核融合とは
水素爆発についての誤解
福島県の原子力発電所で起こった「水素爆発」とは、核融合の反応のことではありません。水素のガス爆発です。NHKのアナウンサーまでが「核融合」と発言していて、大変に驚きましたので、緊急で記載します。
核融合というのは簡単には起こせません。だからこそ実用化が難しく、だからこそ、停止することが簡単、というか、何もしなければ必ず止まるから安全性が高いとされるのです。反応を止められなくなることなど、核融合ならありえません。(2011年3月16日緊急追記)
核融合とは、21世紀半ばの実用化を目標に世界的に開発が進んでいる新しいエネルギーです。最近ナトリウム漏れを起して皮肉な形で有名になってしまった「高速増殖炉」と「核融合炉」を混同している方も時々いらっしゃるのですが、これらはまったく別のもの。太陽はもちろん、宇宙に輝くすべての天体は、水素、ヘリウムなどの核融合エネルギーで輝いています。核融合炉は、現在の原子炉のような高レベル核廃棄物を出さない人類究極のエネルギー源。核融合炉ができれば、核拡散問題からも、使用済み核燃料からの高レベル放射性廃棄物からも、開放されるでしょう。但し実用化にはまだまだ時間がかかります。しかし、「地上に太陽を!」という夢は、きっといつか実現するでしょう。
高速増殖炉は核分裂炉
高速増殖炉は、今動いている原子力発電炉と同様、核分裂を使う原子炉で、プルトニウムが燃料。まもなく実用化されるレベルにあります。
核分裂では、分裂後は色々な元素ができます。何が出来るか分からないところが欠点です。つまり、その中には強い放射性の元素もあります。ウランやプルトニウムに中性子が当たると超ウラン元素というものもできます。これも非常に強い放射性元素です。これらが使用済核燃料からの高レベル放射性廃棄物となり、長期(数万年)に渡る安全な管理が必要になります。
現在の原子炉は極めて安全に設計されており、核分裂を用いた原子炉そのものは決して危険ではありません。そして、核分裂エネルギーは、もし核融合炉が実現しないなら、人類のエネルギー源として必須です。しかし、核分裂を使えば、上記高レベル廃棄物が大量に発生し、その管理を将来世代に押し付けることになるは避けられません。この問題のブレークスルーとなりうるのが核融合炉なのです。
核融合炉の燃料は、ウランでもプルトニウムでもなく、水素です。反応そのものは太陽の中で熱を出している現象と同じなのです。
核分裂の時と異なり、核融合でできるものは決まっていて、安全なヘリウムです。風船に使われるあれです。中性子も出るので、炉心内部は放射化されますが、これは開発中の低放射化材料で解決するはずです。つまり、核分裂では反応そのものが高レベルの放射化物を作ってしまいますが、核融合はそうではありません。発生する中性子の処理さえ工夫すれば、放射性廃棄物のレベルは大きく下げられるのです。通常のステンレスで核融合炉を作った場合にはかなり高いレベルの放射化物ができます。この点を核融合の致命的欠点かのように誇張して反対されることがあるのですが、それは不合理な見解です。初代の飛行機が木製だったのを取り上げて、耐久性がないことを致命的と指摘しているようなものといえます。材料の開発は時間がかかりますが、低放射化材料はすでに開発中で、照射試験を繰り返しています。核融合炉が実現するまでには必ずできるのです。そのようにスケジュールが組まれています。
核融合の燃料、重水素(普通の水素の2倍の重さの水素)は海の中に無尽蔵です。初代の核融合炉は三重水素も使いますがこれはリチウムから核融合炉の中で自己生産します。携帯電話の電池でもお馴染みのあのリチウムです。リチウムは、当面はリチウム鉱として十分な量がありますし、海の中には無尽蔵です。だから核融合炉の燃料はすべて海にあるのです。資源に乏しく、海に囲まれた日本において核融合炉が特に期待されるのはこのためです。
海水から重水素を取り出すのに非常に大きなエネルギー(主に電気分解ということらしい)が必要であるとか、取り出すよい方法がない、などとおっしゃる方がいらっしゃいます。これは完全な誤りです。海水からの重水素製造はとうの昔に工業化されており、その分離にエネルギーはほとんど必要ないのです。もちろん水を電気分解などはしません。化学反応の反応速度の差を利用します。リチウムの回収に関してもすでに技術は存在しております。ただし、鉱山からのリチウムの2倍程度のコストがかかると思われるので、鉱山からのリチウムがなくなるまでは誰も今すぐ工業化しようとは思わないだけです。なお、核融合の燃料費は安く、運転費全体で大きな割合を占めないので、もしリチウムの価格が2倍になっても、発電コストにはほとんど関係ありません。
すなわち、核融合炉が完成すれば、プルトニウムの核拡散問題や、高レベル放射性廃棄物から開放されます。地球温暖化の原因となるCO2も発電中に発生しません。太陽光発電などの自然エネルギーはもちろん期待されますが、それだけでは天候などによる変動が大きすぎます。それらと核融合との組み合わせで21世紀の電力を供給するのが理想の姿であろうと考えます。
核融合といえども核エネルギーなので嫌う方もいらっしゃいます。そんなものを使うより節電を考えよとも言われます。しかし、われわれが節電するのは当然としても、今後の発展途上国の高度化によりエネルギー消費が爆発的に増えることは絶対に避けられず、現状技術だけでは、エネルギー不足か、CO2による地球温暖化か、高レベル核廃棄物の大量蓄積か、のどれかがわれわれを襲ってくることからは逃げられないのです。未来に責任を持つためには、なにか新技術が必要なのではないでしょうか。われわれはなにかするべきです。
核融合は、もはや単なる夢ではありません。50万kWという中型火力発電所並みの熱出力をもつ実験炉ITER(International
Thermo Nuclear Reactor)を世界的な協力体制で数年以内に建設を開始しようとしています。発電の基礎試験も可能です。公式には5700億円程度といわれる建設費の分担について、日本、米国、EU、ロシアに加え、最近参加した中国、韓国とインドを加えて、国際交渉が行われ、建設地をフランス・カダラッシュに決定し、国際協力によって、建設を開始しました。完成は2019年を予定しています。
建設母体であるITER国際機構の機構長には、2010年8月から日本の本島 修 博士が就任しています。また、もっとも重要な全体システム統合を担当する副機構長にも、近藤光昇 博士が就任しています。

ITERの鳥瞰図(核融合学会誌Iより)
第一世代の核融合炉は、燃料に放射性物質であるトリチウムを使用するので、核分裂炉からの核廃棄物よりは遥かにましとはいうものの、完全なクリーンエネルギーとまでは言えません。また実験炉であるITERにおいては、低放射化材料の建設許認可に関連するデータがまだ不充分であることから、通常のステンレスが選択されました。したがって、ITERの放射性廃棄物は、通常の原子炉とあまり変わらぬほど出てしまうといわれます。これは事実なのですが、決して核融合炉の不可避な性質なのではないのです。次のデモ炉においては必ず低放射化材をつかうことになります。また、核融合は、その将来においては、燃料を変えていくことで完全に放射能と縁が切れ、真のクリーンエネルギーとなる可能性もあります。そして、その実現にはまず第一世代の炉を建設しなければなりません。それゆえ、実験炉ITERの建設と成功が今もっとも重要なのです。
なお、ここで述べた見解は、開発スケジュールなどの明らかな事実を除き、あくまで私個人の見解であることを申し添えておきます。また、核融合炉はまだ開発途上であり、核融合や太陽光発電があるから核分裂原子炉はもう必要がない、などと考えるのは現実的ではありません。しかし、未来に核融合という希望の光はあるということです。
2011-3-16、加筆修正
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