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福島第一原子力発電所の事故で、食品の安全に対する不安が高まった。牛乳やホウレンソウなど周辺でつくられる農産物が放射性物質に汚染されていることがわかったのだ。福島県などは[記事全文]
まだ三十数万人が東日本大震災での避難生活を強いられるなか、4年に1度の統一地方選が始まる。東京都など12知事選が24日に告示され、4月10日投票に向けて走り出すのを幕開[記事全文]
福島第一原子力発電所の事故で、食品の安全に対する不安が高まった。牛乳やホウレンソウなど周辺でつくられる農産物が放射性物質に汚染されていることがわかったのだ。
福島県などは原発周辺の農産物出荷を自粛するよう農協や生産者に要請した。これに続き、政府は食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が見つかった農産物について、出荷制限の指示を産地の県知事に出した。
政府は、今の段階では出荷制限された農産物を食べたとしても、ただちに健康に害を及ぼすものではないとし、冷静な対応を呼びかけている。
食べ物の汚染は、消費者の間に過剰な不安を増幅しやすい。関東圏のスーパーなどでは、すでに買い控えの動きも起きている。一定の基準を超えた農産物の出荷を止めることで、それ以外の農産物が安全であることを示す効果があると言えるだろう。
だが、食品衛生法に放射能についての基準はなかった。今回は、原子力安全委員会が2000年に示した指標を暫定規制値として利用せざるを得なかった。厚生労働省が食品安全委員会に食品としての指標値づくりを諮問したのは20日で、対応は、まさに泥縄といわざるを得ない。
食品安全委は、責任ある説明ができる基準づくりを急いでほしい。
いま大切なことは、国民の健康を守り、不安を抑え、風評による被害で農家をさらに苦しめないようにすることだ。政府の責任は重い。
それにはまず、農作物の監視を強め、汚染状況を早く正確に把握することだ。データは包み隠さず開示を徹底し、政府の姿勢に疑念を抱かれないようにすべきである。
汚染データとその対策を、消費者にも生産者にもきちんと説明することが求められる。
情報発信に当たっては、国民が納得できるような根拠を示し、ていねいに説明しなければならない。危険性の伝え方を研究している専門家の知恵も大いに借りるべきだ。
健康に害がないといっても、放射性物質の種類によって影響は異なるので、詳しい説明が必要だろう。
農産物を汚染しているのは、放射性のヨウ素やセシウムなどだ。いったん体内に入ると、体内で放射線を出し続けるのでやっかいだ。
放射線は遺伝子を傷つけ、一定量を超すとがんになる危険が高まる。その傷が身体の修復機能をすり抜けてがんになるとしても何年もかかるので、若い人ほど注意が必要とされる。
汚染が見つかった産地でも、作物によっては汚染されていないものも多い。政府は、そんな情報も積極的に発信してほしい。
私たちも、冷静に行動したい。
まだ三十数万人が東日本大震災での避難生活を強いられるなか、4年に1度の統一地方選が始まる。
東京都など12知事選が24日に告示され、4月10日投票に向けて走り出すのを幕開きに、4月24日投票の市区町村長・議員選まで、1カ月間に全国の自治体で千近くの選挙がある。
だが、津波にのみ込まれたり、原発事故で多くの人が家を離れたりしているところでは選挙のやりようがない。そこで、政府は選挙を2カ月から半年、先送りする特例法をつくった。とくに被害の大きい岩手、宮城、福島各県を中心に適用されそうだ。
一部を延期するのは、16年前の阪神大震災で2カ月延ばして以来だ。
今回の被害は、より広範で甚大なので、国会では全国一律の先送り論もあった。未曽有の国難であり、すべての自治体が被災地支援に専念すべきだ。選挙運動で電気やガソリンを使っている場合ではない、といった理由だ。説得力はあったものの、退けられた。
一斉先送りを拒んだ片山善博総務相は国会で「選挙は民主主義の一番の基礎であり、有権者が権力を形づくる最も重要な作業なので優先して考えるべきだ」という趣旨の答弁をした。
まさしく正論であろう。しかし、この時期に舌戦が始まることへの違和感をぬぐえない人も多いのではないか。一刀両断とはいかない。
各地とも、いま選挙をすれば、どうしても危機管理や防災計画が焦点になるだろう。もちろんそれは重要な論点だけれど、地域それぞれの課題を広く深く考える好機のはずの選挙の意義が薄まりかねないのは残念だ。
こうした現状を踏まえた上で、今回の統一地方選にどう臨むべきか。
大震災は、行政が瞬時に崩壊する過酷な現実を見せつけた。最後に頼れるのは地域社会、人々のつながりなのだと、私たちは改めて思い知らされた。
いざという時ほど、住民同士の連携による自治の本領発揮が求められるということだ。住民が判断し、決めて、実行していく。こんな自治の役割を、被災していない多くの地域でもかみしめよう。
一方で、住民の自治の力だけではどうにもならない難題も数多い。具体的な支援策を政治に頼らざるを得ない現実がある。それなのに、被災地から届く声は国と地方の政治がいかにも頼りないと感じさせる。
その最も身近な地域の政治をつくるのが地方選挙だ。自分たちの一票一票で「頼れる地域社会」を実現できるかどうか。これが今回の統一地方選の共通課題になってきた。
私たち有権者とともに、自治の担い手になるのにふさわしい首長はだれか、議員はだれなのか。じっくり見極めるときだ。