原子力伝説
トラウマ無名歌手のある記録
ここに一枚のレコードがある。少し前に蒲田の中古屋で買ったのだが、聴けないでいる。
なぜなら、聴くと何かが起こりそうな気がして怖いのだ。
このレコードを買った直後に東海村のあの事故である。
あるひとりの無名歌手に呪われているのかもしれない。いや、きっとそうだ。
その歌手とは原子力(はらこつとむ)。
青森県出身。本名が原子春男。A面が「貴男が命」B面が「大阪の女」。
ジャケットにグレイの背広に黒のタートルネックで微笑むパンチパーマ男。
どうみてもヤングヤ○ザか、近鉄バッファローズの選手にしかみえない。
私は彼の歌を聴いたことがない。でも一度だけ見たことがあるのだ。
いまから20年ほど前、日本テレビの「紅白歌のベストテン」の特番。
その年にデビューした歌手が50組くらいアイウエオ順に登場し、レコード盤のような回転舞台に乗って登場してくる。あらかじめレコード店に設置されたアンケート結果と当日の電話によってステージ中央の電光掲示板に500点以上の点数がでた歌手だけが歌うことができるという、見かたによってはとても残酷なシステムだった。
その年は新人の豊作年。まず岩崎良美が登場しらくらくクリア。ゆうゆう500点を超え、番組史上で最高得点だとマチャアキが叫ぶ。笑顔で歌う「涼風」。河合奈保子、柏原よしえなども余裕の笑顔でクリア。当然である。もうこの番組ではおなじみの顔なのだ。
その陰で100点台で消えてゆく見たこともない演歌歌手の人たち。全国ネットのこの番組のためにスーツやキモノもきっと新調しただろうに..。
そして「哀愁でいと」をひっさげ田原俊彦登場。渋谷公会堂は割れんばかりの歓声。岩崎良美よりさらに高い点数にとびはねる田原。乱れ飛ぶ黄色い声。
そしてCMあけ。すっかり静かになった会場。回転盤にはその男が乗っていた。
黒い皮ジャンにパンチパーマ。長身のすし屋のあんちゃん風である。
徳光アナが叫ぶ「青森県が生んだ演歌の期待の星!原子力と書いてはらこつとむ!さあ何点だ」
そして静まり返った会場、電光掲示板がはじき出した数字は...
6点。
唇をかむパンチパーマ男。マチャアキですらフォローできないこの数字。
会場にもお茶の間にもものすごく気まずい雰囲気が漂ったはずだ。
だが、すぐそのあとに松田聖子が登場。また渋谷公会堂は割れんばかりの歓声。そして田原よりも高い点数を記録したことに大喜びの聖子親衛隊と怒りのトシファン。会場大パニック。
原子力登場の5分後にはもう彼が記憶すら会場から消されていた。
だが、わたしにはどうしても忘れられなかったあの点数と悔恨の顔。
いまから思うと当然トシや聖子とは楽屋も別、ギャラも違ってただろう。
噛ませ犬といった言葉も知らなかったあの頃。
そして、20年近くたった今。
良美も、奈保子も、よしえもそしてトシもテレビにめっきり出なくなった。
松田聖子も似たようなものだ。
そんななかで原子さん、あなたが地方のクラブかなにかで歌い続けてたら俺は聴きに行く
たとえ地元の青森の小さな町のスナックでも。
もし、万が一このHPをみてたらメールください。
ってくるわけないか。なにかんがえてるんだか俺も。
1999.10.11記述
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