体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)
血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood)
幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)
ただの一度も敗走はなく、(Unknown to Death.)
ただの一度も理解されない。(Nor known to Life.)
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。(Have withstood pain to create many weapons.)
故に、生涯に意味はなく。(Yet, those hands will never hold anything.)
その体は、きっと剣で出来ていた。(So as I pray, unlimited blade works.)
(……また、呼び出されるのか……)
移ろうな思考でのまま、英霊・衛宮士郎は嘆息する。
全ての人々を救うため、『正義の味方』を目指した衛宮士郎。
だが、そんなもの空想の絵空事だった。
全てを、一も欠くことなく助けるなど理想でしかないのだから。
正義の味方が助けられるのは、味方をした人間だけ。
全てを救おうとして、全てを無くしてしまうのならせめて。
一つを犠牲にして、より多くの物を助ける事が正しい、と。
誰も死なないようにと願ったまま、大勢のために一人を殺し、誰も悲しまないようにと口にして、その影では何人かの人間に絶望を抱かせる。
理想を守るために理想に反し、助けようとした人間だけを助け、敵対する物を皆殺しにする事で自分の理想を守った。
どれほど命懸けで戦っても、多くの人々を助ける為に一を切り捨てなければいけなかった。
それが嫌で、世界と契約し、守護者になっても……変わらなかった。
人の世を護るために『世界を滅ぼす要因』が発生した瞬間に出現して、その要因を抹消するの。自由意志などなく、ただ“力”として扱われるだけ。
故に、やる事はいつも同じ。
殺して。殺して。殺し尽くした。
世界の危機を終わらすために、その地に暮らす人々を殺し続けた。
どれだけ繰り返してきただろう?
いつまでこの地獄は続くのだろうか?
繰り返される悲劇や惨劇よって精神は摩耗し。
自身の消滅を願わなければならないほどだった。
(だが……それでも、俺は……)
英霊の座から意識の一つが剥離する。それはいつもの事。
座にあるのは集合体。複製を創り、成すべき事のある世界にいくのだ。
「…むっ…」
意識と身体が形作られる。
現界が近いのだ。
だが突如として横からの凄まじい魔力が身体を、意識を引き寄せる。
何がおきようとしているのか理解が及ばない。この身でさえも始めて経験する現象だ。
今回は何者かに引き寄せられるかのような魔力が感じられる。
「召喚事故っ!? これほど、強引な召喚は…………なにっ!」
この魔力流はそんな事では片付けられない。何かしらの干渉が起きたのは確実なのだ。
そうして、英霊・衛宮士郎はまったく見覚えの無い光景の中に降り立つ事になった。
「……問おう、君が私のマスターかね?」
「……あなたは、誰、ですの……?」
散乱した居間で驚愕の表情を浮かべて士郎を見上げている少女。
これが、英霊・衛宮士郎と北条沙都子の運命の出会いであった。