Yahoo!ニュース
ログイン
IDでもっと便利に[ 新規取得 ]



ここから本文です

<リビア>多国籍軍による空爆 「人道的介入」腐心

毎日新聞 3月20日(日)19時24分配信

 仏英米によるリビア爆撃は、国連安保理決議に基づき有志国が民衆革命を助けるという新たな武力行使のあり方を示した。しかし、ほかのアラブ強権国家にまで武力行使が広がるのではとの懸念も地域で広がる。爆撃の意味を探った。

 ◇米、「二重基準」批判回避

 「米国は軍事介入を先導していない」。クリントン米国務長官は19日、リビアへの武力行使を確認したパリでの多国間会合後、満足げに語った。イスラム世界での「新たな米国の戦争」を避けたい米国は、仏英両国を前面に押し出して自らを「脇役」と強調することで、国際協調による新たな人道介入のモデルを示してみせた。

 リビア介入を決定する交渉プロセスでは、武力行使への3条件が確立された。介入の明確な必要性▽地域諸国の支持▽国連安保理決議、の三つだ。イラク戦争の後遺症に苦しむ米国は介入に及び腰で、武力行使のハードルを意図的に高くした側面が強い。

 事態が急展開したのは、地域機構「アラブ連盟」が12日にリビア上空の飛行禁止空域設定を支持し、オバマ政権が軍事介入に転じたためだ。中東では、親米のバーレーンやイエメンでも民衆蜂起の弾圧が続いている。米国にとって、「地域諸国の支持」という条件は、親米国には武力行使しない「二重基準」への批判を回避するための理由にすることが可能だ。

 カダフィ政権はアラブ連盟では「煙たい」存在で、同連盟がリビア以外の加盟国への武力介入を支持する可能性は極めて低いからである。

 ◇欧州、「独裁容認」を反省

 一方、仏英が「主導的な役割」(米国)を演じる背景では、欧米間でリビアの戦略的価値が異なる点も大きい。キャメロン英首相は武力行使を「国益」にそった「必要な」戦争だと強調。「欧州の境界で破綻国家を受け入れることは断じてできない」と語った。

 カダフィ政権が延命すれば、国際テロ支援の復活▽移民の大量流入、などで実害を受けるのは欧州だ。リビアの03年の大量破壊兵器放棄後、いち早く石油利権を目指し、カダフィ大佐を国際社会のパートナーとして迎え入れたのは英仏伊など欧州諸国だったことへの反省もある。

 英在住のリビア人活動家、アゼルディン・シャリフ氏は「欧州諸国がカダフィを手なずけることができると考えたことは甘すぎた。彼は国際社会の支持を得て国民の弾圧を強めた」と批判。これに対し米国は石油利権獲得で出遅れたこともあり、リビアにはバーレーンなど湾岸諸国ほどの戦略的利益を見いだしていない。

 軍事介入は、米国の国際的な地位が低下し、多国間プロセスを重視するオバマドクトリンの下で始まった。しかし、「カダフィ追放」に触れない安保理決議の下での行動の目的はあいまいな上、リーダーシップが明確でない軍事行動は、作戦の迷走、長期化、地上軍派兵へのエスカレートなどリスクを背負ったものになる。【ロンドン笠原敏彦】

 ◇自発的民主化運動に変質も

 チュニジアで民衆蜂起が独裁政権を打倒して始まった中東・北アフリカの大規模政変は、仏英米など多国籍軍が軍事介入に踏み切ったことで、新たな局面に入った。国連安保理決議が認めた民間人保護目的の「人道的介入」だが、当局による民主化要求勢力の武力弾圧が続く周辺国への介入を懸念する声も出始めている。

 仏英米の爆撃をアラブ圏の主要メディアは事実関係だけ淡々と報じている。アラブ連盟(22カ国・機構)などがカダフィ政権を厳しく非難し原則的に軍事介入を支持したことが背景にある。

 中東・北アフリカでの民衆蜂起は、チュニジアとエジプトでは基本的に平和的なデモで長期独裁政権の排除に成功した。鍵は、独裁者の権力の源泉だった軍部が、基本的に民衆側についたことだ。

 しかし、リビアでは最高指導者カダフィ大佐周辺が指揮する私兵的軍団が、反体制派の蜂起が集中した東部などで国民を徹底的に武力弾圧。「1万人以上」(反体制派関係者)とも言われる犠牲者を出す内乱状態になった。武力に勝る政権側の攻勢で追い込まれた反体制派の要請もあり、軍事介入は実施された。だが、アラブ圏に広がっていた自発的な民主化運動の流れが、欧米諸国主導の軍事介入で大幅に変質していく可能性も生じることになった。

 イスラム教スンニ派王政が民主化を求めるシーア派国民を武力弾圧したバーレーンでも、湾岸協力会議(GCC)軍が展開する事態が生じている。他国の騒乱に対する軍事介入が前例化すれば、民主化要求デモに対する当局の弾圧が深刻化しつつあるイエメンやシリアでも、同様の動きを求める国際世論が生じる可能性もある。エジプト軍の元幹部、ムハンマド・ビラール氏は「リビアの情勢が落ち着けば、イエメンへの米欧の軍事介入はありうる」との懸念を示している。

 「武力は最初の選択肢ではない。だが、独裁者の自国民弾圧は座視できない」。オバマ米大統領が19日に述べた人道的介入の根拠だ。だが、今回の軍事作戦が中東・北アフリカ地域での民主化の流れに貢献するかは不透明だ。【カイロ和田浩明】

【関連記事】
リビア:空爆 米大統領、「我々が求めた結果ではない」
リビア:市民の歓喜あふれる広場 多国籍軍の空爆開始
リビア:多国籍軍が空爆 カダフィ政権側は徹底抗戦の構え
リビア:米英仏などの軍事攻撃支持 松本外相が談話
リビア:米英仏攻撃で48人死亡 国営テレビ

最終更新:3月20日(日)21時29分

毎日新聞

 

この話題に関するブログ 1件

PR
ブログパーツ

海外トピックス

注目の情報


Yahoo!ニュースからのお知らせ(3月14日)

PR