2011年3月23日9時8分
■ひざを痛めた85歳、24階から階段降り…
JR三鷹駅に近い超高層マンションの24階に住む永守ヒロさん(85)は地震発生時、編み物をしていた。激しい揺れにしゃがみ込み、グランドピアノの脚にしがみついた。「どうしたらいいの」と叫んだが、息子夫婦は外出中で誰もいない。
船酔いするようなゆったりした横揺れで、食卓や食器棚からコップなどが次々に落ちて割れ、部屋のドアがバタンバタンと開閉した。
「とにかく外へ」と、自宅を出たが、エレベーターは止まっていた。調子の悪い腰とひざにも構わず、7〜8分かかって階段を1階まで下りた。たどり着いた瞬間に足が痛み始めたが、フロントの担当者から渡されたひざ掛けとコーヒーで人心地ついた。
午後6時半ごろに非常用エレベーターが動き始め、自宅に戻った。「揺れが怖くて、もうだめだと思った。夢中だったから下りられたのでしょう」と振り返る。
地震以後、外出を控えるようになった。足の痛みに加え、再び大きな揺れがあってエレベーターが止まり、家に戻れなくなることが心配だからだ。被災地を思い、知人との食事会も取りやめた。17日に初めて買い物に出て米屋に並ぶ人の多さに驚いた。
■余震のたびに壁に亀裂
中央区の40階を超えるマンションの一つでも余震のたびに部屋全体が回るように揺れ、キー、キーときしむような音が天井や壁から聞こえた。
船酔いするような揺れは高層マンション特有のものだ。過去の地震でも同様の現象が起き、そのたびに管理会社が「構造に問題はない。揺れを逃がすための音」と張り紙で説明してきた。今回の地震でも、安全を強調する張り紙が次々と入り口やエレベーター内に張られた。
同じマンションで震災翌日、大型スーツケースを引いた中年夫婦がフロントを訪れた。「壁にひびが入って粉が落ちてきた。こんな危ないマンションには住んでいられない」と怒鳴った。慌てた管理会社員が引きとめ、夫婦と共に室内の点検に向かった。
31階に住む女性の住居では居間に2カ所、トイレに1カ所、壁紙に亀裂が入っていた。余震のたびに亀裂は上下に広がり、天井から床まで一直線に。はがれかけた壁紙の内側の石膏(せっこう)ボードにも幅1〜2ミリの亀裂が入っていた。
管理会社によると、石膏ボードの継ぎ目がずれて亀裂が生じた可能性が高い。構造的な危険性はないが、全住戸を対象に被害状況のヒアリングを行っている。(千葉恵理子、菅野みゆき、有吉由香)