事件【主張】出荷停止措置 かえって不信募らないか2011.3.23 03:05

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【主張】
出荷停止措置 かえって不信募らないか

2011.3.23 03:05

 食品衛生法の暫定基準値を超える放射性物質が検出されたことから、政府は福島、茨城、栃木、群馬の4県産のホウレンソウ、カキナと福島県産の牛の原乳の出荷制限を各県に指示した。

 この指示を受け、生産農家ではホウレンソウや原乳の廃棄作業を始めている。酪農家は乳牛をどうするかも考えなければならない。断腸の思いを抱えての作業であることは察するに余りある。

 検出された放射性物質の値について、枝野幸男官房長官は出荷制限を決めた21日の記者会見で「暫定基準値を超えたものを口にしたとしても、健康に影響を与えるものではない」と述べ、消費者に冷静な対応を求めた。

 また、出荷制限が県単位で行われていることについて厚生労働省は「原産地表示が県単位で行われているから」と説明している。

 広く網をかけるような形の制限は「少なくとも店頭で購入する食品は安心です」というメッセージを伝え、風評による買い控えなどを防ぐためだという。意図は理解できる。国民が日常、口にする食品まで疑惑の眼差(まなざ)しで購入しなければならない事態は避けたい。

 だが、政府が発しているメッセージは逆に疑心暗鬼を募らせるものではないか。現在のやり方にはむしろ、そうした懸念が残る。

 食べても健康に影響がないのにどうして出荷停止にするのか。そのあたりが割り切れないと感じる人も少なくない。なぜ、県全体に制限がかかるのか、ほかの作物も暫定基準値を超えれば出荷停止になるのかといった疑問も残る。

 疑問が次々に出てくれば、政府の判断の信頼性が著しく低下し、風評被害を誘発することにもなりかねない。それを防ぐには、気休めではなく科学的エビデンス(根拠)に基づく説明が必要だ。

 現行のような危機下の政策判断には、政治家だけでなく、放射線医学など各分野の専門家の意見が必ず、反映されている。枝野官房長官の記者会見には、各分野の専門家が必要に応じて同席し、技術レベルの説明を分かりやすく提供することも大切である。

 国民は根拠のない安心を求めているわけではない。安全の確保を基本にした情報がきちんと伝えられていれば、過剰に反応することなく、冷静に行動することができる。日本の国民に対するその程度の信頼は政府にも必要だ。

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