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「立ち去るわけにはいかない」東電社員、放射線との闘い

2011年3月18日5時33分

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 四つの原子炉が重大なトラブルに見舞われ、制御不能に陥った福島第一原子力発電所。最悪の事態だけは避けねば――。自衛隊などの放水活動が始まる中、原発内でも多くの人が過酷な状況下で闘い続けてきた。「もっと早く国ぐるみで取り組めなかったのか」「生きて帰って」。家族にもつらい時間が過ぎていく。

 福島第一原発が制御困難に陥った15日、東電は現場での作業に直接かかわらない社員らを施設外に退避させた。

 「もう会えないと思った。でも自分だけが立ち去るわけにはいかないと思った」。地震発生直後から作業にあたっていた東京電力社員は、家族に繰り返し言ったという。

 家族の説明によると、この社員は地震発生時に原発の中にいた。激しい揺れに襲われた直後、高い津波に襲われ、施設内の燃料や機材が失われたという。「自然は怖い。地震と津波が重なるなんて」と振り返ったという。

 ポンプ設備や最後の頼みの綱である緊急炉心冷却システム(ECCS)を起動しなければと、社員の自家用車のバッテリーや屋台の小型発電機までかき集めた。それでもシステムは回復しなかった。「外からの電力が断たれたのが一番悔しい」とも言った。

 現場では数百人の社員や作業員が交代で作業にあたった。だが、余震が襲うたび、せっかく修理したところが再び壊れていったという。

 余震で眠れず、備蓄のクッキーやレトルトの五目ごはんはのどを通らない。精神的に追いつめられた。

 放射線をどれだけ浴びたのか。このまま爆発するのか。多くの人たちに放射線を浴びせる事態を招くのか。

 東電の記者会見では、歯切れの悪い問答が繰り返されていた。それを知った社員は「中のことを、外の人は知らないんだ」と思った。「会社には、もうあきらめられているのか」とも。だが同時に「避難している住民が戻ってこられるようになるまで、ここを出てはいけない」と思っていたという。

 この社員から現場の惨状を聞かされた家族は驚いた。地震が起きるまで、「世界最高の技術だから安全だ」という社員の言葉を家族は信じてきた。事故の際の被曝(ひばく)対策もできていると思っていた。

 家族の一人はいう。「政府や東電は、現場で体を張る連中を見殺しにするのですか。今まで信頼してきただけに、腹立たしいのです」

    ◇

 第一原発そばの社宅に住んでいた東電社員の妻は、作業に携わる夫の身を案ずる。

 11日午後、激しい揺れに襲われた。タンスが倒れ、めちゃくちゃになった自室から、原発で働く夫に何度も電話をかけた。つながったのは深夜。「無事だ」。生きていることだけは分かった。その後、連絡は途絶えた。

 4日後、避難した妻に短い携帯メールが届いた。

 「飲み水が足りない。体調も悪くなってきた」

 こんな状況の中で、日本全体に影響する重大な仕事ができるのだろうか。夫の家族の一人は心配する。「東電社員は一番責任ある立場だから、何も言えないのかもしれない。けれど家族としては、すぐにでも何とかしてほしい」。涙がこぼれた。

 彼はまだ原発にいる。自衛隊の放水作業は始まったけれど、家族は胸がつまるようでテレビの画面を直視できない。(大谷聡、鈴木彩子、石田博士)

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