40キロ離れた飯館村でチェルノブイリ避難地域の6倍の放射能汚染
いつもなら桜の開花に心を寄せる季節だが、今年はそれがテレビ報道の話題にならない。駅も電車の中も節電のために薄暗く、戦時下のように風景が変わり、われわれの生活が変わった。今日(3/25)の朝日の1面には、「福島第一、レベル6相当」と見出しが出ている。保安院が3/18に発表したレベル5が引き上げられ、スリーマイル島を上回る事故規模が確定的となった。これは、朝日が政府高官（おそらく仙谷由人）からリークを受けて先出しする告知情報だ。レベルを引き上げる根拠あるいは契機となったのは、外国の関係機関による放射能推定の情報だろう。3/23には、オーストリアの研究所が福島第一原発から放出された放射性物質の量を試算して、事故後3-4日のヨウ素131の放出量はチェルノブイリの10日間の約20％、セシウム137の放出量は同じく約50％と推計している。きわめて多い。しかも、福島の場合は、2週間経った今でも放射性物質の漏出が続いている。政府や報道は、福島の事故について「チェルノブイリとは違う」と強調し、炉心爆発の有無や原子炉構造の差異を論い、今回の事故の規模を小さく印象づけようとしてきたが、内部に格納されている核燃料の量が福島はチェルノブイリの10倍もあると言われ、また、チェルノブイリでは1基だけの事故だったのに対して、福島では同時に4基で火災が起きている。チェルノブイリは爆発によって短期に放射能を拡散させたが、福島は時間をかけてゆっくりと漏出と汚染を続けている。
現在のレベル6の診断と評価は、今後の推移によって、チェルノブイリと同じレベル7に引き上げられるだろう。政府と報道は、事故の当初、チェルノブイリと福島との違いを説明の急所にして、チェルノブイリに較べれば福島の方は被害が小さく安心だという詭弁を弄してきた。ところが、この2日ほどは詐術の論法が逆になり、チェルノブイリではセシウム137で癌を発症した事例が報告されていないなどと言い出し、まるで、セシウム137が何も人体に影響を与えない物質であるかのような暴論を言っている。その論外なデマを放射線医学の専門家がテレビでしたり顔で撒いている。このような日本の原発事故報道を見て、欧州の市民や専門家はどういう感想を持つだろう。広島で原爆が投下された後、いわゆる「黒い雨」が降り、急性の放射線障害によって多くの人命が失われ、その後も原爆症の後遺症に苦しむ人々を残したが、その「黒い雨」に含まれていた放射性物質とは、まさしくセシウム137だったのではなかったのか。チェルノブイリの事故は1986年で、ソ連崩壊の5年前である。事故から10年以上、現地は政治の混乱が続き、まともに医療的な検査と支援の活動が行われる行政の余裕があったとは思えない。ソ連崩壊後は新国家が誕生し、むしろ過去の事故に対して冷淡で無責任になった感がある。それと、報道に出る専門家は言わないが、チェルノブイリの所在はウクライナだが、北の白ロシアとの国境の位置にあり、汚染被害はウクライナよりベラルーシの方が大きかった。
被害を追跡調査し、被害者を救済するという面において、チェルノブイリ事故では国家の行政責任が曖昧で不全になった。今回、レベル6への引き上げと同時に、政府は20-30キロ圏内の「屋内退避」を「避難勧告」に切り換えるだろう。チェルノブイリの事故のときが、やはり30キロ圏からの強制避難だった。事故がチェルノブイリ級であることの国内外への宣言となる。この件は、昨日（3/24）の与野党の震災対策合同会議で議題となり、ほぼ合意事項のようになっている。具体的には南相馬の避難対策である。ただし、仮に30キロ圏全体を避難地域に指定すると、それでは31キロ離れれば安全かという問題になる。こうした場合は、常に「屋内退避」という緩衝的なゾーニング、すなわちグレーゾーンの設定が必要で、避難地域を30キロ圏内に定めれば、必然的に30-40キロ圏が屋内退避となり、言わば、次の避難に向けてのウェイティングサークルの順番となるだろう。そうすると、現実のオペレーションとしては、いわき市への対策が課題となる。屋内退避の40キロ半径がいわき市の北部に及び、南相馬市と同じ問題が再現するからだ。南相馬市の人口は7万人、いわき市は34万人。5倍の規模のオペレーションになる。病院や自宅で寝たきりの高齢者も多いし、介護施設の数や収容人数も桁違いだろう。34万人の収容先を探し、入院患者を移す先を見つけなくてはならない。また、30-40キロが屋内退避指定されれば、当然、次は50キロ圏かとなり、郡山市や福島市が身構える段階へと進む。
福島県の中心である中通り地方に避難準備をさせるフェーズとなる。会津を残して、福島県全体が空洞状態になる。マスコミ報道が出す放射線測定値を見ていると、距離の割に福島市の値が異常に高い点に気づく。これは、原発の北西に位置する飯館村の土壌と水道の放射能汚染が特に深刻である事実と符合する。半径50キロの郡山市に避難指示が出る頃は、半径60キロの福島市も一緒に動く事態になり、一県の行政が丸ごと県外に移転する（亡命県庁政府）という前代未聞の出来事になるだろう。原発事故に関する政府の発表と報道の解説は、どれも滅茶苦茶で、非科学的な牽強付会で「ただちに健康に影響の出るレベルではない」の刷り込み工作に徹している。専門分野の権威たちが、「まだ大丈夫」の恐ろしい神話を布教し、都合の悪い事実を指摘せず、国民を騙している。最も大事なことは、事故を起こした第一原発が、現在もなお、微弱な程度であれ、原子炉と燃料貯蔵プールで核分裂反応を不気味に続け、熱と共に放射性物質を生成し放散させているという事実である。だから、放射線量の測定値が減少しない。テレビの報道と解説は、発熱や発煙が続発する現象について、核燃料の反応（核分裂・核崩壊）との因果関係で説明しようとしない。「原子炉は停止している」で済ませている。この場合の原子炉の停止とは、単に制御棒を挿入して人工的な核分裂を止めただけで、反応が自然続生する問題について口を拭っている。「暴走」とか「制御不能」の点では、基本的にチェルノブイリと同じだ。
結論から言えば、原発と放射能の問題については、一刻も早く西へ脱出するということが一般個人にとって最も正しい生き残りの選択であるはずで、避難したくてもできない状況になる前に決断して動くか、覚悟をして首都圏に残るかのどちらかだろう。政府はパニックが起きないように情報を管理統制し、放水作業で危機の進行を緩慢にしている。別の角度から見れば、東から脱出する者に時間の猶予を与えている。原発事故の災害というのは、つまるところ人智の及ばない問題で、こう対策すれば万事うまく行くという方策が出せない。後藤政志の説明では、原子炉を石棺にするにも、冷却して燃料が溶けさないようにする必要があり、つまり、冷却措置が先行して必須なのである。現在、政府が対処している方法以外に、特に他から別の有効な提案が上がっている情報はなく、すなわち、放水と注水による手作業冷却と冷却水循環のためのポンプ設備の復旧しか現時点の対策はない。それがいつまで続くか不明だが、その間、炉内と使用済み核燃料プールでは、発熱と核反応が鎮静せず不定期に不計測的に持続し、3号機かと思えば2号機、2号機と思えば4号機、炉心と思えば貯蔵プールという具合に異常が日々起こり、放射性物質を飛散し続けるということになる。この状況は、何となく人間の身体の障害と発症に似ている。応急手当をしつつ、診断と治療を試行錯誤しつつ、手の施しようがないという状態である。予想できることは、注水作業がずっと続くだろうということと、放射能汚染が広がるだろうということだ。
政府は、「安定した状態が続いている」と気休めを言っているが、放射性物質の漏出と放散は続いていて、2週間分が地面や河川に降ったために、野菜や水道水から基準値を超える濃度が検出される結果となった。毒の量は増えている、減ってもいないし、同じでもない。関東平野の大気と地表と河川の放射能汚染は度を増し続けている。次に問題になるのは、茨城・栃木の牛乳だろうが、特に栃木は全国第2位の牛乳生産基地で、これを出荷停止にすると、生産者だけでなく加工業者や首都圏の消費者が大打撃を受ける。農家への補償の金額もある。それから、牛乳の次に予想されるのは鶏卵で、やはり茨城と千葉の生産が多い。これまた、おそらく福島あたりから、安全基準値を超えたという発表が出るのではないか。そして、政府は福島以南については当面は出荷制限をかけず、飲料水と同じく基準値を上げる手法で対応し、業者と市場に調節させる形で凌ごうとすると思われる。今、安全な西の地方から入って来る野菜は、首都圏のスーパーで値上がりしているのである。屋内退避の指定範囲を40キロ圏に拡大する判断は、政治的に、この農産物と農家補償の問題と直接関わる。茨城・栃木・千葉の農産物が市場から消える事態に、政府が責任を持って対処しなくてははならない。想像すれば、財務省を中心とする官僚が反対して、政治家たちに抵抗しているのだろう。さらに、野菜・牛乳・鶏卵の次は、魚介類から基準値を超えるヨウ素131が検出されるだろう。東京湾か銚子港か。これは、海外の方から先に報道が出る可能性もある。
金町や松戸の浄水場から放射性ヨウ素が出たのなら、同じ利根川水系である埼玉や茨城の浄水場から危険な濃度が検出されるのは当然だ。報道には出ないが、この水系には多くの大手の食品飲料メーカーの工場がある。サントリー、アサヒビール、キリンビール、ヤクルト、キューピー、キッコーマン、明治乳業、森永乳業、コカコーラ、山崎製パンなど。首都圏は利根川に生かされている。水道水は家庭の生活飲料用だけではなく、加工食品の原料水として使用されている。コンビニやスーパーに並ぶ調理食材にも、おにぎりの炊飯にも、パンの生地にも。外食店の厨房で作られる全ての料理にも。水中に含まれた放射性物質は、除去することも濾過することもできない。口から摂取してしまえば、そのまま体内に蓄積されて被曝するだけだ。防ぐ手段がない。政府の言う「安定した状態」が今後も続けば、遠くない時期に、関東地方では何も口に入れられない破局が訪れる。チェルノブイリとの比較で言えば、爆発して放射性物質を一気に空に吹っ飛ばしたチェルノブイリの方が、冷却化の手間をかける必要がなく、コンクリートで石棺にする条件を早く作り出せ、福島と較べてトラブルシュートが早くできたと、そんな見方が可能ではないか。飯館村は原発から40キロ離れているが、3/20の測定で土壌1ｋｇから16万3千ベクレルのセシウムが確認されている。この量は、1平方メートルに換算すると326万ベクレルになると言う。甚大な被害を出したチェルノブイリでは、1平方メートル当たり55万ベクレルを検出した地域の住民は強制移住の対象となった。40キロ離れた飯館村でさえ、チェルノブイリの避難地域の6倍の放射能汚染なのである。飯館村の避難は待ったなしだ。風向きが一定方向でない以上、半径40キロ地域の避難は必至で、来週にも実施に移されるだろう。
