ちっさー こと 岡井千聖さんとはじめてお会いしたのも 前述のオトムギ初ゲキハロ『寝る子は℃-ute』でした。 はつらつとした笑顔と、さくっとボーイッシュな雰囲気、 風とおしのいいギャグセンスに惹かれ、茅奈(ちな)と いう、物語に他のみんなとは別の切り口でからんでくる 「カリスマ占い師の娘」というスパイス的な存在の役を 宛書き(あてがき)させてもらいました
その宛書きは、じまんっぽくなっちゃってすみませんが、 岡井さんの魅力にばっちりあっていたようにおもいます。 ・・そして、だけど稽古がはじまってしばらくたつうち、 ちっさーはそれ以外に、いつもはかくされた特別な力を 持っていることにぼくも大人たちも気づきはじめました
『寝る子は℃-ute』には主題歌があって、歌詞の一部に 『二人で手をつないで、星を見たくて』というパートが あります。振り付けの先生は、当然「二人で手をつなぐ」 振りをつけていくのですが、二人ずつ組んだら℃-uteは 一人あまってしまいます。ぼくが、そのことに気づいて 「うっ、どうするべ」とあせる間も無く、岡井ちゃんは タタッと一人で遠くに駆けていきながら「じゃー千聖が 『二人でー♪』のあいだは、一人でこうダンスやってて 『星を見たくて♪』の時に、サッてなっきぃと舞ちゃん のとこに手をつなぎに行きます」と、一瞬で言いました。 誰もあせりだす前に、自分を犠牲にして解決しちゃった ・・なんじゃ??この娘は・・??
『寝る子は℃-ute』は、℃-uteの初めての本格的な舞台。 さぞかし不安も多かろうと、演出家塩田は信頼する仲間、 プロフェッショナル俳優たちを連れて現場に臨みました。 「稽古や舞台上でなにか困ったら彼らを頼ってください。 彼らは海千山千(うみせんやません)絶対なんとかして 助けるから」くらいのことを言っていました。そうして はじめた稽古で、バカヒロという役の中神さんがセリフ を忘れてシーンを止めちゃった時(稽古初めの中神さん にはよくあること、オトムギ稽古なら笑い話なのですが) 塩田はぶち切れて「中神!そんなんじゃ たよれねえよ! 役者だろ、おめえ!」と激しく罵倒をしてしまいました
恥ずかしい話ですが、稽古場は凍ってしまいカズさんは (めずらしく)うなだれています。そんな重たい空気で 再開した稽古は「バカヒロがボヤ騒ぎを起こした別荘を みんなで復旧する」という、セリフのないフリー演技の ちょっとミュージカルっぽいシーンでした。その時です。 皆は掃除や修理に大忙しなのに、一人だけなにもせずに また煙草なんぞ吸おうとする(役の)中神さんに茅奈役 の岡井さんが(今までそんな動きは見せてなかったのに) 目を強く光らせてぽんぽんぽんぽんからんでいくのです。 言葉のない演技で「あんたも働きなさい。タバコなんか やめろ」とうったえてるその姿は、まるで「ひっこむな、 ひっこむな、さっきのリベンジをしろ。大丈夫、大丈夫」 ってカズさんを力づよく元気づけているかのようでした ・・なっ、なんじゃ??この娘は・・??
その夜の呑み屋。カズさんは半泣きしながら言いました。 「タイゾーの手のつけられない本気切れで俺は滅ぶかと 思った。俺は俺は今日、岡井ちゃんに救われたんだぁー! あの子は・・岡井ちゃんは、菩薩(ぼさつ)だぁーッ!」
はい。岡井千聖の いつもは封印された特別な力。それは 菩薩のこころ。ひとの 場の ピンチを引き受ける人間力。 それは初顔合わせの時点では気づけなかったことでした。
ぼくはなんとなく稽古中「今、この瞬間、稽古場の空気 どうかな?」っておもう時、無意識にちっさーの表情を 目で追うようになっていました。「ちっさーが無邪気に はつらつと笑ってる時は、ばっちしオッケー。まっすぐ 真剣に目を輝かせてる時も、ばっちしオッケー。なにか 『ん?』っていう表情を見せてる時は、どこかかげりが 出てるのかも」って
次回ご一緒するときは、ぜひそこのところを書きたいな と思って臨んだ今回の芝居です。
そんな『1974』は、作家の思い入れをドドーンと一気に 引き受けて、岡井さんの役は超大変な挑戦になりました (どんな超大変かは是非12月の『サザンシアター』で 見届けてください!) でも、稽古期間中、千聖さんは「たいへん」「できない」 とは決して言わずに、日に日に、前日の何倍も素晴しい 演技、目が離せなくなるシーンを魅せ続けてくれました。 回を重ねるごとに役になりきっていって、目がきらきら 輝きを増すのです。「どんと来い」感がすごいオーラを 放っているのです。ほれぼれする取り組み、化けっぷり、 格好のよさに、作家・演出冥利を感じずにはいられない 聖なる時間でした
ご本人が「今回はあたしとはもうぜんっぜんちがう役で、 だからすごいやりがいがあります」って言ってくれてる のを耳にしてとても嬉しかったのですが、塩田としては 千聖さんからいただいたものをちょっとかたちをかえて 脚本に描いてみたつもりです
カズさんは衣裳合せ中に岡井ちゃんとお話したそうです
「あたしは演技が苦手で、℃-uteのみんなはなっきぃも 舞美ちゃんもすごい演技が上手で、ホントすごいんです、 あぁ舞美ちゃんの演技、見せたいなぁ」
ううん。そうかもしれないけど、今、ヒトのことそんな すてきにほめたりしなくていいから。あなたはあなたの 能力の異常な高さに自分で気がついていないよ。前の日 に出来なかったこと絶対逃げずに自分のものにしてくる。 その姿は1974座組の全員をとりこにしているよ。 あなたのこの役は、絶対に 岡井千聖でしかありえないよ
カズさんはその時そう思って、思ったけども、本人には 言わなかったそうです オレもまったくおなじきもちです。でもやはり本人には 伝えられていません
なんせ、ちっさーはともかくほめさせてくれないのです。 「通しすごく良かったよ」って伝えたいのに、ぽろぽろ 涙を流したりしていて、「えっ?!どうしたの?」って おろおろ心配するまえに「あの、どうか、ぜんぜん気に しないでください。自分が自分にくやしいだけですので」 と逆に気づかいまでしてくれちゃうのだ・・なんという 自分へのオッケーの高さなんだろう
それは、なっきぃ(中島早貴さん)も同じで、二人とも 本番で、お客さんにいいものを観せるまでやりきること しか考えていない。「℃-uteは、なかなかほめさせない」
だから客席に喝采で迎えられたら、その時こそほめよう。
大人の麦茶 十八杯め公演『1974』の岡井 千聖さん、
どうぞ、おもいっきりたのしみに待っていてください!!
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Date: 2011/03/21(MON)
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