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2011年3月26日(土)付

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作業員被曝―放射線と闘う人の安全を

原発事故の最前線で働く人たちの安全を確保しなくてはならない。東京電力の福島第一原子力発電所で作業していた3人が、大量の放射線を浴び、病院に運ばれた。強い放射能を帯びた水[記事全文]

被災者支援―情報をくまなく届けたい

東日本大震災から半月がすぎ、犠牲者は1万人を超えた。2万人近い人々の安否がなお分からない。まさに戦後最悪の自然災害である。春とは思えぬ底冷えのなか、25万人の被災者が各[記事全文]

作業員被曝―放射線と闘う人の安全を

 原発事故の最前線で働く人たちの安全を確保しなくてはならない。

 東京電力の福島第一原子力発電所で作業していた3人が、大量の放射線を浴び、病院に運ばれた。強い放射能を帯びた水につかりながら作業した。放射線によるやけどを足に負った恐れがある。

 第一原発1〜4号機の状況はいずれも予断を許さない。このすべてで原子炉や核燃料プールの冷却を復活させ、安定させなければならない。

 そのためには放射線レベルの高い場所での作業が山のように待っている。うまくいっても1カ月はかかるとの見通しもある。長期化は避けられない。

 現場では、技術に応じて様々な所属の人が働いている。原発の制御を取り戻すためには、危険を限定して働ける仕組みが必要だ。

 3人は、3号機の原子炉の建屋に隣接する発電用タービンがある建物の地下で、ケーブルをつなぐ作業をしていた。前日まで地下室は水たまり程度で放射能レベルも低かったため、うち2人は短靴で入ったという。

 足の被曝(ひばく)は2〜6シーベルト。緊急作業時に皮膚に受けてもいい限度(1シーベルト)を大きく超えていた。上半身につけた放射線量計でも、被曝線量は約180ミリシーベルトと、上限の250ミリシーベルトに近かった。

 地下室の水の放射能レベルを調べたところ、ふだん原子炉の中を循環している冷却水の1万倍にも達していた。事態の深刻さがわかる。しかも状況は刻々と変わる。

 その作業環境の厳しさに驚くとともに、そこで働く人たちに原子炉の安全を託さざるを得ない状況に胸がつまる思いだ。

 残念なのは、この現場には放射線量を見張る管理員がいなかったことだ。放射能レベルの高い現場では、短い時間で交代しながらの作業になる。線量の監視を怠ってはならない。東電は万全を期してほしい。

 これから原発を安定させるまでの長い期間に向けて、十分な態勢で作業ができる人員の確保が大切になる。そのために原子力安全・保安院の果たす役割は大きい。必要ならば他の電力会社やメーカーからさらに応援を求めることもふくめ、政府として最大限の支援を集める必要がある。

 第一原発ではいま、東電や関連会社などの約700人が作業している。地元出身の人も多く、津波で家を流されたり、行方不明の家族を案じたりしながら働き続け、疲労も限界という。睡眠は椅子に座ったまま1〜2時間、という人もいるそうだ。

 国家的危機の現場で奮闘する人たちのために、原子力産業や安全確保の専門家、医療部門はもとより、政府、民間をあげて支える態勢を作りたい。

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被災者支援―情報をくまなく届けたい

 東日本大震災から半月がすぎ、犠牲者は1万人を超えた。2万人近い人々の安否がなお分からない。まさに戦後最悪の自然災害である。

 春とは思えぬ底冷えのなか、25万人の被災者が各地で避難生活を送っている。そのうち3万人は住み慣れた土地を離れ、県外に移った。

 原発事故の影響で役所ごと住民が県外に避難した自治体もある。

 岩手県陸前高田市で大津波に襲われた伊藤信平さん(75)夫妻は、長男の住まいに近い兵庫県三田市の市営住宅で暮らしはじめた。

 町内会長もつとめた伊藤さんは後ろ髪を引かれる思いだ。「落ち着いたら戻りたい。でも陸前高田から生活支援の情報は届くだろうか」

 遠隔地に移った多くの被災者が、こうした不安な思いを抱いている。

 阪神大震災では、兵庫県外に移り住んだ人に仮設住宅の募集や災害援助金などの情報が届かず、もとの地域に戻れなかった例も少なくない。

 生活を立て直す時に、避難した場所や状況の違いで格差が生じないようにしたい。自治体は被災者の避難先などをいち早くつかみ、支援情報がもれなく届く仕組みをつくる必要がある。

 兵庫県西宮市が開発した支援システムが活用できる。住民基本台帳をもとに、一人ひとりの被災時やけがの状況、避難先、学校名などの情報を一括して登録する。

 「被災者台帳」ともいえるこのソフトは、生活再建に欠かせない罹災(りさい)証明書の発行や義援金の交付などに役立つ。財団法人・地方自治情報センターのサイトから入手できる。

 岩手、宮城両県は震災後、被災情報の整理に住基ネットを使えるよう県条例を改正した。住民基本台帳を管理するサーバーが流されても、住所氏名といった住基ネットの情報に避難先など必要なデータを加えることができる。

 だが実際には、行政機能がマヒした被災自治体はシステム整備に手が回らないだろう。被災地外の自治体や企業、ボランティアの応援が欲しい。

 避難してきた人を受け入れた自治体が、被災自治体に代わって情報を届ける方法も考えたい。

 神戸市が今回始めた避難者登録制度は参考になる。市営住宅の入居者を登録し、被災自治体と連絡をとりながら、郵便などで情報を届ける。親類宅などに身を寄せる人は自ら登録に足を運んでもらう。

 被災地を離れて暮らす人はこれからも増えるだろう。原発事故もあり、避難の長期化を覚悟しなければならないかもしれない。

 住み慣れた地域とつながっている。そう実感できれば生活を再建する気持ちも強くなる。心の通った暮らしができるよう環境を整えたい。

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