衆院選の「1票の格差」を違憲状態とした23日の最高裁大法廷判決は、小選挙区の区割りの基準となる1人別枠方式を「できるだけ速やかに廃止すべきだ」と警告した。判決に従って別枠方式を廃止した場合、大都市部の議員が増える一方、東日本大震災で被害が出た東北地方などで、地元選出衆院議員が減ることになる。格差を是正しながら、地方の声をどう国政に反映させるか。国会は難題を突きつけられた。【伊藤一郎】
衆院選挙区画定審議会設置法は、1票の格差が「2倍以上とならないことを基本とする」と定める一方、人口と無関係に各都道府県に1議席ずつを配分する1人別枠方式を採用している。人口の少ない県を優遇するこの別枠方式が格差拡大につながっているとの批判は以前からあった。
判決に従って1人別枠方式を採用せず、昨年の国勢調査の人口統計(速報値)を基に純粋な人口比例で区割りをした場合、都道府県ごとの1票の格差は、09年選挙時の最大1・98倍から1・64倍に縮まる。小選挙区間の格差が09年の2・30倍から大幅に縮小することは間違いない。新たに区割りした場合、都道府県への議席配分数は全体で21増21減。東京が6、神奈川が3増などとなる一方、鳥取は全県で1議席となる。
最高裁は小選挙区制導入後、衆院選の1票の格差について合憲判断を3回示し、1人別枠方式についても正当性を認める判断を繰り返してきた。一方で、1人別枠方式は小選挙区制に移行する際、中選挙区制より配分議席が減る地方選出議員の反発で導入された経緯があり、過去3回の合憲判決でも「国会議員の恣意(しい)的な要素を考慮して採用されたもので正当性を是認できない」とする反対意見も付いた。
今回の判決もこうした経緯を重視し、1人別枠方式は不合理との結論を導き出した。
最高裁が各都道府県に1議席を割り振る「1人別枠方式」について「投票価値の平等に反する」として違憲状態と判断したことで各党に戸惑いが広がっている。人口が少ない地方の民意が反映されにくくなるとの指摘もあり、今後、議論を呼ぶのは必至だ。
民主党の岡田克也幹事長は記者団に「1人別枠方式の廃止を念頭に置いて党内で議論する」と語った。しかし安住淳国対委員長は「違憲状態は区割りの見直しで解消できる。1人別枠方式は人口の少ない都道府県の代表をどう選ぶかという知恵だ」と述べ、制度は維持すべきだとの認識を示した。
自民党の河村建夫選対局長は「判決を重く受け止めなければならない。(有権者を)どのように代表するか、人口の問題、地域の問題をあわせて慎重、真剣に議論してほしい」と語った。公明党の山口那津男代表は記者団に「当然の結論だ。小選挙区制度は民意を代表しない大きな欠陥がある。衆院、参院とも選挙制度の議論が必要だ」と指摘した。
みんなの党の渡辺喜美代表と共産党の穀田恵二国対委員長も、選挙制度の早急な見直しを求める談話をそれぞれ発表した。【横田愛】
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(10年国勢調査に基づく)
都道府県 現行議席 試算結果(増減)
北海道 12 13(+1)
青森 4 3(-1)
岩手 4 3(-1)
宮城 6 5(-1)
秋田 3 2(-1)
山形 3 3( 0)
福島 5 5( 0)
茨城 7 7( 0)
栃木 5 5( 0)
群馬 5 5( 0)
埼玉 15 17(+2)
千葉 13 15(+2)
東京 25 31(+6)
神奈川 18 21(+3)
新潟 6 6( 0)
富山 3 3( 0)
石川 3 3( 0)
福井 3 2(-1)
山梨 3 2(-1)
長野 5 5( 0)
岐阜 5 5( 0)
静岡 8 9(+1)
愛知 15 17(+2)
三重 5 4(-1)
滋賀 4 3(-1)
京都 6 6( 0)
大阪 19 21(+2)
兵庫 12 13(+1)
奈良 4 3(-1)
和歌山 3 2(-1)
鳥取 2 1(-1)
島根 2 2( 0)
岡山 5 5( 0)
広島 7 7( 0)
山口 4 3(-1)
徳島 3 2(-1)
香川 3 2(-1)
愛媛 4 3(-1)
高知 3 2(-1)
福岡 11 12(+1)
佐賀 3 2(-1)
長崎 4 3(-1)
熊本 5 4(-1)
大分 3 3( 0)
宮崎 3 3( 0)
鹿児島 5 4(-1)
沖縄 4 3(-1)
毎日新聞 2011年3月24日 東京朝刊