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ジェトロ・トピックス

東アジアの経済統合と日米関係セミナーを開催
-APECにおける日本の役割と米国への期待を発信-

2010年3月

ジェトロは2010年3月3日、ワシントンDCで戦略国際問題研究所(CSIS)と共催で「東アジアの経済統合と日米関係」をテーマとしてセミナーを開催しました。

安全保障と経済との緊張が続く東アジアでは今後も米国の関与が不可欠

セミナー会場の模様

ジェトロは、04年から毎年ワシントンDCで東アジア広域経済圏に関するセミナーを開催しており、今回で6回目となります。米国の首都、ワシントンDCで東アジアの経済統合に関する日本の情報発信セミナーはこれが唯一のものであり、毎年200名近くの関係者が参加されます。本セミナーは基調講演、パネル・ディスカッション、コメンテーター・プレゼンテーションなどで構成されました。

今回のセミナーでは、ジェトロ・アジア経済研究所所長白石が「東アジア経済統合と日本」をテーマに基調講演を行い、東アジアが直面する2つの大きな潮流を指摘しました。経済面では2030年に中国、米国、EU、インドが日本の2.2~5.3倍の経済規模に達し、4つの大きな経済勢力になるとの見通しを紹介。人口面では2030年までに東アジア各国の都市人口の増加ペースに大きな格差が生じる結果、都市部の中間所得層と農村の貧困層の経済格差が拡大する可能性を指摘しました。経済格差に対処するため、経済成長は今後も必要だが、同時に域内での富の再分配など新たな経済秩序の形成も必要と訴えました。

安全保障面では、欧州とは異なり、東アジア地域には社会主義国が存続している点を指摘。このため、東アジア地域では安全保障と経済の間に今後も緊張が残る点を強調しました。新たな経済秩序への移行を円滑に進めるためにも、米国を中心とした「ハブ&スポーク」型の同盟関係に基づく東アジアの安全保障は今後も不可欠であると述べました。

ASEAN諸国の競争力強化やAPECの戦略的活用が課題

パネル・ディスカッションの冒頭、理事長林は、東アジア経済統合を取り巻く現状として、実体経済面での域内相互依存の深化、世界経済における東アジア経済のプレゼンスの向上、域内における共通の協力や取り組みの必要性の高まりを指摘。特に、域内における協力に関しては、各国・地域が「共同体」との認識の下で、経済連携協定(EPA)やFTAの推進、域内格差の是正、インフラ整備などの分野で地域の課題に取り組むべきであると強調しました。その上で、経済統合を進める際の課題として、1)対中国貿易赤字に直面するASEAN諸国の国際競争力の強化、2)「開かれた地域主義」を推進するための米国や他国の関与、3)共通の課題への対応の手段としてのAPECの戦略的活用を挙げ、パネルにおける議論への問題提起を行いました。

日米の協力の下、つなぎ目のない市場構築を目指す

パネル・ディスカションでは、西山審議官は、2010年APECの議長国を務める日本と来年議長国を務める米国との間で、アジア太平洋自由貿易協定(FTAAP)の構築に向けたロードマップの作成などのAPECの新たな展望に向けた協力を行い、「アジアにおける、つなぎ目のない市場」構築の好機としたいこと、トヨダ・ビラノバ大学准教授は、東アジア経済統合における財政的側面として、インフラ整備等の資金供給国として日本のこれまでの貢献と今後の期待を表明。相原・三井物産顧問は、本年のAPECビジネス諮問委員会(ABAC)議長を務める立場から、TPPに高い関心を有しており、日米が主要な役割を果たす東アジア地域における効率的かつ効果的な地域経済統合の在り方について米国と意見交換を行いたい旨を述べました。

また、ビーガン・フォード副社長は、東アジア地域において積極的な事業を行う同社の視点として、異なる多数のFTAのルールが複雑に絡みあう、いわゆる「スパゲッティ・ボウル」状態は、民間企業にとって対応の難しさやコスト増などを強いることとなり問題であるとして、これを解決する手段として、WTOドーハ・ラウンドの進展に期待したいとしました。

続くコメンテーター・プレゼンテーションでは、黄・中国人民大学教授は、中国が日本や東アジア諸国から部品を調達し、これを組み立てて完成品を欧米に輸出する「三角貿易」が東アジアの経済統合を促進している点を指摘し、「三角貿易」は企業のサプライチェーンを基盤とするもので今後も5~10年は続くとの見通しを示しました。豪日調査センターのコルベット所長は、中国が日豪の最大の貿易相手国になったものの、生産ネットワークをみると中国を介した日本向け輸出の拡大である場合も多く、依然として日豪の貿易関係は重要と述べました。

日米間のFTAの不在を過剰に問題視すべきではないとの見解

セミナー会場の模様

最後にトン国務省APEC代表は、現時点では、東アジア全体を通した貿易政策は、必ずしも自由貿易の方向に向かっているとは言えないとし、米国としては、当該地域において、どの国も遅れることなく、かつ、環境に負担をかけない持続的な域内成長を遂げるよう状況を見守っている状況である点を強調しました。また、日米関係については、依然として極めて大きな貿易規模や、財政や通貨政策、環境分野に関する緊密な関係を挙げ、両国間にFTAが存在しないことを過剰に問題視すべきではなく、むしろ、両国間貿易の更なる活発化のためには多様な手段が存在すると捉えるべきであると指摘しました。

このように様々な視点から東アジアの経済統合に関する議論が活発に行われました。東アジア地域の経済統合に向けた米国の関与の重要性に加え、日本が2010年、また、米国は201年議長を務めるAPECの役割への期待も数多く寄せられました。

東アジアの経済統合については米国でも情報が届きにくいのが実情であり、毎年定点的に行っている本セミナーは、米国と東アジアを結ぶ唯一の情報の結節点として年々その重要性や認知度が高まっています。

東アジアセミナー 概要
日時
2010年3月3日(水)
開催地
ワシントンDC
主催
ジェトロ、戦略国際問題研究所(CSIS)
テーマ
東アジアの経済統合と日米関係
講演者
経済産業省大臣官房審議官(通商政策局担当) 西山 英彦 氏
ビラノバ大学准教授 マリア・トヨダ 氏
三井物産顧問 相原 元八郎 氏
フォード・モーター・カンパニー国際渉外問題担当副社長 ステファン・ビーガン 氏
CSIS日本部長 マイケル・グリーン 氏
中国人民大学経済学院教授 黄 衛平 氏
豪州国立大学・豪日研究センター所長 ジェニー・コルベット 氏
米国国務省APEC代表 カート・トン 氏
ジェトロ理事長 林 康夫
ジェトロ・アジア経済研究所所長 白石 隆

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