AMDは3月8日、Radeon HD 6900シリーズの最上位モデルとなる「Radeon HD 6990」を発表した。すでに発表から2週間経過しており、購入済みという読者もいるだろう。遅くなってしまったが、ベンチマークテストの結果を紹介しておきたい。
●リファレンスデザインにOC BIOSを用意まずは簡単にRadeon HD 6990の特徴をまとめておきたい。表1はRadeon HD 6990の主な仕様をまとめたものである。Radeon HD 6990はRadeon HD 6970/6950で使われている「Cayman」コアのGPUを1枚のビデオカードに2基搭載したものである。
Radeon HD 6990 | Radeon HD 6990 (OC) | Radeon HD 6970 | Radeon HD 6950 | Radeon HD 5970 | |
コアクロック | 830MHz | 880MHz | 880MHz | 800MHz | 725MHz |
SP | 1,536基×2 | 1,536基 | 1,408基 | 1,600基×2 | |
テクスチャユニット | 96基×2 | 96基 | 88基 | 80基×2 | |
メモリ容量 | 2GB×2 GDDR5 | 2GB GDDR5 | 1GB×2 GDDR5 | ||
メモリクロック(データレート) | 5.0GHz | 5.5GHz | 5.0GHz | 4.0GHz | |
メモリインターフェイス | 256bit×2 | 256bit | 256bit×2 | ||
ROPユニット | 32基×2 | 32基 | 32基×2 | ||
ボード消費電力(アイドル) | 37W | 20W | 42W | ||
ボード消費電力(ロード/リミット) | 350/375W | 415/450W | 190/250W | 140W/200W | 294W |
CaymanコアはVLIW4と呼ばれる、1SIMDユニットに4基の演算器を持つアーキテクチャへと変更された。そのため、Caymanでは1コアに集約されれ演算器の数が前世代のCypressコアに比べて減っている。具体的には、前世代のデュアルGPUビデオカードであるRadeon HD 5970はGPU 1基あたり1,600基のコアを搭載しているが、Radeon HD 6990では1,536基へと減少した。ただし、1GPUあたりのテクスチャユニットは増加し、ROPも同ユニット数となっている。
さらに、動作クロックはRadeon HD 5970から1割以上の向上が見られる。シングルGPU製品ではRadeon HD 5870とRadeon HD 6970のクロック差が30MHz(約3.5%)の差であったのに比べても、このクロック向上は大きいものといえる。
ただし、消費電力の増加は避けられていない。AMDの公称値では、一般的なゲーム中の消費電力を350Wとしている。クロック/電圧制御機構のPower Tuneは上限が375Wに設定されている。Radeon HD 5970からの乗り換えを考える場合には、この消費電力の増加は気に留める必要があるだろう。
今回試用するビデオカードは、AMDから借用したリファレンスデザインのボードである(写真1、2)。中央にブロアタイプのファンを搭載し、ボード両端へ空気を送る構造だ。つまり、片方のGPUからの熱はケース内へ排気することを前提とした設計となる(写真3)。ヒートシンクは最近のトレンドになっているベイパーチャンバーを用いたものである。
【写真1】Radeon HD 6990のリファレンスボード | 【写真2】裏面も金属製のカバーで覆われている | 【写真3】ボード末端部は開口しており、ケース内側にも排気される |
ブラケット部はDVI-Iを1基とMini-DisplayPort 1.2×4の構成となる(写真4)。ただし、TMDSのクロックソースは2個のみとなっているので、DVIへ変換して3画面以上を出力したい場合はアクティブアダプタを用いる必要がある。AMDの多画面出力機能であるEyeFinityもアップデートされており、新たに縦位置の5画面を横に並べる構成をサポートした。
電源端子は8ピン×2の構成だ(写真5)。PCI Express x16スロットからの供給電力75W、8ピン1基あたり150Wで計375Wという計算になり、Power Tuneのリミット値である375Wは供給可能な電力ぎりぎりという計算になる。
一方で、AMDではボードおよびクーラーの設計は450Wに対応できるとしている。Radeon HD 6970/6950にも搭載されたBIOS切り替えスイッチは本製品も装備しているが、リファレンスデザインにおいて、オーバークロックBIOSが実装されているという点で違いがある(写真6、画面1〜2)。実際に発売されている製品も、この設定をそのまま利用できるようにしているものが多いようだ。
このオーバークロックBIOSはコア880MHzで動作するものとなっており、その際のPower Tuneの上限が450Wとなる。この消費電力は供給可能な電力の理論値を完全に超えるものとなるので、リファレンスデザインで使用するのは、ややリスキーである。
参考ではあるが、今回のテストにおいてOC BIOSを有効にした場合のテストも実施した。この際、とくに挙動不審と見られる状況が発生しなかったことは付け加えておきたい。もちろん、AMDもOC BIOSの利用は自己責任であるとしている。
【写真4】ブラケット部はDVI-I×1、Mini-DisplayPort×4の構成 | 【写真5】電源端子は8ピン×2の構成。理論上375Wまでの電力供給が可能となっている | 【写真6】BIOS切り替えスイッチ。写真の位置は標準の「2」の状態。「1」に切り替えるとオーバークロックBIOSとなる |
【画面1】標準設定のCATALYST Control Center。コア830MHz、メモリ1,250MHz(データレートで5GHz)となっている | 【画面2】BIOS切り替えスイッチをOC状態にした場合。コアクロックが880MHzへ引き上げられている |
●5万円オーバーのハイエンド環境を比較
それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示した通りで、ここでは、前世代のモデルであるRadeon HD 5970のほか、5万〜8万円程度を目安に導入できるビデオカードを比較とした。
また、ハイエンド環境のテストということで、WUXGAを超えるテストを実施するためにナナオから「FlexScan SX2762W-HX」を借用した。この液晶ディスプレイは最高解像度は2,560×1,440ドット(WQHD)。今回は、各ベンチマークのテストは、プリセットをそのまま用いている3DMark 11を除いては、1,920×1,200ドットと2,540×1,440ドットとしている。テストに用いた製品は写真7〜11の通りだ。
ビデオカード | Radeon HD 6990 (4GB)
Radeon HD 6970 (2GB) Radeon HD 5970 (2GB) |
GeForce GTX 580 (1.5GB) |
グラフィックドライバ | 8.84.3-110226a-114256E | GeForce Driver 266.58 |
CPU | Core i7-2600K(TurboBoost無効) | |
マザーボード | MSI P67A-GD55(Intel P67 Express) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |
電源 | KEIAN KT-1200GTS | |
OS | Windows 7 Ultimate Service Pack 1 x64 |
【写真7】Radeon HD 6970リファレンスボードと、XFXの「HD-697A-CNFC」の組み合わせでCrossFireを構築 | 【写真8】Radeon HD 5970のリファレンスボード | 【写真9】GeForce GTX 580を搭載する、GALAXY Microsystemsの「GF PGTX 580/1536D5」 |
【写真10】MSIのIntel P67 Express搭載ボード「P67A-GD55」 | 【写真11】2,560×1,440ドット表示に対応するナナオの27型液晶「FlexScan SX2762W-HX)」 |
では、DirectX 11対応タイトルの結果から紹介したい。テストは、「3DMark11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「BattleForge」(グラフ3)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ4)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ5)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ6)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ7)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ8)の結果である。
前世代のモデルであるRadeon HD 5970に対しては2割以上の性能向上を見て取ることができ、大きいところでは4割を超えるところもある。ただ、全体的にいえることだが、タイトルごとにバラツキの大きい結果になってもおり、細かいところでいえば、Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmarkの場合はフィルタを適用した場合の方が向上度合いが大きいものの、Heaven Benchmark 2.5の場合はフィルタ非適用時の方が向上度合いが大きい。このあたりは、シェーダユニットへの負荷などの理由により傾向が変わると見られる。
Radeon HD 6970のCrossFire構成に対しては、及ばない結果となっている。これはクロックが低いのと、PCI Expressの帯域という2つの理由に依ると推測される。大きいところでは2割近い差があるが、おおむね1割未満の差となっている。
GeForce GTX 580はシングルGPUではもっとも高価な製品となるが、こちらに対するアドバンテージはかなり大きい。唯一、H.A.W.X.2ではGeForce GTX 580への最適化度合いも影響して劣っているものの、GeForceシリーズへの最適化が進んでいるLost Planet 2などのタイトルでも、よりよい性能を見せているあたり、2基のGPUを持つメリットが現れている格好だ。
次にDirectX 9/10世代のベンチマークの結果である。テストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「Crysis Warhead」(グラフ11)、「Far Cry 2」(グラフ12)、「Left 4 Dead 2」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3」(グラフ14)だ。
DirectX 11対応タイトルに比べると全体の差は縮まるものの、大局的な性能の位置付けは変わらない。3DMark VantageのPerlin Noiseのようにシェーダユニットの演算能力が問われるテストにおいて、シェーダユニット数の減少が響いているテスト結果が出ているのは興味深いが、一般的なグラフィックス描画に比べて独特のスコアといえる。
ちなみに、OC BIOSの効果はコアクロックのみのアップということでメモリ帯域幅やROPの処理などがボトルネックになるケースも考えられるものの、全般にはコアクロックの向上によって性能向上するケースが多いことを見てとれる。ほとんどは5%未満の向上ではあるが、スイッチ1つで得られる性能向上としては便利なものだろう。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。性能面では優位性を持つRadeon HD 6970のCrossFire環境だが、消費電力もその分図抜けて大きい。Radeon HD 6990でのオーバークロックBIOS時の消費電力と比べても大きく、ビデオカードを2枚用いていることの影響は大きい。
一方、Radeon HD 5970と比べた場合は、Radeon HD 6990の消費電力が大きく感じられるだろう。標準クロックでも100W以上の電力差を見て取ることができる。公称値以上の大きな差となっているが、パフォーマンスとのトレードオフと見るべきだろう。
OC BIOS利用時はコア電圧も合わせて上昇させる設定であることが響いてか、消費電力の増加も大きい。性能上昇度合いを考えると、やや割の悪さは感じる結果であり、性能のみを追求するユーザー向けの機能と見たほうがよさそうだ。
【グラフ15】各ビデオカード使用時のシステム消費電力 |
●最高性能製品の競争が復活
以上の結果を見ると、AMDにとって最新のアーキテクチャをベースとしたデュアルGPUビデオカードということで、性能面へのこだわりを感じる製品となっている。Radeon HD 5970は電力と性能のバランスを考えていた印象を受けたが、Radeon HD 6990は性能へシフトした製品といえる。
ターゲットが7〜8万円のデュアルGPUビデオカードを購入するユーザー層、という点を考えれば、この方向性は妥当性が高い。高効率の製品はシングルGPUカードに任せ、一方で性能を追求するユーザーへ提供できる製品がラインナップされたと考えると、Radeonシリーズが満たせるユーザー層を広げたことになる。もちろん、シングルビデオカードとして性能がGeForce GTX 580を上回ったことも大きな意味を持つだろう。
だが一方で、NVIDIAも日本時間の22日夜、ハイエンドGPU製品のティザー広告をYouTubeにアップしている。Radeonが効率面へシフトしてから久しく見られなかった、ビデオカードの最高性能競争が復活する兆しを見せており、Radeon HD 6990の登場はビデオカード市場の空気を変えるものといえる。