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きょうの社説 2011年3月26日
◎北陸へ工場「疎開」 リスク分散の動きに支援を
東日本大震災で操業停止に追い込まれた工場の代替施設として、また東京電力による計
画停電の影響を避ける目的で、生産ラインを北陸の工場に移す動きが活発化している。首都圏をはじめ、太平洋側に生産拠点を置く企業の間で、リスク分散の必要性が再認識され、企業が北陸などの日本海側へ生産拠点の一部を「疎開」させる動きはこれから本格化するだろう。国内工場の集約・拠点化の流れを大きく変える歴史的な転換点と受け止め、しっかりとした支援体制を構築したい。石川県は新年度から企業誘致関連の助成限度額を見直し、1社あたりの最大交付額を3 5億円から50億円に引き上げた。また、富山市は新年度から工場建設の土地を取得する企業に対する「用地取得助成金」を3年の時限措置で倍増させるなど、財政面での直接支援を充実させている。県や市などはアンテナを張り巡らせ、工場疎開を考えている企業情報やニーズを的確にとらえ、誘致に動く態勢を整えてほしい。 被災地や関東周辺から生産の一部が移転してきている工場は、金沢村田製作所(白山市 )、東芝モバイルディスプレイ石川工場(川北町)、加賀東芝エレクトロニクス(能美市)、富山小林製薬(富山市)などがある。今のところ、被災地などの工場が再建されるまでの「つなぎ」という位置付けだが、特に首都圏での計画停電は相当長引くのは確実であり、工場疎開を真剣に検討する企業が多数出てくるはずだ。 生産拠点の集中は効率的である半面、地震や津波といった大災害の直撃をもろに受ける 。リスク分散という観点で見れば、生産拠点を太平洋側と日本海側、東日本と西日本というように、ある程度、分散して置く発想は自然であり、東日本大震災を教訓に企業側も考えざるを得ないと思われる。 石川県の場合、移転従業員の相談窓口の設置や住宅、教育情報などを紹介するガイドブ ックの作成、県内で暮らす移転従業員の生活を収めた動画作成に取り組んでいる。受け入れ環境を整備し、発信していくソフト事業も重要になってくる。リスク分散の動きを企業誘致に結びつけたい。
◎電力確保策 運用改善で長期化に備えよ
東京電力が夏場に深刻な電力不足に陥る需給見通しを示し、計画停電の長期化が避けら
れない状況となった。社会混乱を引き起こす大規模停電を防ぐのは当然としても、企業や生活に負担を強いる計画停電が長引き、対象エリアや時間など停電規模が拡大されれば、経済活動にさらに追い打ちをかけることになる。計画停電に関しては、区域をより限定して準備しやすくするため、グループを5区域か ら25区域へと細分化したが、経済への影響を抑えるためには、さらなる運用の改善や新たな需要抑制策も必要になる。 政府の電力需給緊急対策本部では、夏に向けた節電対策として、家庭向け電気料金の実 質値上げやサマータイム(夏時間)の導入、夏休みの延長・分散化、企業の使用電力に上限を設定する案などが出ている。 企業ごとに電力使用量を調整する総量規制については、生産活動の予定が立てやすいと して経済界からも要望が出ている。それだけでは不十分との指摘もあるが、家庭での節約徹底と合わせて効果が見込めるなら、議論の俎上にのせてよいだろう。時計の針を1時間進めるサマータイムについては、企業のシステム変更の負担など功罪を慎重に見極める必要がある。 冷房需要が増える夏場の電力不足に関しては、東電が最大需要を5500万キロワット と見込む一方、供給力は4650万キロワットしか確保できないという。計画停電は4月末で打ち切られる見通しだが、夏場に再び始まり、暖房需要が増す冬場も実施を迫られる可能性が出ている。東電は休止中の火力発電所の稼働を急ぐなど供給力の確保に全力を挙げてもらいたい。 すぐには間に合わないが、東日本と西日本で電力の周波数が異なり、相互の供給に制約 のある現行の仕組みも見直したい。将来的には東海、東南海、南海の大規模地震の連動も想定されており、東西の電力融通を円滑にすることは、日本のエネルギー安全保障の観点からも極めて重要なテーマである。当面は3カ所ある電力変換施設の増強が課題となろう。
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