東京電力福島第一原子力発電所で前代未聞の異常な事態が収まることなく続いている。3月17日、原発の危機に東京電力はどう対処したのか。東京都千代田区内幸町の東京電力本店から報告する。
福島第一原子力発電所の3号機(左)と2号機(右)=3月16日午後、東京電力撮影、同社提供
■17日昼
17日に焦点となったのは3号機への散水と放水だった。
正午、「東北地方太平洋沖地震における当社設備への影響について(3月17日午前10時現在)」と題する資料が記者らに配布された。
福島第一原発3号機に関する記述に、「新規事項」として2つの項目が追加されていた。
「本日17日午前6時15分より、圧力抑制室の圧力の指示値が、一時的に上昇したが、現在は一定の範囲内で安定し、引き続き監視継続」
「本日17日、使用済燃料プールの冷却のため、自衛隊へご協力を要請し、ヘリコプターによる放水を実施」
ヘリコプターによる散水は東電が政府に要請し、検討が続いていたが、この日の午前、初めて実施された。4号機の使用済燃料プールも心配だが、煙がより盛んに出ている3号機を優先して散水の対象にした。
3号機の圧力の数値については、14日夜から「ダウンスケール」となって計測できない状況が続いていたが、17日午前7時になって、220キロパスカルとの計測結果が出てきたという。同じ時刻の1号機、2号機の計測結果はない。
「中央制御室に当社社員が向かってバッテリーを計器に直接つないで見ている状態です。すべてを見られるわけではなくて、必要最小限を見ている」と原子力設備管理部の小林照明課長。
1号機、2号機、3号機への注水はどうなっているのか。「しっかり流れている。水位が安定していて、圧力もそれほど変動がなく、うまく平衡している」と同部の黒木光課長。水位が安定しているとはいっても、計測数値の上ではいずれもマイナス(午前4時の時点で1号機はマイナス1750ミリ、2号機は同1400ミリ、3号機は同2300ミリ)で、燃料棒が水面上に露出しているように読み取れることにも変わりはない。
午前中の時点で、福島第一原発の構内では304人が働いており、これに加えて、電源を引き込む作業のために約20人が加わるという。
午後1時5分、記者会見は終わった。
3時間後の午後4時、東電社員が記者らの前に現れて言った。「テレビでもやっていますが、まもなく放水が開始されます」。今度は地上から放水する。
■「不測の停電」とは何か
午後5時40分、記者の求めに応じて、系統運用計画部の多田昌幸課長が広報部員に伴われて記者たちの前に現れ、「不測の停電」がどのように起こり得るのかを説明した。
東京電力系統運用計画部の多田昌幸課長(左)=3月17日午後5時56分、東京都千代田区内幸町で
まずは、需給バランスが崩れたのに何もせずに放置するという極端な場合に起こりうる事態の解説だった。
「電力需要が電力供給を上回ると、50ヘルツの周波数が49とか48に下がっていきます。そのまま下がると、発電機が追従できなくなって、脱落(トリップ)します。そうすると需給のアンバランスがさらに広がり、発電機が安定して運転できなくなって、周波数がどんどん下がります。本当に何もしなければ、そして、すごく運が悪ければ、全部の発電機がなくなってしまいます」
これがいわゆる「ブラックアウト」。しかし、実際には、そうしたことは起こりえない仕組みになっているという。
実際に起こりうる場合の解説がそのあとにあった。
「周波数が下がったら、下がった量に応じて、需要(一部地域への電力の供給)を遮断します。そうすると需要が安定します」
「たとえば、何かの事情で100万キロワットがトリップしたら、周波数が下がります。そうすると、各地の変電所に置いてあるUFR(周波数低下防止装置)が自動的に働いて、負荷(一部地域への電力供給)を遮断します。何もしないで周波数がだらだら下がっていくことはありません。ブラックアウトにならないという仕組みをすべての電力会社が持っています」
「UFRという装置が系統(配電系統)の中にいっぱいついていて、周波数の下がり方によって、どこを遮断するかが決まります。事前にどこでどれだけ遮断するか分からないので、『不測』と言っています。周波数の下がり方によって、量も場所も異なります。事前に『ここ』とは言えない」
最後に「計画停電」に関する解説があった。
「いまやっているのはUFRが働かないようにする計画停電。今は事前に予告できます」
UFRは基本的に、都心は遮断を避けるように設定されているという。そのほかの地域はまんべんなく、きめ細かに配置されているという。
周波数が不安定になるというのはどういうことなのか? 「10万キロワットの不足なら、ほとんどだれも気づかない状態です。でも、100万キロワットの不足ならば、どこかでバランスをとらなければならない状態です」
午後7時36分、計画停電について、本店の3階で、藤本孝副社長の記者会見が始まった。ここでも「不測の停電」「大規模停電」について記者から質問があった。
「需給のバランスが崩れると、どこかの需要を落とさないと需給バランスがとれなくなる。全部停電するということは絶対ないが、需給バランスがだんだんと乖離すると、かなりの部分で停電することはあるかもしれない」と藤本副社長は答えた。
「大規模停電」とは何か? 「『大規模停電』の定義は持っていなくてですね、考えられるとしたら社会インフラ、鉄道や放送まで機能を失うようなことが大規模停電ではないかと思っている」
実際には17日、「ブラックアウト」はもちろん、UFRの遮断による「不測の停電」もなかった。
■17日夜
福島第一原発。
地上からの放水は午後7時5分ごろに始まった。東電によると、警視庁機動隊の高圧放水車と自衛隊の消防車が3号機の建屋に距離10メートルまで近づき、延べ6回にわたって海水を放水し、午後8時9分に終了した。
午後8時32分、広報部の吉田薫マネージャーと原子力設備管理部の巻上毅司課長、小林課長、黒田課長の記者会見が始まった。
午前中に行われたヘリの散水について、吉田マネージャーは「効果があった」と述べた。「今後も、プールを冷却するためには、できる方策を継続的かつ波状的に実施する必要がある」と付け加えた。
記者から「プールへの散水に期待していいんでしょうか?」と問いかけがあった。「われわれも期待して、これを一生懸命頑張る」と黒田課長が答えた。
福島第一原発の5号機(1F5)、6号機(1F6)の使用済燃料プールの水温の推移=東京電力提供
この記者会見では、福島第一原発5号機、6号機の使用済燃料プールの水温の推移を示すグラフがカラーの1枚紙で配られた。
午後5時の時点で5号機が64.5度、6号機が64.0度で、いずれも55時間(2日余)前よりも9.5度上昇している。このペースで進むとどうなるか。19日深夜までの見通しがグラフに示されている。
福島第一原子力発電所4号機(中央)。東電の説明によると、壁の外れた鉄骨の奥にきらりと光る水のさざなみが見えたという=3月16日午後、東京電力撮影、同社提供
記者会見が続くなか、午後9時31分、福島第一原発の空撮画像のプリントアウトが届き、記者に配られた。
前日午後、東電の社員がヘリコプターから撮影したという。鉄骨の間に見えるのは緑青色の燃料交換機(クレーン)。その奥に使用済燃料プールがあるはずだ。そこに、燃料を冷やすための命綱とも言える水があるのか。
「これを見てもよく分からないけど、肉眼で見た人間が複数、水だと言っている。複数の人間がそう言っているので、私は信用している」
黒田課長はそう説明した。
午後9時48分、会見は終わったが、その後も廊下で、黒田課長や小林課長は取材に応じた。
福島第一原発4号機=3月16日午後、東京電力撮影、同社提供
■18日未明
18日午前零時10分、資料の配布が始まり、零時16分、吉田マネージャー、巻上課長、小林課長の記者会見が始まった。
放水の効果について質問があった。「水を投入した際に建屋のほうから水蒸気が上がったということは、その水が除熱したということで、一定の効果があったのだろうと考えております」と巻上課長が答えた。
念願だった福島第一原発への電源の引き込みを目指して、間もなく構内の工事が始まることも明らかにされた。
「ブルドーザーでガレキをどけて、その後、そのエリアの放射線を測定し、問題ないと確認できた時点で始める」
東北電力の電気が届いている予備変圧器からケーブルを1.5キロにわたって構内の道路沿いにはわせ、2号機につなぎ込む。それが完成すれば、1号機と2号機の停電を解消できる。
■原発構内の放射線量
東電が発表したモニタリングカーによる放射線計測の結果は17日、次のような状況だった。(単位はマイクロシーベルト/時間)
□第一原発の西門
午前 零時30分 351
午前 7時30分 313
午前11時30分 312
午後 2時10分 311
午後3時 309
午後9時 291
午後10時 290
午後11時 289
□第一原発の事務本館北
午前9時30分 3786
午前10時50分 3743
午後1時30分 4175
午後2時 3810
午後4時 3698
午後6時 3649
午後7時 3630
□福島第二原発
午前3時 17.2
午前6時 16.6
午前9時 16.3
午後零時 15.9
午後3時 15.6
午後6時 15.3
午後9時 15.1