菅直人首相(64)の元秘書で、おひざ元・東京都武蔵野市の民主党市議が、東京電力に要請を行い、選挙区内の「計画停電」見送りを実現させたことを誇示するビラを配布していたことが24日、分かった。1都8県の延べ5000万世帯が不便と混乱を強いられているだけに、与党の力で停電地域が左右されたとすれば許し難い。東電は否定しているが、政府与党の信頼性を揺るがしかねない事態だ。
問題のビラを配布していたのは、武蔵野市の松本清治市議(41)=民主党。A3判の紙を裏表4コマずつ8コマに分けたビラで、看過できない記述は裏面右上の部分にある。「松本清治の要請が実現しました」として次のように続く。
「東京電力武蔵野支社から3月16日21時30分に、武蔵野市内地域、病院等と〈第1グループ〉は当面(3/17 9時20分実施分より)、計画停電の対象地域から除外するとの連絡がありました」
自民党系の武蔵野市議は「素直に読めば、自分が東京電力武蔵野支社に圧力をかけた結果、計画停電を阻止したようにしか思えない」と話した。インターネットの「ツイッター」でも「便宜供与だ」「利益誘導」などと批判が続出している。
松本氏はどんな人物なのか。プロフィルによれば、松本氏は東京都生まれで、國學院久我山高校在学中に野球部で甲子園に出場。國學院大4年時には、ジュノンスーパーボーイグランプリに入賞した。卒業後は故・後藤田正晴元官房長官に政治を学び、1994−99年には、菅首相の随行秘書を務め、薬害問題にも取り組んだ。99年、武蔵野市議に当選した。菅首相夫妻は、松本氏の結婚式で仲人を務めており、親代わりともいえる。
武蔵野市は菅首相のおひざ元で、第1グループの吉祥寺南町は豪邸が立ち並ぶことで知られている。仮に、元秘書の口利きで“首相の地元優遇”“金持ち優遇”がまかり通っていたとしたら、庶民の怒りは推して知るべしだろう。
24日午前、電話で松本氏を直撃すると、「武蔵野市の停電を止めろ、とは言っていません。全国的な話として『停電する』といって停電しないなど混乱が起きた。このやり方を変えるように要請したのです」と便宜供与などを否定し、事情を説明した。
「14か15日、東電本社のカスタマーセンターに電話し、武蔵野市議という身分を名乗り、要請をしたいと伝えました。『武蔵野支社に電話してほしい』といわれたが、『全国的な話だから』といい、携帯電話の番号を伝えた。担当部署から折り返しがあったので、要請を伝えた。経済産業省にも代表に電話をして担当部署につなげてもらった。どちらも、『菅首相の元秘書、民主党所属』とは名乗っていません。ビラの表現で誤解を招いたことは反省しています」
東電の武蔵野支社・地域コミュニケーショングループは「まったくの事実無根。市民から苦情も寄せられていますが、支店として松本市議から要請を受けた事実は一切ありません」と話している。
そもそも、有力者からの要請で、計画停電が曲がることはあるのか?
東電多摩支店広報担当は「仮に要請があったとしても、それによって計画停電のエリアが左右されることはなく、菅首相の関係者であっても同様です。病院の通電については、その規模や重要度を個別に判断して対応しています。松本市議が当社にどういったコンタクトをしたのか、事実関係を確認しております」と話している。こんなところでも菅首相の指導力不足が露呈したのか。