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きょうの社説 2011年3月22日
◎北陸の津波対策 困難でも地道に「減災」を
東日本大震災は発生から10日が過ぎても死者、行方不明者の詳細がつかめず、大津波
で街が跡形もなく消えた地域では、生活再建の足掛かりさえ見いだせない惨状が広がっている。大津波は大地震に比べて頻度が少ないとはいえ、ひとたび起きれば地震以上の大量死を 招き、復旧、復興に多大な時間を要する。大震災は日本が「津波大国」であるという忘れがちな現実を見せつけた。 海岸線の長い北陸にとっても津波は大きな脅威であり、沿岸に集落が集中する能登半島 などでは、大津波に見舞われれば壊滅的な被害が予想される。 今回の東北地方をはじめ、太平洋側ではこれまでも津波被害が繰り返されてきたが、日 本海側では100人が犠牲になった日本海中部地震(1983年)を除けば、目立った人的被害はなかった。このため、津波の怖さは語り継がれず、防災体制は明らかに手薄で、人々の意識も希薄である。 大津波のすさまじい破壊力をみれば、あきらめの気持ちも芽生えがちだが、一瞬の判断 が生死を分けたケースは少なくない。被害を食い止めるのは無理でも軽減することは可能である。地域ごとに足元の災害環境を見直し、地道に粘り強く「減災」に取り組みたい。 津波予報の進歩で到達時刻や津波の高さは予想可能になった。問題は警報を受け、住民 が適切な避難行動を取れるかである。北陸でも大地震が起きれば数メートルの津波が想定されている。 津波のハザードマップ(危険予測図)さえ整備していない自治体もみられるが、マップ 整備は災害対策の出発点である。それに基づいて具体的な避難方法を確認し、被害発生を前提にした対策に乗り出す必要がある。 近くに避難できる高台や頑丈な鉄筋建物があるか。避難路を設定しても倒壊家屋にふさ がれる危険性はないか。沿岸部は高齢化率が高いだけに、高台などへのお年寄りの誘導も大きな課題である。 防災のなかで福祉を考え、福祉に防災の視点を取り入れる「防災福祉」の考え方も定着 してきた。防潮堤、防波堤などのハード整備とともに、住民の心構えを高めて地域の「減災力」を強化したい。
◎中山間地の備蓄 「孤立集落」の防災の要
東日本大震災で避難所に運ばれながら、医薬品や食料、燃料などの不足により、被災者
が命を落とすケースが相次いで報告されている。地震や豪雪で孤立するおそれのある集落、とりわけ高齢者だけの世帯の多い中山間地では、地域ごとに、安全な集会施設などに必要最小限の備品を保管しておくことの大切さを、あらためて教えてくれる。しかし、こうした集落のうち、日ごろから医薬品を備蓄しているところは、2年前の内 閣府の調査で5・8%程度にとどまっている。孤立する可能性のある集落については、災害に見舞われた際、寸断されることが多い道路の復旧などに重点が置かれるが、その間、外部との行き来を遮断される集落ごとの「持久力」がいかに保てるかも大きな課題である。 石川、富山でも、山間部や海岸沿いに、こうした集落を抱える自治体ごとに周知徹底が 求められるとともに、命を守る防災の要として、常日頃から各戸単位でも必需品を確保する習慣を定着させるよう指導も強めたい。 内閣府は04年の新潟県中越地震などで集落の孤立が多発したことから、最低1週間程 度は自活できるよう備蓄を進めるべきだと提言していた。先の内閣府の調査も、そうした提言を受けて数年ごとに実施されている。 09年に実施された直近の調査では、全国で孤立の恐れがある中山間地の農業集落は1 万7406、漁業集落で1805だった。石川県内では、農業集落が169、漁業集落は30で、富山県内は農業集落341、漁業集落が8となっており、両県全域に広範に位置している。また同調査では、医薬品を備蓄している農業集落の割合は5・8%と、05年の前回調査の11・3%を大幅に下回るなど、健康の命綱を確保している集落が、少なくなっている。こうした数字を見ると、近年やや危機感が薄れてきている状況は否めない。 今回の大震災では、孤立した被災地への支援が、交通や通信網の寸断によって滞った。 備蓄による被害軽減の観点から、この苦い経験を生かしていきたい。
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