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【社会】

陸前高田の小3、津波の夜を独りで越え 母と翌日再会

2011年3月22日 夕刊

 目の前で祖母と叔母が津波にのみ込まれた。独りぼっちで逃げて、避難所で不安な夜を過ごした。岩手県陸前高田市の小学3年生村上怜(りょう)君(9つ)は、お父さんとお母さんに会うまで自分の力で生き抜いた。

 1000人以上が避難する市立第一中学校の音楽室。子どもたちに開放された教室で、怜君は21日も黙々と算数の勉強をしていた。「こんなときに勉強なんてと思うんだけど」。計算式を解きながら、はにかんだ。

 津波が街を襲った日、両親と弟妹は外出中だった。学校から戻った怜君は祖母の卓子さん(66)と叔母の愛子さん(37)とともに歩いて高台の公園を目指した。ドーン、ドーンと波のぶつかる音が響く。慌ただしく車が行き交う横断歩道をなかなか渡れない。怜君は車列を縫って道を越えたが、祖母らは進めなかった。「怜、早く行きなさい」。その声にはじかれるように駆けた。

 しばらく走って後ろを振り返ると、愛子さんらの頭の上に津波があった。「おばちゃんっ」。自分の数メートル後ろにも黒い水が迫る。逃げるしかなかった。

 たどり着いた高台からの光景に息をのんだ。泥水が街を覆い、家も学校も見えない。「高田が沈んじゃった」

 気が付くと周りは知らない人ばかりで、急に心細くなった。一夜を明かした公民館。扉が開くたび、父母の姿を探した。寝具代わりの座布団を握り締め「お父さん、お母さん、早く迎えに来て」と、心の中で叫んだ。

 翌日、第一中に連れてこられて、母由香さん(33)の胸に飛び込んだ。「怖かったよう、怖かったよう」。しがみつくと、我慢していた涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。「どこにいたの、りょう」。由香さんも震える怜君の小さな体を抱き締めた。

 父卓司さん(41)と弟妹も無事だったが、愛子さんと卓子さん、別の場所へ逃げた祖父の久さん(73)は見つかっていない。「おばちゃんたちとも早く会いたいな」。避難所で勉強を続けながら、その日を待ち望んでいる。

 (浅井俊典)

 

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