春はまだ遠いのか、震災後の天候はとても厳しいものがある。首都圏でこそ暖かい日もあったが、本稿を執筆した木曜深夜などかなりの寒さだった。まだ25万人超の方が避難されていることもあり、被災地には早く燃料や食べ物が行き渡って欲しいと切に願う。
先週の木曜夕方、都内にある筆者の事務所から富士山を撮影してみると、周りには不気味な雲が横たわっていた。いわゆる地震雲なのではないかと気になっていたら、今週になってまた余震が活発化。地球をなだめるにはどうすればいいのかと考えこんでしまう。
津波や原発の話題が大きすぎるので仕方ない面もあるが、この地震によって東京都でも死傷者が出ていることを忘れてはならない。九段会館の天井が地震で落ち、たまたま場所借りして卒業式を行っていた学校の方が被災したのである。後日、所用があり現場の前を通りがかると、統一地方選挙の選挙ポスター看板が出現していた。
また、たまたま立ち寄ったうなぎ屋では、店内のテレビが地震で倒れ、液晶パネルがひび割れてしまっていた。メーカーへの電話も通じない状況で、店主は「保証期間内なので無償で取替えてくれるはず」と言っていたが、地震による故障なので、メーカーの保証義務はないのではないだろうか。地震保険にでも入っていなければ、こういった事故の無償修理はほぼ絶望的だ。筆者も、事務所で棚積みにしてあったアンプやデッキ類など4台が地震による影響を受けた。築43年と古いマンションを借りたことを悔いても、後の祭りというものだろうか。
海外の震災報道を見てみると、NHKワールドやJNN、NNNといった日本の民放局のニュース素材を使用する国際ニュースチャンネルが増加中だ。3号炉がプルトニウムを処理するので、放水の際の最重要ポイントになっていると原発事故を解説するチャンネルもあった。なかには、どうしてこれだけの原発を一箇所に集めたのかと問うキャスターもいた。
被災地では電力の回復も難しく、改めてラジオが見直されている。震災後、総務省はコミュニティFMの設置基準を弾力的に運用しており、被災地のコミュニティFMの中には、中規模中継局並の10W級に出力UPを図るところも出てきている。一方、都心で受信するデジタルラジオの実用化放送はいよいよあと1週間あまりで終了という段階を迎えている。
しかし、そんなラジオや懐中電灯用にと皆が買い求めるため、全国各地で乾電池が不足している。筆者も先週末に秋葉原まで出向いて電池を探したが、ついに単一電池に出会えなかった。
一方、ラジオをPCで聴けるradikoは、特例としてエリア制限を解除。在京・在阪のFMラジオ各局へ全国各地からアクセスできるようになっている。
筆者も万世橋交差点でradikoを聴きながら一休み。秋葉原で大阪局を聴くのは不思議な感覚だが、どこの局も地震の話題ばかりなのが、やはり「今」の出来事なのだと痛感する。そしていよいよ明日からは、名古屋の各ラジオ局も配信に加わる。これら中京地区の各局を、ネット環境さえあれば全国で聴くことができるのだ。
多少落ち着いてきたものの、震災に伴う計画停電の影響で電車のダイヤも乱れている。また、企業の動向ではマンダリン・オリエンタル東京がレストランなどの営業を一時停止したり(その後、3月26日から営業再開とのアナウンスがあった)、シャングリ・ラ ホテル東京も休業するといった報道にも接した。シャングリ・ラ ホテル東京の幹部社員は福岡で業務にあたっているのだという。
こうした例に代表されるように、外資系企業を筆頭に本社機能を関西方面へと移す企業も日々増えてきている。なお、計画停電に関しては、道路工事やビル建築が規制されていないことに外国人は驚いているようだ。
何かが起こった際、多くの人がまず気にするのが家族や知人の安否確認だろう。携帯電話は地震からしばらくしても使えなかったが、PHSのネットワークは途切れることなく使用できた。ユーザーの総数が少ないため発着信規制がかからなかっただけではあるが、携帯電話に比べてPHSは基地局や本体の電力消費が少ないという特徴もある。災害への有効性という観点でPHSの価値を再考させられた。
それでは、テレビ放送での電力消費はどうだろうか。アナログ受信機の方がデジタルのそれよりも省電力で、送信側も数W級中継局なら、デジタルが同一電界強度を放射するのと比べて省電力な運用が可能である。
なにより災害復旧などに際しても、“ありもの”の部材で行え、単純な回路構成で済むというメリットも大きい。スカイツリーの運用が本格化する来春には、再度UHFアンテナの調整が必要になる世帯は、東京だけでも100万どころでは済まないだろう。
またビル陰難視聴世帯を救済する工事などが、被災地の復興を優先せねばならないため滞るであろうことも自明である。計画停電に関連する節電の一貫として、一部地域ではアナログ停波を先行実施ところも出ているが、こうしてみると、この状況下におけるアナログ放送の価値をもう一度考え直すべきなのではないかと思えてくる。
さて、ここで一度視線を海外へ移そう。ロシアの国際総合局では、ウラジオストック付近や樺太でガイガーカウンターを手にした方々が活動している映像に接した。言葉が判らずとも、画や地図などの「テレビ」がもたらす情報量に改めて唸らされる。
「惑星」という意味の名前を持つこの局は、ユーロ圏とアジアのニュースが充実している。リビアのネタもあったが、やはり東日本大震災に割く時間が多かった。
放送のデジタル化は、欧米の場合は7割程度の世帯がケーブルテレビを利用していたから、地上波の完全停波に持っていけたという面が大きい。さらに付け加えれば、数十W以下の親局からなるLPTV(Low Power Television)を中心に、まだまだアナログ放送を続けているローカル局も数多い。上記で触れたロシアとて、地デジはほとんどの世帯がケーブルテレビ経由での視聴だという。
今回の震災にあって、多くの放送関係者が必死に原発や災害報道に汗している。また、1日当たり数億円の広告損失にもめけず、震災が番組改編期間にぶつかった事態にも動じずに番組の放送を維持している。その姿には本当に敬意を表したい。
だからこそ、そろそろ7月24日の迎え方を議論し始めてもいいのではと思う。
「何年も前からの決定事項だから」とか、「コストの問題」「急に予定を変更されると立ちゆかない組織が出る」など、個々の事情はあるだろう。しかし、そうした議論を一度リセットして考えないと、想定外の有事に備えられぬのでは、と危惧している。
文京区のさくらまつりは記念すべき40回なのだが早々に実施を取りやめたという。このように、東日本を中心に様々なイベントが中止・延期されている。おそらく7月24日も計画停電は続いているだろう。そうした中で完全デジタル化の記念行事を行うことになるのだろうか。何のイベントもなく地デジ化するのというのも後味が悪そうだ。
いっそのこと、電力が50Hzの地区でのみアナログ放送の継続などという選択も考えてはどうだろうか…などと少々弱気な折衷案を提案してみたくなる。そうそう、計画停電時にはAMラジオがびっくりするほどよく聞こえたとの友人の報告もあった。

話を地上から空(衛星放送)に移すと、完全デジタル化を果たすWOWOWが、3月29日から株式を一部上場に指定変えする。28インチのブラウン管テレビを通してアナログ画面で久々にプロモーション画面を観たが、その映像も相当キレイだった。完全デジタル移行に少しだけ名残惜しさも感じてしまう。
それはともかく、BSでフルハイビジョンの画質を3系統所有する贅沢な構成は同局のみとなるわけだ。なお、フルではないもののハイビジョン画質ではJ Sportsが4系統を使用する予定。個人的には、3系統目で洋楽ライブや邦楽チャート、アート、絵画などの芸術専門チャンネルをやっていただきたいところだが。
そして、衛星放送史における、非常に大きな出来事が月末に控えている。NHK BSの再編である。これに関連して、アナログ放送でBS 1とBS 2を久々に視聴してみた。
画面には、3月25日の朝からEPG更新情報が送信されるとの案内が表示されていた。4月1日にEPGからBS 2が消えることを考えると、おそらくこの3月25日からの情報を受信すれば、画面の端に表示される放送局ロゴが「BSプレミアム」へと変更されるのではなないだろうか。
BS-hiという名称もなくなってしまう。しかし、現在のところテレビ番組ガイド誌等でもそのことにはまったく触れられていない。ひとつのチャンネルがNHKの放送システムから消えてしまうというのに、この状況。一抹の寂しさも感じる。
さて来週の本稿では、このBSチャンネル更新の模様をレポートしたいと思っているため、4月1日(金)にお届けしたい。…などと書きながら、筆者はいつものように、NNNがノースクランブルで中継する東電本社会見をチェック。放射能問題が広がるばかりであるため、会見会場に駆け付けた記者もヒートアップしている。スカパー!でそろそろ「原発専門チャンネル」を開局して欲しいなどとも思ってしまう。冗談ではなく、これはかなり公共の福祉に資するのではないだろうか。