「各議案は原案の通り可決することに決定いたしました」。15日、2月県議会最終日の本会議場。多くの議員が一斉に何度も立ち上がった。来年度の県予算を含む81議案は流れ作業のようにスムーズに可決、閉会した。
県議会では年4回の定例会と臨時会が開かれる。前回の県議選が終わった07年4月から4年間に県執行部から699本の予算や条例案などが審議された。しかし提出後に否決、修正された議案はゼロ。議場での議論は一見、結論に何も影響しなかったようにも見える。
県議は何もしていないのだろうか。
「まだ迷っています」。1月24日、知事公館で上田清司知事は自民党県議団の重鎮らを前に子ども手当の地方負担を計上するか否かで悩む思いを伝えた。この日は予算編成作業の大詰めにあたる「知事査定」の途中だ。
定数94のうち50人を占める議会最大会派の同党県議団は毎年10月、予算編成作業が本格化する前に予算や施策に関する「政策大綱」を知事に提出する。要望に対し、執行部側はどのような形で予算に盛り込むか、公表前に方向性を説明する。予算額は明示しない。自民党側は公共事業の事業量確保など要望をいくつか伝え、大筋で了承した。
これは「事前打ち合わせ」と呼ばれる慣習だ。県幹部は「自民党側の反応を見て、問題なければ予算案を固めていく」と話す。その前段階からも執行部側と議会側はやりとりを重ねる。議案は議会提出時にほぼ織り込み済みの内容に仕上がる。
こうした事前要望とそれに対する説明は、濃淡はあるものの自民党以外の会派にも存在する。2月議会の一般質問に登壇した自民、民主党・無所属の会、公明の計6議員からは再質問が一つも出ていない。地方議会が「執行部の追認機関」と批判を受けがちなのは政策決定の過程で、議会側と執行部との間で複数のチャンネルを通じて一定の腹合わせを事前に済ませることも背景にある。自民党県議団幹部は「特に予算案を議会提出後に修正すれば混乱を招く」と理解を示す。
議会内会派、党県連からの要望、幹部への直談判、各常任委員会での発言--。執行部は、議員の意をくみあらかじめ議案に落とし込む。誰もが自由に傍聴できる唯一の場、本会議場の議論は、執行部にとっては、こうした場の一つに近い。
事前調整は議員の質疑やそれに対する答弁にも及ぶ。しかし、互いの入念な準備は予定調和や形式的な議論に陥るおそれも潜む。
「答弁の『やったふり』見抜き人を任命する」
塩川修副知事は昨年7月29日、上田知事の指示を受け、小さな張り紙を副知事室のロッカーに張った。定例会のたびに部長答弁を入念にチェックする。
「県といたしましては……、こうした国の動向を十分注視し……、検討してまいります」。よくあるこんなくだりが入った答弁。丁寧に説明しているようで、結論は「玉虫色」だ。
「やるものはやる、やらないものはやらない。答弁ははっきりすべきだ」。部長の一人は上田知事からたびたびこう言われる。
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4月1日告示の県議選まで残り1週間となった。県議会にまつわるデータから、見える課題を追った。
毎日新聞さいたま支局は、県議会全6会派に県議会改革に関するアンケートを実施した。「現行の質問答弁方式に改良の余地はあるか」とたずねたところ、全6会派が「ある」と回答した。
県議会での一般質問は事前に発言要旨を執行部に通告。議員が先に全項目を質問し、執行部がまとめて答弁する「一括質疑・一括答弁」方式をとる。これに民主党・無所属の会、公明、共産の3会派は議論の活性化などを目的に「一問一答方式」の採用に言及。「一括質疑」だと執行部は事前に答弁書をほぼ準備できるが、一問一答方式はすべて把握するのは困難。議員がその場のやりとりで執行部から答えを引き出す力量も求められる。
無所属・刷新の会は再質問の回数制限をなくし、時間制限を設けることを提案。社民党は少数会派の発言時間を比例配分で保障することを求めた。
自民党は「議会における行政監視機能・政策立案機能の一層の強化」の観点から「総合的な議論の余地はある」とした。
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Q改良の余地は Aある <理由や手法>
自民党県議団 ○ 質問人数や時間など総合的な議論の余地あり
民主党・無所属の会 ○ 一問一答式の採用で分かりやすくなる可能性
公明党県議団 ○ 質問時間を増やすか、1日の登壇者を増やす
無所属刷新の会 ○ 再質問の回数制限をなくし、時間で制限を
共産党県議団 ○ 議員同士が政策論議が行える会議運営を
社会民主党 ○ 少数会派の発言時間を比例配分で保障すべきだ
毎日新聞 2011年3月25日 地方版