● 中学校における実践
「わが町大和の再発見」
−探求活動を通じて−
河口昭彦 福岡県筑後市立羽犬塚中学校
1 はじめに
昨年度,出された新学習指導要領では「社会科」の時間が大幅に削減され,内容の精選が図られている。またその反面,生徒の特性等に応じて多様な学習活動が展開できるように選択教科が1年から開設されることとなった。さらにその学習内容においても,自由研究的な学習,見学・調査,作業的な学習などの学習活動に加えて,体験的な学習,補充的な学習,発展的な学習がうたわれている。
このような活動は生徒の関心・意欲の育成と「調査」活動における教師の援助,支援が適切に行わなければ,生徒自らの活動には結びつかないのが現実である。ここでは「動機づけ」に地域の施設を活用し,「調査活動」(探求活動)を通じて,学習方法やまとめ方発表の方法を身に付けさせようとした実践例を上げてみる。
2 身近な地域を題材として(実践例)
(1)生徒の認識(診断的評価から)
選択教科の実践を行った大和中学校のある大和町は筑紫平野に位置し,7世紀以降干拓事業によって耕地を拡大してきた町である。また,日本大相撲横綱土俵入り「雲龍型」の創始者10代横綱雲龍久吉の生誕地で,産業面では有明海の特性を生かした「海苔」の生産日本一を誇っている。
このことは生徒自信も認識していることが次のアンケートからもうかがえる。
大和町はどんな町ですか?(複数回答可)
・海苔の生産が日本一
・横綱「雲龍」の出身地
・海面より低い地域(干拓によって)
・農地が広い(私の家は4hくらい)
・私鉄の駅が三つもある
・半農半漁の町
(2)「動機づけ」(テーマ設定)
テーマ決定にあたって,学習場所を学校の南東に位置する「雲龍の館」に移し,資料展示室を見学することで町の歴史や産業を再確認した。その中で「どうしてだろうか」「もっと知りたい」と思うことを上げさせ,ともに関心を持つものでグルーピング(小集団)をし,テーマを絞っていった。
その結果,11のグループができ,次のようなテーマが出された。
[1]大和町の干拓の歴史について
[2]有明海の干拓について
[3]干拓の環境について(生物)
[4]横綱雲龍の一生とは
[5]筑後地方の方言について
[6]大和町の地名
[7]大和町の祭り
[8]矢部川流域のようす
[9]大和町の城跡(戦国時代)
[10]開拓者島信之の生涯
[11]豊原の板碑とは
(3)仮説の設定
調査活動を円滑に進めるために探求仮説を設定させた。
大和町の地名には干拓を表す地名が多いのではないだろうか。(E大和町の地名)
(4)調査方法と分析,まとめ方
これまで野外活動の経験がない生徒が主体的に活動するためには調査方法の提示が必要となる。
調査方法
・資料,文献収集(パンフレット,図書)
・聞き取り調査(インタビュー)
・フィールドワーク
(遺蹟や史蹟,記念碑などを訪問し,書いてある内容を写したり写真に撮る)
レポート構成
1 テーマ(設定の理由)
2 探求(調査)内容
3 分析(わかったこと,まとめ)
4 感想・自己評価
5 資料さらに,探求活動の計画を作成するために次の観点から再考させ,実際の活動に移らせた。
・調査が時間内でできるか。
・客観的資料が提示できるか。
(5)支援(援助)
生徒が活動計画を作成する際に前もって次のような支援を行う必要がある。
教師の支援活動
・訪問先との連絡
(教育委員会,漁業協同組合など)
・資料の貸し出し要請
(6)探求(調査)活動
各グループが探求活動を実施した場合,現実問題として,2時間の限られた時間では資料(図書)読み,整理が限度である。フィールドワークを取り入れた場合,50分の授業時間内では廻りきれず,放課後や土曜日曜を利用し聞き取り調査や史蹟巡りを行っている。
(7)発表,評価
各グル−プごとに探求(調査)活動の成果をレポートにまとめ,発表会を行った。
まとめの際は原稿用紙5枚以上という目安を設けてはいたが,15枚に及ぶ大作も作られている。生徒は各時間ごとに自己評価を行い,さらに発表では,評価表を基に,互いの「よさ」の発見と「改善点」を指摘しあうことで「自己実現(充実感)」を味わわせることを心がけた。
生徒はこれまでの活動を通じて,自分の住む町を今まで以上に認識してきている。またそれ以上に郷土の素晴らしさを実感し,郷土に対し誇りまで感じている生徒も少なくなかった。
この授業の目的として,調査方法やまとめ方など実習的な要素を多分に持って臨んだ授業であったが,期待以上のものが得られた活動であった。
3 さいごに
この選択授業の取り組みは前期後期と分けた前期の最初の取り組みであった。生徒は初めての活動で物珍しさも手伝って大変意欲的に活動し,それなりのものを残し,また何かを心に抱いてくれたと思う。
これらの活動が円滑にできたのは,学校の身近に郷土の産業,歴史を紹介した施設である「雲龍の館」や地域の図書館の司書の方々がまとめられた「干拓資料」などの教材が身近にあったこと,探求内容が身近な地域を扱ったものであり,親しみやすかったり,自分の生活や生活体験を生かすことができたためであると考える。
今後はこれらの探求活動を地域に紹介したりするなど地域との連携を深め,生徒の自己実現(充実感)の達成度を高めていきたいと考える。