午後8時43分。
人口のほとんどが学生であるこの学園都市では、繁華街の大通りといえどこの時間にもなれば人通りは少ない。
下校時間が決められており、娯楽施設の多い地下街も平日は20時には完全に閉まる。
多くの学生たちは進学塾に通うかアルバイトでもしていない限りこの時間はすでに帰宅している。
そのため大通りの店も大半はこの時間にもなれば店じまいするところが多く、
既にシャッターの降ろされた店舗が目立つ。
そんな一角に、明らかに不良然とした格好の男子学生たちに囲まれた少女がいた。
彼女は特に困ったそぶりも見せず、店のシャッターにもたれかかり腕を組んでいる。
その少女を取り囲み下卑た笑い声を上げる男たち。
「なぁ、いいじゃねぇか。一緒に遊ぼうぜ?」
どこか昭和を感じさせるステレオタイプなナンパに、それを聞き流しながら少女はため息をつく。
通りに目を向ければ、わずかながらにも通る通行人と目が合うが、皆一様に視線をそらす。
誰も見るからに厄介事に首を突っ込んでまで、赤の他人を助けようとはしない。
わかってはいたけど、そのことに少女はため息が出る。
別に助けて欲しいわけじゃない。自分は特に困ってはいないのだから。
彼等の判断は少なくとも間違っちゃいない。
人道とか正義とか、道徳的な面では正解ではないかもしれないが、賢明な判断というやつだろう。
ただ、皆同じように背を向けて逃げていく。
それが彼女にとってはおもしろくない。それだけだった。
まぁ、こんなことに好き好んで首を出すのは変なやつか、馬鹿なくらいによほどのお人よしくらいである。
(あいつみたいに、ね・・・)
無意識にある人物を想像し、苦笑する。
確かにあいつは馬鹿でお人好しで変なやつだ、と思う。
今までこんな状況になったことは何度もあるが、首をつっこんできたのはあいつくらいだ。
まぁ、あんなお人よし他にいないか・・・この街、変な奴ならいっぱいいるのになぁ。
「おまえらぁ!女の子にな~にやってんだぁあ!!」
そんな時、大通り一体に響くような大声が聞こえてきた。
まさかあいつがまた来たのかと思い顔をあげる。
「な、なんだお前!?」
「か弱い女の子を囲んでナニしようとしてたんだって言ってんだ!!」
そのあまりの光景に少女は思考が停止する。
不良たちも動揺し、固まっていた。
それは彼女にとってあまりにも想定外の光景。
「集団で婦女暴行など、このひょっとこ仮面が許さない!!
この俺の股間のアナコンダが成敗してくれるわ!!」
左手は横に、肩より20度上になるように伸ばし、右手は拳を作って心臓の位置に。
両足を閉じて直立し、ひょっとこを模した面で顔を隠した人物。
茂みから首を伸ばす大蛇は周囲を威嚇するかのように猛っている。
その人物は・・・
「「「「「「「「「へ、へ、へ、変態だーーーーーーー!!」」」」」」」」」」
・・・面以外は何も身につけていない、いわゆる全裸だった。
学園都市、それは東京都西部を開拓し作られたいくつもの学校が集まった都市である。
そこでは科学的に超能力の開発が研究され、学生たちは日夜、能力の可能性を模索している。
誰でも能力者になれるというわけではなく、人口のほとんどは無能力者ではある。
しかし外の世界と比べ圧倒的に様々な能力を扱える人間が多いため犯罪者も多いのが難点だ。
能力を使って悪さを働く輩は後を絶たない。
この物語の主人公、永蟲柳という少年もその一人。
彼の前科は二つ、『猥褻物陳列罪』および『強制猥褻罪』である。
全裸でいきなり登場した彼を見て、不良たちは「変態だ」「露出狂」「でかい」と騒ぎ立つ。
「そらそらそら!俺のアナコンダの毒牙にかかりてえ奴はかかってきな!!」
「な、舐めてんのか!?この変態きち○い野郎!!」
不良の一人が柳、もといひょっとこ仮面に殴りかかる。
ひょっとこ仮面は地面を軽く蹴ると跳躍した。
「おっぴ○げアタック!!」
彼は股を大きく開き、ちょうど股間が不良の頭にぶつかるようにする。
しかし実際は軌道は重なっているはずなのにぶつからない。
不良の顔はそのままひょっとこ仮面の股間をすりぬけた。
すたっと軽い音をたてて着地するひょっとこ仮面。
両腕はYの字を描くように上にあげている。
アナコンダは相変わらず周囲を威嚇している。
「ぐ、お、ぅぉぉぉおおおえええええええええええ!!」
先ほどひょっとこ仮面を殴ろうとして失敗した不良は、その場に跪き、嘔吐した。
物理的なダメージはなかったものの、彼の精神的ダメージは計り知れない。
「ふ、次に死にたい奴は誰だ?」
柳は挑発的な笑みを浮かべたが、仮面に表情が隠された状況では見えなかった。
しかしその雰囲気は十分に不良たちに伝わった。
「こ、こいつやばいぞ!!逃げろ!!」
一人のその言葉を合図に男たちは散りじりになる。
残るは不良たちに絡まれていた少女だけだった。
ひょっとこ仮面はおもむろに腰を少し突き出しながら少女へと歩み寄る。
「大丈夫かな、お嬢さん?」
「・・・へ?・・・え、あ、や?jjxgbh五slcxxxhXz zbhel bvh!?!???」
彼の呼びかけに、思考停止状態に陥っていた彼女の頭が再起動する。
視界に映るは全裸の仮面をかぶった少年。
もちろん裸なのだから下半身も丸出しで。
幼少のころに父親のものを見たきりで、それもこんなものだったかどうかもわからない未知のものをぶら下げた男。
「あっ、あっ、あっ・・・・・アキャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
顔を真っ赤に染め、喉が壊れんばかりに悲鳴をあげ、全身から放電し始める。
どうやら彼女も能力者、それもかなり強力な力を持っているらしい。
やがて放電された電気は周囲を破壊しはじめるも、柳は平然としていた。
電気が彼の方へと飛んでも、その光が体を透過するかのごとく背後へと抜ける。
「ふー・・・ふー・・・ふー・・・死ね、変態!!」
ブちぎれた目をした少女がスカートのポケットから一枚のコインを取り出し、少年へと向ける。
それは彼女の必殺技とも呼べる、自身の呼び名としても使われる技。
少女の名は御坂美琴。学園都市が誇る最もレベルの高い7人の超能力者。
レベル5の一人である超電磁砲である。
指ではじかれたコインは、電磁力でその速度、威力を高められ少年に向かう。
しかしその攻撃は地面のアスファルトを削りながらも、彼の体をすり抜けた。
すり抜けた攻撃は一直線にすすみ、反対車線側のビルに直撃する。
そのビルは周りと比べ比較的小さかったからか、単純に威力が高かったからか倒壊した。
すでに明かりも消えていて、人がいなかったであろうことが幸いか。
「助けが必要じゃなかったっぽいけど、それでも助けに入った相手に攻撃するのはどうなのよ?」
柳は自分の全裸を棚上げして、御坂に呆れたような声で言う。
「あ、あ、あんちゃ!なんで私のレールガンが効かないのよ!?」
いろいろな意味で動転している御坂は舌を噛んでしまった。
しかしそんなことを気にする余裕は御坂にはなかった。
彼女はもう一度にいろいろありすぎて混乱していた。
「ま、ず、はありがとぅだろうがぁあああ!!」
柳は正当なような理不尽なような言葉をはいて跳躍する。
狙うは彼女の顔面。得意のおっぴろげアタックだった。
彼のアナコンダが、丁度御坂の鼻の位置に交差するようにしてすり抜ける。
「んjvsjvvぬあうりうhるzんd;vbjk!??」
御坂は視界いっぱいに映った男の象徴に、再び意識を飛ばした。
ばたりと前のめりに倒れる少女。
周囲からは警備員のものと思われるサイレンの音が聞こえてきた。
「む、邪魔ものが来たか。では諸君、さらばだ!!」
柳扮するひょっとこ仮面は、倒れた御坂と、未だ嘔吐し続けている不良に叫びかけ
夜の闇へと消えていった。
この物語は、科学と魔術、そして露出狂とそれを取り締まる警備員、風紀委員との
戦いの物語である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
永蟲柳の能力
幽霊体質:まるで幽霊のように任意の物質を、自分の肉体が透過するようにする能力。
光を透過すれば透明人間にも慣れる。最強にはなれないが、物理的には無敵になれる。(攻撃があたらない)
彼が服を着るのを拒めば、誰も全裸になることを止められない。
ひょっとこの面:装着者が誰なのか外部からわからなくさせる認識疎外の術式がかかっている。
彼が学園都市に来る際、持ってきたオカルト側の品。