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[26499] ふわふわ地獄夢想
Name: 虹夢のクゥァ=マァゥア◆9eab48a5 ID:84eadff9
Date: 2011/03/18 20:37
作者前書き

続きを書こうと思えど思えど指は進まず。
そこで、「いっそ投稿してしまえば、やる気が出る筈」
「このまま腐っていてはいけない」と思い、
投稿してみました。

私は正気ですよ?
前書きなのに、前では無い。しかし、私は正気です。

追記
矢張り前書きは前の方がいいかと。私は正気だった。



[26499] ふわふわ地獄夢想 1
Name: 虹夢のクゥァ=マァゥア◆9eab48a5 ID:84eadff9
Date: 2011/03/18 21:58

ギシリ、とベットの軋む音で私は目覚めた。(或いは、その音は世界の始まりという錯覚であったかも知れない。)
私は窓の外の赤く、くすんだ軟らかな透明の光が視界に刺さったのを感じ、 から現実へと覚醒した。
ぼんやりとした意識に映る明瞭な視界から衛生的な白い壁面が白百合の花の様に優し気な印象を私に与え、夕暮れのやや薄影が射す中での統一された色合は心の安寧をもたらした。その病室へと開放的に開いた窓からは玲瓏たる風に運ばれた外界の新鮮な大気が入り込み、世界への認識の冒頭としては壮麗なものであると感じた。窓から覗く風光は夕暮れ時特有の優雅に地平線を覆う一面のフラクタルな雲に太陽の赤みが細塵の如く繊細にばら蒔かれた黄金色に輝く光が散乱され、神々しい複雑壮美な絶佳を成していた。……しかしそれ程までに、壮大に感じ居るのは自分が矮小な存在で、非此世的な幻想然とまで麗しく想うのも己が醜悪だからではないか。……私は脳裏に思い浮かんだ自虐的な言葉に、自分には楽しい事が有ると萎縮してしまう酷い性質が有るのを想い出した。
ふと、覚醒しつつある脳のシステムには何処か不調なのか、漠然とした違和感を感じたが、気にしなかった。
私は確か精神病院にいるのだが、どうにも其処で何をしているのか想いだす事が出来なかった。

……いや、確か、私は今自分が何者であるかではなく、如何するかを考えるべきだった筈なのだ。
                                                             』
「私」というものは「他者」が居て関わり初めて生まれる物なのだから。教えられる規則も道徳も教養も物理法則もどれも自分一人の為に在るのではないというのは考えるまでも無い。人格なんてものは「他人」が居なければ自覚しがたい。自分が物語の中でどんな役割を背負わされているのかは終末が訪れる迄は解らないモノだ。わたしの人格は私の為に在るのではない。「他者」の為だ。勿論「他者」とは他人の事ではない。なぜならどの他人も当人にとってみれば「私」で有るが故に、この観念は全ての「他人」に対して当てはまるものだからだ。

ならば「他者」とは何か?――それは全てにとっての他人。全ての外。非存在であり、全てを客観視する在り得ない視点。小説で例えれば読者。いや、存在しない理想の読者。物語に意味を与える読者のことだ。

だから読者の為に存在しているのだ世界は。勿論楽しませる為とは限らない。良く分からない気分にさせたり、感動させたり、失望させたり、憤慨させたり、発狂させたり、達観させたり、呆れさせたり、苛立たせたり、恐怖させたり、納得させたり、見下させたり、特に何も感じさせなかったり――色々だ。そしてそうした読者の反応が世界の意味なのだ。例えば僕が己の脳髄に手を突っ込んで掻き混ぜて死んで、其れを読んだ読者が嘔吐感を感じたら、屹度僕はその為にそうしたのだ。

まあ、勿論その読者はこの物語の意味を正確に理解してくれる人でなくてはいけなくて、そうでなければ僕達には正しい意味が与えられずあまりにも報われない。しかし、そんな人となるとそれは……僕しか居ない!!この世は地獄だ!!そう決めた。そう決められた。僕に。
僕が僕に。――なぜなら、僕が、読者だからだ。

私は再び窓の外から射す光を見やった。

窓の外、其れは縁取られた世界。閉鎖的な部屋から見る解放された現実の光景。しかし、縁取られた世界など部屋の模様の一つに過ぎない。なぜなら私は視ているだけだからだ。この部屋は陰惨と言うまでの病的な白濁色に塗りつぶされていて、吐き気がする。吐き気が眩暈を起こし、眩暈が気を滅入らせ、体調が悪くなり、力が入らなく、活力も出ないので全身が鈍磨し、体中の鈍磨した重みが金縛りのように身体を蝕み、動けなくなった私は、自身が生きたまま屍と化したかのような錯覚を覚え、そのイメージは滅入った気を摩耗させ、譫妄状態の様に、悪夢が夢の内から這いずり出て来て現実と混濁し、全身の麻痺は極限に達し、結果、過集中した思考回路が絶望感を生み、生み出された絶望感は悪夢と合わさり邪悪な妄想を呼覚まし、妄想が現実を汚染し、汚染された現実が認識を妨害し、ノイズだらけになった世界から冒涜的な言霊が木霊し、何時の間にやら自身の姿は形容し難く見る者へ嫌悪感を催す矮小な体躯の禁忌的で凄惨な身の毛が弥立つ程の脆弱さの腐肉じみた拒否感を与えるのた打ち回る直視できない蟲の様になった気がして、白濁色の壁面にさえ清浄過ぎて人体に有害な紫外線じみた眩さを感じる。そんな部屋の一模様の外界の景色はやはり常識の埒外の既知概念外に対する埒外の彩色で、彩色と言ったのも唯の色の集まりとだけ認識しなければその余りの熱狂的な悪意の混沌の成す狂態に私の薄弱な脳髄など焼き焦げてしまうだろうからだ。

その際限の無い空前の、しかし絶後である事を心の底より懇願したいあのおぞましさを具体的に言うならば、先ずは理性の内に表せるあの「雲」の事から話そう。
 遥か巨大で、人智の内に其の僅かばかりの片鱗さえ描くことが不可能が故に、常時の意識など無意味に感じる程に精錬された、日頃常軌を逸した修行に耐え非凡な才能の上に更に昇華した比類なき才知を手に入れる事によって得た精神の理解を持つ一流の魔術師達の内の高位な者の中の一握りから厳選された者のみがようやく辿り着けるかどうかの神の領域、その自ら把握しきれない深淵なる心理の領域の深淵な部分の末端にて、ようやく塵芥の様な雀の涙ほども無い薄弱な理解が得られる「非現実的怪異の未知ながらに感じる不気味な不吉さの向う側に存在する其の理体」の持つ非現実的怪奇の概念の群が混ざり合い、浸食してくるような自ら把握しえない未知の凄惨で、まるで自らを構成する常識の理に編み出された世界観を一瞬の様に暴力的で、拷問の様な永劫の中で粉々に踏み躙り、灼熱に照る飴色ような溶ける甘い悪夢に溶かされる狂想のなかで感じる柔かさを持った幼虫の群れが、肺の中に詰め込まれているような感覚を、あの「雲」からは感じる。
 死んだ魚の目と、おぞましい呪詛や不可触の知識、邪悪に満ちた儀式をページ一面に極細やかに隙間なく書き記した後に、その惨たらしい内容を理由に焚書に逢わぬよう見掛けだけ漂泊して現れた白紙の白を併せたような白濁色の、濁りに濁った白さの内に、時折漏れ出す光は、雲とは対照的に過剰な清絶で、見ているだけで全身の細胞に濃縮された強力な滅菌剤を流し込まれたような嘔吐感がするように、異常に純粋な聖的な光の、尋常ではなく高濃度な塊であるのだが、そのような人に対するには逸脱した邪と聖が混然と交り合う様は此の世の終末のような凄絶な風景で、認識不可能な極小の一瞬を観察しただけで眩暈を覚えそうな程の病的な質の暴力の奔流をあの雲は持つ。
 しかし、冷静に考えればそれはあの雲の本質ではなく上辺だけの些細な事柄にしか過ぎないと私は気付いてしまった。あの善悪の概念の両極の最端を挽き合わせる事が、何よりも恐ろしいものなのだ。善と邪を双方従えると言う事はそれらの成し得る概念と同質でありながら、それらが成し得る全事象を超越した存在でなければ成らない筈だ。しかし、そんなもの理解できない。なまじ直接に理解できないために、理解を越えているという事が解り、善と邪、その概念の理解し得ない閉ざされた最果て、感覚の源泉であるイデア界が在ったとしてもその内に収め切れるのか疑念を懐いてしまう矛盾せずに非存在である恐ろしいなにかよくわからないもの。観測から帰納された、感覚の延長線にて、抽象的に演繹された超越。それがあの雲の持つ恐ろしい本性なのだろう。

次にその向うの「夕陽」だ。あれは――
――いや、もう止めよう。今ので自分が如何するべきか、判った気がする。外の景色を観て、私は自分の本質を垣間見た気がする。抱えたのは朦朧としたイメージだ、しかし自分がこの光景に対しこの様な見方をする理由を理解するにはその程度のイメージで十分(うんざり)だった。……そう、私は恐らく禁断の知識により精神の、取り分け記憶の面に不安定なぶれを患った、……魔術師なのだ。

私は窓からの外から目を逸らした。
どうもこの病室に居ると悪夢めいた誇大妄想的強迫感に見舞われるようなので、病室の外へ出る事にした。

廊下に出てまず目についたのは夕陽を受けて鮮血に塗れた臓物の様に潤然と赤く照り輝く廊下がじゅんじゅんと続き、その先がまるで懊悩する脳髄が混迷しているような昏冥へと続いている光景だった。その光景に何処か記憶を揺さぶられたのか塵々と全身がノイズへ溶け込む様な痛みが脳裏から視野にかけて奔った。
暫らく、歩いていると私はとある病室の前に辿り着いて居た。




[26499] ふわふわ地獄夢想 2 
Name: 虹夢のクゥァ=マァゥア◆9eab48a5 ID:a523c051
Date: 2011/03/23 23:27
病室の邪神


鮮血塗れの臓物廊下。そのイメージはこの病室に近付くにつれ現実感を増していた。
私は、病室のドアノブを見つめている。
病室のドアの窓からは、夕暮れの黄赤い光がスープのように美味しそうに透き抜けている。だが、そのスープは明らかに猛毒入りだった。
臓物色の赤い光に、触れれば崩れる程に脆い柔かさとベタリベタリと張り付く様で少年のように若々しく、飽食に満ちた脂肪が此の世全て
を見下ろす様な邪神の如き浮遊のふわふわ感を持った黄色の光が遍在するように浮かび上がっている。

ドアの窓からの光……。
ドアの向うは一体……?
頭痛が込み上げて来る。

あまりにもの愚かな飽食を思わせる黄色。
世界中の生命に重税と圧制と重労働を強いて富を絞りつくし、その富で暴食を極めて創り上げた、脂肪に満ちた肝臓を、無数の宇宙から一
つづつ巻き上げて、一口で平らげ続けた結果溜まった、とでも言うかの如く得体の知れない脂肪の様な、黄。
吐き気がする程に、気味が悪い程に、強烈で濃密で耐え難い程の”幸福”を、心の底から下らない者だと嘲笑いながら溜め続けている悪魔
を、私はその色の中に幻視した。

ドアの向うは……。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

疲弊した意識にノイズが奔る。
無数の生命が混沌と白痴の禁忌的なフルート音の中で腐敗して、黄色の膿に形を変え、その膿が絶えず形や大きさを変える虹色の輝く球状
卵の集積を産卵し、球状卵の黄卵が白身を腐敗させ、溢れだした黄色が世界を浸食する風景が視界を蹂躙した。

屹度あの部屋から出た比類なき冒涜の邪知を持った「宇宙全体に無駄なく図書棚をぎっしりと均一に詰め込んで、触れるという未来が決定
された時点で知性ある生命ならば例え一流、いや空前絶後史上最高の才能を持った魔術師でさえ必然的に発狂する程に過剰と思われる程の
高密度な禁術を施して、比べれば超高密度集積回路など子供の落書き帳程度にしか思えなくなる様な大容量の記憶装置と化した魔道書を、
その図書棚に詰め込んで完成した宇宙サイズの魔道図書館でさえ、その存在の真実に対しては、まるで十分とは言えない程の知識しか記し
切れないであろう程の存在」の持つ意識の、太陽を30km前にしたミミズの如く小さな欠片の飛沫が、自分の意識にほんの数プランク時間の
間、突き刺さった為だろう。


銀河を構成する星星の如く途轍もなく厖大な嫌な予感が、まるでこの病室が記憶が霞むように遥か永い歴史の末端より宇宙に於ける有りと
有らゆる悪意の質量の中心だったとでも言うかの様に揺ぎ得無い存在感を以て、私の脳裏に飴色に溶けかかった鉄細工のペンで、この世界
全てを原初より最果てまで呪い尽くすような旧支配者への賛歌を高らかに書き上げた。

私は耐えきれず発狂した。が、元々私は発狂しているので冷静にドアノブを開けた。ドアを開ける事くらい造作も無いのだ、私は魔術師故
この程度の悪夢は、何も無くとも自らの想像力が有り余って、見る事がある位には発狂しているのでドアを開ける事くらい造作も無いのだ。

私は冷静。私は、冷せ――
            ――銃声。やや耳触り。
              痛覚、圧塞感、その喪失感は肉が妙に狭く追い遣られる窮屈な感覚だった――
ドアを開いた瞬間――左胸やや下辺りを衝撃が駆け抜け、腹腔を突き抜け肩甲骨まで一直線に、鮮血の滲む穴が雑然と開いた。

しかし、私は、そのような事を、気にする余裕を、失っていた。見て、しまったからだ。
私は戦慄いた。
現実を汚された気分だ。記憶を汚染された気分だ。浮かぶのは怒りで有るべきだが、対峙出来るモノで無かった。素直に恐怖だけを感じた。
故に私は戦慄いた。
この病室は――病室などで無い。
まるで、外宇宙から見た世界の一部である地球全体そのものだった。
円、楕円、放物線は、円錐の切れ込みの角度の違いでしかないように――。
宇宙の外から見た宇宙を円錐に例えれば、時間空間で変化しているように思える宇宙の営みは宇宙の外からは切れ込みの角度の違いでしか
ない。
この部屋は正に宇宙の外から見た、地球の全時空のデフォルメされた模型だった。
動かない白色の壁面中が、全て、静止した喧騒に満ち溢れていた。
活きたままの標本。
この病室の外を闊歩する人類、この星の外に生息する宇宙生命それら全てを指先一つ動かさずして、生皮を剥ぎ、余計な肉を削ぎ、骨の各
部分を丁寧に折り、飛び出た血管を透明樹脂で固定し、切り取られた腹の肉の奥の内臓が、透明な保護膜の向うで生き生き鼓動し、それら
の標本が生活の営みの面影を寸分の一も失わずしてその場に停止し続ける風景を連想して私は軽く嘔吐きかけた。

しかし、私程の魔術師でなければ、唯の雰囲気の明るい病室にしか見えまい。私も無意味に耐得る事などしない。意識の操作により視界を
気の休まる方へ切り替えた。

そして、病室の中心、最も早く視界に現れていながら本能から意識を逸らしていた部屋の主に目を向けた。

怖い……。怖い怖い怖い怖い怖い……。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。果てなど無く怖い――。
それでも、目を逸らさず、見据えた。



――何もなかった。
そんな訳なかった。全てがあった。いや、全ては無いのだ。

                         少年が居た。

少年は全てだった。少年はなかった。そのような訳があった。
                           

細くしなやかな腕の手元には装飾の施された小さめの散弾銃が、硝煙を昇らせていた。
目のピントは有っているのに、ぼやけて明瞭としない長めの髪は確かに色が付いているという色は無い色があった。茜黄青虹紫の多重に、
彩られ、黒色の透明がかった白くくすんだ柔かで決して動かない印象を与える髪の色彩は色彩に非ず、だが色彩と認識。
つまり、白い髪をしていた。
まるで作り込まれた様に理想的、というには視界に対し過剰に馴染む違和感のない薄気味悪さを覚える程有機的な輪郭は、実に素晴らしく
欠陥欠損等の類とは無縁で冒涜する所の見当たらない、冒涜の塊のような神聖に見える。
薄く淡い緑の瞳は暗く暗く髪の向うで影に隠れて、斜陽が作る長く長く伸びる影の様に威風堂々と揺らぐことなく、何処も見つめない儘に
陽が刺す、実は希少な、日常の世界から、果て無く広がる、影の世界の様で。

全体的に見て、安らかさを覚える風貌だったし、心休まらない風貌でもあった――
――というのも恐らくこれは、今私が耐え難い苦痛、重圧、眩暈、嘔吐感、を感じている事から推測するに、理解不能、解読不能の怪物が
少年。であるところの夢現にて無境界である無形の怪物は有限ではなく無限の中核に棲む、原初の混沌は暗愚の実体であり沸騰。即ち沸騰
する万物の王は混沌の核は規則的なストカスティックの無軌道な決定にのた打ち廻れ廻れ廻れまわるのは。ですから。決定は夢の如く不安
不定不在の軌道に沿った盲目白痴に非ざる世界であって夢故に無意味にて冒涜はその内に納まった倫理的な涜神行為は夢夢にて現つまり。
まるで自分自身の能力不足のせいで理解が及ばない為に表現しようがないが、コレは美しいので邪悪――


表現できなかった。理解できなかった。何故だ。私はおかしくなったのか。

いや違う。これは夢ではなく現実なので正しく価値判断するならば、こいつは何でもないから、無害さ故に崇高な八面玲瓏に見えるだけだ。
しかし違う。”コレ”ではない。此処に有るものとして考えるから上手く理解が出来なかったのだ。”アレ”だ。”アレ”は此処には無い。
”ココ”から見れば角度が足りない、故に無害で有り、清浄なものだ。だが”アレ”自体がある”向う”の角度では

少年は口を開いた。

』「君は何で生きているんだ」『

怨嗟が毀れた。その口から毀れたのは何かが断絶していた。この世界の物ではなかった。私の認識の外にあった。にも拘らず、言葉が届い
たその瞬間だけ脳髄に直接電極を差し込み、別の大きな脳味噌と繋げて新しい感情や概念を理解するだけの知能を、まるで意思を持たない
小石が、昆虫や魚類などのそれを獲得する過程をすっ飛ばし、人間の脳味噌を手に入れるような甚だしさも尋常ではない程度で、増やした
かのようになって、理解出来た。
ただ意味を理解するだけならばなんてことは無い「君は何で生きているんだ」という、自己存在を侮辱し、蔑ろに踏みつけ、感情も造作も
なしにあっけらかんとさも当たり前の様に創造主が、ああごめん君失敗作今からゴミ箱に入れるね、などと言いながら、慌てるという行為
を理解する間もなくチェーンソーで肉の粉と血の霧に成るまで刻まれて、ゴミ箱に詰められたような理不尽な気分になる”徒の”言葉だ。
しかし、あの言葉が何処から響いてくるのか理解できなかった。少年の口から毀れた筈のその言葉は……。零れたのではなく”毀れた”と
明らかに間違った認識を、あの瞬間に於いては、絶対正しい認識とさせ、今もあの瞬間ならば何故か正しかったと思わざるを得ない、あの
言葉は、つまりそういう知性によって理解される、そういう知性を持った言葉だった。
その後では、あの言葉の持つ知性はまったく理解不能で、その残滓としての、幾つかの、反明瞭な誤謬が脳髄に静置されていた。

』「生きとし生けるものは、何だって自分の子孫が死ぬより辛い目に逢う確率は零とは言えないのに、子供を作るのだろうかね?」『
』「生れてから死ぬまで考えていたのは死ぬ事であり、私は死んだ」『
』「運命は法則に従って、確率による未来の分岐こそあれど、意思の介在の余地などないのに、個人の意思を尊重するのは何故だ?」『
』「あいつの意思を尊重したお陰で私は死ぬより辛い目に会った。」『
』「それを、無碍に扱ったのは何故だ。死人には意思が無いからか?誰がどう見ても私が殺されるのは必然だった、にも関わらず」『
』「というか、本当に意思を尊重していると思っているのか?」『
』「誰かの意思を尊重することは、誰かの意思を無碍にすると言う事だ。無碍にされたのは死んだ私だった」『
』「人は容易に偏見を覚える。例え、確証がなくても。そして覚えのない偏見で私は死んだ」『
』「犠牲者の横で犠牲者の振りをする物が富を得る。人は現実味の有るものを察するが、現実は知らないからだ」『
』「平等不平等には意味が無い。必要不必要、合理不合理だけに意味がある。なぜならば、どうしようもないからで在り、どうかしようと
した人により私は死んだからである」『
』「悲劇を目の前に悲しまない理由は、悲劇の中にある人物が必ずしも泣いて居ないのを見れば解るだろう。ちなみに私が泣かない理由は
死んだからだ」『
』「多くの人の幸せは、少数の不幸で成り立つ他ないだろう。既に不幸な死に様をした私は、其れが必然で、多くの幸せを生んだのを知っ
ている」『
』「事故死した」『
』「苦痛は何のためにあるのかと言えば、生きる為である。何のために生きるかと言えば幸せの為だという。そして、幸せを阻害するのは
苦痛である。私は皮肉にも幸せを死ぬ事に見い出して、この円環から抜け出た」『
』「この世界に残っているのは、自然選択に残ったもので、生きるのに長けた物である。つまり、死を拒むのに長けた物である。そこでは
感情や思想、能力は生きる為の道具としてしか存在しない。だが私達は生きることを幸せになる為の道具としてしか見ない。しかし、幸福
の自然選択は起こらないだろう。徒、知識によって受け継がれる。己の幸福の知識の限界に私は死んだ」『
』「苦痛から逃れる方法は逃げることに尽きる。私は逃死した」『
』「本当の意思などに関係なく言葉の装飾で良くも悪くも多少なりとも善悪が揺らぎ、本人さへ気が付かないのは疑問に思わないか?文化
文明、思想主義、は常に変化するのに一つの視点によってしか捉えられない。知識を深めれば印象など2転3転してしまう。何が正しいか
など判らない。結局、無知であっても口先の過剰装飾されたあいつが善で、私は死んだ」『

全てが、バラバラの意見だった。
言葉を区切るごとに、声色、雰囲気がまるで違っていた。
矛盾するものもあった。
しかし、それにより目の前の存在を否定する事は出来なかった。
何故なら、その目は、自ら発した言葉と、その対象と為り且つそれを生み出した世界に対して、爛々と輝ける嘲笑を浮かべていたのだ。
今少年が口に出したのは――古今東西それを疑念に抱きながらその当時の世界を呪い死んでいった者達の”声”だ。あの壁に同じ事を悩み
呪い死に逝った者達の末路が映されていたから、断定出来た。
つまり、あの悪趣味な壁は、人類が育んだ連綿と続く呪劇を観賞する為のもの大掛かりでコンパクトな薄型テレビだった。
そう、あいつにとって、今の叫びは、己の存在を含めた世界を呪う怨嗟の声は、本心ではなく、享受するもので、教科書に書かれた文字を
音読しただけの事なのだ、恐らく今の行為に意味こそあっても、意思は無い。
意思なき儘ならば未だ慈悲深いとさえ思える。あいつは、その、劇に、何を……、何を返そうとしているのか?徒、閲覧し、納得し、自分
からは供給しない、白痴のままであれば、良いが……。

』「自己紹介が未だだったね。いやはや失礼。お詫びとして君にはこの世界全てを呪い付くし、冒涜する物語をあげよう。」『
「いらない……。……いらないっ。いらない。いらないっ。私はそんなモノ欲しくない、イラナイイラナイイラナイ」
』「そうか。残念だ。僕の名前は有砂冬徒(アザ=トート)。よろしくね。」『




後書き
病室のドアを開け、少年に話し掛けられる迄の時間、僅か3秒。


しかし、もう少し練り込めばよかたような、これでよかったような


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