システムデザイン研究科 航空宇宙システム工学域
アリフ ユダント
はじめに 複合材料構造において層間剥離は強度の大きな減少をもたらすためにたいへん重要な問題となってきました。衝撃負荷によって層間剥離が生じる場合もあります。複合材の層間剥離への抵抗性を向上させる一つの技術が縫合です。縫合によって複合材の層間強度を増すことで、層間剥離への抵抗性を向上させることができます。 |
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図 1 衝撃荷重を受けた積層板および縫合された複合材 |
目的 私の研究の目的は実験と計算によって、縫合複合材の面内の強度を調べることです。 |
材料と試験装置 研究に用いられる材料はベクトラン®(引張特性に優れ、吸湿を最小限にした液晶ポリマー)縫合カーボン/エキポシ樹脂の複合材です。万能試験機インストロン8802を用いて、静荷重試験と引張‐引張疲労試験を行いました。航空機の構造ではボルト接合を容易にするために穴が非常に多く使われるので、穴の影響は特に注目する必要があります。 |
結果
♦静荷重試験 ► 縫合による凸凹(繊維うねり)、レジンポケット、繊維破断のためにカーボン/エキポシ樹脂の複合材の引張強度が8.4%低下したことがわかりました。しかし、縫合複合材は縫合されていない複合材に比べて切り欠き特性(開口引張り強度)に優れていました(図3)。これは通常は単一の穴によって持ちこたえられる応力増幅が部分的にステッチ穴によって担われるためと推測されます。 |
► 円形の穴の開いた2D(2次元) 複合材では、一般的に厚みが増すと強度が減少します。しかし今回の研究では、縫合複合材ではOHT(有孔引張)強度がわずかに増加することが示されました(図4)。縫合複合材が厚くなると応力集中係数が下がり、穴の周辺での損傷の形成が遅くなることが分かります。これらの2つの要素がOHTの強度を向上させる理由と考えられます。 |
♦疲労試験 ►
縫合複合材の疲労寿命をプロットする(ヴェーラー曲線またはS-N 曲線)ために、さまざまな応力レベルで引張‐引張疲労試験を行いました。試験は応力比 (R) 0.1、加振振動数2 Hz で行われました。図5 は、縫合複合材の疲労寿命が縫合されていない複合材の疲労寿命と同程度であることを示しています。 |
► 疲労試験では複合材の剛性が除々に減少することがよく知られています。静的試験下の複合材についてはまったく状況が異なり、剛性の減少は小さくなります。その理由は、複合材の内部にある程度の損傷が生じてきたためです。Cスキャン超音波探傷装置を用いて初期サイクル(10,000サイクルまで)中の層間剥離の形成の観察が行われました。図6は、縫合複合材においては剛性減少の場合でも層間剥離の形成が伴うことを示しています。 |
今後の研究 今後の研究は、マイクロスケールや中規模スケールでの縫合複合材の、面内の剛性と強度を均質化法によって予測するため、コンピュータ・シミュレーションを用いるものになると思われます。圧縮荷重のもとでの縫合複合材の耐用年数を予測するための計算方法も開発されるでしょう。 |