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キライになるほど日本がスキ――中国若手作家が語る日本熱

Business Media 誠 3月22日(火)13時15分配信

キライになるほど日本がスキ――中国若手作家が語る日本熱
青春小説作家の落落氏
 2010年には尖閣諸島をめぐる問題などで、対立を深めた日本と中国。しかし、国のトップレベルで対立していても、その底流では変化が生まれつつある。その主役となっているのが、中国で“80後(1980年代生まれ)”や“90後(1990年代生まれ)”と呼ばれている若者たちだ。彼らは改革開放政策後の安定した成長経済のもとで育ち、一人っ子政策が本格化した後の世代。ネットも使いこなすなど、それまでの世代と感性が異なっているとされる。

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 そして、80後・90後の若者たちは、日本に対して持っている印象もそれまでの世代と異なっている。1月に出版された『オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力』(百元籠羊著)では、中国の若者がアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』『涼宮ハルヒの憂鬱』などにのめり込んだり、温家宝首相が「孫が『ウルトラマン』ばかり見ている」と嘆いたりしていることを紹介している。

 そんな80後世代の1人が、青春小説作家(日本で言うライトノベル作家)の落落(ルオルオ)氏である。1982年生まれの彼女の著作は高校生など若い世代を中心に支持を得ており(各著作の販売数は20〜30万部)、その中には日本を舞台とした作品もある。

 3月16〜18日の早稲田大学のシンポジウムや講演会で、日本好きの中国若手作家として講演する予定だった落落氏。しかし、地震の影響などで、シンポジウムは1日に短縮、講演会も中止となってしまった。そこで、代わりにインタビューをお願いし、日本への思いを聞いてみた。

●日本のマンガやアニメを紹介する雑誌で執筆

――どのようにして青春小説作家になったのでしょうか。

落落 18歳くらいの時に北京で、日本のマンガやアニメを紹介する雑誌の編集部で働き始めました。新しいアニメを見て、その内容やどこがおススメかということを書いていました。

 北京で評論を書いているうちに、結構有名になりました。それで、今の出版社のボスの郭敬明※さんが「非常にいい」と評価してくれて、「私の雑誌で評論ではなくて、文学的なものを書いてみないか」と誘ってくれたことから、小説を書き始めました。マンガやアニメの評論といっても、客観的に書くのではなく、叙情的、小説的な感じで書いていたので、郭敬明さんの目にとまったんでしょうね。

※郭敬明……デビュー作『幻城』は150万部を売り上げ、若者向け文芸誌『最小説』では編集長として伝統にこだわらない方針をとり成功した一方、スタッフと対立したり、剽窃(ひょうせつ)で訴えられたりといった一面も持つ。新浪微博(中国版Twitter)でのフォロワー数は364万人(3月22日時点)。

落落 それで2005年に『年華是无效信』(販売数30万部)という長編小説を出版しました。高校生の女の子2人の友情を描いた物語で、お互い反発しながらも、本心では思い合っているという青春小説です。

 『年華是无效信』は私自身の経験に基づいた小説です。郭敬明さんから「小説を書いてみないか」と誘われた時、自分と親友の友情関係のことなら、自分の心理状態をうまく描けると思ったのです。そのころ、時々とてもいい友達であるものの、時々我慢できなくなるという、不安定な関係の友達がいたので、心の機微が描けると思って書いたのです。

 ほかの小説もすべてが自分の体験をもとにしているわけではないのですが、2011年1月に出版した最新作『剩者為王』は自分や友達の体験をもとにして、(30歳未婚エリート女性の)勝ち組、負け組のような関係を書きました。日本でもそういう関係はあると思うのですが、中国でも同じことを思う人が増えてきたので、共感してもらえるのではないかと思って書いたのです。私も年齢を重ねてきたので、(今までの学園モノとは)違うものを書いてみたいと思い、そういう方向に進んでみました。

 ただ、25万部売れているのですが、今までの作品と同様、読者は中学生や高校生が中心です。私としては、自分と同じ年代や、もう少し上の年代の人に売れてほしいと思っているのですが。

――なぜ読者の中心が中学生や高校生になるのですか?

落落 『最小説』という雑誌で連載していたのですが、『最小説』の読者は学生が中心なので、連載をまとめた小説を買う人もどうしても若い人になってしまうのです。

――もっと上の世代が読む雑誌で連載したらいいのでは?

落落 『最小説』は何十万部と売れている雑誌で、上の年代の人が読む雑誌だと発行部数がそれより落ちてしまうのです。そのため、ビジネス的なことを考えると、『最小説』に連載した方がいいのかなあと思っているのです。

――日本を舞台にして書いた小説もありますね。

落落 2005年末に出した『那些生命中温暖而美好的事情』(販売数25万部)という短編小説集ですね。私はとても日本が好きで、“日本オタク”という感じになっていたことから、日本を舞台に書きました。青春ラブストーリーということで、その前の『年華是无效信』と内容はまったく違うのですが、高校生を描いた学園モノという共通点はありますね。

 当時は郭敬明さんが有名になり始めたころで、まだ青春小説という概念もありませんでした。『那些生命中温暖而美好的事情』は表紙がマンガ絵なのですが、手にとって中を見ると、「あれ、中身は小説だ。どうしてなんだろう?」という感じでよく売れたようです。

 それは日本の雑誌やライトノベルを参考にしたのではなくて、雑誌に連載した時の挿絵がマンガ絵で、単行本にまとめるときにその中から良い絵を選んで、カバーにしたからです。当時はまだ、日本のライトノベルはそれほど中国に入っていなかったように思います。

●日本はちょっと大げさ

――日本をどのようにご覧になっていますか?

落落 中国で私は“哈日族(ハーリーズー、日本文化が好きな人)”と位置付けられると思います。何度も日本を訪れていて、日本のことはよく分かっています。訪れれば訪れるほど、日本のいろんなことが見えてきて、面白くて好きになります。ただ、たくさん訪れると、日本の本質のようなもの、日本と中国の民族性の違い、理解できないこと、ちょっと反感を持つようなところも見えてきたりします。

 時々感じるのは、日本はちょっと大げさだということです。とても細かいことまで考えているのですが、「それってそこまで考える必要があるのかな?」と思うようなこともあります。

 例えば、2010年は猛暑だったので、熱中症が話題になったことがありました。日本では雑誌もテレビもネットも、「●●すれば予防できます」といったことを事細やかに伝えていました。中国ではネットで日本のテレビ番組が見られるのですが、「それって『涼しくしよう』のひと言で済むことじゃないかな。ちょっと大げさだな」と感じながら見ていました。

――今まで日本のどんな場所を訪れましたか?

落落 一番多く行っているのは京都です。京都からは日本の伝統的な雰囲気が感じられて、好きなんです。

 もともと私はとてもアニメが好きだったので、初めて日本を訪れた時は秋葉原に行きました。中国のアニメファンでも、「秋葉原に行きたい」という人はとても多いです。でも、日本の文化がだんだん分かってきて、もっと知りたいと思うようになった時、「京都に行くのが一番いい」と思うようになりました。

――落落さんの作品は、日本のアニメなどの影響を受けていますか?

落落 小説を書き始めたころは、それまでに読んだアニメやマンガなどの中で印象に残ったシーンにインスピレーションをもらっていました。ただ、日本を訪れるようになってからは、日本で見かけた情景の中で、さまざまな人の生活を想像し、自分の中で物語を作るようになりました。

 中でも電車の中にいる人々の情景が好きで、その人々の生活や心の機微などを書いてみたいと思っています。2両編成くらいの江ノ電のような小さな電車が好きですね。

●アニメで描かれる日本の風景に魅力を感じる

 1日に短縮されたシンポジウムでは、「春の桜、入学式、夏の花火大会、海辺のすいか割り、こいのぼり、秋の紅葉、会社からの帰り道に屋台でおでんを食べる、野原の上を横切る電車、学校のベランダで休憩して話している学生たち……。そうした日本の風景がアニメできれいに描かれていて、若い中国の視聴者の心をとらえた」と語った落落氏。日本のアニメはストーリーだけではなく、そこで描かれている風景も中国で広く評価されているようだ。

――日本のさまざまな習慣に魅力を感じられているんですね。

落落 例えば、「豆瓣」というWebサイトには「乙女心成長公式」というコミュニティがあります。ここは日本のマンガやアニメの中でも、ラブストーリー系の好きな人が2000人以上集まっています。

 参加者は日本のアニメなどを見て、その中で憧れたようなことを書きこんでいますね。ここにいる人たちはみんな、「卒業式に第2ボタンをもらう」といったような習慣が好きですね。年代的には高校生から25歳くらいまでが中心ですが、30歳くらいの人もいますね。

――中国ではどんな日本作品に人気があるんですか?

落落 女の子の間では『君に届け』や『NANA』、男の子の間では『ガンダム』や『銀魂』が人気ですね。

――日本では今、『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメが非常に話題になっているのですが、中国ではいかがですか?

落落 知ってはいますが、中国ではまだそんなに人気があるとは言えないですね。

――『オタ中国人の憂鬱』では、「中国では高校生以下の恋愛が悪とされている」と書かれていました。『君に届け』は高校生の恋愛を描いていますが、大丈夫ですか?

落落 中国で高校生同士の恋愛は歓迎されているわけではないですが、タブーや禁止といったものではありません。『君に届け』はプラトニックな青春ラブストーリーなので問題ないですね。中国で問題になるのは、高校生同士が身体の関係を持ったりすることなので。

――日本のビジネスパーソンも、日本作品に触れて育った中国の若手ビジネスパーソンと関わることも増えてくると思うのですが、そんな時、どんな作品をネタにすると盛り上がりますか?

落落 『聖闘士星矢』や『SLAM DUNK』ですかね。ファンというほど詳しくなくても、ある程度分かっていれば盛り上がれると思います。『SLAM DUNK』は私が高校2年生の時にとても流行していて、みんなアニメを見ていましたね。キャラクターでは、私は流川楓が好きなのですが、仙道彰も人気がありますね。

 『SLAM DUNK』と同レベルで人気のある作品というと、ちょっとないですね。『ドラえもん』や『名探偵コナン』くらいでしょうか。

――最後に、今後どのような作品を書いていきたいか教えてください。

落落 まだ具体的なイメージは固まっていません。日本を訪れて経験したさまざまなことをもとに書いてみたいなと思っています。

●中国の若者と東北関東大震災

 原発事故を危惧して来日せず、シンポジウムに参加しなかった登壇者も多かった中、3月15〜19日まで日本に滞在していた落落さん。この時期に日本に来た理由を尋ねると、「日本が安全を大切にする国であることを信じていますから」と笑った。

 中国でもデマのようなものは飛び交ってはいるのだが、中国の若者たちは新浪微博、SNSの開心網や人人網などを通して情報交換しており、その中には「デマを広げてはいけない」と言う人も少なくないという。

 新浪微博の落落さんのアカウントでも、「私は今、東京にいます。コンビニにカップラーメンなどはないけど、特に問題はありません」と書いたら、みんなが転載して広まっていったと話してくれた。【堀内彰宏,Business Media 誠】


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最終更新:3月22日(火)13時15分

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