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問われる津波対策

2011年03月18日

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砂浜の上には、高さ6メートルの防潮堤が設けられ、数十メートルおきに開閉できる門戸が開けられている=松崎町

 「想定外」の津波が多くの港町をのみ込んだ東日本大震災。東海地震による津波の被害に備えてきた県内では、これまでの被害想定を見直す動きが出てきた。東海地震の可能性が提唱されてから30年以上。県民の「慣れ」や危機意識の低下が指摘されるなか、専門家は津波の恐ろしさに改めて警鐘を鳴らしている。

 阪神大震災後の2001年に県がまとめた被害想定によると、東海地震が発生した場合、第1波の津波は、駿河湾内で地震発生直後〜5分、遠州灘で直後〜10分、伊豆半島南部の下田付近で10〜15分、伊豆半島東部の熱海、伊東付近で30分程度で沿岸部に到達する。県全体で37・85平方キロメートルが浸水し、そのうち6・17平方キロメートルは、水深2メートルを超える海水に覆われるとしている。

 この被害想定は、1854(安政元)年に県内沿岸部に大きな津波被害を出した安政東海地震の推定浸水域をもとにまとめられている。沿岸各市町はこの被害想定を下敷きにしてハザードマップを準備。津波対策に力を入れている松崎町は、さらに町独自の津波シミュレーションを行い、到達時間や避難先のビルの場所などを書き込んだハザードマップを07年に作った。

 しかし、県の被害想定では、津波の高さは最大で、沼津市10・4メートル、旧御前崎町8・2メートル、静岡市7・4メートルなど。一方、3月11日に発生した東日本大震災は、岩手県宮古市田老地区で、高さ10メートル、総延長2・4キロの日本屈指の規模とされる防潮堤を津波が越え、街を押し流した。

 遠州灘に面した袋井市浅羽地区の防潮堤は6〜7メートル。被害想定上、津波は堤防を乗り越えず、市の防災計画も住民の避難を考えていない。しかし、大震災の惨状を目の当たりにした住民からは「計画は実態に合わないのでは」と不安が高まり、市は防災計画を早急に見直すことを決めた。

 原田英之市長は「住民がどこまで避難すれば安全かは、率直に言ってわからない。高さ何メートルの津波が起こりうるか、国、県は新たな知見を加えた被害のシミュレーションを作って欲しい」と訴える。

 富士市田子の浦港から沼津市西部までは高さ17メートルの防潮堤に守られ、11日の東日本大震災時も「あの堤防があるから大丈夫」と避難しない住民も多かったという。県の岩田孝仁危機報道監は、防潮堤や防波堤は家など財産を守る側面が強いとしたうえで、「命を守るには、住民が各自逃げるしかない」と言い切る。「防潮堤に命を託すことはあり得ず、すぐに高台に避難すべきだ。県民には、防潮堤ができたとたかをくくる人もいるが、もう一度警鐘を鳴らしたい」と話す。

 ■道のり15分、津波は3分後

 小さな入り江が連なる伊豆半島西側に位置し、約7600人が暮らす松崎町。県が想定する津波は高さ約6メートルで、海沿いにほぼ同じ高さの防潮堤が築かれている。

 海岸に近い江奈4地区。町のハザードマップは海に面した10階建てのホテルを避難ビルとしているが、住民の女性(75)は「海のそばで怖い。逃げるなら山すそにある保育園かな」という。

 海抜28メートルにある保育園までの道のりは、細い道路の両側に民家や商店が立ち並ぶ。さらに、名物のなまこ壁が見事な蔵に、古い木造家屋。地震が起きれば、がれきが道をふさぐ可能性がある。

 海沿いの民家から保育園まで歩くと、急な上り坂をはさんで15分はかかる。県の被害想定によれば、津波の第一波が町に押し寄せるのは地震発生から3分後だ。

 3階建ての町役場も避難先に指定されているが、海まで400メートルほどで、そばを那賀川が流れる。近くの岡村彰夫さん(68)は「長らく地震が無かったので、住民の危機感は薄い。各自意識を高く持たないといけない」と話した。

    ◇

 富士市は11日に大津波警報が出た際、県内で唯一、避難「指示」が出た。しかし、田子の浦地区から東方面の海岸線には高さ17メートルの堤防が築かれ、田子の浦港のすぐ北側に位置する荒川島1丁目地区は、避難指示の対象から外れた。

 同地区は海まで700メートルほどだが、途中には工場やタンクがあり、海は身近に感じられない。町内会長(72)は「津波と言われても正直ピンと来ない。瞬時に逃げるとか考えたこともない」。

 避難先に指定されている吉原小学校は4階建て。周囲に高い建物はほとんどない。

 小山博司校長は今回の大震災をきっかけに、津波注意報が出た場合は、避難者を屋上に移すことも考え始めた。「いざという時、屋上に上げるだけでいいのか、もっと丘に避難させるべきかの判断は難しい。行政とも確認していかないと」と話した。(後藤遼太、植松佳香)

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