「難病」は、医学的に明確に定義された病気の名称ではありません。いわゆる「不治の病」に対して社会通念として用いられてきた言葉です。そのため、難病であるか否かは、その時代の医療水準や社会事情によって変化します。 例えば、かつて日本人の生活が貧しかった時代には、赤痢、コレラ、結核などの感染症は「不治の病」でした。その当時は有効な治療法もなく、多くの人命が奪われたという点で、これらの疾病はまぎれもなく難病でした。しかし、その後日本人の生活が豊かになり、公衆衛生の向上、医学の進歩および保健・医療の充実と共に、これらの感染症は、治療法が確立され不治の病ではなくなりました。しかし、治療がむずかしく、慢性の経過をたどる疾病もいまだ存在し、このような疾病を難病と呼んでいます。 一方、昭和47年の難病対策要綱において、難病は、(1)原因不明、治療方針未確定であり、かつ、後遺症を残す恐れが少なくない疾病、(2)経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」と定義されています。 我が国の難病対策では、症例数が少なく、原因不明で、治療方法が確立しておらず、生活面への長期にわたる支障がある疾患については、(1)調査研究の推進(難治性疾患克服研究事業:対象は臨床調査研究分野の130疾患)、(2)医療施設等の整備(重症難病患者拠点・協力病院設備)、(3)地域における保健・医療福祉の充実・連携(難病特別対策推進事業など)、(4)QOLの向上を目指した福祉施策の推進(難病患者等居宅生活支援事業)などの対策が行われています。また難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患130疾患のうち、診断基準が一応確立し、かつ難治度、重症度が高く、患者数が比較的少ないため、公費負担の方法をとらないと原因の究明、治療法の開発などに困難をきたすおそれのある疾患については、(5)医療費の自己負担の軽減(特定疾患治療研究事業)対策をしています。