事件【正論】日本財団会長・笹川陽平 「民」も総力を挙げて協力しよう2011.3.23 03:04

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【正論】
日本財団会長・笹川陽平 「民」も総力を挙げて協力しよう

2011.3.23 03:04

 ◆寒冷地で救援待つ被災者

 唖然(あぜん)とするばかりの惨状である。東日本を襲った巨大地震。日本は総力を挙げて、この未曾有の国難に臨まなければならない。われわれ「民」も、可能な限りの協力をする必要がある。

 これに対し政府はボランティアなど「民」の現地入りを控えるよう求め、内閣府に震災ボランティア連携室を設け全体の調整を行うという。被害が東日本の太平洋側全域に広がり、大津波が家屋から車まで根こそぎ奪い去った今回の災害は、特定地域に被害が集中した過去の災害と明らかに違う。

 1995年の阪神淡路大震災の後、全国の災害ボランティア団体が日本財団の支援を受けて結成した、「震災がつなぐ全国ネットワーク」は過去28回、被災地に出動しているが、蓄積した知恵と教訓がどこまで通じるか、予測不能の感じさえある。

 大震災から1週間以上経て、仙台市など拠点には既に多くの支援物資が集積されている。しかし肝心の被災地は食糧や飲料水、薬など生活物資が大幅に不足し、家や家族を失った被災者が救援を待つ約2500カ所の避難所には、物資がほとんど届いていない。

 道路や電気、水道など大動脈の復旧を自衛隊、警察、消防団やそれぞれの専門家が担うのは当然として、広く点々と散在する避難所に物資を届けるには、ボランティアの力が欠かせない。政府が一刻も早くその活用に道を開くよう求める。高速道路の通行許可証すら得られないのでは誰も動けず、寒冷の地でひたすら救援を待つ被災者の窮状は救えない。

 ◆有償ボランティアも検討

 阪神淡路大震災でわれわれは百万円未満の救済事業を書類審査だけで受け付けた。慎重と公平を期すあまり支援が間に合わない事態を恐れたためだ。被災地にストーブもガソリンもないのなら、使い切りカイロをヘリコプターで大量投下し、少しでも暖を取ってもらうような柔軟な発想があっていいのではないか。「民」の力には限界があるが、経験を生かし、直近の対策から長期の支援策までできるだけ用意したいと考える。

 まず急ぐべきは被災地の老人、障害者、さらに肉親を失った災害遺児や外国人労働者への対策だ。これらの被災者をサポートするには、医師や看護師、心理療法士、介護士、手話通訳や外国語に堪能な人材が欠かせない。WHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局長も務めた尾身茂・自治医科大教授にお願いし、同大OB医師の協力をいただく予定で、医薬品は当財団で用意する。

 その他に関しても、長年の支援活動で培ったネットワークを通じて有為な人材に協力を呼び掛けている。当然、長期の活動となり善意だけに頼るのは無理がある。有償ボランティアとすることも検討している。

 被災地の宮城県名取市では地元NPOが2年前、予想される大地震に備え重度身体障害者の支援施設を立ち上げた。アドバイザーとして参加する日本財団OBによると、突然の惨事に茫然(ぼうぜん)と座り込む高齢者を足湯で暖め目線を合わせて励ますと、ようやく生気を取り戻すという。きめ細かいケアこそ「民」の重要な役割と考える。

 不幸にして肉親を失った災害遺児もかなりの数に達すると予想する。遺児たちの将来にわたる生活と教育を保証する必要があり、各地の里親の方々にも受け入れ準備を進めてもらっている。奨学金制度のような長期の支援策の検討も進めている。

 ◆必要なものを必要な場所に

 災害復旧には膨大な資金が必要となる。既に内外で広範な募金活動が始まっており、日本財団もウエブサイトCANPAN上に「東北地方太平洋沖地震支援基金」を立ち上げ、事業を通じ交流のあった外国の団体、個人にも広く協力を呼び掛けている。NHKや各紙で紹介いただき浄財が集まり始めた。あらかじめ使用目的を明示して一層の理解を得るとともに、使途に関する説明責任を徹底することで、助け合い精神旺盛なこの国の寄付文化の育成に一役買いたいと考えている。

 次いで災害現場で混乱も見られた支援物資の有効活用。CANPAN上に東証1部上場会社を中心に提供可能な支援物資や責任者名の一覧を掲載する準備を進めている。3月16日付の産経新聞朝刊には被災した各自治体の連絡先やガス、水道、医療機関など生活情報をまとめた「支援掲示板」が掲載された。これらを照合することで支援物資の有効活用が進むと期待する。「必要なものを必要な場所に必要な時に届ける」のが有効活用のポイントである。

 災害は、福島第1原発の炉心損傷事故を含め現在も進行中で、計画停電も続く。この国には各国が驚きを込めて絶賛する国民の冷静さと規則正しさがある。全国民が支援に参加することで絆は一層強まる。とりわけ内向き志向が指摘される若者には、ツイッターやフェイスブックを利用して大きく立ち上がってほしいと思う。それがこの国の底力となる。(ささかわ ようへい)

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