ライフ【産経抄】3月26日2011.3.26 03:00

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【産経抄】
3月26日

2011.3.26 03:00

 マスコミの扱いはごく小さかったが、大震災翌日の12日九州新幹線が全線開業した。記念式典も何もないひっそりとしたスタートだった。被災地の惨状を考えれば当然とはいえ、この日を待ちわびた地元の人たちには気の毒な気もする。

 ▼その九州新幹線が博多方面から熊本に着く少し前「新田原坂トンネル」を抜ける。「越すに越されぬ」と歌われた西南戦争の激戦地、田原坂のすぐ近くである。超高速列車は歴史の大きな舞台をあっという間に置き去りにしてしまうのだ。

 ▼西南戦争は明治10年に起きた。西郷隆盛を担いで蜂起した鹿児島の士族と、これを鎮圧しようという政府軍との戦いだった。結果的には田原坂で鹿児島方の北上を止めた政府側の勝利に終わる。だがこの戦いの背景には、情報不足によるお互いの疑心暗鬼などもあったとされる。

 ▼鹿児島の薩軍は政府が西郷の暗殺を企て、これに盟友であるはずの大久保利通も加担していると疑い悲壮な決意を固めた。一方東京の政府側は、西郷は薩軍と距離を置き指揮はとっていないと見誤った。このため、強硬な弾圧策に出て戦いを激しくしたのだ。

 ▼鹿児島と東京とは陸路で1500キロほども離れている。当時の通信手段は人の往来と手紙が主である。混乱はやむを得なかったともいえる。それだけに今、新幹線でも約7時間、電話やメールで一瞬に情報が届く社会に、戦乱で散った西郷らはどんな思いを抱くことだろう。

 ▼とはいえ、今度の大震災で、情報の不正確さなどによる混乱や風評被害を見ると、非常時に必要なのは文明の器具だけではない。情報を発する側の相手への思いやりや受けとる側の冷静さこそが肝心である。そう思ってしまう。

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