■小規模分散型システムに抵抗してきた電力業界
首都圏の計画停電もが今夏のみならず、今冬も続くということです。ようやく東電は火力発電所の状況を公表しました。原子力発電のバックアップとして用意されている火力発電と水力発電の設備容量は、フル操業すれば原発なしでもほぼ電力需要をまかなえるほどあります。しかし、今回はその一部が地震や津波で損壊しているということなので、残念ながら時期によっては不足するおそれがあるのは事実なのでしょう。しかし、この時期に中期的な停電の可能性まで言及するのは、原発延命のための一種の脅しのように思えてなりません。問題は夏場と冬場の電力需要ピークに発電容量が足りなくなることで、そのしのぎ方をとりあえず考える必要はありますし、数か月〜1年間は何かと不自由するにしても、小回りが利き設置に時間もかからないガスタービン発電機を至急導入すればいいと思います。しかしそうすると設備容量が足りてしまう、つまり原発不要論に結びつくことを彼らは怖れているのでしょう。 電力会社は「電気を大切に」といいながら、電気を大量に使わせる“オール電化”を進めてきました。それが結果的に夏期と冬期の電力ピークを生み、停電の可能性を高める原因となっています。 電力業界は電力自由化にも強硬に反対し、結局完全自由化は見送られました。かつてマイクログリッドというシステムが注目されたときも、この導入・普及に抵抗しました。マイクログリッドとは、小型~中型の発電機や燃料電池・太陽光・風力など、地域の分散型電源をネットワーク化しITで制御、ナショナルグリッド(国家あるいは電力会社レベル送配電網)のマイクロ版を構築する考えです。2000年代の中ごろNEDOの実証実験が行われましたが、いずれも中途半端なまま、事実上失敗に終わりました。 マイクログリッドの弱点は、バックアップにあります。再生可能エネルギーのような不安定電源を抱えたり、点検や故障などもあったりして、一時的にどうしても電力容量が足りない場合、ナショナルグリッドから、あるいはナショナルグリッドを経由してのバックアップを受ける必要があります。先の実証実験では、電力会社はマイクログリッドの自社電源への接続を認めず、独立で運用せざるを得なかったり、別々の発電所をネットでつなぎ、発電容量と需要を仮想的に運用したりするしかありませんでした。当時電力の自由化論議が進んでおり、マイクログリッドが進むことで市場を奪われることを怖れた電力会社が導入に抵抗した、卑近な言葉でいえば邪魔をした、とブログ子は見ています。マイクログリッド熱はその後急速に冷めました。電力会社としてはしてやったりだったでしょう。 電力市場も受電容量50kWまでは自由化されたので、学校や事業所、公共施設に電力を売る事業が出てきてもいいものですが、これが進みません。設備コストの問題に加え、バックアップ時には電力会社から割高な電力を買わなければならないことも理由になっています。 ■大規模集中型電力システムの脆弱さ 原発では原子炉内で核分裂反応を制御しながら、約300℃で水を熱し、蒸気を発生させます。その蒸気をタービンに吹き付け、復水器で蒸気を冷却して水に戻します。タービンの回転を発電機に伝えて電気を作っているわけです。核分裂を熱源にしてはいますがやっていることは古典的なランキンサイクル発電で、発電効率はカルノー効率の限界から最大35%程度です。発生した熱エネルギーの過半は大量の温排水となって海を温めています。 原子力の魅力、いや魔力は、重量当たりにして天然ガスや石油の5〜6万倍にも及ぶその膨大なエネルギー密度にあります。しかしエネルギー密度が高ければ高いほどそれが暴発したときの被害は大きくなります。そのことを今回の福島第一原発事故で私たちはまざまざと思い知らされることになりました。 よく再生可能エネルギーを否定する人たちは、不安定だ、お天気まかせで使えないといいますが、原子力は暴走すれば手がつけられなくなり破滅をもたらします。それならば、使いにくい再生可能エネルギーをうまく使えるように工夫すればいいだけの話で、原子力を推進するための悪質な方便に過ぎません。再生可能エネルギーに効率のよいガス焚きや石油焚きのタービン・エンジン発電機を組み合わせ、需要と再生可能エネルギーの発電状況に合わせてこまめに追随運転していくことは、現在の技術ではそれほど難しいことではありません。事実デンマークでは発電電力量の20%が風力からのものです。平均ですから時間帯によってはもっと高くなるわけです。同国では出力一定で運転する石炭火力をベースに、小回りの利く火力電源を組み合わせ、天候予測と需要予測に応じて追随運転させて、需給をマッチングさせています。実は日本の電力会社も需要に合わせてこうしたこまめな運用を、原発をベースにしながらバックアップの火力発電を使って行っているのです。その技術には十分に誇るべきものがあると思っています。 しかし、大規模システムに頼っていると、今回のように発電所のある地域が大規模に被災した場合、一気に電力不足に陥ります。需要に対して発電容量が足りなくなると、供給地域全体が一斉停電になるおそれがあります。しかし、分散型電源やマイクログリッドのような分散型電力システムの導入が進んでいれば、少なくともここまで混乱することはなかったかもしれません。公共施設や事業所、学校単位でシステムを持っていれば、停電の間も照明や通信機能などもある程度維持できたはずです。 しかも大規模システムの欠点は、エネルギー効率が極めて悪いことです。先ほど書いたように、原子力はあんな危険なものを燃料にしながら熱の3分の2を捨てているのですから。最も効率のよいのは、ガスタービンの冷却熱からさらに蒸気を作り蒸気タービンを回すコンバインドサイクル(CC)という発電システムですが、それでも45~50%程度。全体を平均して40%未満で、送電・変電時のロスを考えると電力として需用者に届くのは、投入エネルギーの3分の1だと考えればいいでしょう。電力とは、これほどエネルギーを浪費しながら送られてくるものなのです。ここに今後のエネルギーシステムを考えるカギがあるので、このことについては、後で詳しく説明します。 その2で書いたように、電力行政と電力会社は一蓮托生です。最近、資源エネルギー庁長官が東京電力に顧問で天下りましたが、逆に電力会社から資源エネ庁への出向も当然あるわけで、彼らは一体的に電力利権を牛耳っています。その利権を守るために政治家も使えば御用学者、御用タレントも使うわけです。原発を賛美していたこれらの御用学者や御用タレントが、今後どういう言動をするのか、注意深く見ていたいと思います。(続く)
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