選も甘かったといえる。
天児氏は、新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の教科書を検証した朝日新聞の六日付特集記事に登場し、扶桑社の歴史教科書を「太平洋戦争の目的として『アジアの解放』の側面が強調されすぎ」などと批判した。朝日は天児氏の肩書を「早稲田大学教授(アジア政治史)」とし、検定審委員の肩書を伏せ、「歴史の全体像、説明弱い」という見出しで報じた。
天児氏は朝日の取材に対し、自分が検定審委員であることを告げている。その事実を知りながら、第三者の学者の見解であるかのように報じた朝日の記事は、著しくモラルに反する。
扶桑社の教科書は天児氏も含めた検定審の検定をパスしている。自分たちが合格させた教科書を批判するような発言は、検定審委員として慎むべきだろう。教科書採択に向け、検定合格した複数の教科書を読み比べようとしている各地の教育委員にも、先入観を与えかねない。天児氏の発言も、軽率のそしりを免れない。