2011年3月22日(火)

行政支援求める声も　復旧進む県北東部

砂水が残る車庫を心配そうに見る伊藤さん夫妻＝１７日、久喜市南栗橋１２丁目

　東日本大震災で被害を受けた県北東部の地域で復旧作業が進んでいる。一方、どこまで個人レベルで元の暮らしを取り戻せるのか、先の見えない不安を抱えている住民もいる。

　■江戸川堤防

　埼玉、茨城、千葉３県が接する幸手市西関宿の江戸川堤防。堤に沿う県道西関宿栗橋線が１１日、陥没した。センターラインを境に車線片側が約２００メートルにわたり沈んだ。

　車線の高低差は激しい所で１・２メートル、亀裂の幅は９０センチにも及んだ。さらに堤防の一部が崩落し、液状化とみられる影響で水と砂が噴いた。

　県道は２１日現在、同市惣新田の三田交差点から北へ約１キロ区間が通行止め。国土交通省江戸川河川事務所が昼夜を徹して復旧作業を続けている。県道の陥没個所は掘削され、崩落した土砂も搬出された。工事は４月１０日ごろ終わる予定だ。

　「土手が切れた」。１１日、春日部市内の病院で勤務していた医療事務員の山口ひとみさんは職場でそう聞き、急いで西関宿の自宅に向かった。

　堤防を見上げるように建つ自宅に戻ると、裏手の田んぼにまで土砂が崩落していた。「家に家族を残していたので心配で。迫る土手を見て、びっくりした」と振り返る。

　今は田んぼに一部土砂が残るが、ほぼ運び出された。まだ時折ある地震に「復旧工事がどこまで進んでいるのか分からないので、強い揺れがくると怖い」と明かす。

　山口さん宅そばの無職女性（８０）は、利根川堤防が決壊し多くの死者が出た１９４７年のカスリーン台風を今の自宅で体験した。それでも今回の震災に「ひどいもんだ」と心底思う。

　堤防が崩落し、近くの共同墓地までの通り道がふさがれた。「お彼岸だから、墓参りに行かないと。もう年なんだけど、自転車でぐるっと回って、遠回りして行きましょう」

　■南栗橋の液状化

　地震による液状化とみられる現象が起きた久喜市南栗橋。地盤が緩み、道路が隆起、砂水が噴き出た。電信柱は家屋寸前にまで傾いた。

　同南栗橋１２丁目の無職伊藤光一さん（７０）方の２階建て住宅も被害が出た。家の重みで庭が斜面と変わり、家屋横の車庫の屋根が３０センチ以上も下がった。

　お気に入りのマイホームだった。売り出し中の新興住宅地で、モデルハウスとして展示されていた今のわが家の「建ち姿」に引かれた。「バーベキューができそうなウッドデッキがあってさ」（伊藤さん）と懐かしむ。

　９６年冬、白岡町から転居。３５年の住宅ローンを組み、５千万円で購入した。妻和子さん（６９）との２人暮らしには広い感じの５ＬＤＫ。既に巣立った娘２人とのだんらんも考え、手に入れた。

　宅地造成前は田んぼだった、と聞いてはいた。でも「まさかこんな…」。ローンは残っている。それなのにトイレの排水さえ十分でなく、買い物先で用をたしている。被災宅地危険度判定制度に基づき、久喜市から宅地の立ち入りに十分注意が必要という「要注意宅地」の判定を受けた。

　悩みは上下水道管の復旧。一帯の状況確認に訪れた久喜市の職員からは「市が修復するのは道路下などの本管まで。宅地内は個人でやってほしい」との説明を受けた。

　「この辺りの家の地盤は、どこもズブズブ。個人には負担が大き過ぎるのに」。市の担当は「宅地内の配・排水管の修復は個人負担というスタンスは変わらない」としつつも、「過去の震災で自治体が手続きを経た上、見舞金を支給したケースなどは聞いたことがある」としている。

　伊藤さんは「年金暮らしで、この家にしがみつくしかない。これは天災なんです」と、ため息をついた。

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