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平成22年6月 第75回代議員会あいさつ
本日は、ご多用のところ、代議員会にご出席をいただきまして誠にありがとうございます。
本日の代議員会では、平成21年度の事業報告と収支決算をご審議いただくこととしております。私からは、昨年度の事業の特徴について概観し、今後の方向性と展望を述べさせていただきたいと存じます。
赤十字思想誕生150周年~表参道キャンペーン、宝塚歌劇団『ソルフェリーノの夜明け』
はじめに、先月12日、全国赤十字大会が、名誉総裁皇后陛下、名誉副総裁秋篠宮妃殿下、常陸宮妃殿下、高円宮妃殿下ご臨席の下に行われました。多くの代議員の皆さまにもご出席をいただきましたことを、あらためて感謝申し上げます。
昨年は赤十字思想誕生150周年という記念すべき年であったことから、さまざまな記念事業が行われました。このキャンペーンは今年も続いており、東京・原宿の表参道では昨年に引き続き、通りを赤十字の旗で飾る「Our World.Your Move.」をスローガンとしたキャンペーンを行いました。
150周年を記念して、アンリー・デュナンが赤十字を創設するに至る道筋を描いたミュージカルも先ごろ上演され、話題となりました。『ソルフェリーノの夜明け』と題した、この舞台を演じてくださったのは、あの宝塚歌劇団です。東京でも公演が行われ、4月13日には天皇、皇后両陛下が鑑賞されました。
アンリー・デュナンを演じた雪組の水夏希さんは、先日の全国赤十字大会でのトークイベントにご参加いただいた際、自分は戦争を全く知らない世代で、戦場の緊迫した雰囲気を実感したことはないが、デュナンを演じることで、命の尊さをあらためて感じることができたと話しておられました。
赤十字思想誕生150周年~アニメーション映画『ジュノー』
第二次世界大戦で原爆が投下された直後に広島を訪れ、被爆者救済に奔走した当時の赤十字国際委員会駐日首席代表のマルセル・ジュノー博士の生涯を描いたアニメーション映画『ジュノー』もこのほど完成しました。NPOが中心となって制作されたものですが、日本赤十字社や赤十字国際委員会も協力いたしました。今後、各地の上映会を通じて赤十字の人道活動が広く紹介されていくことを期待しております。
このように、昨年から、150周年ということで日本赤十字社は世間に向けてメッセージを送り続けており、引き続き国民のみなさまに関心を持っていただけるよう、さらに工夫をしていく所存であります。
日本赤十字社を取り巻く現状
さて、近年の日本赤十字社を取り巻く環境を振り返ると、厳しい経済情勢や国民の生活スタイルや意識の変化を反映して、社員数、社費、寄付金が減少を続けております。その一方で、国内外の救援のための義援金は多く寄せられております。目に見える活動に対する国民のご支援には力強いものがあり、赤十字活動の基盤である社費を確保するためには、より一層、社員からのご理解を得る努力が求められていると認識しております。
血液事業の成果と今後
血液事業では、十代、二十代の若年層の献血推進が依然として大きな課題でありますが、昨年度は約530万人の方に献血いただき、前年度を約16万人上回りました。その結果、およそ120万人の方々の命と健康が救われました。十代、二十代の献血者の減少も止まりつつあり、若者を引き付ける努力が少しずつではありますが、成果をあげているようです。
血液事業の運営についてはこの間、輸血用血液の需要増加と検査・製剤業務の集約効果により、平成21年度の収支差引額は99億円の黒字となりました。今後はさらに、全国を7つのブロックに分け、各都道府県にある血液センターをブロック単位で、より広域的に運営することをめざしています。
赤十字病院の国際協力、看護師の養成と確保
医療事業の平成21年度決算は、病院間で大きな格差が見られるものの、全体としては平成20年度に比べると大幅に赤字が縮小しています。経営改善の見通しが将来的にも立たない病院については、閉鎖も視野に入れた抜本的な見直しをすすめるための対応方針を策定したところであります。
赤十字の病院には常に「赤十字らしさ」を求めておりますが、その一つには国際医療協力があります。平成21年度内には、75名の医療職が12ヵ国に派遣された他、今年に入ってから発生したハイチやチリの大地震においては、基礎保健ERU(緊急対応ユニット)の配備を行ったところであります。
また、日本赤十字社の医療の中核を担う看護師の養成と確保では、質の高い看護師の確保をめざして進めているキャリア開発や、看護師の定着促進の取り組みが効果を
あげ、昨年度は離職率を下げることができました。また、政府間の協定により足利赤十字病院で受け入れたフィリピン人看護師が、全国で初めて看護師国家試験に合格し、外国人看護師の受け入れに向けて大きな一歩を踏み出しました。
(写真)初めて日本人看護師試験に合格し、記者会見を受けるフィリピン人看護師エヴァーさん(真ん中)。この4月から足利赤十字病院救急救命病棟で働いている。
東海地震対応計画の完成
国内の災害は幸い少ない年でありましたが、対策に力を入れ、甚大な被害が予想されている東海地震の対応計画が完成いたしました。
国際赤十字・赤新月社連盟「2020年の戦略」
皆さまもご承知の通り、私は昨年11月に国際赤十字・赤新月社連盟の会長に選出され、この半年間にハイチをはじめ10ヵ国を公式訪問した他、幾つかの国際会議に出席して参りました。
連盟は昨年の総会で「2020年の戦略」を決定しており、その具体化が各会議での主要なテーマでありました。「戦略」には、今後10年間に各社が優先的に取り組む活動として、(1)災害時の緊急救援とそれに続く復興支援活動、(2)人々が健康的で安全な生活を送ることができるための保健医療活動、(3)社会の中で弱い立場にある人々に対する支援と赤十字思想の普及活動などが掲げられています。これらの活動を強化するため、各国赤十字社は、この「戦略」に沿ってプランを立て、その上で相互の協力関係を強めることによって、赤十字が有する国際的なネットワークの強みを存分に発揮していこうとするものであります。
こうした視点から、日本赤十字社の今後の事業計画策定にあたっては、目標をより明確に示していかなければならないと考えております。
時代のニーズに応える赤十字
他の事業についても同様です。そもそも今また将来、赤十字が 何をやるべきかについては、どの社も悩んでいます。
先日訪れたスペイン赤十字社は、伝統的な活動である病院経営や血液事業、看護師養成などを国に移管し、その代わりに、50台ほどの電話を並べ、四六時中独居老人、家庭内暴力被害者、自殺願望のある人、移住者等からの相談を受け付けるという、一種の「駆け込み寺」といった活動を展開しています。対応しているスタッフの大半は、訓練を受けたボランティアです。そして、その情報を行政とも共有して分析し、対策に生かしています。首都マドリードの支部も、移民や高齢者等がいつでも気軽に集まって情報交換ができる場をつくり、パソコン講習やカウンセリングを行っています。こうした国内での取り組みは、国際赤十字のなかでも先進的なものといえます。
赤十字は、その時々のニーズに応えていくことを使命としています。私たちも、既存の事業を淡々と実施していくだけでは十分とはいえません。時代のニーズに応えうる活動を、今後も模索していかなくてはならないでしょう。
赤十字の人道外交
連盟の「2020年の戦略」では、人道外交を一つの柱にしています。人道外交とは、赤十字が展開している人道的な活動を一層広げていくために、様々な手段を尽くして市民や国や国際社会などへ働きかけていくことを指しています。
赤十字国際委員会(ICRC)のケレンベルガー総裁は、4月に行った演説のなかで、核兵器の使用は国際人道法違反の疑いが強いとの見解を示し、マスコミにも広く取り上げられました。こうした問題はまさに人道外交として取り組む課題であるといえます。
実は、核兵器の問題については1963年、赤十字創設100周年記念の連盟理事会で、日本赤十字社の提案による核兵器の実験禁止の決議が採択されています。その後、この問題は長い間封印されてきましたが、アメリカのオバマ大統領が核廃絶に向けた決意を語るなど、世界の流れも変化してきています。
唯一の被爆国の赤十字社として、日本赤十字社にはこうした分野で人道外交を展開することも求められているといえるでしょう。
赤十字思想
~あらゆる相異を越えて苦しんでいる人を救いたい、あらゆる人があらゆる場合に人間らしく扱われることを求めたい~
冒頭、赤十字思想誕生150周年にまつわるお話をいたしました。この150年の歴史を振り返れば、宗教もイデオロギーも文明の発達も、そして、人権思想の発展さえも、必ずしも平和にはつながらず、その価値観が世界中で共有されることはありませんでした。その中で唯一生き続けてきたのが、「あらゆる相異を越えて苦しんでいる人を救いたい、あらゆる人があらゆる場合に人間らしく扱われることを求めたい」という赤十字思想です。この思想への人々の共感こそが、今日の赤十字をあらしめているのであります。
今日、ここにご参集いただいた皆さまは、日本赤十字社の一員であるとともに、世界中にネットワークを持つ国際赤十字の一員であります。こうした視点から、赤十字の内外におけるさらなる発展に向けて、活発なご議論をいただくことを最後にお願い申し上げ、私からのご挨拶とさせていただきます。
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