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[26564] 【習作】ワールドシグナルの鳴る宇宙(そら)に【SDガンダム ジージェネレーション ワールド ハマーン様編】
Name: reven◆7eb184bb ID:3af98587
Date: 2011/03/20 11:08
初めまして。revenと申します。
初めてSSを投下させていただきます。

こちらのSS群はよく読ませていただいています。


今回、SSを書こうと思い立ったのは、表題にもあるように、先月末に発売したGジェネシリーズの新作を買ったからです。
そうしたら、ハマーン様をマスターユニットにして、自分で史実キャラも編成できて、しかも実に妄想し甲斐のあるストーリーだったのです。
つい、勢いで今回の作品を書くことを思い立ってしまいました。

流れとしては、ゲームのストーリーをなぞりながら、適当に話を進めていくことになるかと思います。
はっきり言って、詳細は完全にノープランです。

あまり執筆スピードは早くないのと、ゲームを進めながらの執筆になりますので、そこはご容赦いただければと思います。


注意!!


・この作品は、「SDガンダム ジージェネレーション ワールド」のストーリーを元に構築されています
・主人公はハマーン・カーンです
・ハマーンはジュドーとの戦いの後のハマーンなので、ちょっと、というか、かなりキャラが違うかもしれません
・というか、全体的にキャラが違うかも知れませんが、仕様です
・キャラの性格のみならずに、多くのご都合、改変、つじつま合わせがありますが、それも仕様です
・百合描写多数、作者の趣味です、諦めてください

・基本的なストーリーは、パラレルワールドに送り込まれたハマーンが部隊を率いてあれやこれやする感じです
・ハマーンは、「ジェネレーションシステム」とやり取りをして、部隊の編成、キャラクターのスカウトなどを行います
・ただし、彼女が出来るのは「人材派遣要請」、「機体派遣要請」であり、特定の人、モノを指定はできません
・人材や機体に関して、詳細な判断は全てシステムが行います
・戦闘描写よりは、日常描写っぽいのが多くなるかもしれませんが、予定は未定です
・ゲームのストーリーや描写と異なる記述が出てくるかもしれませんが、進行上の都合で変更しています
・道場に入り浸ってキャラ育成とかユニット開発とかしてますけど、基本的にそれは無視する予定です
・というか、そこまで織り込んだら作者が死にます



以上の注意点を見ても、「まぁ、読んでやってもいいぜ」という奇特な方は本編をどうぞ。
精一杯書かせていただきます。



3/20追記:
・作者のガンダム来歴
 機動戦士ガンダム
 機動戦士Zガンダム
 機動戦士ガンダムZZ
 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
 機動戦士ガンダムF91
 機動戦士Vガンダム
 機動武闘伝Gガンダム
 新機動戦記ガンダムW
 新機動戦記ガンダムW Endless Waltz
 機動新世紀ガンダムX
 機動戦士ガンダムSEED
 機動戦士ガンダムSEED DESTINY
 機動戦士ガンダム 第08MS小隊
 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争
 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY
 機動戦士ガンダム ギレンの野望シリーズ

・作者のGジェネ来歴
 無印、ゼロ、F、NEO、魂

以上です。
知らないシリーズのMS、キャラに関しては相当に描写が甘くなる可能性があります。
ご注意下さい。


更新履歴:

3/20 更新履歴設置、前書きに追記を記述
3/19 第2話投稿、第1話に修正
3/18 第1話投稿
3/17 前書き、第0話投稿



[26564] 第0話 終わりと始まり
Name: reven◆7eb184bb ID:3af98587
Date: 2011/03/17 16:30
第0話 終わりと始まり



頭の奥で、何か音が鳴り響いている。
不快な音だ、と思った。
何かの信号音のようなそれは、まるで脳をまるごと揺さぶるかのような振動を持って、自分に襲いかかってくる。
あまりの鈍痛に、苦悶の声が漏れそうになる。

与えられるそのプレッシャーに、思わず全身を身じろぎさせる。
そこで初めて、自分の身体が横たわっていることに気付いたのだった。


「……ッ!?」


慌てて飛び起きる。
視界に飛び込んできたのは、奇怪な白色一辺倒の部屋。
殺風景なそこには、装飾品の類は一切無い。
あるのは、目の前にある巨大なコンピューターらしきものと、自分が腰掛けている寝台だけだ。

続いて、自分の身体を見回す。
どこも欠損はない。両手を動かせば指の先までちゃんと動く。脚もまた同様だ。
寝台から、身体を起こしてみる。問題はない。しばらく寝たままだったのだろうか、腰の辺りに若干の鈍痛を感じたが。


そして、自分の記憶を探っていく。
自分は、何でこんなところにいる……?


「私は……、あの子に負けて……」


死んだはず、という言葉は口からは放たれなかった。
あまりにも実感がなかったからだ。
しかし、脳裏にはその時の光景が焼き付いている。


──その潔さを、何故もっと他の事に使えなかったんだ、そうすれば地球だって救えたのに!


あの少年の言葉が蘇る。
真っ直ぐで、血にまみれて、なお、光を放つ言葉。
「ニュータイプ」という言葉は、彼にこそ相応しいのだと、自身も感じていた。

急速に意識が覚醒してくる。
自分が何をやってきたのか。
自分がどうなったのか。
自分が何者なのか。


「……死に損なったか、ハマーン・カーン。無様だな……」


ハマーンは、自嘲気味にそう呟いた。



○謎の白い部屋


ハマーンは、改めて自分の全身を見回した。
着慣れた濃紫のローブを着ている。
死んだ直前を思い返すのならば、パイロットスーツを着ていなければおかしい。


「……いや、そもそも、あの状態で助かるはずはない。なのに、何故だ……?」


周囲を見回すように首を巡らせる。
無機質な部屋だ。白色で染め上げられた部屋は、あまり目に優しいとは言い難い。
照明は強くもなく弱くもなく。目の前にそそり立つコンピューターらしき端末以外に、触れそうなものはない。

ハマーンは、寝台から進み出てその端末に触れた。


──「Generation Break」
──「Master Select : Haman Karn」


ディスプレイには、謎の表示が出ている。
自身の名が刻まれているのはわかるが、だからといって、これが何を意味するのかは全くわからなかった。

眉間に皺を寄せて思考を巡らせるハマーンをよそに、突然、目の前のコンピューターが動きを見せた。


ディスプレイの中にプログラムコードらしきワードが凄まじい勢いで流れ出し、内部駆体の起動音らしき機械音が響き始める。


「何が、始まったというのだ……!?」


思わず呟きを漏らしながら、周囲を見回す。
しかし、コンピューター以外に反応を見せているものはない。

気を張ったまま、再度ディスプレイを覗き込む。

すると、凄まじい勢いでコードを流し続けていたディスプレイの動きが止まった。
そして、コンピューターのスピーカーから、機械音声が流れ始めた。


「ようこそ、選ばれし者よ……」

「……選ばれた、だと……?」


システム音声とおぼしき機械音声に、ハマーンは呟きを漏らす。


「はい、その通りです。ハマーン・カーン、貴方は『システム』に選ばれました」

「『システム』……? 何なのだ、それは……? そもそも、私は何故ここに生きている……?」

「順番に、お答えいたします」


矢継ぎ早に質問を投げかけるハマーンに対し、機械音声の抑揚は変わらない。


「『システム』とは、『ジェネレーション・システム』と言うこの世界を統合、管理するための管理機構です。私は、その端末に過ぎません。
 管理機構は、それぞれの世界を保つために存在します。
 貴方が此処に居るのは、世界を保つという目的によって存在しています」

「……事情が見えんな。もっと詳しく説明しろ」

「はい。
 現在、この世界は、崩壊の危機に瀕しています。『ワールドシグナル』と呼ばれる存在のために。
 その蠢動を止め、世界の秩序を保たせるために、貴方はここに召還されたのです」


機械音声は、相変わらず無機質なものだった。
しかし、言っていることはとんでもないことだった。
思わずハマーンは鼻を鳴らす。

「フン、……馬鹿馬鹿しい。そのような戯れ言が信じられるとでも思っているのか?」

「信じる、信じないは貴方の自由です。ですが、現に、死んだハズの貴方がここに居ることはどう説明を付けますか?」

「ぐっ……」


端的に返された疑問に、ハマーンは言葉を失う。
人智を超越した「何か」がなければ、今の自身に起きていることは説明が付かない。


「……一つ、確認させてもらう。私は、やはり、死んだのだな……?」


ハマーンの問いかけに、機械音声は言葉を返す。


「貴方の言う意味が、貴方が生きていた宇宙世紀でのことを指すのならば、肯定します。
 しかし、今の貴方は、以前と変わらぬ状態で『生きて』います。
 サイボーグ手術などの特殊な施術を行ってはいません」


無機質な音声が、ハマーンの耳殻を震わせる。
思考回路がその言葉を捉え、高速で思索を処理していく。


「……貴様は、この私を『世界を保たせるために喚んだ』と言ったな?
 具体的に、私に何を望むのだ」

「貴方には、MSを駆り、部隊を率いてもらいます。
 その部隊を用いて、世界にとっての危険因子を排除していってもらうことになります」

「つまり、戦えと。そう言うのだな……?」

「はい、その通りです」


機械音声のはっきりとした答えに、ハマーンは思わず拳を握った。

単純なことだ、とハマーンは思った。
内政も無ければ、外交もない。虚実に満ちた駆け引きでかけずり回る必要もなければ、しがらみに縛られる必要もない。
ただ、その力を振るえと言われている。


刹那、ハマーンの身体に力がこみ上げてきた。
凪のように穏やかだった心に、闘争の心が流れ込んでくる。
以前の自分とは違う、純粋に真っ直ぐな闘志だ。
まるで、自分を討ったあの少年のような……。

闘志に続いて浮かんできた感情は、喜悦だった。

──そうか、私は、ただ、純粋に私で居たかったのかもしれんな……。


心の呟きを胸に秘めながら、ハマーンは笑みを浮かべる。
絶対的な自信を湛えたその笑みは、以前にも増して、よく栄えた。
……もっとも、この場にそれを見る者は誰もいないのだが。



「……よかろう。ここで貴様の申し出を拒否する理由もない。
 さらに具体的な詳細を聞かせてもらうぞ」

「ありがとうございます。ハマーン。貴方のサポートは任せてください」


相変わらずの無機質な機械音声が、何故か少し柔らかくなったような気が、ハマーンには感じられた。



[26564] 第1話 独立戦隊、誕生!!
Name: reven◆7eb184bb ID:3af98587
Date: 2011/03/19 04:19
第1話 独立戦隊、誕生!!


○謎の白い部屋


ハマーンは、システムと詳しく実情を聞いた。
システム曰く、人材や機体は多少用意されていて、さらに援軍も用意できるという。
援軍を用意するためには、システムで言うところの「スコア」を上げなければならず、
それに応対する形で人材や機体の援軍が反映されるらしい。



一通りの説明が終わると、部屋の壁面にドアが現れた。


「ここの部屋は、部隊の編成などの要望に応える部屋です。
 また、疑問や質問などがあればまた来て下さい。
 この部屋を出て、まっすぐ行った先に広間があります。
 そこに、貴方の部下達が待っています」

「わかった。……では、失礼する」


律儀にシステムへ別れを告げると、ハマーンは部屋を後にした。

部屋を出ると、外の外観は普通の宇宙基地と同じ様な外観をしていた。
先ほどの部屋のように白色一面ということはない。
重力は変わらずあるようで、浮かび上がってしまうということはなかった。

少し歩いて後、扉が見えてきた。
これが広間の扉なのだろう。
扉の隣りにあるスイッチを押すと、重厚な扉が両側に開く。


○基地内広間


「敬礼ぇーっ!!」

ハマーンが部屋に足を踏み入れるや否や、号令がかかる。
部屋の中に居た全員がサッと立ち上がり、敬礼をしていた。

部屋の中にいたのは9名。
その中で、一番年齢が行っているであろう、中年の男が号令をかけていた。
整えられた軍装に、見事なまでに綺麗な敬礼は、男の軍歴を想像させる。


「小官を始め9名、ハマーン様の麾下に入りました。
 よろしくお願いいたします」

「うむ、ご苦労。ハマーン・カーンだ。
 システムから、ある程度のことは聞いている。
 お前達は、今の状況について説明は受けているか?」

「はっ、システムより、ハマーン様の略歴、及び、麾下にて戦うことを聞いております」

「そうか。では、それぞれ自己紹介を頼む」


ハマーンの言葉に、応答していた男が一歩前に進み出る。


「小官は、ゼノン・ティーゲルと申します。この戦隊では、艦長職を務めております。
 軍隊暮らしは長い方です。全力でお役に立たせていただきます」


敬礼をして、ゼノンは隊列に戻る。
年かさは50を過ぎた辺りだろうとハマーンは思った。
洗練された立ち振る舞いは、アクシズの艦長クラスと比較しても遜色は無いように見える。


「まずはMSパイロットからご紹介します」


ゼノンの言葉に、一人の男が前に出る。


「名前はマーク・ギルダー、MS隊の隊長を務めています。
 MSの扱いなら、任せていただければ。よろしくお願いいたします」


いかにも、エースというような風格を備えた男が、敬礼をする。
返礼をしながら、ハマーンはその全身を見回す。
一挙一投足に隙はなく、言葉通りと今のところは信じてよさそうだった。
そして、何より、この男から来るプレッシャーは、ニュータイプのそれに相違ないと、ハマーンの五感が訴えている。


「俺はラナロウ・シェイド。元々傭兵だが、今はここが俺の稼ぎ場だ。2番機をやってる。
 マークみたいな優男よか、頼りになるぜ」


続いて出た男は、粗野な態度を隠そうとせず、自信満々に言葉を紡いだ。
戦塵にまみれたとおぼしきパイロットジャケットが、歴戦の重みを感じさせる。
軽口を交えた自己紹介に、ゼノンの視線が鋭くなる。
やべぇ、と漏らしながらラナロウは隊列に戻った。


──面白い男だな


ハマーンは、ふとそう思った。
昔ならば無礼な男だと切って捨てただろうが、今は単純に興味を抱いた。
これもジュドーと接した影響なのだろうか、などとハマーンは思った。


「エリス・クロードと申します。MS隊で3番機を務めています。
 微力ながら、お力添えさせていただきます」


生真面目な様子でぺこりと頭を下げる少女を、ハマーンは鷹揚に頷いて返事をした。
一見、新兵のようにも見えるが、身のこなしを見るからには、素人ではなさそうだ。
そして、彼女からも強力なニュータイプの素養を感じる。
悪くなさそうだな、とハマーンは心中で呟いた。


「続きまして、ブリッジクルーをご紹介いたします」


ゼノンの言葉に、ブリッジクルー達が一歩前に出る。


「副長のニキ・テイラーです。艦の保全の他には、日常業務の統括を担当します。
 よろしくお願いいたします、ハマーン様」

「オペレーターのジュナス・リアムと申します。通信、管制なら任せてください。
 よろしくお願いいたします、ハマーン様」

「操舵手のエルンスト・イェーガーです。ゼノン艦長とは長い仲でしてね。まぁ、悪運強く、今まで生き残ってこれました。
 まぁ、いつ逝くかは神のみぞ知る、と言った感じですがね。ともあれ、どうぞよろしくお願いしますよ」

「整備班長のケイ・ニムロッドです。MSの整備は任せてください。
 ピッカピカに磨いておきますよっ!!」

「予備仕官のレイチェル・ランサムです。普段は皆さんのメンタルケアと、非常時には臨時パイロットとして出撃します。
 未熟者ですが、どうかよろしくお願いします」


5人のブリッジクルーが挨拶を続けざまに行う。
ハマーンは、5人に向けて返礼を行った。


「以上となります。ハマーン様、何かございますか?」

「……そうだな」


ハマーンは一同の顔を見渡して、咳払いを一つする。
不意に、全員の注目がハマーンへと集中する。
空気がシン、と静まり返り、空気が凝結したかのような錯覚を覚える。


「貴様らも、少しは話を聞いているだろう。
 世界の秩序のため、我らは世界を乱す者と戦わねばならない。
 あの『システム』とやらがどの程度のものかは知らぬが、今は判断する材料もない。
 盲信するには危険過ぎる状況だ。各員、努々気を抜かぬようにな。

 ……それと、貴様らにははっきりと言っておく。

 このハマーン・カーン、我が信念に懸けて、どんな時も味方は見捨てん。
 例え、地獄の釜の底であろうと、私は命を懸けて、お前達に報いよう。
 だから、貴様らの命は、これより私が預かる。……良いな」


決然とした、ハマーンの言葉に、一同は圧倒された。


──これが、若くして勢力の首魁となった女傑の覇気、か……!!


ゼノンは、心中で思わず呟いた。
自分と比べれば娘ぐらいの年齢の女に、気圧されている。
得もすれば不快感を感じてもおかしくない状況で、相手の言葉が胸に響くとはどういうことなのか。
ゼノンにはそれがわかっていた。

他のメンバーを見れば、誰もハマーンの覇気とも言うべき雰囲気に当てられているのがわかる。
驚愕する者も居れば、高揚した表情を浮かべる者もいる。


「ハマーン様。ありがとうございます。
 我ら9名、全霊を込めて貴方様に忠誠をお誓いいたします」


ゼノンがそう言って、一歩前に進み出る。
そして、再度、全員が敬礼をする。
経歴も人柄も違う9人の人間が、思わず敬礼を綺麗に揃えずにはいられなくなるほどに、ハマーンの言霊は強かった。


「ありがとう、諸君。負けさせはせぬ。今度こそは、な……」


ハマーンは、自然と決意が漲るのを感じた。
単純に人を駒として扱うのでもない。しがらみの中で戦うのでもない。
純粋な闘争の中で、共に戦う仲間が目の前にいると思ったときには、ハマーンの心はすっかりその決意で染まっていた。


──どうせ、一度死んだ身の上だ


心の中で、自分の最後のシーンが思い浮かぶ。
あの時に感じた、得も言われぬ安らぎ。
あれは、絶対にまやかしなどではないはずだと、ハマーンは感じていた。


──ありがとう、ジュドー……
──今度は、この力を違うように使ってみるさ……


不思議と、笑みが浮かんでくる。
目の前の9人にその笑みを向けながら、ハマーンは解散を指示し、ゼノン艦長とニキ副長とを残させた。


○ゼノン執務室


基地内にあるゼノンの執務室に、ハマーン、ゼノン、ニキの3人は集まっていた。


「今後の方針を固めるためにも、現状を詳しく把握する必要がある。
 副長、戦力の説明を頼む」

「はっ、かしこまりました」


ニキはその場に立ち上がり、壁面にプロジェクタースクリーンを展開させる。
そのスクリーンには、乗艦、及び、所属MSの情報が記載されていた。


「まず、我々の母艦は、クラップ級小型練習艦『キャリーベース』です。
 クラップ級巡洋艦を練習艦に改装したもので、MS運用能力はまずまずですが、火力や耐久力は、練習艦相応と言えるでしょう」

「なるほど……」

「幸いにして、ブリッジクルーには優秀な人材が居りますし、現状で問題はありません。
 しかし、その内に新しい戦闘艦を用意する必要があるでしょう。
 特に、火力と搭載力の増強は必須かと」


ニキの言葉に、ハマーンは鷹揚に頷く。


「続きまして、MS部隊の戦力です。
 フェニックス・ゼロが1機、トルネードガンダムが2機。それに、ハマーン様の乗機として、キュベレイを1機ご用意しています。
 フェニックス・ゼロとトルネードガンダムの性能諸元はこちらです」


ディスプレイに2機のMSの性能諸元が映し出され、ハマーンはそれを凝視する。


「……あまり、万全の性能とは言えそうもないな」

「そうですね。今後のことを考えれば、MS戦力の増強は必須でしょう。
 戦力増強には、『システム』が定める『スコア』を稼がねばなりません。
 それによって、人材も機体も配置されるとのこと。故に、損耗を防ぎながら戦績を重ねる必要があると思います」


ニキの提案はもっともだとハマーンは思った。


「それに、ハマーン様のキュベレイに関しましても、一つ憂慮すべき点があります。
 現在のキュベレイは、いわば模造品です。以前に乗機とされていた機体とは全く別物とお考えください」


それを聞いて、ハマーンは思わず表情を苦くする。


「ふむ……。ならば、腕で補うしかあるまいな」


無い袖を振ろうとしても無駄なだけだと、ハマーンは思った。


「武装は原型機と全く同じです。ですが、出力や装甲、機動性はかなり落ちます。
 機体で言うならば、ゲルググクラスと同程度です」

「なるほどな……。まぁ、ゲルググは悪いMSではなかった。ファンネルがあるのならば、そこまで悪いことにもなるまい。
 与えられたモノで、やるだけだ」


ハマーンの言葉に、ゼノンもニキも頷く。


「ちなみに、二人から、MS隊の所感とブリッジクルーの所感を聞いておこう」

「はっ、では、私から。
 まず、MS隊ですが。マーク、ラナロウ、エリスの3人は歴戦の戦士です。ハマーン様の以前の部下の方とも引けを取らないと思います。
 特に、マークは隊長格として非常に優秀です。操縦だけではなく、指揮にも定評があります。
 ラナロウは、元々傭兵で各地を転戦していた男です。やや素行に問題アリですが、腕前はマークに比肩すると言っていいでしょう。
 エリスは、上の2人には負けますが、十分に優秀な能力を持ったパイロットです。援護慣れもしていますから、後方直掩にも適正は高いですよ。
 まぁ、とりあえずはそんなところでしょうか」

「では、私からも。
 概要は艦長から申し上げたとおりの印象です。個性はある連中ですが、実績も十分で、戦力としては一流です。
 マークを核に、ラナロウを切り込み役に、エリスを援護役に据えれば良いバランスになると思います。
 ハマーン様が一緒に出られれば、ひとまず穴のない配置になるかと」

「なるほど……」


顎に手を添えて、3人の顔を思い起こしながら思考を巡らせる。
とりあえず十全な組み合わせではあろうが、定員ではもう1機入れられるはずである。
さらに強固な連携を確立するために、どうするべきかをぼんやりと考えた。


「ひとまず、高性能機の投入は必要だろうな。
 この先、どんな敵が出現するかわからん以上、戦力の拡充は最重要課題の一つだ。
 彼らにもっと腕を振るってもらうためにも、な」


ハマーンの言葉にゼノンもニキも頷く。


「続いて、ブリッジクルーですな。
 まず、オペレーターのジュナス・リアム。若いですが、実力は十分です。
 オペレーター任務以外に、MSの予備パイロットとしての能力も及第点です。ブリッジクルーとしては珍しく、白兵戦を得意としています。
 操舵手のエルンストはベテランの操舵手です。今まで戦火を潜り抜けてきた経験は本物ですし、彼には私も助けられてきました。
 ブリッジクルーのまとめ役のような役割を果たすこともあります。
 メカニックのケイは、現場叩き上げの優秀なメカニックです。MSの知識もかなりありますし、機械類への愛情も深い。
 規格通りの整備から、部品欠損時の応急修理まで、彼女の技能は幅広く、頼りになります。
 予備仕官のレイチェルは、全体の補佐に回ってくれています。メンタルケアなんかも得意のようですな。
 もちろん、戦場に出ても足を引っ張らないように努力は重ねているようですが、まだ、一線級とは言い難いでしょう」

「おおむね、私も艦長に同意です。
 ブリッジクルーは、ゼノン艦長麾下でしばらく仲間として行動してきたメンバーです。
 それぞれの連携や、作業分担、能力発揮などにおいて不安要素はありません」

「ふむ、そちらも当面の問題は無さそうだな……」


ハマーンの声に、二人は頷く。
自身らが磨き上げてきたスタッフが褒められれば、やはり、悪い気はしないだろう。


「あとは、補給や物資について、および、この基地についてのご説明をさせていただきます。よろしいですか?」

「ああ、構わん。続けてくれ」


ハマーンの声に、ニキはスライドを次のモノに変更する。
詳細の説明は、その後もしばらく続いた。



○ハマーン自室


ゼノンとニキとの打ち合わせを終え、ハマーンは基地内に割り当てられた自室でくつろいでいた。

割り当てられた部屋は、将官向けの部屋であり、広さは十分だ。
もっとも、総帥をやっていた時のような華美さはないし、侍女のような者がいるはずもない。
それが当然なのだが、慣れというものは恐ろしいもので、ハマーンには少し物足りないように感じられた。
しかし、それを自嘲気味に感じる心も残っているようではあるが。


「せめて、花の一つは欲しいところだな……」


ぐるりと周囲を見回して、思わず独語する。

部屋は3部屋に分かれている。
居間、寝室兼書斎、洗面所兼バスルームの3つだ。
どれも十分な広さはあるのだが、調度品の類は置かれていない。
軍事基地というものはそういうものではあるが。


ハマーンは寝台に腰掛けて、少し思考を巡らせる。


──何というか、なし崩し的に始まってしまったが……、
──存外、こういう空気も悪くはないな


過去のしがらみから逃れられたハマーンにとって、今の状況は相当に解放感溢れたものだ。
ジオンの呪縛も無ければ、シャアとの因縁もない。
連邦との確執も無ければ、自国民を養う苦労もない。

重荷と思ったことは、ハマーンにとって一度も無かった。
自分が選択して背負い込んだのだと思っていた。
しかし、それが外れてみれば、随分と重苦しいものを背負っていたのだと気付かされていた。

そして、それらの想い出が、何やら輝かしいものに思えてくる。
苦しみも哀しみも寂しさも、それらがあってこそ、あの時、ジュドーと分かり合えたのだと。ハマーンはそう思えた。


「ジュドー・アーシタ。私を下した少年。
 ……貴様のくれた想いに、今は酒杯を掲げよう」


手元に置いた、ワイングラスを片手に持つと、顔の高さぐらいまで掲げる。
そして、それを軽く傾ける。
口の中に広がる芳醇な味わいが、舌を伝って身体を解していく。
良いワインだ、とハマーンは思った。


「さて……、鬼が出るか、蛇が出るか、開けてみなくてはわかるまいな……」


感傷に浸りながらも、これからのことについて思考を巡らせることも忘れない。
なにぶん、『システム』が要求してくる戦いがどの程度のモノかもわからないのだ。
窮地にあって取り乱さぬように、最悪の想定から物事を組み立てる必要があるだろうとハマーンは感じていた。
しばらく思索の海に旅立った後、ハマーンは寝台に潜り込んだ。
新しい世界での初めての一夜は、静かに更けていった……。



[26564] 第2話 ハマーン、宇宙(そら)に飛翔す
Name: reven◆7eb184bb ID:3af98587
Date: 2011/03/19 04:20
第2話 ハマーン、宇宙(そら)に飛翔す



○基地内出撃用ドック


「搭乗員、配置に着きました。発艦準備完了!!」

「舵中央、両舷停止。システム転送、いつでも受付できます」

「通信状態良好。ミノフスキー粒子、濃度微小です」

「こちら格納庫、MS隊スタンバイOK!!」

「……よし。
 総員放送に傾聴せよ。ハマーン様の訓辞がある」


ブリッジクルーからもたらされる報告を聞き終わると、ゼノンは全艦放送で傾聴を告げる。
キャプテンシートから、コマンダーシートに視線を流し、目配せする。
ハマーンは、軽く頷くと立ち上がり、モニターに向けて視線を送る。


「諸君、これが我々の初陣となる。
 世界を崩壊せしめんとする悪辣な輩の謀略を打ち破るための、我々は矛となり、盾となる。
 諸君らの力は疑いようもなく、また、我らの大義は瞭然である。
 しかし、世界の守護、安寧の前に守るべきものがある。それは何か。

 ……言うまでもなく、我らのかけがえ無き戦友に他ならない。
 これから修羅の道を共に歩む同胞(はらから)の命を守らずして、我ら羅刹の守護者足りうるか。
 断じて、否である!!

 良いか。諸君らの命は私が預かったのだ。勝手に戦死することは許されない。
 最後の一滴まで血潮を燃やし、歯を食いしばり、相手の喉笛を喰い千切れ!!
 そして、必ずここに戻る!! それが達成できて、初めて我らはこの宇宙(そら)を守護する者に値する!!
 もう一度言う!! 生きて還れ!! 以上だ!!」



「……両舷全速!! 直ちに転送に入れ!!」

「宜候!! エンジン始動!! 両舷全速!!」

「ただ今より転送開始!! 180秒後に、転送完了します!!」

ハマーンの訓辞が終わるや否や、ゼノンの指示で各員は出撃シーケンスに移行する。
基地のドックより、作戦区域までシステムが転送してくれることになっているのだ。
そして、今回の出撃する先は……、


「目標座標、サイド7宙域!! 転送……、来ますっ!!」



全員の視界が一瞬でホワイトアウトする。
そして、次の瞬間には、目標の地点にキャリーベースは現出していた。



○サイド7宙域
 『キャリーベース』艦橋


「転送完了、周囲の索敵を開始します!!」


ジュナスの声に、ゼノンは鷹揚に頷く。


「では、艦長。ここは任せる。私はキュベレイに移らせてもらう」

「お任せください。ハマーン様。ご武運を祈っております」


転送が無事完了したのを見届けると、ハマーンはMSデッキへと向かう。
ノーマルスーツを着用し、完全な臨戦態勢だ。
そこには、ノーマルスーツを着用せずに戦闘に挑むことを誇りとするような、些事に拘るかつてのハマーンはない。
全力を尽くせる余地があれば、全力を尽くす。それが恥でも何でもないことを、今のハマーンにはよく理解できていた。

こつこつと靴の音を響かせながら、ハマーンはMSデッキへと急いだ。


○『キャリーベース』MSデッキ


MSデッキは、出撃前の喧噪に包まれていた。
見れば、メカニックのケイが慌ただしく指示を飛ばしている。
従っているのは、この艦に多く配属されているバイオロイド兵だ。
バイオロイド兵は、判断力などは無いものの、命令されたことには着実、かつ、正確に着手する。
艦内保全や機体整備には、強力なサポートをしてくれているのだ。


「整備班長!! キュベレイはどうだ!!」

「あっ、ハマーン様!! はい、いつでも出撃可能ですよっ!!」


振り返り、慌てて敬礼をしながら、ケイは笑顔を向ける。
それに微笑を返しながら、歩み寄ってケイの肩を叩く。


「これからが忙しくなる。ここは頼んだぞ」

「はい、お任せください!!」


ケイの返事を受けて、ハマーンは満足げに頷くと、自機へと足を向ける。


AMX-004 キュベレイ。
ハマーンの、グリプス戦役から第1次ネオジオン戦役まで愛機を務めた優秀なMSである。
10基のファンネルを備える他、ビームガン兼ビームサーベルを両腕に配置している。
サイコミュを備え、ニュータイプ専用機(実質のハマーン専用機)として運用されたこの機体に、ハマーンの思い入れがないと言えば嘘になるだろう。
しかし、今ここにあるのは、完全なキュベレイではなく、模造品である。
それが少し寂しくもあり、ハマーンの心中は複雑であった。


──こんな時にセンチメンタルに浸るとは、私も丸くなったものだな……


心の中で呟きながら、ハマーンはタラップを昇る。
コックピットに身体を落ち着けながら、リニアシートに身体を固定していく。
出力計を確認しながら、機体パワーを出力させ、駆動状態へと移行させる。


「管制より各機、索敵結果を報告します。
 敵は3機。いずれも、MS-06と判明。1機においては、赤い塗装がなされています。『赤い彗星』の機体と思われます」


正面のスクリーンに映ったジュナスから、ハマーンにとって衝撃的な報告がもたらされる。


──シャア……ッッ!!


ハマーンは、奥歯を噛み締めながら、心の中に絶叫にも似た感情が溢れるのを知覚した。
ジュドーと出会い、心を解き放たれてなお、まだ自分の中に燻る感情があると判り、やがて、それは憎悪にも似た感情に昇華する。


──……いや、これは、憎悪ではない。
──妄執だ。過去の、私への妄執。あの男に持っていた、馬鹿げた愛の確執。


ハマーンは、ふと表情を緩める。
何を気にすることがあるのか、と思った。


──私は、シャアに恋い焦がれ、想いをぶつけ、交わり、やがて道は別れた。
──……ただ、それだけのことではないか。
──今更、あの男に何を望む……? 今の私が、シャアに何を望む……?


「……馬鹿馬鹿しい。何と下らんことか。ハマーン、お前自身こそ、俗物だったのだな……」


呟きが、口をついて出る。
通信回線を開いていない以上、それはコックピット内の空気に消えていくだけだ。

再度、モニターを注視する。
索敵で捉えたとおぼしき、赤の機体が映っている。


「艦長、発進許可を。私がシャアを相手しよう」

「……はっ、かしこまりました。MS隊発進用意!!」


ゼノンの号令と共に、MS隊は各機が発進準備へと入る。


「符丁の最終確認です。MS隊のコールサインはローズ。
 ハマーン様をローズコマンダー、以下、1番機より順にナンバリングコールです。
 母艦はMFA(モティスフォント・アビー)、管制はG・トーマス(グラハム・トーマス)。
 以後、通信は無線へと移行します。ミノフスキー粒子による通信撹乱に注意してください。
 G・トーマスよりローズ隊各機、ローズコマンダーより発進どうぞ!!」

「こちらローズコマンダー。了解だ」


ハマーンは、キュベレイをカタパルトに移動させると、待機状態を取る。


「進路クリアー、ローズコマンダー発進どうぞ!!」

「了解だ。
 ローズコマンダー、キュベレイ、出るっ!!」


カタパルトが機体を急加速させ、宇宙空間へ放り投げる。
キュベレイの特徴である肩部のスラスター・バインダーがキュベレイの速度を一気に最高速へと持っていく。


「……シャア、往くぞ……!!」


ハマーンの咆哮が宇宙(そら)に響く。
白色の機体は、暗黒の宙域を切り裂くように飛翔した。




○サイド7宙域 宇宙港前方宙域




「捉えたぞ、シャア……っ!!」


ハマーンは、モニターに映った赤い機体を睨め付けながら、吼えた。
左右に機体を振りながら、一気に間合いを詰めていく。

シャアザクは、どうやらガンダムとおぼしきMSと交戦しているようだ。
近接戦闘に移行し、ガンダムの方は苦戦を強いられているようだった。


「そこのMS!! 援護するぞ!!」


そう叫ぶや否や、ハマーンはビームガンを放つ。
ガンダムと揉み合うように格闘戦を演じていたシャアザクは、自身が狙い撃たれているのを敏感に察知するや、瞬間的にその場を離れる。


「流石だな、シャア!! その反応、悪くはないぞ……!!」


ハマーンが笑みを浮かべながら追撃に入ろうとした時に、ガンダムより通信が入った。


「……こちらガンダム!! そこのMS、助けてくれるのか……?」


モニターに映るのは、まだ年端もいかぬかの英雄『アムロ・レイ』だ。
懸命にガンダムを操る姿には、まだぎこちなさが見える。


「そうだ。援護してやる。きっちり撃退してみせよ!!」

「い、言われなくたって……!!」


ガンダムがバーニアを噴かし、シャアザクへと再度接近する。
手にはビームサーベルを構え、勢いよく斬り掛かっていく。


「シャアーっ!! やらせるもんかぁーっっ!!」


アムロの繰り出した一撃をシャアは何とかかわすと、返す刃でヒートホークを振るう。
それを、アムロはシールドで受け流す。


「くっ、ガンダムのパイロットめ……ッ!!」


シャアも思わず呟きを漏らす。
……しかし、気を抜くわけにはいかなかった。


「落ちろーっ!! シャアーっ!!」


キュベレイからファンネルが放たれ、シャアザクを取り囲む。
上下左右前後、ありとあらゆる方向から放たれるビーム攻撃に、さすがの赤い彗星も呻きを漏らす。


「ええいっ、このままでは……っ!!」


シャアは、紙一重のところで回避し続けるも、完全に追いつめられつつある自分を知覚していた。
コンソールから僚機の様子を窺う。
しかし、既に2機あった僚機の反応は消え失せていた。


「何ということだ……っ!! やってくれる……!!」


シャアが呻いたその瞬間、機体が激しく振動した。
被弾したのだ。


「気を逸らすなど、お前らしくもないな、シャア!!
 一気にトドメを刺してやろう!!」


多数のファンネルを操りながら、ハマーンはコックピットで吼える。


「うおお、シャアーっ!!」


そして、ガンダムのコックピットでアムロも吼える。
ビームサーベルが、損傷したシャアザクに迫る。
袈裟懸けに放たれたそれは、シャアザクの装甲をざっくりと切り裂いた。


「ぬぅぅっ……!! やってくれたな、ガンダム!!」


シャアザクはよろめきながらも機位を立て直すと、後退を始める。
それを見たハマーンとアムロが、追撃に入ろうとしたその時、通信機が反応した。


「G・トーマスよりローズ隊各機!! MFA5時方向より敵影らしきもの確認!!
 至急、援護に向かわれたし!!」

「こちら木馬、ガンダム、無事か!! 後方に敵影らしきものが迫っている!!
 急いで戻ってくれ!!」


2機のMSの母艦から入った通信を聞き、2機はシャアザクの追尾を断念する。


「……了解した。……む?」


機体を母艦へ向けようとしたその時、キュベレイのレーダーが新たな機影を捉えていた。
拡大モニターで映し出されたのは、ごつい盾を構えたガンダムタイプとおぼしきMS。


「こちらローズコマンダー、G・トーマス、応答せよ。
 MFA2時方向に敵増援を確認した。そちらの対処に向かう。
 そちらの援護はローズ1よりローズ3に任せる」

「こちらG・トーマス、ローズコマンダー、了解。
 敵機を撃破してください」

「言われずとも……!!」


ハマーンは再度機体を反転させると、新手に向き合う。




○ サイド7宙域 『キャリーベース』周辺宙域



一方、ローズ1ことマークの駆るフェニックス・ゼロは、2機のトルネードガンダムを率いて、母艦の直掩に入っていた。


「ローズ1よりG・トーマス。新手の情報を知らせ」

「G・トーマスよりローズ1、新手はハイザック1機、ジム・クゥエルが4機。ティターンズ所属のMSです。
 味方とおぼしきMS、リックディアス3機にガンダムMK-Ⅱ1機を確認しています。エゥーゴ所属機と思われます」

「ローズ1、了解」


──数ではこちらが上だ。
──各個撃破できれば問題はないな……。


マークは思考を軽く巡らせながら、通信回線を開く。


「ローズ1より、2、3。敵の新手は聞いたとおりだ。
 母艦に敵を近づけるな」

「ローズ2了解!! へっ、楽勝じゃねぇか!!」

「ローズ3了解。援護は任せてください」


マークの声に、ラナロウとエリスは返事を返す。

3機のMSが見事な編隊を組み、敵MSに吶喊していく。
食らい付かれたジム・クゥエルは、3機からの集中攻撃によって、いきなり爆散する。


「まずは1機!! 全機片付けるぞ!!」

「「了解!!」」


息のあった連携をみせる3機に対し、ティターンズ側は有効な反撃が出来ずにいた。





○ サイド7宙域 宇宙港前方宙域




ハマーンは、新たに出現した敵に対峙していた。

まず、ガンダム試作2号機と、後方に控える人類革新連盟のティエレン部隊だ。
ガンダム試作2号機とティエレン部隊は共同して動いている様子もないので、まずは、吶喊してくるガンダム試作2号機に照準を絞る。


「一気駆けとは勇壮だが、果たして私に挑むだけの実力があるのか!? 答えてみせろっ!!」


ファンネルを放ち、ガンダム試作2号機を牽制する。


図体に似合わず、強力なスラスターを備えるガンダム試作2号機は、ファンネルを避け、シールドで防御する。


「悪くない動きだ。……しかし、相手が悪かったな!!」


ビームガンを連続して放つ。
ガンダム試作2号機は、それを避けきれずに被弾する。
小規模な爆発が起こり、一時的に足が止まる。


「そこぉ、もらったっ!!」


スラスター・バインダーが火を噴き、キュベレイを一気に加速させる。
両腕にサーベルを現出させると、それで一気に斬り掛かる。


はっきりとした手応え。


キュベレイが一気に通り抜けた後で、ガンダム試作2号機は火球となって爆散した。





○ 『キャリーベース』艦橋




「ガンダム試作2号機撃破!! キュベレイの損害、極めて軽微の模様!!」

「さすがとしか言いようがないな……」


管制を務めるジュナスからの報告に、ゼノンは独り心地で呟いた。
自分の子飼いの部下達の戦果が霞んで見えるほど、キュベレイの動きは凄まじかった。
これが模造機ではなかったら、どうなってしまうのだろうか、とゼノンは思った。


「艦長、ティエレン部隊が前進してきています。
 さすがに単騎では苦しいのではないでしょうか」

「うむ、無論だ。ローズ1、2、3に補給を済ませ、ローズコマンダーに合流するように命じろ」

「了解!!」


ジュナスは、ゼノンの命令を聞き、それをパイロット達に伝えていく。
それを横目に見ながら、ゼノンは操舵手のエルンストへ視線を向ける。


「こうして実際に目の前で見るのと、資料を見るのとでは印象がまるで違うと思わんか、エルンスト」

「……そうですねぇ。確かに、凄まじい戦闘力だ。女性パイロットとして最強クラスというシステムの評価も伊達ではないということでしょう。
 それでいて、あれだけ美しくて、指導力も十分。思想はやや重くて堅いですが、今はそこまでそれを感じさせませんからなぁ。
 少なくとも、我々を生き延びさせてくれる上官だとは思いますよ」


ハマーンが居ないからこそのエルンストの歯に衣着せぬ物言いに、ゼノンは思わず苦笑する。


「違いない、な。
 とりあえず、私の中での確信はより深まった。あれだけやられては、反論のしようもあるまい」

「艦長の仰るとおりで」


シニカルな笑みを浮かべながら、肩を竦めるエルンストと視線を交わしながら、ゼノンは前に向き直る。


「これより本艦は前に出る。ローズコマンダーを援護する。砲門開け!! 射撃準備!!
 射線を確保でき次第、援護射撃を展開する!!」

「了解!! 砲戦準備!!」


ブリッジも慌ただしさを増し、管制を務めるジュナス、操舵を取るエルンスト、艦長の指示を実行するニキの3人が、特に忙しく動く。


補給を済ませたマーク隊の各機は、ハマーンと合流し、あっと言う間にティエレン部隊を蹴散らした。
そして、悠々と各機は母艦に帰投したのだった。




○基地内部ブリーフィングルーム




「……戦果報告は以上である。各員、何か特記報告事項はあるか。
 
 ……無いようだな。報告書は翌日18時までに提出すること。メカニカルチェックも含め、済ませておけ。
 それでは、解散!!」


ゼノンの号令で、全員は一気に散らばるようにしてブリーフィングルームを出ていく。
そんな中、ハマーンを呼び止めた人物が居た。
マーク・ギルダーである。


「済みません、ハマーン様。この後、お時間はありますか?
 実は、戦闘終了後はいつもパイロットメンバーで簡単な打ち上げをやっているものですから。
 こうやって肩を並べて戦う者同士として、もっと融和できたらと思いまして。
 勿論、差し出がましいとは重々承知です。しかし、敢えて、お声をかけさせていただきました」


マークの改まった口調に、ハマーンは思わず苦笑を漏らす。


「ふふ、構わんさ。是非とも寄らせてもらおう。
 私も、もう少し互いを知っておく必要があると思っていたところだからな。
 ……それと、必要以上に改まる必要はないぞ。マーク。
 私はかつてのネオジオン総帥ではない。今は、一介の戦隊司令に過ぎん」

「……わかりました。司令殿。今後は、そう呼びましょう」


マークはそう言って微笑むと、ハマーンを先導して歩き始めた。
ハマーンは、それに続いて歩く。




○ PX内




ブリーフィングルームから出て少し行ったところに、PXは存在する。
無論、ここを使うのは戦隊に所属する10名のみなので、非常に閑散としている。
十分すぎるほどの広さの空間に、いくつものテーブルが並び、何やらラジオ音声らしきものが流れている。
そんな中に、ラナロウとエリスが食事を用意して待っていた。


「うわ、おい、マーク。ホントに連れてきたのかよ」


ラナロウはハマーンの顔を見て、思わずギョッとして声を上げる。


「なんだ、ラナロウ。私は邪魔者だったか?」

「い、いえっ、そんなことはないですがね!!
 ……ただ、その、あんまりハメ外せねぇなぁ、とだけ」


慌てて弁明するラナロウに、ハマーンは苦笑にも似た笑みを浮かべる。


「気にし過ぎることはないぞ。マークにも言ったが、私は、単なる一介の戦隊司令に過ぎんのだ。
 そこまで持ち上げられる存在でもない。
 貴様らとは、戦列を組んで戦う仲間だ。もう少し、歩み寄ってくれてもいいのではないか?」


ハマーンの言葉に、ラナロウは目を剥く。


「……何だか、想像してた感じと違うんですねぇ」


正直な感想を口にしながら、ラナロウはハマーンを席に勧める。
ハマーン、マークという並びに、ラナロウ、エリスという並びで各々は席に着いた。


「ハマーン様、お飲物は何になさいますか?」


エリスの問いかけにハマーンが答える。


「そうだな、最初は皆と同じものでいい」

「では、これを」


そう言って手渡したのは、洒落たグラスに注がれたウイスキーだ。
心地よいピート香が鼻をくすぐった。
普段なら、絶対にセレクトしない酒だろう。

全員がグラスを手に持ち、互いの顔を見回す。


「では、司令殿。乾杯の音頭を」

「うむ。
 ……今回は、初陣、ご苦労だった。
 赫奕(かくやく)たる戦果を挙げられたのも、諸君の奮闘があってこそ。
 今日は、存分にその労をいたわって欲しい。
 では、我らの往く道に。……乾杯!!」


グラスが音を立てて合わせられ、そして、それを一気に飲み干す。
ハマーンも、周囲に習って一気に飲み干してみる。

カァッと上がってくる、蒸留酒独特の感触を味わいながら、新たな「旅路」の手応えを感じていた。


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