「非常に濃度が高いものとなっております。通常の運転中の原子炉水に比べましても4桁ほど高い」。作業員3人が170ミリシーベルト超の放射線を浴びる原因となった水たまりの放射能について、3月25日未明、東京電力原子力運営管理部の鈴木晃(あきら)課長はそう明らかにした。前日にはなかったというその汚染水はいったいどこから出てきたのか、鈴木課長は「分かっていない」と答えた。
▽筆者:奥山俊宏
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■放射能
25日午前3時46分、東京電力本社で記者会見は始まる。
配られた2枚紙の資料の1枚目。福島第一原発3号機タービン建屋地下で見つかった問題の水のガンマ線核種分析の結果として、9つの放射性核種の濃度が列挙されている。それぞれ1立方センチあたりの放射能の量がベクレルの単位で示されている。
コバルト60 約7.0×10の2乗
テクネチウム99m 約2.5×10の3乗
ヨウ素131 約1.2×10の6乗
セシウム134 約1.8×10の5乗
セシウム136 約2.3×10の4乗
セシウム137 約1.8×10の5乗
バリウム140 約5・2×10の4乗
ランタン140 約9.4×10の3乗
セリウム144 約2.2×10の6乗
合計 約3.9×10の6乗
合計すると、1立方センチあたり390万ベクレル。これをどう評価したらいいのかという記者の問いかけに、鈴木課長が比較対象として持ち出したのは運転中の原子炉の中にある水だった。
記者会見する原子力運営管理部の鈴木課長(左)、高橋部長(左から2人目)ら=3月24日午前4時21分、東京都千代田区内幸町で
――放射能の量とか中身についてどういうふうに評価しておられるんでしょうか?
非常に濃度が高いものになっています。たとえば、比較するものとしまして、通常の運転中の原子炉水の濃度が数百ベクレルですので、それに比べましても、4オーダーほど高い数字になっています。
――運転中の炉心の放射能の濃度の1万倍くらいある?
はい、そうです。
そんな水が原発の中に存在するのか、という記者の質問には、高橋毅(たけし)部長が「基本的にはあまりない」と答える。「たぶん燃料が若干損傷をして、それで、その中から若干量が放出した」という推定を明らかにする。
「実態がよく分かっていない。核種を見ますと、通常の炉水には含まれない核種で、燃料の破損があった場合に出てくるだろう核種でございますから、そういった中で出てきたもの、そのような想定をしている」
その水があったのは、原子炉建屋の隣にあるタービン建屋の地下。通常はそのような高濃度の放射能があり得ない場所だ。だから油断があったともいえる。にしても、なぜそこに、原子炉水の1万倍もの放射能を帯びた汚染水があるのか。「もともとは炉の中のものであるのは明らかなんでしょうけど、どのようなルートで3号機のタービンの地下にたまり水として存在してきたかは分かっていない」と鈴木課長は言う。
■ずさんな防護
説明によれば、前日に東電社員がその現場に入った際には「ほとんど水はない状況だった」。その際、東電社員はその現場に1時間ほどいたが、その間に浴びた放射線は0.5ミリシーベルトにとどまるとみているという。
作業が始まる直前の24日午前、現場の線量が計測されることはなかった。前日に放射線量がさほど高くなかったことから、当日も大差ないと思い込んだ。放射線管理員も同行しなかった。
午前10時半、「協力企業」3社の従業員6人がタービン建屋で作業を始め、うち2社の3人が地下に入った。
前日にはなかったという水たまりが広がっているのに、2人の作業員は、長靴も履かずに短靴でその水たまりに足を踏み入れた。線量計のアラームが鳴っているのにそれを無視して作業を続けた。その時間は40〜50分にわたった。正午にタービン建屋を出て、免震重要棟で調べたところ、零時10分ごろ、線量計の値が170ミリシーベルトを超えていることが判明した。2人は「ベータ線熱傷の可能性がある」と診断され、除染した後、救急車で病院に運ばれた。
3人のうちの一人は聞き取り調査に対して、アラーム無視について「線量計の故障かもいう考えもあった」と話しているという。しかし、3人それぞれが身につけている線量計がすべて故障しているとは考えられない。
■反省
3人の被曝が明らかになった後の24日午後に調べたところ、現場には深さ15センチほどの水たまり広がっており、その表面では1時間あたり400ミリシーベルトの放射線が測定された。空間の放射線も、そこに1時間いれば200ミリシーベルト浴びる量だった。
鈴木課長は記者会見で弁解と反省を口にする。
非常に環境が変わりやすい状況に今はなっているということに、なかなか気づきづらかった、誤解のもとになったんだと思っています。私たちも、当社のほうも、もう少し作業内容を協力企業の方にちゃんと的確に伝えたり、今回、たまり水のようなものが非常に高い放射線量を持っていたということになりますので、水ですと、場所も動きやすいものになりますので、言ってみれば、放射線源が動くということになりますので、そういうものも十分注意する、危険予知をすることが大事だと思っておりまして、そのような情報をちゃんと伝えるのが私たちの役目だと思っています。
3人には放射線業務従事者としての経験がそれぞれ11年、4年、14年ずつあるという。だから線量計のアラームの意味は十分に分かっているはず。高橋部長は「タービンの建物ですので、通常の場合ですと放射線、放射能の濃度が高いところではございませんので、そういった思いこみがあったかもしれない」との推測を記者に示す。
病院に搬送された2人は、東電が直接契約している会社に所属。残りの1人は、その会社の「協力企業」、つまり、下請け会社に所属する。各社の名前については、東電は「プライバシーの観点」を理由に公表を拒否する。形式的には請負契約であっても、実態は東電の指揮命令の下で働いている「偽装請負」にあたるのではないかとの質問が出るが、明確な返答はない。
記者会見の最後に頭を下げる東電原子力運営管理部の高橋部長ら=3月25日午前4時47分、東京都千代田区内幸町で
福島第一原発での作業の実情はいまどうなっているのか。
「非常に厳しい環境で作業していると思っています。現場の線量率の状況も汚染の状況も非常に厳しいと認識しています。作業環境も(短時間のうちに)変わりうる可能性があるところがたくさんある」
鈴木課長は会見の終盤、「規定、マニュアルの通りにできていないところがある」と認め、夜が明けて作業が始まるまでに改善を徹底すると述べる。
改善点はたくさんある。
「アラームが鳴ったら作業を止めて立ち止まるという基本を改めて徹底する」
「高い線量のある場所については、当社がしっかり管理していくべきで、事前に放射線管理計画を提出した上で社員が同行する」
「通常の状況ではなく、大きな変化がおこりうる場所だということを認識して作業計画を立てる」
午前4時49分、「現場に指示を出す」という理由で会見は打ち切られる。高橋部長、鈴木課長らはそろって頭を下げる。
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