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117万人の岐路:’11広島市長選/中 人口減少時代 /広島

 ◇団地の高齢化急進 交通、生活相談に危機感

 「売り物件」「好評分譲中」--。広島市中心街からバスで約40分、約2300人が暮らす安佐北区・くすの木台。「昼間は子どもと年寄りばかり。便数の減ったバスで病院と銀行に行く以外、ほとんど引きこもりよ」。地区に1軒だけのスーパーから買い物袋を提げてきた女性(71)はつぶやいた。

 くすの木台は旧安佐町農協とゼネコンが造成し、30年余り前に分譲を始めた。81年開校の久地南小は一時700人を超えた児童が現在194人。地区の高齢化率19%は市平均19・4%とほぼ同じだが、高齢化の急速な進行は避けられない。

 約40年前から郊外型団地の分譲が相次いだ同区の高齢化率は、96年の12・4%が、10年には22・7%に跳ね上がった。佐伯区や安芸区でも事情は同じだ。

 「高齢者が高齢者をみる状況」。市内最大の住宅団地・高陽ニュータウン(安佐北区)。地元の落合地区社会福祉協議会の梅田千秋会長(72)は2、3年前から危機感を抱いていた。地区内の2018世帯を対象に実施した住民アンケートで一番多かったのは、地域との付き合いの希薄さを懸念する声だった。

 高齢者の見回りは、社協メンバーのうち5、6人が民生委員と協力して続けてきた。昨年5月には事務所を借り、高齢者の生活相談に乗る拠点場所になりつつある。しかし、有志による継続は限界がある。梅田会長は「運営を自分たちでやりくりしているが、市は少しでも資金面で援助してほしい」と求める。

 山を切り開いた住宅団地では、交通の便も課題が山積する。南区の黄金山地区。坂や細い道が多く、路線バスが入れない。07年の住民アンケートでは「歩くかタクシー。老人にはどちらもつらい事です」(77歳の独居女性)など、切実な願いが記されていた。

 同地区では09年、広島市が設ける地域主体の乗り合いタクシー導入支援制度を活用して9人乗りタクシーを試験的に導入した。病院や金融機関、商店前に停留所を設けた。

 試験運行中の赤字は市が補填(ほてん)する制度だが、最長1年間の期限付き。昨年10月には同地区で自主運営が始まったが、現在の利用者は1日平均44人。採算ラインの70人を割る。黄金山地区社会福祉協議会の利田昭雄会長(73)は「ガスや電気と同じでなければ生活できない」と話し、存続のため市に助成を求めたいと言う。

 市の人口は、10年国勢調査で117万4209人。前回05年より約2万人増えたが、国立社会保障・人口問題研究所の調査では15年に減少に転じる見通しだ。高齢化だけでなく、人口そのものが減少する。

 昨年11月に郊外型団地の課題を探るサミットを開いたNPO法人・住環境研究会ひろしま(南区)の宮本茂副理事長は「30~40年前からアストラムライン沿線に大量に住宅が供給された。急勾配や段差の多い団地での高齢者の足の確保や、住人が亡くなった後の住宅の継承問題などで、市の戦略や方策が不可欠」と指摘する。新市長は、戦後の広島市が初めて経験する人口減少時代への対応を迫られる。

毎日新聞 2011年3月23日 地方版

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