平成18年以降の学位取得者の紹介
この度、HTLV-I感染と市中肺炎の関連についての臨床研究で、学位をいただくことができました。今まで、長きにわたりご指導いただきました藤田次郎教授、齋藤厚名誉教授、比嘉太先生、屋良さとみ先生、平田哲生先生ほか、ご協力いただいた医局員の先生方に深く感謝いたします。
今回、第一子出産後、フルタイムで働けない中,学位論文を書いては,というありがたいお話をいただき、2〜3年かけ,ようやく論文を完成させることができました。基礎の実験は組まず,過去のデータ解析の検討であったため,多くのカルテに目を通させていただき,子育てで満足に働けない状態の中,過去,そして現在臨床の第一線で日々診療していらっしゃる先生方に頭の下がる思いで、取り組ませていただきました。
成人T細胞性白血病ウイルス(HTLV-I)は、九州、沖縄地方に多い成人T細胞性白血病の原因ウイルスですが,感染者のうち、白血病を発症する方はごくわずかで、大部分の方はキャリアの状態で一生を終えます。ただ,近年、HTLV-I感染自体が、免疫機能に異常を来すことが報告されており、今回、私は1991-2007年に入院した患者様のデータ解析から,HTLV-I感染と市中肺炎の関連を検討し,HTLV-Iの感染自体が市中肺炎を引き起こす独立した危険因子であるとの結果を示すことができました。この結果が、今後、肺炎診療の上で、重症化の予測など臨床の役に立てば,と考えております。
また、現在、私は病理部にお世話になっており、今回の研究を生かし,今後はHTLV-I感染の肺に与える影響に関して,病理の観点からも検討を続けることができれば,と考えております。医局員の先生方には今後ともお世話になることと思いますが,よろしくお願いいたします。
今回、非結核性抗酸菌感染症の病理組織像についての研究で、医学博士の学位を頂くことができました。これまでご指導いただきました藤田次郎教授、結核予防会結核研究所抗酸菌レファレンスセンターの菅原勇センター長、島根医科大学の塩飽邦憲教授、高知女子大学の山根洋右学長に深く感謝いたします。
非結核性抗酸菌のうち臨床上、最も重要なMycobacterium aviumは、易感染宿主に経腸的に感染する事で播種性感染を引き起こします。本件研究は、その病理組織像をブタを代替材料として用いて行ったものであり、経腸感染後リンパ行性に播種し、肝臓へは経門脈行性に播種することを示しました。現在、実際のAIDS患者の剖検材料を用いて、そのことを検討した上で、局所の細胞性免疫機構の低下あるいは欠落が播種に関与する事を免疫組織化学的手法により調べています。今後、さらに研究を進める事によって、臨床に直接還元できる知見を得るよう、より一層の努力をしていく所存です。
結核菌も含めた抗酸菌感染症の病理、免疫学的な研究にご興味のある方がいらっしゃいましたら医局までご連絡ください。
この春、お蔭様で無事学位を取得させて頂くことができました。つきましてはこの3年間、手厚くご指導していただいた森直樹教授をはじめ、研究生活を支えていただいた藤田次郎教授、金城福則診療教授、病原生物学教室のスタッフや第一内科医局員の先生方には本当に感謝申し上げます。
この3年間は長かったようで短かったような不思議な気分です。卒後8年目にして遅い?大学院入学をさせて頂き、私の実験テーマは基礎医学に基づいた研究だったため最初は見るもの、聞くものすべてはじめての世界でとまどいました。学生時代に習ったはずのピペットマンの使い方すら記憶から消え失せていて実験手技や、単語を覚えるのに必死の毎日でした。それが1年もすぎると一通り実験手技を覚え、2年目にはそれをさらに発展させることができ、3年目には知識を深めながら実験することができました。
私はHelicobacter pylori 感染が,慢性胃炎において重要な炎症性サイトカインであるインターロイキン12を誘導することを証明しました。Helicobacter pylori 感染により引き起こされる疾患は、胃十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎をはじめとする炎症性疾患、またそれらの炎症が長期化することで起こる胃癌、MALTリンパ腫など多岐に渡ります。特にHelicobacter pylori 感染と胃癌の関係はいろいろな研究で証明されており、また、現在様々なサイトカイン、細胞内シグナル分子を標的とした分子標的治療が注目されており、今後の胃癌予防、治療の観点からも本研究は影響を与えることができると思われます。
この大学院生活で臨床医学しか知らなかった私が基礎医学を学ぶことで、臨床と基礎はやはり一体なのだと痛感させられました。また基礎医学の重要性を改めて思い知らされました。
今後はこれまでに培った知識や実験手技をいかして、いままで試験管内の実験でしたが、どうにか沖縄における臨床研究に結び付けられないかと考えているところです。
一緒に研究に参加してみたい方、基礎医学も学んで見たい方、大募集中です。
これからもまた皆様のご協力をお願いすることになると思いますがよろしくお願いします。
今回、“レジオネラ感染に伴う肺胞上皮細胞傷害の機序とその制御”に関する研究で、医学博士の学位を頂くことができました。また本年度医学研究科(博士課程)修了生を代表し学長賞も同時に受賞することができました。大学院で学んできたことをこのように高く評価して頂き、大変光栄に感じております。手厚くご指導して下さいました、藤田次郎教授、健山正男准教授、講師の比嘉太先生、また、研究に専念できるよう素晴らしい環境を与えて下さったその他多くの医局員の先生方に深く感謝しております。
レジオネラ研究は、これまで、マクロファージを用いた実験が盛んにおこなわれてきました。本研究では、レジオネラ肺炎が重症化する病態を、レジオネラ感染に伴う肺胞上皮細胞傷害の観点から検討したものです。肺胞上皮細胞傷害の機序、病原遺伝子と細胞傷害との関連、薬剤を用いた細胞傷害制御の可能性について検討しており、これらはレジオネラ感染病態研究における新しい知見と考えられております。
私は、当科に入局後約7年間、呼吸器内科医として臨床の現場で多くの症例を経験させて頂きました。臨床面ではある程度のことはこなせる自信は出てきてはおりましたが、それぞれの疾患の病態を的確にとらえて診療しているか疑問に感じることも多々あり、疾患の本質からじっくりと勉強をしてみたいと考え思い切って大学院への進学を決意しました。
大学院で私が取り組んだテーマは基礎的な研究ではありましたが、レジオネラの病態に直接関係するような臨床に非常に近いところでの研究でした。実験では多くの失敗や困難にぶち当たりましたが、失敗のなかにも何かひとつは成果をみつけ、それを次のステップにつなげていくその過程が非常に勉強になりました。大学院で勉強したことで、これまでとは違った面から患者様や疾患を捉えることができ、臨床の幅を少しでも広げることができたのではないかと考えております。大学院では非常に有意義な経験をさせて頂きました、どうも有難うございました。
当科では、レジオネラ以外にも、感染症・消化器・呼吸器に関連した多くの研究に取り組んでおります。臨床を経験しながら興味が出てきたことに対し色々な方法で取り組んでいけるところが当科で研修にあたることの大きなメリットだと思います。興味のある方はお気軽にご連絡下さい。
今回B型肝炎ウイルスの自然経過に関する臨床研究で学位を頂きました。学位取得に関して、以下の方々に感謝申し上げます。
・論文の内容や英文作成に関して御指導を頂いた諸先輩方。
・外来や病棟業務を行いながらの臨床研究であったため、私に研究のための時間を与えてくれた、同じグループの先輩後輩の先生方。ありがとうございました。
学位論文の内容はB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子型の違いを踏まえて自然経過を検討し、我々の治療適応を提示した内容です。沖縄県はC型肝炎ウイルス感染者も少なく、B型肝炎ウイルスもおとなしいタイプであり、全国に比べて肝疾患に関する研究はまだまだです。特に症例数が少ないため、臨床研究を行うのは大変ですが、逆に沖縄県の肝疾患はHBVを含め全国にはない特徴があり、むしろその点に関して今後も臨床研究を続けて行かなくてはいけないと考えています。
今回の論文作成・学位収得は自分自身にとっては非常に大きな意味がありました。我々臨床医が臨床研究を行うにあたり、症例の貴重なデータを確実に集積し、それを皆に還元する方法。わが師匠佐久川廣先生(ハートライフ病院副院長)が以前から言われていたことですが、データ収集が非常に重要であることを痛感しました。さらに当たり前のことですが、患者さんから得られた貴重な情報を大事に、無駄しないことなどを改めて認識できたことが貴重な経験となりました。このような経験をできたこと、とても心地よく感じています。
また当第一内科には仲宗根啓樹先生という先輩がいましたが、この先生を私なりに表現すると“人に厳しく、自分にはさらに厳しい人”でした。非常に尊敬していた先輩なのですが、残念ながら若くして他界されました。私は仲宗根先生が亡くなる直前に学位をとる約束をしていました。人によっては学位取得が重要でない方もいると思います。しかし不器用な私にとって、仲宗根先生との約束は一大事であり、なんとか約束を果たせたことに安堵しています。いい感じでホッとしています。
今回私は論文作成・学位取得の過程及びその結果によっていい経験ができました。今回の論文が“世のため人のため”とは考えてはいません。ただの自己満足です。訂正します。ただのではなく“とても気持ちのいい自己満足”です。今、この文章を読んでくれている人は同じ同門の仲間かもしれないし、全然関係ない方かもしれません。今後、一緒に仕事をする可能性のある後輩の先生が、この“気持ちいい自己満足”を目指すのであれば是非応援したいと考えています。そうでなくても、この文章を読んでいるみんなにとって、目的を達成できた、“気持ちいい自己満足”を少しでも共感していただければ幸いです。
今回、糞線虫感染と自己免疫性肝疾患の関連についての研究で、医学博士の学位を頂くことができました。これまでご指導いただきました藤田次郎教授、金城福則診療教授、斎藤厚名誉教授に深く感謝いたします。
これまで糞線虫などの蠕虫感染者の間で、1型糖尿病や炎症性腸疾患などの自己免疫性疾患の発症が少ないことが報告されてきました。本研究は、原発性胆汁性肝硬変(PBC)などの自己免疫性肝疾患でも同様に蠕虫感染による発症阻害の可能性があることを、疫学的に示唆したものです。
もともと消化器疾患を専門にしようと第一内科に入局しましたが、大学院に進学し学位を取得することは自分には縁のないものと、当時は漠然と考えていました。入局して一年目の研修医のときに、偶然PBCと悪性貧血の合併例を受け持つこととなりました。いずれも自己免疫性疾患ではありますが、不思議と合併例の報告がなかったことから、当時私のオーベンであった仲宗根啓樹先生のご指導にて症例報告をまとめることができました。
その後、中頭病院にて消化器内科としての研修を行いましたが、指導医であった座覇修先生は糞線虫をご専門となさっており、糞線虫感染例を多数経験させていただきました。また同時期に、佐久川廣先生(現ハートライフ病院)のご紹介にて金沢大学の中沼安二先生のもとで肝臓病理を学ぶ機会を得ました。中沼先生は肝臓病理、なかでもPBCなどの胆道系病理の世界的権威であり、短期間ではありましたが多数の病理標本に接することができました。
卒後6年目に大学病院にもどることとなり、平田哲生先生より今回の論文のテーマである糞線虫感染とPBCの関連についてのアイデアをいただきました。当初は自分の理解もあやふやでしたが、佐久川先生より県内外での研究会・学会での発表の機会を設けていただき、考察を深めることができました。さらにこれまでの第一内科での糞線虫症例の蓄積に加え、県内関連病院の先生方のご協力によって短期間に対象となる症例を集めることができました。
ごく普通に消化器内科としての研修を行ってきましたが、振り返ってみると「PBCと糞線虫」というテーマに向かってまっすぐ進んできたようにも思え、結果的には論文博士としては短期間に学位を取得することができました。これも第一内科のすばらしい指導医の先生方に恵まれたおかげです。まだまだ若輩ではありますが今回の経験を後輩の先生方の指導に役立てたいと思います。
「緑膿菌感染防御におけるNKT細胞の役割」というテーマの論文が無事、アクセプトされ、医学博士の学位を取得することができました。ご指導していただいた藤田次郎教授、斎藤厚名誉教授、川上和義教授に深く感謝いたします。また、これまで支えてくれた大学院の諸先輩方、ならびに同期の仲間達にも感謝しています。
私は学生時代、部活動に精を出し、あまり勉強した記憶がありません。医師になり、もっと深く勉強してみたいという思いから大学院進学を決意しました。第一内科の川上和義前助教授(現東北大学教授)の研究グループは、年に1回は国際学会へ出席、発表し、論文の数も多い研究の盛んなグループだったので、何を研究するかは二の次で、このグループへの入学を希望しました。川上グループの研究テーマは感染防御における自然免疫の役割で、病原微生物としてはクリプトコッカス、カンジダ、結核菌、肺炎球菌、緑膿菌などを用いていました。自分の研究テーマが決まるまでは、これら複数の感染実験に携わることができ、非常にいい経験となりました。
2002年にハーバード大学のグループが緑膿菌性肺炎におけるNKT細胞の役割に関する論文をNature Medicine誌に発表しました。この論文ではCD1dノックアウトマウスを用いていますが、このマウスでは複数のNKT細胞サブセットが欠損しています。そこで我々はマウスの主要なサブセットであるVa14+NKT細胞のみを欠損したマウスを用いて、緑膿菌感染防御におけるNKT細胞の役割を再検討することにしました。その結果、Nature
Medicine誌とは異なる結果が得られ、オーストラリアで開催された学会でこのデータを発表しました。意外にも我々のデータを支持する声が多く聞かれ、非常に励まされました。これがきっかけとなりこのテーマで論文を書くことを決め、実験を重ねて論文を完成させることができました。
現在、臨床の現場で働いていますが、大学院時代に培った経験が生かされていることを実感しています。それは知識のみならず、物事を考えるときの思考回路についても少し変わった気がします。また、論文に書かれている内容を「先ずは疑う」という癖もつきました。そうすることで論文の欠点が見え、論文の質を評価できるようになった気がします。大学院という道を選択して本当に良かったと感じています。
学位取得に際して 平田哲生
15年にわたり第一内科で行ってきた糞線虫に対する研究をまとめた論文で、医学博士号を頂くことができました。これも藤田教授、金城福則診療教授、前教授の斎藤名誉教授のご指導によるものと感謝しております。
グループ紹介の消化器のページで述べておりますように、これまでに糞線虫グループは糞線虫症の診断法、治療法を確立し、沖縄県の医療に貢献してきました。この業績によりこれまで3人の先輩医師が学位を取得しております。また、その成果をこれまでに100編以上の論文として投稿し、国内外に発表しております。私の今回の学位論文はこれまでの成果をまとめたものです。
当科では患者様が入院する際には糞線虫と成人T細胞性白血病ウイルス(HTLV-1)抗体の検査をほぼ全員に行っております。その理由は沖縄県では両疾患が多く存在し、しばしば病気の治療に影響を及ぼすことがあるために必要と考えるからです。このような背景のもと1991年から2004年の間に3360人の患者様のデータを解析したのが今回の学位論文です。この研究により、HTLV-1感染者においては、非感染者と比較し、@有意に糞線虫感染率が高い、A血清IgE値、および末梢血好酸球数が有意に低い、およびBイベルメクチンによる駆虫率が有意に低いことが明らかとなりました。これらの結果はすぐに日常診療に応用できるものです。
この論文の特徴は臨床の現場で蓄積されたデータを解析した臨床研究であるということです。つまり実験を行ったものではなく日々の診療におけるデータより得られた知見であります。入院患者様一人一人のデータのつみ重ねですので、第一内科全体の協力を得て初めて出来上がった研究です。日々の診療はとても大事です。しかし、そこから得られるものをまとめること(臨床研究)も重要です。医師一人で診療できる(救える)患者様の数には限りがあります。しかし、臨床研究により得られたデータを論文化することで数多くの患者様を救える可能性があります。それが臨床医にとっての責務だと思います。また、より高い志を持って日常の診療に従事することができるようになると思います。
最後に当科では糞線虫以外にも多数の臨床研究を行っています。興味のあるかたはお気軽にご連絡下さい。

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