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きょうの社説 2011年3月23日
◎風評被害防止 消費者の行動も試される
ホウレンソウや原乳などに続き、福島第1原発近くで採取した海水からも規制値を超え
る放射性物質が確認され、終息の兆しが見えない原子力災害は食の分野にも影響を広げている。茨城県産というだけでスーパーがすべての野菜を撤去したり、東日本大震災前に製造さ れた被災地の食品まで陳列をやめる動きもある。小売や流通現場の先走った対応は消費者の不安をあおり、買い控えを広げる恐れがある。根拠のない風評被害が拡大すれば、農家や漁業者らに深刻な追い打ちをかけることになろう。 地震や津波は避けられないとしても、風評被害は人々の心の持ちようで抑えることがで きる。政府には迅速かつ正確な情報提供とともに、「見えない不安」に配慮し、伝え方にも一段の工夫が求められている。過剰な対応は被災地をさらに追い詰めることを認識し、消費者も冷静な行動を心掛けたい。 政府は農産物から食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたことを受け 、福島、茨城、栃木、群馬の4県に対し、ホウレンソウとカキナの出荷停止を指示し、福島県には牛の原乳の出荷停止も求めた。 今は規制値を上回った農産物は市場に流通させないことを徹底するしかないだろう。監 視の網を広げ、流通しているものは大丈夫という安心感を促す必要がある。県単位での出荷停止措置は安全な農産物にまで風評被害が及ぶ恐れがあり、国は繰り返し丁寧な説明を行ってほしい。 海からの放射性物質検出で漁業への影響が懸念されているが、海水で希釈され、濃度は 問題のないレベルまで低下するとの指摘もある。規制値は対象の水を1年間毎日飲んだ場合に一般の人が1年間に浴びても差し支えない「1ミリシーベルト」に相当する濃度を示す。法定基準は極めて厳しく、現段階で心配する必要はないだろう。 放射性物質に汚染された食品への規制はチェルノブイリ事故を受けて設定した輸入食品 向けの数値基準はあったが、国産品向けはなかった。このため、福島の原発事故後、厚生労働省が急きょ暫定規制値を設定した。この数値が妥当なのか検証も急がれる。
◎事業継続計画 自治体自身の認識深めて
大災害に見舞われた時、事業者が重要な事業、業務をいかに継続、再開するかの戦略、
手順をまとめた事業継続計画(BCP)の重要性が、東日本大震災であらためて浮かび上がっている。企業などに策定を促す自治体自身のBCP策定も急がれる。緊急事態に備えるBCPは、世界的には2001年の米同時多発テロ、日本国内では半 導体工場が深刻な被害を受けた04年の新潟中越地震などを契機に認識されるようになり、05年の政府の防災基本計画に、事業者がBCP策定に努める必要性が盛り込まれた。 しかし、内閣府の09年度調査では、BCPを「策定済み」ないし「策定中」の企業は 、大企業で58%、中堅企業で27%にとどまる。また、病院などの医療施設で策定しているのは、わずか4・8%に過ぎない。 課題は事業者だけでなく、自治体のBCP策定が進んでいないことである。最近は、新 型インフルエンザによる職員の大量欠勤に対応するBCPの策定が進展してきたが、地震を想定した自治体のBCPはきわめて少ない。09年調査では、「策定済み」が都道府県で5団体、市町村で1団体、「策定中」はそれぞれ16団体、169団体という状況である。 震災対応のBCPを策定していない理由として「災害時にほとんどの職員が非常参集で きる体制が整っている」ことを挙げる市町村が少なくない。自治体には災害対応策を総合的にまとめた地域防災計画や職員の参集計画、災害対応マニュアルがあるため、BCPの必要性について議論も認識も十分深まっていないといえる。 しかし、今回の大震災では、市町村役場と職員が大きな被害を受け、行政機能がマヒ状 態に陥ったところが多い。原発事故で役場ごと避難を余儀なくされた町もある。大災害で行政のシステム、人員が損なわれたとき、どの業務を優先し、その実行体制をどう確保するか。停止した業務をどう復旧させていくかを事前に考えておくことは大変重要である。政府も自治体のBCP策定の進め方について再検討が必要である。
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