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東日本大震災:福島第1原発事故 放射能漏れ 賠償、国負担も 地元損害、巨額に

 ◇東電単独でまかなえず

 東京電力福島第1原発の放射性物質漏えい事故で、周辺地域の企業や農家などから被害の賠償を求める声が強まっている。賠償責任は東京電力が負うが、巨額とみられる賠償に加え、発電所の復旧などにも多額の費用が必要。東電は金融機関に最大2兆円規模の緊急融資を要請するなど資金繰りは苦しい。政府は支援も検討するが、東電の財務が大幅に悪化するのは避けられず、賠償交渉の長期化も予想される。【山本明彦】

 原発事故の賠償制度を定めた原子力損害賠償法によると、原発を持つ電力会社は、事故に備えて国や保険会社と補償・保険契約を結び、1発電所(福島第1原発の場合、1~6号機全体)につき最大1200億円まで対応。それ以上は電力会社が独自でまかなうか、負担しきれない場合は国が電力会社への補助金などで支援する。

 「異常に巨大な天災や社会的動乱」が原因の場合は、例外規定として電力会社の代わりに国が賠償するが、政府は「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)と例外規定は適用しない方針。枝野幸男官房長官も21日の会見で「まずは東電が責任を持つ。十分に補償できない場合は国が担保する」と説明。東電も同日の会見で「国と相談しながら誠実に対応する」(藤本孝副社長)と述べた。

 99年に茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で起きた臨界事故のケースでは、風評被害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など約8000件の補償・賠償が事業者側に請求され、交渉終結まで10年8カ月かかる長丁場となった。同事故では約154億円が支払われたが、放射性物質が広範囲に漏れたと見られる今回の事故では「農作物などの損害額が1兆円を超える可能性がある」との見方が出ており、東電だけでの対応には限界がある。

 政府、東電とも足元は事故対応に手いっぱいで、具体的な賠償スキームの議論は進んでいない。

 交渉が長引けば、被害を受けた企業や農家の負担は一段と重くなるため、政府が一定の役割を果たす必要性が高まっている。

 一方、原発を持つ電力会社は、事故対応の行方を注目している。電力会社には「原子力は国策で進めてきた。東電の負担が過大だと、民間会社としては大きなリスクを負う原子力の推進に協力できにくくなる」(大手電力幹部)と、公的負担による対応が不可欠との見方も根強い。

毎日新聞 2011年3月24日 東京朝刊

 

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