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不安抱え「とにかく西へ」 福島原発周辺4万人超避難

2011年3月12日14時0分

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写真拡大全町民に避難指示が出たため、避難所から町外へ向かう住民たち=12日午前6時7分、福島県大熊町、水野義則撮影

 原子炉の圧力を下げるため、放射能を含む蒸気を外部に放出する作業を始めた東京電力福島第一・第二原発。半径10キロ以内の住民らに国から避難指示が出たため、地元の福島県大熊町など4町の住民ら約5万人が内陸などへ避難を始めた。「とにかく西へ」。いったん身を寄せた避難所から、行き先も示されないまま不安の中で移動を始めた。

 「避難指示が出されました」

 原発から約3.5キロに位置する避難所の町総合スポーツセンターには午前6時、町の防災無線で避難指示が伝えられた。約2千人の住民が、毛布や水の入ったペットボトル、食糧を抱え、不安そうな表情で待機していたバスに乗り込んだ。センターで毛布にくるまっていた女性は「糖尿病なのに、インスリンを家に置いてきてしまった。どうしたらいいのか」と涙を流した。

 避難誘導は、白い防護服に身を包んだ十数人の警察官が担当。避難所は物々しい雰囲気に包まれた。

 「とにかく西へ向かって下さい」。避難所の責任者を務める同町の課長がスピーカーで叫ぶ。住民から「ここに待機できない状況なのか」「すでに放射能が漏れているということか」と詰め寄られたが、課長らは「私らも正確な情報がないんです」と言うばかりだった。

 明確な行き先は示されないまま、高齢者や子ども連れなどを乗せたバスは内陸の田村市や郡山市方面へ向かった。住民を運ぶバスの手配が十分にできないとして、自家用車で避難することも指示された。

 バスは途中の避難所でも数百人の住民を乗せ、ひたすら西へ向かった。男性は「移動場所の指示もなくいったいどこへ行けばいいのか」と話した。

 午前8時半ごろには、田村市の市立古道小学校に数台のバスが次々と到着。避難してきた人は重なった避難に疲れた表情で車を降りた。(西山貴章、白木琢歩)

     ◇

 福島県によると、福島第一原発に近い双葉厚生病院には患者・職員あわせて191人、近くの介護施設「ヘルスケアーふたば」には計70人が取り残されている。避難先までの道路が一部陥没しているためにバスが通れず、施設で窓を閉めて待機しているという。一方、県立大野病院の入院患者約50人は、ドクターヘリなどを使って移動を終えた。

 大熊町の西隣の田村市は被害が少なかったため、公共施設20カ所を大熊町民の滞在先として開放することを決めた。

 大熊町の北に隣接する双葉町も、放射能漏れの危険を避けるため、全町民約6800人が町外に避難することになった。町役場によると、午前6時に防災無線で避難するよう放送をした。

 同9時ごろから希望者には内陸の川俣町にマイクロバスでのピストン輸送を開始。自力で町外に出る住民もいるという。職員の一人は「どれぐらいの住民がバスに乗るのかも、住民がどうやって町外に行くのかも分からない」と慌てた様子で話した。

 福島第二原発がある楢葉町では、午前8時ごろから南のいわき市に向けて町民の避難が始まった。同町の町民は約7800人。町では放送のほか、消防団が町内を回って避難を呼びかけた。前日の夜から町が把握している集合場所にいた約1500人はバスで、そのほかの町民には自家用車などで、いわき市内の学校施設に避難するよう呼びかけた。現在、避難中という。

 同じく福島第二原発がある富岡町も、全町民約1万6千人が町外へ退避することになった。町役場によると、隣の川内村に避難先を確保し、防災無線で避難を呼びかけた。町内外からかき集めたバスで、朝から避難先に輸送している。

 住民の避難を支援するため、国土交通省はバス会社に運行を要請した。11社の計117台のバスが現在、現地へ向かっているという。

     ◇

 東京電力は12日、福島第二原発で協力会社の作業員が死亡し、第一原発で社員2人が行方不明になっていると発表した。

 死亡したのは国勇(こくゆう)工業(同県相馬市)の男性作業員早川修さん(54)とみられる。排気筒の耐震工事中に地震に遭い、クレーンのアームが折れて頭に当たったという。

 行方不明の2人は第一原発第一運転管理部の社員で小久保和彦さん(24)と寺島祥希さん(21)。第一原発4号機から蒸気を受けて電気をおこすタービン(羽根車)の建屋にいたらしい。

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