ニュースレターvol.143でもご紹介しましたが、高野町では交通バリアフリー基本構想を平成18年12月20日交通バリアフリー新法施行と同時に策定し、第1号と認定され、その後南海電鉄によりケーブルカーの極楽橋駅に車いす用段差解消機や多機能トイレの設置、高野山駅にはエレベーターや多機能トイレの設置などのバリアフリー化事業が進められてきました。
3月30日にはこれらの施設の完成お披露目が行われ、地元関係者の他、基本構想策定委員会の委員長をお願いした和歌山大学の足立啓先生はじめ、地域外利用者として大阪から高野山までのルート及び高野山内での調査に参加していただいた車いす利用等の方々も招かれ、早速エレベーターや段差解消機の使い心地をチェックしました。
ケーブルカーの駅の段差解消には様々な難問があり、加えて険しい山中の駅のため、難工事となりましたが、関係者の皆様の努力の結果、ようやく完成にこぎ着けることができました。
エレベーター棟と改札口までの渡り廊下はアルパックがデザイン監修をさせていただきました。
私達はまず高野山における「駅」の意味を検討しました。高野山は信仰の山として1200年以上にわたり人々が気軽に近づくことを拒んできました。その結果、山上には独特の領域感をもった宗教空間が形成され、人々の畏怖の対象となってきました。高野山駅は、この山上都市、宗教都市への門としての意味をもっています。人々を永く拒み、現代でも高齢者や障がい者が容易に近づけない急傾斜の山を、ケーブルカーによる橋渡しにより、ようやくたどり着くことができる山上の入り口が高野山駅であるからです。かつて「山規」による女人禁制の時代に、それぞれの参詣道を登った山内の入り口に「女人堂」が設けられ、そこが聖地との「結界」となったように、高野山駅も山上と下界の「結界」になっています。宗教上の「結界」と異なるのは、「結界」が「区別」する「境」であるのに対して、「駅」は「つなぐ」ための「門」であることです。
こうしたことをふまえ、エレベーター棟とそれに続く渡り廊下は、人々を高野山に迎え、そして送る象徴としてのデザインに配慮しました。ここでの象徴性はある種の「神秘性」と「荘厳さ」そして「懐かしさ」によって構成しています。また象徴性は、有形文化財に登録された高野山駅舎のデザインとも関連性をもっています。金剛峯寺のご厚意により渡り廊下の内装には高野町産の桧を使わせていただきました。渡り廊下からは眼下に紀ノ川に沿って橋本市を臨むことができます。
南海電鉄では、橋本から極楽橋の間を下界から山上への結節空間ととらえ、「こうや花鉄道プロジェクト」を展開しています。沿線や駅に花の植栽を行い、旅する人を誘います。この7月からは、橋本駅から高野山駅までを走る観光列車「天空」が運行開始となります。この列車には、線路の北側・西側に拡がる紀の川・不動谷川や険しい山間の風景を見渡すことができる「ワンビュー座席」や、4人掛けの「コンパートメント座席」などが設けられています。
この夏は一層優しくなった高野山へ列車の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
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