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[25865] 【ネタ・習作】魔法少女リリカルなのはsts 白き流星の軌道(なのは×ガンダム逆シャア)
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/03/13 21:42
【注意】
練習を兼ねて、テンプレ的な展開、クロスオーバーでどれだけできるか。
なのはと逆襲のシャアのありきたりなクロスオーバーですが、逆シャアからはアムロ以外出てきません。また、MSがデバイス化、小型のMSが登場するということもありません。
オリキャラが登場しますが、オリ主ではないのでご了承ください。



2月9日 一話 誤字修正
    二話 誤字修正

2月11日 誤字修正



3月13日
皆さん、地震の方は大丈夫でしょうか? 自分は特に被害にあったわけではないのですが、一応の報告として、書かせていただきました。まだ警戒すべき事態ですので、皆さん十分にお気を付けください。



[25865] 第一話
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/02/11 18:50
その男にとってみれば、生身の体で空を飛ぶというのは奇妙な感覚であった。一度、飛行機から飛び降りたこともあったが、あれは落下であり、もちろんそれとは感覚は全く違う。ふわりと体が宙に浮くさまは、まるで宇宙にいるような感覚もあり、自由に動けるのだが、重力も感じるという、一種のアンバランスな感覚もあった。しかし、適正があったとでもいうのだろうか、数日もすればそれも慣れ、数年たった今なら感覚に惑わされることもなく見事な飛行を披露出来る。
そんな男だからこそ、期待の新人から憧れのベテランへと昇格するのも早かった。彼の経歴がそうさせているのもあるが、組織と言うのはよくも悪くも実力主義だ。頭角を現した男に正当な評価を下すは当たり前の事であった。

「風が強いな」

 ふっともらした言葉は誰に聞かれるわけでもなく、風に消えていく。そして、男の右手にある杖『デバイス』を通して通信が入る。

『アムロ一等空尉、そろそろ、デバイスのテストを開始します。準備はよろしいですか?』
「あぁ、いつでもいいぞ」

 そう言われて、男、アムロ・レイは意識を集中させた。デバイスを握る手も自然と強くなる。そして、またデバイスを通して、データが送られてくる。今回は新型量産デバイスのテストであり、そのテストパイロットにアムロが選ばれたということだ。
 それは杖という表現はあまり正しくない。無機質な鉄の色をした長い警棒にサーブルの柄をとってつけたような非常にシンプルな形で、見ようには剣にようにも見えるが、剣にしては頼りない形で、警棒にしては異様な形で、なんともアンバランスな形状である。
 
『慣らし運転として、まず飛行型オートスフィアを五機出しますので、撃破をお願いします。それなりに速く設定してあるので、注意してくださいよ?』

 通信員はどこか悪戯っぽい笑みを浮かべていた。アムロはそんな彼に苦笑しつつも、余裕を持った態度で答えてやった。

「テストだと言うのに、案外厳しいんだな?」
『テストって本来そういうもんでしょ? アムロ一尉なら出来ますよ』
「ありがとう、こちらも全力を尽くそう」

 通信員と冗談を言い合いながら、アムロはテストを開始する。アムロはまず大きく上昇すると、そのあとをスフィアがついてきているかを確認する。まずはデバイスの動作テストを兼ねて、近接モードから射撃モードへと変形させる。変形と言っても、そのまま刃と柄の部分が折れてライフル状になっただけである。スフィアたちはぞろぞろと間隔を開けつつも、アムロの真後ろをとるようについてきていた。アムロはくるりと体を反転させると、スフィアにデバイスを向け、牽制の為、二発の魔力弾を発射する。スフィアたちも牽制に当たるわけにはいかないのか、散開してそれを避けるが、直後、その内の一機が回避コースを読まれて直撃を受ける。

「まずは一機。命中精度は中々のものだ。満足できる作りだ」

 そう言いながら、アムロは散開したスフィアを追い、早くも一機のスフィアの後ろをとった。通信員の言うとおり、中々素早い設定がなされているのか、この新型デバイスでは簡単に追いつけることが出来なかったが、それでもアムロは冷静に狙いを定め、魔力弾を発射。まるで吸い込まれるように魔力弾が命中。二機目を撃墜する。ここまで来ると、さすがにスフィアからの反撃を開始される。アムロを取り囲むように三機のスフィアが展開し、次々と攻撃を放つ。アムロは隙間を縫うようにして攻撃を避けつつも、何発かはバリアを展開して、受け止めてやる。評価試験の為、攻撃にも当たってやらなければいけないのだ。バリアは崩れることなくスフィアの攻撃を防いでみせ、アムロはこのデバイスを高く評価した。攻守ともにバランスの取れた出来であり、特別秀でた能力はないが、高次元にまとまったデバイスであると評価を下した。現存の量産デバイスの上位互換に位置するデバイスだが、その性能差はかなり大きい。しかし、それでも低コストである面からみても、開発陣の努力が見られる。
 バリアで攻撃を防ぎながら、アムロはデバイスを近接戦モードに切り替え、目の前のスフィアの下腹部を切り裂くと、素早くその場から離脱し、再度射撃モードに切り替えると、右側を飛行していたもう一機のスフィアめがけて、三発の魔力弾を発射する。弾はスフィアの左翼に命中し、態勢が崩れたところを二発の弾が直撃し、撃墜される。最後のスフィアはアムロの背後をとるように急接近をかけたが、アムロは体をひねりながら、スフィアを狙撃、撃墜した。

『さすがですね。たったの二分で撃墜ですか』
「数が少ないからな。それに、はしっこいとは言っても単純な思考回路しかないオートスフィアだ。大型のスフィア相手か魔導師ならこうもいかないだろう」
『あなたなら十二人の魔導師を三分で撃墜しそうですけどね』
「ン……くくっ……やけに具体的に言うんだな」

 どこか身に覚えのある数値を例に出されて、軽く困惑してしまったが、それでもアムロは軽く笑ってみせて、適当に返した。通信員もすぐにまじめに業務へと取り掛かる。

『それだけあなたを評価してるんですよ。それで、デバイスの方はどうでしたか?』
「良いデバイスだ。基本性能も高いし、モード切り替えも早い、処理速度も中々だ。各々の調整を加えれば、新米から熟練まで幅広い層で使い勝手の言いデバイスになるだろうな。大型スフィアのような相手に個人戦は若干力不足だが、数で補えば大丈夫だろう」
『そこは各々バリアブレイクなり組み込むでしょうから、心配はいらないでしょう。続いて、陸戦の試験も開始しますが、大丈夫ですね?』
「了解だ。すぐに降りるよ」

 ゆっくりと下降していくと、じょじょに重力が体に押しかかってくる。足が地面につくと完全に重力を感じる。かすかに感じる浮遊感がなくなるのは少し残念であった。アムロはあの感覚が嫌いではなかった。
 そしてまたデータが送られてくると、アムロは陸戦のテストを開始した。


「お疲れ様です」
「ン、ありがとう」

 テストが終了して、若い女性局員がアムロにドリンクを手渡す。特に意識もしていないのか、顔を赤らめることもなく、淡々とした感じで手渡されると、自分の男としての魅力がないのかと少し残念にもなるが、アムロも深く気にすることはなく、礼を言って通信員の下へと移動する。

「チャメル、データの方はどうだった?」
「十分だったらしいですよ。さすがはアムロ一尉ですね。技術部の連中も喜んでましたよ」
「そうか。正式採用はされそうなのか?」
「でなきゃ、ここまでテスト運用しませんよ。多少時間はかかるでしょうけど、次入る新人たちには配備できるようにはするみたいですね」
「あとは一部の熟練にってところか?」
「でしょうね、後はゆっくりと浸透させていけばいいわけです。まぁ僕たちはデバイスの試験さえしてればいいですし、後は上の決めることですよ」

 チャメルと呼ばれた青年は眼鏡をくいっとあげながら、どこか気取ったように言って見せた。伊達眼鏡なのだが、もてるからという理由でかけ始めた眼鏡は彼には大きすぎて少々不格好な姿であった。アムロとチャメルはそのまま部屋を出ようとすると、ちょうど、アムロがテストを行っていた区画の反対側から、別の団体がやってきていた。すれ違いながら、アムロはチャメルに耳打ちするように訪ねた。

「他にデバイスの試験をしてる部署があるのか?」
「あれは『アインヘリヤル』のテストチームですよ」
「地上本部の新型兵器か……」
「過ぎた力ですよ。権力の象徴も兼ねてるんですよ」

 チャメルは露骨に嫌がって見せた。組織というものは厄介で、大き過ぎれば派閥もできるもので、この『時空管理局』も例外ではなく、本局と地上本部とで大きな確執が出来上がっている。チャメルは本局からの出向であり、地上本部に良い印象は抱いていないようだった。しかし、チャメルの感情は大衆に動かされた個人であり、恐らくチャメル自身は地上本部の詳しい内容も対立理由の深い意味もよくわかっていないのだと思う。つまり、若いのだ。血気盛んになると言っても良い。
 対するアムロは、どこか複雑な感情であった。大人だからというものもあるし、第三者の立場からものが見れているという自負もあるからなのか、どちらにも共感が持てるし、理解も出来る。取りあえず、言えるのは派閥争いが今後の火種になってしまうのではないかという不安があるということだけである。

「アムロ一尉はこれから何処へ?」
「支局さ、報告書とか色々あってね。今日はどういうわけか、予定がぎっしり詰まっている」
「アムロ一尉の訓練は人気みたいですね。聞きましたよ、他の教導官とは違って叩きのめすことはないって。だけど、どこよりも実戦的だって。どうです、教導隊じゃなくて、教官職についたら?」
「成り上がりの男の訓練を受けてくれるんだ、その期待には答えてやらないと、失礼だろ?」
「入局五年で一等空尉、誰もが驚くスピード出世ですよ」
「だからさ」

 その後も軽く会話を交わした後、アムロはチャメルと別れて、駐車場へ向かう。これから向かう場所は車で数十分のところ、戦技教導隊の支局の一つであり、アムロの所属する部署でもあった。アムロが支局に足を踏み入れると同時に、受付嬢の高い声がアムロを引きとめた。

「アムロ一等空尉、お客様がお見えです」
「客? そんな予定は入ってないはずだが……」
「何でも、急な用事らしく……一応、待たせてはいますが?」
「フム……」

 アムロは腕時計で時間を確認する。報告書の提出までには時間があるし、訓練自体は数時間も先だ。本当なら休憩を入れたいところだったが、話を聞く位は別に構わないだろうと、アムロは自室へとその客人を通すように受付嬢に伝えた。数分後、自室にいたアムロの下に客人が訪れる。

「オーリス三佐……」

 アムロの下に現れたのは、地上本部防衛長秘書官のオーリス・ゲイズ三佐であった。少なくとも、おいそれと会う事の出来ないような人物の訪問にアムロ自身も少なからず驚いている。

「また例の件ですか?」
「えぇ、そろそろ良い返事がいただけるのではと思いまして」
「待ってくれ、俺はまだ入局5年の男だ。部隊を率いるなんて、時期尚早だと思うが?」
「我々地上本部、そして本局はあなたの実力を高く評価しています。確かに時期は早いでしょうが、正当な評価を下せば、それぐらいは当然です」
「しかしな……」

 オーリスの申し出に、アムロは渋る。オーリスが言いたいのは、アムロに地上本部の一部隊を率いてもらいたいという事だ。アムロ自身は教導隊にいること事態、時期尚早と考えている。尊敬されるとは言え、入局5年しかたっていないアムロの昇進をやっかむ連中は少なからずいる。そんな状態でさらに部隊を率いるなど。

「正直なところを申し上げるなら、私どもはアムロ・レイという人材を本局に渡したくはないのです。お家事情を言えば、地上本部の現状は酷い有様です。少ない戦力を補おうとすれば、戦力過多と判断され、優秀な局員の殆どは出世の見込める本局へとひきぬかれる」
「俺を客寄せパンダにするつもりか?」
「本音を言えばそれを兼ねて、地上の戦力の要になってもらいたいのです。本局、海が危険な職場である事はレジアス中将も理解していますが、土台を支える事の出来ない組織が他人の庭のあれこれを言うのは、出過ぎていると考えています」

 加えるなら本局に対するけん制もあるのだろう。戦力増強に関してアムロは実力、人気ともに非常に魅力的なのだ。実際、アムロは本局からもこれと似たような話が持ちかけられている。
 その後もオーリスからの誘いは続いたが、訓練の時間が近づいてきたという事で、ひとまずは解散となる。アムロとしては、元の世界ではやっかまれた能力が、こちらでは頼りにされるという奇妙な待遇の差に戸惑いもあったが、自分を拾ってくれた時空管理局に対する恩も感じている。その恩に答えなければならない時が来ているのだと言う事を実感しながらもアムロはどこか引け目に感じていた。
 だからだったのかも知れない。アムロに決断を促す事件が起きたのは。訓練も終了し、報告書を提出し終えた時だった。時刻も夜を迎え、アムロ自身も休息を取ろうとした時であった。突然のアラート、そしてスピーカーから聞こえるオペレーターの声にアムロは椅子から飛び出すように立ちあがって、出動態勢に入った。

「状況は?」

 デバイスを機動させ、バリアジャケットに身を包んだアムロはオペレーターに状況を確認させた。

『北部の臨海第8空港にて大規模火災が発生、アムロ一尉は陸士422部隊と合流、消火活動をお願いします』
「了解だ」

 アムロはそう答えると、夜空へと飛翔する。デバイスを通して、422部隊の場所を確認すると、その方角へ向けて一気に飛び出す。数分後、422部隊と合流したアムロはデバイスに消火プログラムを組み込むと、燃え盛る空港へと到着する。

「テロでも起きたのか? 旅客機の爆発でもここまで火は広がらないぞ」

 他の部隊員と共に消火を続けるが、いかんせん数が少ない。第一、アムロの422部隊を含めると、消火活動に参加している部隊は4つ、各々に10数名の隊員がいても、火災の規模からみれば圧倒的に数が少ない。

「実働できる部隊が少ない……それゆえに展開も遅いか……」

 数十分後、本隊が到着して火災は鎮火したが、空港は破棄されるだろう。いまだに火災の余熱が感じられる空の上で、アムロはある決意を固める。その後、アムロが正式に地上本部勤務になるのには時間はかからなかった。


 4年という月日が過ぎるのは早いもので、アムロは火災で合流した陸士422部隊にいた。元々軍で隊長をやっていたアムロの手腕は優秀で、陸士422部隊は地上本部屈指のベテラン部隊とも言われるようになった。治安活動を主にしているが、災害救助といった仕事も彼らはになっている。レスキュー部隊からノウハウを学ぶ為に合同訓練を行ったり、多くの次元世界を見てきた本局の部隊の知識も取り入れるなど、ある意味地上と本局のかけ橋ともなる活躍を見せたが、両者の確執は中々埋まらなかった。

「新設部隊、レジアス中将はカッカしてるって話ですよ」

 事務作業をしていたアムロに部下の一人が耳打ちする。

「機動六課だろ? 確か、八神はやて二等陸佐が部隊長を務める部隊」
「地上部隊と言っても、そのバックは海の権力者がいるっていうんで、実質、陸の部隊じゃないって話です」
「そりゃまた……」

 随分と喧嘩を売るような真似をと思った。多くの陸勤務の局員からしてみれば、海からの干渉と捉えるだろう。地上本部の上層部からの反発は大きかったに違いない。

「中将も何かしら手を打ってるみたいですよ。陸の管轄に海がでしゃばってきちゃ、メンツに関わりますからね。陸海合同の部隊にするって案も出てるくらいですし」
「レジアス中将にしてみれば、それも腹の立つ話しってわけか……」

 組織の格差に悩まされるのは、下の人間であるのだが、それ以上に苦しいのはその現場にいる人間なのだろう。横や下からの圧力に耐えてなお、成果を見せなければならないのだから。
 そんな時、荒々しい声が響く。まだ若い声で、アムロたちはそれを新人のシュー・ラッツ二等陸士である事を理解した。他の隊員がシューを落ち着かせているが、興奮したシューはその隊員にも当たり散らしていた。若い世代特有の荒々しさを見せるシューの様子が気になったのか、アムロは部下に理由を聞いた。

「シューは一体どうしたんだ?」
「あぁ、何でもAランクの昇進試験に落ちたみたいですよ」
「昇進試験? あいつは一年前にBランクに昇進したはずだが?」
「自信過剰なんですよ」


 シュー・ラッツの実力は新人にしては非常に優秀である。新しい世代を担うには十分な才能もあるが、いかんせん彼の性格は直情的すぎる。自分の力に自信を持つのは良いが、それを過信しすぎるし、今のように激昂する事も多い。アムロは、もう少し落ち着けば良い局員になると判断している。

「ほっといて良いんですか?」
「ぶつかるのも必要さ。それに下手に慰めれば、かみつかれる」

 あぁいった手合いの扱いは心得ているつもりだった。後で話しでも聞いてやろうとアムロは思った。その後422部隊の部隊長がシューを殴り飛ばして騒動は終了した。
 書類の提出の為にアムロは部隊長室に足を運んだ。シューを殴り飛ばした部隊長は決して筋骨隆々の男ではなく、むしろインテリ系の人間に見える。だが、手を出す場所をというものを心得ている人間だ。

「ン、御苦労。あぁ、アムロ一尉、君に話しがある」
「はっ……?」

 部隊長は眼鏡を拭きながら、言葉を続けた。

「君も機動六課の話は聞いてるな?」
「えぇ」
「先ほど報告があってね、機動六課の交替部隊として、我々422部隊から何名か出向してくれと言われたよ」
「交替部隊?」
「地上のプライドだよ。海の部隊ではなくて、陸海合同部隊として運用させようとしている。その為に地上の部隊が出向するのさ。一部反発もあったようだが、交替部隊と言う事で手を打ったらしい。だが、実質は海の部隊と陸の部隊と二つの部隊が存在することになる。随分と急な話だが、アムロ一尉、人選は君に任せる」

 アムロはそのまま機動六課の書類を手渡されると、そのまま報告へと向かわされた。アムロ自身も驚きだが、その後、部隊の動揺は考えるまでもないだろう。恐らく、無理やりねじ込んだのだろうと推測できる。
 六課への出向メンバーを考えながら、アムロは六課の異様性に気がついていた。本局でも影響力の強いハラオウン提督をはじめとして、聖王教会、伝説の三提督と言われる実力者らが後継人にいる。同時にそのメンバーもそうそうたるものであった。若手ながらもエースと呼ばれるメンバーがそろい踏みである。

「ロンド・ベルも無茶をしたが、これはそれ以上に無茶だな……」


 翌日、アムロはメンバーと共に機動六課へと出向した。メンバーの中にはシュー・ラッツの姿もあった。輸送機に揺られる事数時間、六課隊舎へと到着したアムロらは人数の関係上、格納庫で部隊長八神はやてと面会する。

「ようこそ! 機動六課へ。私が部隊長の八神はやて二等陸佐や」
「陸士422部隊、アムロ・レイ一等空尉以下5名、着任します」
「ウム。許可する。まぁ、堅苦しい挨拶はここまでにして……六課の運営期間は一年間、それまでよろしくお願いします」

 八神はやての声は明るい感じがしたが、どこかよそよそしい部分も感じられる。警戒とは違うようだが、もろ手をあげて歓迎というわけでもないようだった。
 アムロは他の隊員を先に宿舎へと向かわせると、自身は交替部隊の隊長としての仕事を行うため、八神はやてと共に六課部隊長室へと向かった。


 個室に案内されたシュー・ラッツは暇を持て余していた。出向したとはいえ、今日から部隊が活動するわけでもないらしく、第一自分たちは交替部隊。勤務時間ですらない。緊急ともなれば話は別だが、とにかく今は何もすることはない。シューはそのまま部屋を出ると、目的もなくぶらぶらと宿舎を歩き回った。格納庫では移動用のヘリの搬入が行われており、他にも事務員たちがせわしなく書類を持って歩きまわっていた。ふと、シューの視線の先に荷物を運ぶ女性が映った。ショートカットの紫の髪をした女性だった。シューは暇だったと言う事もあってか、その女性を手伝ってやろうと思い、声をかけた。

「手伝おう。どこまで運べばいい?」
「あら、ありがとう。すぐそこの部屋まででいいわ」

 元々数も少ないし、重たくもない荷物だったのでそれほど手間取るようなものではなかった為、荷物運びはすぐに終わった。それでも女性は手伝ってくれたシューに感謝の言葉と笑顔を向けてくれた。

「助かったわ。私はアイナ・トライトン、この寮の寮母です。これからよろしくね」
「あ、あぁ……俺……自分は交替部隊のシュー・ラッツ二等陸士です。それでは、仕事がありますので」

 アイナの笑顔にドギマギしながら、シューはその場を立ち去った。なんとなく恥ずかしくなって、その場を離れたが、冷静になれば別にやましい事はしてないわけで、美人の寮母に出会えた事に感謝すべきであったと今頃になって後悔していた。

「良い人だったな……ン?」

 アイナの顔を思い出しながら余韻にひかれていると、通路の反対側から二人、どこかで見た顔が現れた。片方はよく知っている。座学で、自分を差し押さえてトップに躍り出た女、スバル・ナカジマだ。もう片方はよく知らない、スバルとよく一緒にいるのを見かけた事があるが。

「あいつら……なんで六課に?」

 自分と同じ交替部隊配属だろうか。そんな風に考えていると、彼女たちがシューに気がついたのか、スバルが大きく手を振って挨拶をしてきた。

「あれぇ! シュー・ラッツでしょー!」
『なんだ、こいつ。なれなれしくないか?』

 スバルは子どもみたく大声を出して、シューに近づいてきた。相方の方は少し呆れているのか、額を押さえながらスバルの数歩あとからやって来た。シュー自体も特に親しくした覚えもない相手にフルネームで呼ばれ、困惑した。

「久しぶり、シューも六課に?」
「422部隊からの出向、交替部隊だ」
「そうなんだ。私はフォワード、スターズ分隊の配属なんだ」
「フォワード? 主戦隊か……ふぅん」

 シューはそう言いながら、スバルとその相方を値踏みするように見る。確かに座学の成績は遅れをとったが、実戦成績は自分が上だったはず。なのに、この二人が主戦隊にいるのはシューには納得がいかなかった。同期の中では真っ先にBランクまで昇進したというのにだ。

「なに? 言いたいことでもあるわけ?」

 そんなシューの目が気にいらなかったのか、スバルの相方が目を鋭くして、言った。ツインテールにしたオレンジ色の髪が揺れて、それが怒りを表現しているようだった。対するシューは威圧される事もなく、挑発的に返した。

「別に、主戦隊と言ってもその程度なんだなと思ってな」
「なんですって!」
「座学で優秀だからって、実戦では意味がないって事さ」
「この、言わせておけば!」
「て、ティア、落ち着きなって! シューも挑発しないで!」

 言い争いに発展した二人を止めるようにスバルが両者の間に割って入る。シューは言葉こそ発しなかったが、態度は変えず、ティアと呼ばれた少女は鋭い視線を向けていた。

「ふん……!」

 バツが悪そうな顔をしながら、シューはその場を立ち去った。見苦しい嫉妬である事は明らかだったが、それを認めたくないというのがシューの無意識からなるプライドのせいだった。
 機動六課という部隊は、シューにとってエリート部隊という認識がある。実際、専用の隊舎があり、輸送用のヘリ、部隊長から分隊の隊長だって、雑誌でみた事のあるメンバーだ。交替部隊とは言え、アムロ・レイだって地上本部の要と言われた男だし、なにより自分たちは陸の看板を背負ってここまで来ているわけだから、シューにもそれを全うしてやろうという自負がある。だから、そういう余計なプライドが邪魔をして、同期の連中が自分よりも上にいる事が許せなかった。

「俺はいつか、自分の艦を持つ男だ。たかが交替部隊で甘んじるような男じゃない」

 自分に言い聞かせるようにシューは呟く。純粋な向上心は時として無謀な過信へと繋がる。だが、熱意に燃え、若いシューにはその違いなどわかるはずもなかった。いつか自分は部隊を持つにふさわしい男になる。そんな夢だけが、シューをひたすら走らせていた。



[25865] 第二話 前編
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/02/11 18:50
 交替部隊と言っても、陰ひなたに隠れるわけではない。勤務時間がくれば、前線で戦い、それ以外では本隊の留守を守る役割もあるし、いざという時の実働部隊としての役割だってある。そういった意味では、主戦隊よりも忙しいとも言えるし、それゆえに各分隊の隊長陣は顔合わせを含めたミーティングというものが行われる。緊急時において、分隊間での連携が取れないのでは組織運営が成り立たないからである。
 各分隊はスターズ、ライトニングと分けられ、そこに交替部隊であるスラウギが存在する。スラウギ分隊は一隊だけだが、隊員数はスターズ、ライトニングよりも多く、422部隊五人以外の出向部隊を含めて十二人構成であり、アムロはそのスラウギ分隊の隊長を務める事になる。会議室に集められた隊長陣及び、支援部隊のロングアーチのメンバーが集められていた。
 会議室の雰囲気は非常に若々しいものだった。そういった若者の中に、それも女性の比率が多い部屋に四十路手前のアムロが混ざっている光景はさながら引率の教師のようであった。地上本部がこういった若手のメンバーが多い六課に大人であるアムロを出向させた意図は様々であろう。アムロの階級は佐官クラスとまではいかなくても、無視はできないし、アムロは他の一等空尉よりは先任である。なによりレジアス中将の信頼厚い、地上部隊の要と呼ばれる人物であるがゆえに下手な扱いはできない。アムロ本人にそういった意図はないが、部隊長である八神はやてにしてみれば、アムロ・レイという男は爆弾のようなものだった。だから、はやて本人には悪気はないにしても、アムロを前にすると表情が硬くなる。部隊長と言っても十九の小娘、いわゆる大人の態度を取るにはまだ経験が浅い。
 だから、アムロから交流を兼ねての合同訓練を提案された時は、陸による海への戦力視察ではないかと必要以上のガードをしてしまうなど、余裕がなかった。この提案にスターズ分隊隊長の高町なのはが賛成した時は、彼女に全てまかせてしまおうかとも考えたくらいだ。とはいえ、部隊長かつ階級では自身が上なわけでそういうわけにもいかず、はやてとしてはこれほどまでに緊張するミーティングもないだろう。

「合同訓練の際に、お互いの分隊の新人たちの実力を測りたいのですが、どうでしょう?」

 そんなはやての気苦労を知ってか、知らずか、高町なのはは普段通りの感覚でアムロと打ち合わせをしていた。

「そうだな、うちのシューも年上ばかりではやりにくいだろうし、近い世代同士での交流も兼ねてやってみるのもいいかもしれないな」
「それじゃ、分隊間での合同訓練の時間も見直してみないといけないですね……最初に新人同士でやらせてみましょうか?」
「フム……早めに分隊連携の訓練も行いたかったが、少し時期を延ばしてみるか」

 教導隊、陸と海のエース、パーソナルカラーも白と同じ、共感するものでもあるのかと思えるくらいに、二人の話し合いを進んでいく。はやてはその内容を聞きながら、「よく、あぁも話せるものやな」と、友人を尊敬する。時折、スターズ隊の副隊長であるヴィータやライトニング隊のフェイト・テスタロッサ・ハラオウン、シグナムにも確認を取ったりしながら、話しがまとまったのか、なのはがはやてへと視線を向ける。それに気がついたはやては僅かに姿勢を伸ばして聞きいれる態勢を整える。

「八神二佐、三日後の合同訓練の内容です。確認をお願いします」

 友人同士とは言え、公私はわきまえるのも大切である。こういったミーティングや会議などでは階級で呼び合う事もあるが、長年付き合ってきた友人からこうもかしこまられるとむず痒い感覚が走る。そんな奇妙な感覚を押さえながら、はやては送られてきたデータを受け取ると、自身のディスプレイに表示する。きめ細かく組み込まれた訓練スケジュールは無駄のない配置と言える。

「うん……特に問題はないから、合同練習はこれで良いと思うよ。あとは各分隊の隊長陣の手腕にまかせるとするわ」
「はっ、ありがとうございます」

 その後も軽い状況説明を行うと、はやてにとって妙に緊張するミーティングが終了する。


 ミーティングが終了すると、はやてやロングアーチを残して隊長陣は会議室を退出する。部隊長であるはやてや支援部隊のロングアーチは遅れている資材の搬入や各分隊の隊員たちの状況をまとめたりと忙しいデスクワークが残っていたが、逆に隊長陣はここまで来るとある程度暇になってしまう。報告する事もないし、訓練自体もまだない。明日にもなれば仕事もあるだろうが、今日はもうすることはないと言うのが現状だ。

「今日のはやてちゃん、なんだか緊張してたみたいだね」
「そうだね……どこか気分でも悪かったのかな?」

 通路を歩きながら、思い出すようになのはが言うと、フェイトがそれに相槌を打つ。はやて本人にしてみれば上手く隠していたつもりだっただろうが、長い付き合いというものはそういった小さな変化にだって気がつく。

「なに、陸の要、アムロ・レイ一等空尉がいるのだ、八神部隊長もそんな有名人を前にすれば緊張もするだろう」

 シグナムは彼女にしてみれば珍しくはやての緊張した姿を思い出しながら、悪戯っぽく笑って言った。チラッとアムロの方へと視線を向けると、「そういうわけです。あまり気にしないでやってほしい」と続けた。対するアムロは苦笑しながら、「まいったな」と答える。

「俺からしてみれば、君たちの方が有名人だと思うけどね。うちの隊員の中には君たちと一緒に働ける事を喜んでいる連中だっているんだ」

 実力もさることながら、彼女たちはアイドル並みの人気だってある。陸の領分に海が来る事を拒みながらも、そういったミーハーな所があるのはやはり彼らも人間だという事だろう。交替部隊の隊員だって組織の中で動くわけだから、ある程度折り合いをつけることを心得ている。だから、有名人と一緒に肩を並べられると言う事を楽しんでいるのだろう。

「そういや、なのはは教導隊だろ? アムロとは顔合わせた事ないのか?」

 そんな中、集団の中で一番小さいヴィータが頭の後ろで手を組みながら、常々疑問に感じている事を尋ねた。ヴィータの言うとおり、アムロとなのはは教導隊に所属する者同士である。今回のミーティングでもアムロに最初に声をかけたのは彼女であった。

「う~ん……二、三回くらい顔を合わせた事はあるんだけど、こうやって話す事って今日が初めてなんだ」
「そういえば、そうだな」

 アムロもそれに頷いて答えた。ヴィータも「ふぅん」と頷きながら「人間、巡り合わせっていうのもあるんだなぁ」と見た目にそぐわない言葉を言いながら納得していた。そんなヴィータを子どもの背伸びという人物も多いだろう。実際、アムロ自身も彼女を見た時はその幼い外見に戸惑いを覚えた。管理局はその性質上、幼い子どもも働いていることが多く、アムロにしてみれば、それは驚きであった。ヴィータもまたそういった類の少女なのかと思っていたが、彼女はどうやら違うらしい。あまり詳しい事は聞かされていないが、どうやらヴィータは見た目通りの年齢ではないらしい。しかし、そういった説明を受けても、人間というものは中々に不器用で目に見える情報を優先してしまうのか、幼い少女にしか見えないヴィータがそういった哲学的な事をいう姿にアムロは微笑しながら、眺めていた。

「あ、そういえば、アムロ一尉は四年前の空港火災で消火活動を行っていたんですよね?」
「あぁ、そうだが?」

 ヴィータに続くように、次はフェイトがアムロに質問を投げかけた。空港火災と言われれば忘れるはずもない。アムロ自身が陸に身を置く事を決定づけた事件である。

「実は私もなのはもはやてもその時は民間人の救助活動に出動していたんですよ。助けた民間人の中にはスターズのスバル・ナカジマもいたんです」
「そうなのか? 偶然とは言え、そのメンバーが今ここにいるわけか」
「私たちの場合は偶然ってわけじゃないんですけど……アムロ一尉や今の新人たちとは、なんだか運命的……っていうんでしょうか?」
「ほぉ、控えめなテスタロッサがアムロ一尉にアタックを仕掛けるとはな」

 シグナムがからかうように笑みを浮かべると、フェイトは「ち、違うよ!」とあわててそれを否定する。フェイトにしてみれば言葉が見つからなかっただけなのだが、言われてみればそういう風に聞こえなくもない。この場にいる全員はそれを理解していたが、そんなほほえましい光景にちゃちゃを入れる事はしなかった。暫くの間、フェイトとシグナムのじゃれあいが続いたが、落ち着きを取り戻したフェイトは小さく咳払いすると、

「ヴィータの真似をするわけじゃないけど、巡り合わせって不思議なんだなって……」
「そうだね、こうやって色んな出会いがあって、そして機動六課が出来て」

 なのはは思い出すように瞳を閉じた。再び瞳を開けた時には何かを決意したような意思が見られた。

「やり遂げないとね。私たちにできる事をさ」

 なのはの言葉にフェイトたちも頷く。アムロもまたその中にいた。若い世代が中心となって活躍していく。裏では政治的意図や派閥争いと言った陰険な空気も漂うが、それでも、この部隊の空気は良いものだと感じた。不安定ながらも、ゆっくりと動き始めた部隊はアムロは嫌いではなかった。


 機動六課の訓練場というのはヘリで移動した海上にある。元々広いスペースを有していた六課の隊舎は訓練場のスペースを確保するのが容易であり、大規模なシミュレーター施設を設置する事が可能となっていた。今回は市街地戦を想定し、廃墟を再現していた。そして、ここでの訓練が機動六課の新人たちにとっての最初の仕事でもあった。アムロとなのはの打ち合わせ通り、今回の訓練は各分隊の新人たちの実力を測るのと交流を兼ねてのものであった。
 そういった目的があるなどとは知らず、シュー・ラッツはあまり見たくない顔に再び出会っていた。それは向こうも同じようで、ティアと呼ばれていた少女ティアナ・ランスターもまたシューの顔を見るや否や顔をそらした。多少険悪の雰囲気が流れるが、互いの不干渉な為か前回のように言い争いにならないだけましと言えるだろう。その間に挟まれるスバルにしてみればたまったものではないだろうが。

『合同訓練か……奴らの実力を見る良い機会にもなるし、俺の実力だって再評価されるはずだ。なにより……』

 そう考えながら、シューはアムロへと視線を向ける。なのはと、もう一人、長い髪と眼鏡が特徴的な通信主任兼メカニック担当のシャリオ・フィニーノと訓練の再確認をしているのだろう。話しこんでいるアムロはシューの視線には気がつかなかった。

『アムロ一尉だって見てるんだ。無様な姿は見せられないってもんだ』
「あの……」
「ンン?」

 一人訓練に燃えていたシューであったが、突然声をかけられ、多少驚いたように振り返る。そこには幼い赤毛の少年がいた。身の丈ほどはある槍型のデバイスを持った少年はおずおずとシューに声をかけた。

「シュー・ラッツさん……ですよね?」
「あぁ……お前は……」
「エリオです。エリオ・モンディアル、ライトニング分隊の所属です!」
「ン、交替部隊のシュー・ラッツだ」

 そうハキハキと答えるエリオは年相応の少年のような笑顔を見せていた。元気が良いもんだと思う反面、こんな子どもが自分を差し置いて主戦隊にいるのは気に食わなかった。とはいっても、相手は子ども、ティアナのように嫌味を言う事もなく、シューは適当な相槌を打って返事を返した。だが、対するエリオはそんなシューの意図に気がつかないのか、まるでシューが話すのを待っているようにも見えた。

「なんだ?」
「あ、いえ……部隊の中で男の人がいて良かったなって思いまして……なんていうか、周りはみんな女の人だから、少し恥ずかしくって」

 照れながら答えるエリオ。シューは「なるほどな」と納得していた。考えても見ればスターズもライトニングもエリオを除けば全員女性だ。エリオ自身、仲が悪いわけでもないのだろうが、年上とは言え若いシューの方がまだ話しかけやすいという感覚があるのだろう。だからといって、シュー自身にこれ以上関わろうという気はなかった。適当にあしらっておこうと考えていると、こちらをおどおどと眺める少女が目に入った。小竜を連れた少女は人目で召喚師であることが分かる。歳はエリオと同じくらいだろうが、それで竜を召喚できるのは幼いにしては中々だとシューは思った。エリオはシューの視線の先を追うようにして振り返ると、その少女の存在に気がついたのか、名前を呼んで手招きしていた。面倒な事をと思いながらも、シューはそれを口に出さなかった。

「キャロ、この人はシュー・ラッツさん。交替部隊の人なんだ」
「あ、初めまして。私、ライトニング分隊のキャロ・ル・ルシエです。この子はフリードリヒって言います」

 ペコリとお辞儀しながら、キャロはピンクの髪を揺らした。そのすぐ傍でフリードリヒは『キュクルー』と独特の鳴き声を発していた。

『なんだ、ライトニング分隊は保育所か何かか?』

 シューの正直な感想はそれであった。スバルやティアナならまだ年齢的にはわかるが、ライトニング分隊の二人は子ども過ぎる。そんな子どもが主戦隊にいるというのは、嫉妬するというよりも先に不安が生じる。そんな風に考えていると、デバイスを通してなのはの声が伝わってくる。

『みんな、そろそろ訓練を始めようか!』
「始まるぞ、さっさと持ち場につけ」
「あ、シューさん!」

 これ幸いとシューはそう言って自分の位置につく。エリオを無視して、シューはなのはからの説明を聞きながら自身のデバイスの確認を始める。シューの扱うデバイスはなんら特別なものではない。最新ではあるが同期の連中の殆どが所持している量産型デバイス「ディゾン」である。元々はアムロがテストをしていたデバイスであり、その頃に比べて若干デザインが変わったが、性能に変化はない。

『私たちの目的は捜索指定ロストロギアの保守管理、そしてため私たちが戦う事になるのが、この自立行動型の魔導機械』

 なのはが言うと同時に地面に麻法人が展開し十二体の丸長の機械であった。そして、入れ替わるようにアムロがなのはの後に続いた。

『そのタイプは近づくと攻撃してくる。今回のお前たちの目的は十五分以内に目標の破懐、捕獲だ。演習機とはいえ、実戦形式だ。軽い気持ちで向かえば痛い目を見る。注意しろ』
『はい!』
『良い返事だ』

 説明を終えた後、新人たちは元気な返事を返した。やる気は十分であることが伝わり、アムロとなのはお互いに視線を合わせると同時に頷く。そして、号令の下、初の訓練が開始される。
それと同時に十二体の目標は四機ずつの小隊を組んで散開する。その中でいち早く動いたのは、シューであった。デバイスを通して魔法を発動させると、シューの体が地面から数センチほど浮き上がる。飛行ではなく、ホバーとも言える状態で、軽やかに移動し始めるシューは他の四人を無視して、一人先行した。そんなシューの行動をいさめるようにティアナが念話で話しかけてくる。

『ちょっと、一人で先行しないで!』
『子守はごめんだ。それに俺はこいつらとやりあっている。足手まといにはなるなよ!』
『アンタねぇ!』
「ティア、私たちもいくよ! エリオ、ついてきて!」
「はい!」
「あぁ、ちょっとスバルも!」

 シューの触発されるように、スバルとエリオも残りの八つの機体を追う。取り残される形になったティアナとキャロはともかく、離れないようにスバルたちの後を追った。ティアナはなんだか頭痛を覚えていた。
先んじて先行していたシューはすでに敵機を捉えていた。一定の感覚を開けながら、捕捉した敵機に狙いを定め、二発の弾丸を発射する。魔力弾は敵機に命中せず、その両脇をすり抜ける事になるが、そのせいで密集した敵機めがけて、シューは懐から本命の弾丸を取り出す。それは一部のデバイスが使用するカートリッジと呼ばれるものであった。しかし、シューのディゾンはストレージと呼ばれる一般的なもので、このカートリッジには対応していない。しかし、シューはそれを放り投げると、カートリッジに魔力をまとわせ、一斉に掃射する。シューの意思に操られながら、カートリッジは確実に敵機を捉え、間もなく貫く。内の二機を撃破したシューの幸先は良いものであった。

『やった! これくらい、できて当然だ』

 確実な手ごたえを感じたシューは残りの二機を追いかける。その表情は自身に満ち溢れたものだったが、それを眺めるアムロの視線は鋭かった。そんなアムロの視線になのはが気づく。

「シュー・ラッツ君ですね。もう二機も撃破か……流石はアムロさんの部下ですね」
「あぁ……だが、一人で先行し過ぎだ……」
「確かに……実力はあるみたいですけど」
「本来なら、シューはあの四人の面倒を見てあげないといけないんだが……あいつの悪い癖だよ。プライドに縛られていて、自分の力を過信している」
「分隊が違うとは言え、協力する事が出来ないといざという時に動けなくなりますからね……あぁ言った子は一発ガツンと……」

 教導隊直伝の教育方法を述べるなのはだったが、アムロはそれをやんわりと否定した。

「いや、あいつは反骨心が高い、叩きのめしてもその都度かみついてくるだろう。手っ取り早い方法は、経験をさせる事だ」
「経験、ですか?」
「そうだ。シャーリー、全員が敵機を撃破したら、一つ頼めるかい?」
「良いですけど、何をやるんですか?」
「不測の事態って奴だよ」

 アムロはニッと笑みを浮かべると、再度新人たちの訓練に目をやった。


シューと同じように先行したスバルとエリオだったが、敵機の浮遊移動に惑わされ、中々攻撃を当てる事が出来ず、攻めあぐねいていた。密集していても、攻撃が迫れば、一瞬で散開し、無軌道に回避行動に出る。また、移動速度自体も素早く、ついていくのがやっとであった。

「当たんない! こいつら、速い!」
「それに機動もふわふわしていて……狙いが定まらない……集中しないと」
『アンタたち、後方の事も考えなさい!』

そんなスバルたちを叱咤するように念話で呼び掛けるティアナ。スバルたちの後方、ビルの上で戦場を確認していたティアナは銃型のデバイスを構えて、狙いを定めていた。

「ちびっこ、威力強化!」
「はい!」

 ティアナの指示の下、キャロのグローブ型のデバイスがピンクの光を放ち、ティアナへと注がれる。威力上昇を確認したティアナは直進する敵機の機動を読んで、狙撃、連射をする。放たれた魔力弾は確実に敵機に命中するが、損傷は見受けられない。

「かき消された!」
「フィールドが展開しています!」

 キャロの言うとおり、敵機の周りには不可視のフィールドが展開されていた。中々捉える事の出来ない機動に攻撃を無力化するフィールド、四人の新人は戸惑いを隠せないでいた。
そして、それを眺めていたアムロとなのははそろそろ四人に助け舟でも出してやろうと思い、通信を送る。

『苦戦しているようだな?』
「アムロ一尉……あれは?」

ティアナの問いに答えるようにアムロが言葉を続ける。

『奴らガジェットドローンには一つ厄介な能力がある。それが、あのアンチ・マギリング・フィールド、通称AMF、射撃魔法はかき消されるぞ』
「だったら!」

 射撃がかき消されるのなら、近接攻撃をと思ったのだろう。スバルは自分の進行方向に青い道を作り出し、ローラーで一気に駆けあがる。だが、ガジェットは接近するスバルに対して回避行動を取ることなく、その場に漂い続けた。その瞬間、スバルの展開した道、ウィングロードは展開し終える直前にかき消されてしまい、足場を失ったスバルはそのまま落下しビルの窓を突き破っていった。

『AMFを広域に展開されると飛行や足場を作る魔法もかき消されるよ?』

捕捉するようになのはが言う。だが、これだけでは流石に可哀そうなので、アドバイスは続く。

『AMFを破る手段は沢山あるよ。だけど、それをどうすればできるのか、どうやるのかは自分たちで考えてみようか? ちなみにシュー君はすでに二機撃破してるよ』
「あいつが? 口だけじゃないってわけか……みんな、聞こえる? こっちも負けてられないわよ!」
「おぉ!」

 なのはにけしかけられるようにティアナは戦意を奮い立たせる。このままではシュー・ラッツの嫌味が飛んでくると考えたティアナは、負けられないという意思の下、三人を鼓舞する。その後の動きは目覚ましいものだった。スバルは至近距離からの肉弾戦で一機撃墜。それに続くようにティアナは指示を飛ばしながら、完璧なチームワークを成立させていった。エリオが足どめ、キャロの竜フリードリヒの火炎により、ガジェットに誤作動をおこさせ、その後に捕縛魔法でからめ捕る。残った敵はティアナによる多重弾殻射撃による狙撃でかたずけられた。何とかしてガジェットを破壊し終えたティアナたちだったが、その疲労はピークに達していた。魔力も体力も使い切った。そんな状態であった。
 一方、単独行動を取っていたシューも残る二機をあっさりとかたずけていた。その後、爆音と立ち上がる煙を見つめて、他の四人もやっとガジェットを撃破した事がわかる。

「この程度、手間取ってちゃ、命取りだ」

そういうと、シューはデバイスを待機モードに戻すと集合場所へと戻ろうとする。その瞬間だった。一条のレーザーがシューの背後から襲いかかる。ハッとなった瞬間には遅く、シューの右肩にレーザーが直撃する。だが、その瞬間でもデバイスを機動させる事には成功したらしく、何とか防御を取っていたが、右肩へのダメージは深刻だった。演習機とはいえ、衝撃は伝わる。さらに間の悪い事にガジェットの数は二機、本来なら大したことはないと言える数だが、いつの間にかAMFが広域に展開されていた。

「くっ……なんだっていうだ? 訓練は……」

 そういえば、まだ訓練が終了したなどとは誰も言っていなかった。取り逃がした敵機がいたのか、それとも……しかし深く考えている暇はなかった。広域に展開されたAMFのせいでホバー移動もできない状態、囲まれたシューは絶対絶命であった。


 そんなシューを眺めるアムロ。彼の指示を受けて、シャーリーはパネルを操作しつつ、アムロの真意を測りかねていた。

「あの、言われた通り、シュー君の周りにガジェットを二機展開しましたけど……」
「ありがとう。後はあの子たちに任せる」
「なにをするつもりなんです?」
「不測の事態っていったろ? まぁ、シューには良い薬さ。それに、戦場に出れば、一瞬の油断が命取りになる。新人たちは、そういった場所に駆り出されるんだ。今のうちに覚えさせる方が良い」

 アムロはどこまでも経験を積ませるつもりだった。それが新人たちが生き残るために必要な教育だと思っているし、これからも続けいくやり方である。そんなアムロの表情を見て、シャーリーはアムロを『怖い』と感じた。厳しい訓練を課すからではない。もっと、別の、命のやり取りをしているように感じられる気迫が迫っていた。逆になのはは、アムロの優しさを感じ取っていた。こういった厳しい訓練は新人たちを思ってやっている事だと言う事を、同じ教導隊、教育を施す者として理解していた。だが、それでも、なのははシャーリーとはまた違った違和感を感じていた。ずれというのだろうか、自分たちとアムロとでは見ている先が違う、そういった錯覚にとらわれてしまうのだった。ヴィータやシグナムなら理解できるかも知れない、ふと、そんな事を考えながら、なのはは新人たちへと目を向ける。突然の事であわてふためく四人の新人と逃げ惑うシュー、なのははデバイス「レイジングハート」を通して、四人の新人に訓練の続行を伝えた。



[25865] 第二話 後編
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/02/11 18:48
「うっ……くっ、なんとしてでも、AMF圏外から脱出せねば……!」

 演習レーザーの直撃を喰らった右肩を押さえ、シューは二機のガジェットを振り切るように走っていた。そのあとを獲物を狙うようにゆっくりと近づいてくるガジェットの姿は実戦さながらの恐怖をシューに与えていた。手出しが出来ないというのはそれほどまでに怖いものである。元よりホバー走行による高機動戦を主としていたシューにしてみれば、動きが封じられる事はその戦力の半分を封じられた事になる。それにいくら訓練を積んでいるとはいえ、人の体力、ましてや傷を負ったシューの体力では疲れ知らずのガジェットを相手どればどのような結果になるのかは容易に想像できる。
 あの四人と合流すれば……という考えが頭をよぎるが、シューはそれを振り払うかのように、舌打ちをした。情けない、この程度の事態、自分で何とかしなければ示しがつかないというプライドがそれを許さなかった。だが、その間にもガジェットからのレーザー攻撃は止まらなかった。デバイスからのアラートが耳をつんざく、障壁を展開してもAMF圏内の中では十分な強度は保てず、二発防いだところで、貫通してくるのが現状であった。その内に集中力にも陰りが見え、シューは小さな段差につまずき、態勢を崩す。意識した時には遅かった。その今更態勢を立て直す事も出来ず、その瞬間にもガジェットのレーザーは発射されようとしていた。撃墜判定、という結果が頭をよぎった瞬間、シューの体は誰かに引っ張られるように浮き上がり、柔らかな人の肌に密着した。


 訓練続行の言葉を知らされた新人四人は迅速な行動がとれないでいた。確実に目標は撃破したつもりで、さらに言えば体力も魔力も限界に近い状態であった事も理由である。しかし、容赦なく課された課題はさらに四人を混乱させた。
 なのはから下された新たな指令は二機のガジェットに襲われるシューの救出であった。訓練時間も残り少ない状態で、消耗しきった新人たちには正直なところ辛いものである。第一に単独行動を取っているシューの現在地は誰も知るすべはなかった。

「あのバカ、勝手に行動するから……!」

 息を整えながら、ティアナはシューの行動に怒りを見せていた。少なくとも集団行動を取っていれば、こういった不足の事態にも対応できただろうに。ある意味これはシューの自業自得、自分たちはいわば巻き込まれただけである。そうも考えつつ、いかにしてシューを発見するべきかを考えているのもまた事実である。

『スバルならある程度広い範囲を捜索できるけど、むやみやたらに走っていては単独撃破されかねないし、私とエリオじゃ体力も持たない、キャロは論外、一人で行動させたら今以上に危険……』

 ティアナは思案する。刻限が迫るなか、冷静に現状を打破しようと考えれるのは彼女の性格のおかげなのかも知れない。だが、対する三人はそうもいかなかった。シューを探そうとする気はあれど、彼女ほど思案する事が出来ない。そんな中、スバルが飛び出そうとするのを、ティアナは見過ごさなかった。

「スバル、どこに行く気?」
「決まってる、シューを見つけないと!」
「そうですよ! このままじゃ……」

 スバルとエリオは構わず飛び出そうとするが、ティアナはそれを一喝して止めた。

「止めなさい!」
「ッ……でも、ティア!」
「わかってるわよ! けど、今ここで私たちがバラバラになったら、危険だわ。それに、あいつの救出だってできなくなる」

 言い聞かせるようにして、ティアナはスバルたちを制止させたティアナは再度思考の海へと潜る。とは言え、ここでこまごまと考えているだけではいけない。素早く打開策を講じなければ……そんな時、キャロがおずおずと手をあげて発言した。

「あの……空から探せばいいんじゃないでしょうか?」
「え……?」

 キャロの発言に呆気にとられるティアナ。そんな事できればすでにやっている。しかし、この中に空戦魔導師はいないし、代わりになりそうなスバルの魔法「ウィングロード」もAMFに近づくと消失、墜落の恐れがある。どだい、無理な話……そんな風に考えていたが、ティアナはある事に気がつく。

『いる、魔力を使わず、自由に空が飛べる奴が!』

 ティアナの視線の先はキャロの相棒、小竜のフリードリヒであった。ティアナは思わずキャロを抱き寄せると頭を乱暴に撫でてやり、ついでに褒めてやった。これで少なくともシューを発見する事が可能になる。

「えらい! あんたがいてくれてよかったわ!」
「あぅ……痛いですよ、ティアナさん!」
「あぁ……ごめん。けど、キャロ、あんたにはちょっと働いてもらうわよ。みんな、作戦を説明するわ!」

 ティアナの作戦はいたってシンプルのものだった。自由飛行が可能なフリードリヒでシューを発見、その後、ローラーによる高速移動が可能なスバルでシューを回収、その後合流して、ガジェットを撃破。至って簡単な作戦内容だが、穴も大きい。それはフリードリヒにどの範囲を調べさせるかによるからだ。いくら飛行可能とは言え、現在地のわからないシューを当てもなく探していては時間の無駄、あえて博打な行動に出ることになるが、ティアナは集合場所からシューの向かった先を限定し、調べるエリアを区切った。これで発見できなければおしまいだが、そこは運とフリードリヒの目、そして召喚師であるキャロの感覚に頼るしかない。それに、一人回収に赴くスバルも危険だし、合流後、ガジェットを破壊できるかも微妙なラインであったが、今はこれでやるしかないと言うのが彼女の下した判断であった。

「良いわね、チビ竜、運任せな所もあるけど、この作戦の成功の半分はアンタにかかっているだからね。キャロ、アンタもしっかりとこいつの意思を読み取って、スバルに伝えて、一方がかければ作戦は失敗よ」
「はい!」

 小さなキャロはそれでも重大な使命を任された事に奮起していた。それは相棒であるフリードリヒも同じで主であるキャロに呼応するように鳴いた。そして、作戦が開始される。フリードリヒは天高く飛び上がると、空中を旋回し、指示されたエリアへと飛んでいく。四人はまずそのあとをつけて、フリードリヒがシューを発見するのを祈った。すぐに見つかるわけもない事はわかっていたが、四人からしてみれば長い時間がたっているようにも思えた。それでも焦らず、ただひたすら待つ。
そして、二分後、キャロが声をあげた。その頭上ではフリードリヒが大きく鳴いていた。

「ティアナさん、フリードがシューさんを見つけたようです!」
「よし。キャロ、そのままフリードをお願い、スバル!」
「おぉ!」

 続いて、スバルがローラーを稼働させ、一気に駆けだす。同時にキャロはフリードリヒにスバルを案内させるように指示を出す。後はスバルがシューを回収するのを待つだけだ。とはいえ、警戒を緩める事は出来ない。ティアナはエリオとともにデバイスを構える。


 頭上を飛ぶフリードリヒを追いかけながら、スバルは廃墟を駆ける。一分一秒でも早く辿りつかなければいけないという焦りもあったが、こういう時だからこそ冷静でいなければと心に言い聞かせる。今は余計な事を考えず、シューの救出を最優先、その後のティアたちと合流、簡単だ、焦る必要はない。それでも握りこぶしに力が入っている事をスバルは気がついていなかった。

「キュウオォォォォ!」
「フリード!」

 フリードリヒが鳴き声をあげ、旋回している。スバルはフリードリヒの変化をキャロに念話で伝える。

『キャロ、フリードが旋回しはじめた!』
『恐らく、その真下にシューさんがいます。スバルさん、気をつけて!』
『了解!』

 そうとわかれば、後は突撃あるのみ。スバルはローラーを一気に加速させると、瓦礫を飛び越え、その先に倒れるシューを発見する。「いた!」と叫ぶや否や、シューに近づくガジェットを発見すると、危なっかしい姿勢で着地し、加速を駆ける。

「おぉ……とっと……!」

 若干、姿勢が揺れるが、そこを無理やり立て直すと、シューの下まで一直線に加速、腕を伸ばし、シューの体を抱き寄せるような形で引っ張ると、そのまま廃墟の影に隠れるように、移動する。そのすぐ後ろをガジェットのレーザーを通過した時は冷や汗が流れたが、振り返らずに一気に駆け抜ける。途中、シューが何かを言いつつもぞもぞと動いてくすぐったかったが、気にはしなかった。ティアナたちの下へ戻るまでは直線コース、減速する必要ものなく、スバルはトップスピードで彼女たちに合流する。なだれ込むように戻って来たスバルとシューは固いアスファルトの地面に激突しながらも、無事戻ってこれたようで、その姿を見たティアナたちも安堵の表情を浮かべる。

「スバル、無事ね?」
「な、なんとか……疲れた~」
「お疲れ、チビ竜、フリードもね」
 ティアナはそんなスバルをねぎらうように肩を叩き、そして上空を飛ぶフリードリヒを見上げる。フリードリヒもまた喜んでいるのか、主へ下降しながら、飛びつく様にその腕に抱かれた。

「かっ……はっ……お前、俺を窒息させるつもりか!」

 救出されたシューは肺に酸素を送り込みながら、大声を出す。無理に出した声でまたせき込むが、それすら気にしない様子で、何が恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら、怒鳴った。そんな態度にティアナは以前とは違ってどこか余裕のある対応を取っていた。

「あんたが単独行動をとるからでしょうが。こっちだって良い迷惑なのよ」
「ぐっ……あの程度、俺一人で……」
「ふん!」
「うおぉっ!」

 言葉に詰まりながらも、シューは態度を変えようとしなかった。そんな彼に対してティアナは軽く右肩を小突いてやると、シューは顔を苦痛に歪める。

「右肩が焦げてるからもしやとは思ったけど……そんな怪我で、しかもAMF圏内でどうするつもりだったのかしらね?」
「ちっ……」
「まぁ、良いわ。今あんたと言い争ってる暇はないのよ」

 そう言いながらティアナはスバルたちが戻って来た方角を睨む。恐らく二機のガジェットがここに攻め込んでくるのは時間の問題だろう。時間も迫ってきている、早めに撃退するべきだが、今の全員のコンディションでは中々に難しい。自身の射撃魔法で狙撃も考えたが、AMFを突破するほどの魔力は残っていない。キャロもブーストをかけられるほどの余力はないだろうし、自然とフリードリヒの火球もあてにならなくなる。シューも怪我をしている状態となると、可能性といえば、格闘主体のスバルとエリオだが、正面切っての戦闘は避けたい。

「少しでも良いから、あいつらの動きを止める事が出来れば、スバルとエリオの格闘で撃破は可能なんだけど……」
「それなら、フリードで!」
「無駄だな」

 キャロの提案はシューにきっぱりと否定された。キャロはどうしてという顔を向けるが、シューはいたって当然のように答えてやった。

「二機の火線を一手に引き受けるのはその小竜じゃ無理だ。スピード不足だし、撃ち落とされるのが関の山、おとりにもならんぞ」
「そ、そんな……」
「じゃぁ、どうすんのよ。このままじゃ、あたしたち、やれらちゃうわよ?」

 僅かな可能性に賭けてみたい。そう考えていたティアナにしてみれば、シューのその言い草は納得のいくものではなかった。蓄積された疲労状態ではもはや一か八かの賭けに出るしかないのだから。

「フン、奴らのセンサーは恐ろしく正確だ。物陰に隠れた程度じゃ魔力、熱、光学センサーで察知され、反撃を喰らう……おい、スバル、あとエリオとか言ったな? お前たち、カートリッジは残ってるな?」
「う、うん……三発残ってる」
「僕は二発です」

 スバルとエリオの返答にシューは少し渋ったような顔をするが、「まぁいい」と口にして、お互いカートリッジを一個ずつ渡すように言った。わけもわからぬまま、顔を見合わせるスバルとエリオだったが、とにかく現状を打破できるのならと思い、カートリッジをシューに手渡す。

「俺も見よう見真似だから上手くいくかはわからん。怨むなよ」

 そう言いながら、シューはカートリッジに魔力をまとわせ宙に浮かす。そこにある程度の魔力とつぎ込むと、その二発のカートリッジをガジェットが侵攻してくるだろう場所に向かわせる。

「一種のトラップだ。とはいえ、奴らがある程度接近しないと意味がないうえ、持続効果は良くて二秒足らず。その間にお前たちがガジェットを撃破できなければ、五人仲良く説教行きだ」
「あのトラップ、信用していいのね?」
「言っただろう、見よう見真似だと……だがな、俺はシュー・ラッツなんだぞ?」

 何を根拠にそんな自信が出るのかはわからないが、ティアナはとにかくシューのトラップを信じてみる事にした。スバルとエリオを正面に向かわせると、ティアナは万が一の悪あがきして、狙撃の準備をする。後はガジェットが接近してくるのを待つだけ。静かに、息を整え、真正面を見据える。ふと、風を切る音が耳に入る。

「来たわ、気をつけて!」

 ティアナの号令の下、スバルとエリオは互いのデバイスを構え、撃撃態勢を取る。シューもまたタイミングを見計らうように、顔をのぞかせる。キャロはそんな彼らを身守り、フリードリヒを抱きかかえた。
 そして、ガジェットの先端がティアナの視界に入る。号令、すぐさまシューはカートリッジに念を送るように圧力をかける。カートリッジが震え、発光が強くなる。そして、魔力が臨界にまで達しようとし、

「ッ……!」

 その瞬間、力み過ぎたのか、シューは右肩の激痛で集中を乱す。それと同時にカートリッジの圧力も弱くなり、発光も小さなものとなっていた。

「シュー!」
「くそ、もう一度……」
「間に合わないわよ!」

 叫び声にも似たティアナの声、だが同時に小さな少女は前に出ていた。堂々と胸を張るように、煤だらけになった頬を引き締めながら、キャロはフリードリヒに指示を与えていた。

「フリード、あのカートリッジを狙って!」
「キュクルー!」

 小さな雄叫びと共にフリードリヒから二発の火球が放たれる。それらを小さなカートリッジに命中し、刹那、魔力の暴発が始まり、閃光とともに魔力と熱が吐き出される。それと同じくして、ガジェットにも変化が見られた。突然の暴走にセンサーがダウンし、その動きを止める。だが、スバルとエリオにしてみれば、それで十分だった。ガジェットのセンサーが回復するよりも早く、スバルの拳はガジェットをえぐり、エリオの槍はガジェットを貫いていた。スパークしながら、活動を停止する、ガジェットを見て、今度こそ、スバルとエリオは体力の限界を迎え、その場に倒れ込む。気は抜けないのはわかっていたが、もう限界だった。だから、デバイスを通して、なのはから訓練終了が伝わった時は、今までにない解放感を味わう事になった。


 新人たちの訓練を見守っていたアムロとなのはもまた彼らの活躍をほほえましく思っていた。少々危なっかしい場面もあったが、おおむね合格と言うべきだろう。落ち着いて事の次第を見守っていた二人の隊長とは別にシャーリーは大はしゃぎして喜んでいた。

「凄いですね、あの子たち。即席とは言っても、あのコンビネーション、いいデータも取れましたし、もう大満足です!」
「うん、荒削りだけど、基礎を十分に鍛えれば、あの子たち強くなる」

 なのはは新人たちに対して確かな手ごたえを感じていた。才能だけではない、心もまた十分な素質を持っている。だから、彼らなら必ずなれると感じていた。どんな困難でも突破できる『ストライカー』に。そして、それを実感させてくれたアムロに対してもまた、礼を述べた。

「アムロ一尉、今日はありがとうございました」
「いや、俺はちょっと意地悪をしただけで、結果を出したのは彼らさ。だが、この結果が彼らを強くする、あの子たちに対して良い変化を与えられたと、俺は思っているよ」

 アムロはそう答えた。この訓練、成功しようと失敗しようと、新人たちには良い教訓となるだろう。シミュレーターを解除し、新人たちをねぎらうために下へ降りると、そこには倒れ込みながらも、どこか満足げな表情を浮かべる四人の新人の姿があった。その中にシューの姿が見当たらない事に気がついたアムロはその四人はなのはに任せると、シューを探した。
 四人とは少し離れた場所、案外簡単にシューを発見したアムロはどこか不満げな表情を浮かべているシューに声をかけてやった。

「シュー、どうしたんだ?」
「あ、アムロ一尉……」

 シューはアムロに気がつくと、顔をそらしてしまう。

「どうしたんだ、訓練は成功したじゃないか?」
「いえ……無様な姿を見せてしまって……それに俺のミスで交替部隊に泥を塗ったも同然で……」
「思いあがるなよ、シュー」
「はっ……?」

 口調はとがっていたが、アムロの表情は優しげだった。だが、シューにしてみれば、叱られているも同然であった。あぁも直情的なシューがここまで落ち込む姿を見せるのは中々ないものだが、アムロはそんなシューに微笑んでやった。

「お前はまだ新人じゃないか。確かに、訓練学校を優秀な成績で卒業もしたし、俺達の部隊で頑張って来た、だが、まだまだひよっこだ」
「……」
「シュー、俺はお前が上を目指している事を理解しているつもりだ。俺もお前の夢を応援してやるつもりだし、協力だってしてやる。だが、上を目指す者は下をみなくちゃならない、わかるな?」
「はい……」
「ガジェットの戦いに関して、お前はあの子たちよりも先輩だし、お前が先頭に立ってやらないといけなかった。だが、お前は自分を過信して、そしてあの結果だ。今回は上手くいったが、今後もそうとは限らない、戦場に出れば同じミスはできないぞ?」
「はっ! 肝に銘じます!」

 シューは422部隊にいた頃のように敬礼をしながら、アムロに答える。だが、アムロは苦笑しながら、「そう固くならなくていい」と言いながら、シューの肩を優しく撫でてやる。

「傷が酷いようなら、医務室に行って来い。だがその前に」

 アムロはシューの尻を叩いてやると、他の四人の下へと押し出す。わけがわからないという顔をするシューに対して、何も言わず、だが微笑してシューを新人たちの下へと向かわせる。シューは一瞬、抵抗してみせたが、スバルがまたもや大声で自分の名前を呼んで、それに他のメンバーが気がついてしまうと、後戻りが出来なかった。ふと、スバルの柔らかな感触を思い出すと、顔を赤らめて、逃げ出すように走った。それを追いかける新人たち。
 それを眺めるアムロ。するとなのはもそんな新人たちを眺めがら、アムロに近づいてき、苦笑しながら、「元気ですねぇ」と言った。アムロも「あぁ、若ささ」と答えてやった。



[25865] 第三話
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/02/16 00:16
 実際のところ、主戦隊であるスターズ分隊とライトニング分隊は実戦に投入できる段階ではなく、部隊発足から早一週間が過ぎても、フォワードの新人たちは訓練漬の毎日であった。とはいえ、部隊が始動して何もしないわけにもいかず、訓練完了までの間は交替部隊が実質主戦隊の代わりとして活動していた。しかし、出動に至る機会は未だなく、交替部隊スラウギ分隊は悪い言い方をすれば暇を持て余していた。彼らも訓練等は行うが、合同でもない限りは、基本的には主戦隊と交替で行われる。
 待機状態であっても、ベテランと呼ばれる隊員たちは暇のつぶし方を心得ている。隊員同士で談笑したり、カードゲームに興じたり、デバイスの調整をしたり、仮眠をとっていたりと様々だが、それでもいつ出動がかかっても出られるようにはできていた。アムロもそういった空気には慣れているわけだから、当然のように暇を潰していた。基本的にアムロの暇のつぶし方は読書かデバイスの調整である。時々他の隊員に紛れてカードゲームに興じる事はあるが、大体はこういった形で待機しているが、今回は少し違って、ノートPCを開いてデータを打ち込んでいた。提出する書類の類ではないのは画面のデータを見れば一目瞭然だが、専門家でもない限りはそれを理解するのは難しい。

「アムロ一尉、それは?」

 内容は全く理解できないが、興味をそそられたグリフィス・ロウランは画面をのぞき込みながら、アムロに訪ねた。

「あぁ、デバイスの設計図だよ。前の部隊にいた頃から作っていて、やっと形になったところでね。今はデータの修正をしているところさ」
「へぇ、アムロ一尉は多才なんですね……」
「暇つぶしの延長線さ。元々デバイスの構造には興味があったから、勉強ついでにやっていたのさ」
「そういうの好きなのが、内の部隊にもいますよ」
「シャーリーの事かい?」

 グリフィスのいう人物は六課のオペレーターを務めるシャリオ・フィニーノである。彼女はオペレーター以外にもデバイスの作成、管理を行えるA級デバイスマイスターの資格を持っていた。実際、六課のデバイスの本格的な調整は彼女が行っている事が多い。

「えぇ、性格はアレですが、腕は確かです」
「なるほど、一度彼女にも意見を聞きに行くのも悪くないかもしれないな」
「やめておいた方がいいですよ、半日以上は離さなくなりますから。メカオタ眼鏡なんですよ、あいつ」
「ははは、半日は勘弁してほしいな」

 規則正しいグリフィスが他人の事をここまでくだけて話すのも珍しいが、二人の関係からすれば当然なのだとアムロは思った。聞いた話では幼馴染らしく、付き合いも長いらしい。そんな彼からの忠告は嘘ではないのだろう。実際、シャーリーのデバイスへの熱の入れようはアムロから見ても尋常ではない部分がある。徹夜での作業も行うらしく、それで体調を崩さないのか、心配になったのだったが本人はケロッとしているので、恐らく慣れているのだろう。
 暫くはグリフィスとの談笑を続けていたアムロであったが、突如として鳴り響いたアラートに素早く反応したのは流石と言えるだろう。ノートPCと折りたたんでロックをかけると、アムロは急ぎ格納庫へと向かった。グリフィスもまた、アムロと同じように素早く身をひるがえしながら、司令室へと走る。オペレーターの声が隊舎に響き渡り、隊員たちがあわただしく動き出す。
 格納庫では緊急発進の準備を終えたヘリが二機待機しており、スラウギ分隊のメンバーがそろっていた。すぐさま合流したアムロはまず点呼確認を行い、分隊員が全員そろっている事を確認する。その中にはシューもいた。彼も新人とは言え、一応他の四人に比べれば実戦に出られるレベルである。十二人全員の確認を終えたアムロはすぐに隊員たちをヘリに乗せ、パイロットと目を合わせた。ヴァイス・グランセニックは中々気さくで、好感のもてる男であり、同時に信頼できるパイロットであった。ヴァイスはニッと笑みを浮かべると、軽く敬礼をしてきた。

「あのアムロ・レイ一等空尉を乗せられる日が来るとは思いませんでした。これからお願いしますよ」
「あぁ、こちらこそ。君の腕は頼りにしている」

 ヴァイスとの挨拶を済ませたアムロはデバイスを通して、司令室へと通信をつなげると通信ウィンドウを展開させる。それと同時に他の隊員たちのデバイスにも通信ウィンドウが展開され、画面ではオペレーターのシャーリーの顔が映し出されていた。

「シャーリー、状況は?」
『都市部郊外にてガジェット出現、数は十五、内五体は未確認のタイプです』

 シャーリーの報告に続く様に、別ウィンドウにグリフィスが映し出され、そのすぐ横にはレーダーと都市部郊外の映像が並列して写し出されていた。

『アムロ一尉、数が少ないのと何の価値のない郊外に出現したのが気になります、注意してください』
「了解だ。未確認か……」
「新型のテストでしょうかね?」

 422部隊からの付き合いであるウィル二等空尉はアムロにとっては副官のような存在だ。中々勘の良い男で、アムロの考えを察する事が出来る。元々アムロより魔導師としての活動歴が長い為か、アムロは階級が下とは言え、彼の意見をよく聞くようにしている。

「ン、多分な……映像に映っている機体を見るに、対空戦用の機体のようだ」

 映し出された映像にはいつもの長丸のガジェット以外にも高高度を飛行する全翼機のようなガジェットが確認できる。いかほどの性能なのかは実際対面してみないとわからないが、対空、空戦魔導師用である事を見るに機動性は高い、恐らく過去のシミュレーションで対峙した飛行用オートスフィアよりははるかに性能は上だろうとアムロは考えていた。

「気が抜けないな。陸戦の方はどうだ?」
「いつも通りですが、シューの奴がおとなしいですね」
「あの時の訓練の成果が出ているからだと思いたいな。全員聞こえるな、新型の存在が確認されているが、訓練通りにやれば問題ないはずだ。各員の健闘を祈る」

 スラウギ分隊全体へ通信を送ると、アムロはデバイスを起動させる。ディゾンと同系統のデバイスだが、デザインはこちらの方が若干無骨で好みが分かれる形だ。またアムロのバリアジャケットは一般のそれと何ら変わらないデザインのジャケットだったが、色は白く左肩には自身の頭文字であるAとユニコーンが合わさったようなマークがペイントされていた。他の隊員たちもカラーリングは一般と同じだが、同じように右肩にSの文字が碇となった船とそれらを取り囲むように小島を表す三角形の絵が刻み込まれたスラウギ分隊のマークがペイントされていた。地上と海による合同部隊を表すためのマークであった。

「目標地点まで到着、ハッチ開きます!」

 ヴァイスの一声と同時ハッチが開かれ、大空への道が姿を現す。アムロは一瞬周りの隊員たちを見渡すと、すぐに空へと視線を移動させる。射撃モードを取るストレージデバイス『リジェ』を握りしめ、アムロは一声と共に飛び出した。

「アムロ、出るぞ!」

 それに続くように輸送ヘリから次々とスラウギ分隊の隊員たちが出撃を開始した。空戦魔導師はそのまま飛行を開始し、陸戦魔導師は降下魔法を使用しながら、着地する。輸送ヘリが安全空域まで離脱を開始しはじめ、入れ替わるようにガジェットたちがその姿を見せる。

「空戦はこのまま敵新型ガジェットと交戦に入る。陸戦は一型の相手だ」

 指示を飛ばしながら、アムロはまず牽制の魔力弾を発射する。数発発射された魔力弾は新型ガジェットの横を通り過ぎるが、それによって隊列を乱された五体の新型はバラバラに散開する。アムロはウィルを含めた四人の空戦を引き連れ、各個撃破へと持ちこもうとした。

「機動は高いが、やはりガジェットだ。動きは単調だ」

 アムロの指示通りに展開する四人の空戦は一糸乱れぬ連携で一体目の獲物を取り囲んだ。アムロを中心にフォーメーションを組み、その周りを四人は回るように射撃を開始する。四方から放たれる魔力弾を懸命に回避してみせる新型ガジェットだが、次第に逃げ場を失い、左後方から接近する魔力弾を避けた瞬間、真後ろからの狙撃を受け爆散する。瞬間、左方よりレーザーが放たれるが、五人の空戦魔導師はあわてることなく、最小限の動きで散開、そのまま向かってくる二機の新型を取り囲むように魔力弾を放つ。これが一型なら間違いなく二機撃破なのだが、流石は新型というところだろう。合間を縫うように魔力弾を回避して、下部からミサイルを発射する。レーザーより遅いミサイルは、誘導型らしく、確実に魔導師を狙って飛来するが、アムロはデバイスのプログラムを起動させると、接近するミサイルから後退をかけながら、迎撃弾を放った。

「リジェ、バレットバルカン!」

 アムロの指示通り、リジェは銃口から無数の小さな魔力弾を放つ。威力もほぼゼロに等しい弾は、一型の装甲ですら貫けないような代物だが、ミサイルの迎撃には役に立つ。無数の魔力弾にハチの巣にされたミサイルは残らず爆発すると、その煙の中から新型が加速をつけて現れる。一機はアムロの右方に展開していたウィルに突撃をかけるように接近するが、ウィルは身を翻らせながら、ガジェットをすれ違い、その瞬間を狙って近接モードに変形したディゾンを叩きこんでいた。切り裂かれるというよりは、無理やり抉られたような傷口から煙を噴きだしながら、墜落していく新型。

「ウィル、やるな!」

 ウィルの活躍に続くようにアムロも新型に狙いを定めて、三発の魔力弾を放つ。一発目は新型の左翼をかすめ、一瞬、態勢が崩れるが、機首に二発目が直撃したところで前のめりの形に機体が揺れると同時に胴体に風穴を開けられる。残る二機の新型は他の三人が追撃していたが、機動に振り回されているのか、若干フォーメーションに乱れが生じていた。危なっかしく一機撃墜したところで、もう一機がレーザーを発射すると、フォーメーションを崩されるように散開、その内の一人に新型は急加速をかけ突っ込んでいく。ウィルのように迎撃は出来ず、すぐ横を素通りさせてしまった魔導師はあわてて後ろを振り返るが、急旋回をかけた新型の動きに対応が僅かに遅れ、レーザーの直撃を受ける。バリアジャケットが貫かれる事はなかったが、衝撃が彼を襲い、意識を奪い取る。そのまま落下する魔導師にとどめを刺すように新型は再度の加速をかけ、レーザーのチャージを開始するが、上下から放たれる魔力弾が新型を貫く。アムロとウィルによる狙撃だった。撃墜を確認したアムロは、気を失った魔導師と彼を抱える二人の魔導師に接近すると、傷の具合を確かめた。

「直撃を受けたようだが……」
「肋骨がいくらか折れているようですが、命の危険はないとデバイスは判断しています」
「とはいえ、放っておくと危険だ、二人は彼を連れて後退しろ」
「はっ!」

 そういって彼らを見送ったアムロは眼下で広がる一型と陸戦の戦闘を確認した。多少数で押されているようだったが、加勢に加わる心配もなさそうだった。


 陸戦部隊は確実に一型の数を減らしていた。空戦よりも数が多い陸戦はそれくらい取れる連携も多く、モコー陸曹長の指示の下、勢いに乗っていた。422部隊以外からの出向であるモコー陸曹はかつて次元航行艦の武装隊を勤めた事のある歴戦の勇士であった。大柄な黒人で、先祖は亜人ではないかと噂されるくらいの豪腕の持ち主だが、見た目に似合わぬ高機動戦で一型をかく乱していた。そのあとを必死で追いかけるシューはそれでもモコー陸曹から離れる事はなく、的確な援護を見せていた。

「上空の決着はついたのか?」

 ふと、アムロら空戦の戦況が気になったシューは空に視線を移す。アムロとウィルが最後の新型を撃墜する瞬間を見たシューは二人の動きに関心すると同時に目の前のモコー陸曹長から離れている事に気がつき、急いで思考を一型せん滅へと向けた。ほどなくして、一型をせん滅したが、シューはモコー陸曹長にぎろりと睨まれ、肩をすくめた。モコー陸曹長は特に何かを言うわけでもなく、視線を戻すとそのまま周囲の警戒に向かった。ほっと胸をなでおろすと同時に耳触りな声が聞こえてくる。

「へっ、おっかねぇ」

 アイバーン二等陸士はけらけらと笑いながら、シューの傍に寄る。アイバーンはシューの肩にのしかかるように体を密着させると、高い鼻をこすりながら「へへへ」と笑っていた。

「何の用だ?」
「そっけないな、勝利を祝おうっていうのにさ?」
「この程度、祝うべき勝利でもなかろう」

 アイバーンを振りほどく様にシューは移動を開始する。それでもアイバーンはシューの傍を離れようとせず、ニヤニヤとして笑みを浮かべながら、頭の後ろで手を組みながら口を開いた。

「やぁれやれ、主戦隊の穴埋めやってればいいと思ってたら、新人の集まりで、稼働できない主戦隊の代わり、向こうはのんきに訓練ときてちゃぁ、割に合わないと思わんか?」
「知らん、俺達に何の関係がある? 俺達は俺達でやるべき任務をこなしてればいい話だろう?」
「出世を目指すお前さんには良いチャンスかも知れんがな。だが、主戦隊の戦力がそろえば、俺達はお払い箱だぜ?」
「何が言いたい? 話の繋がりが見えん」

 どこか他人を小馬鹿にしたような声で話すアイバーンに苛立ちながら、シューはさっさとこの鬱陶しい男から離れる為にそうそうに話しを切り上げたかった。だが、アイバーンは自分の話を最後まで聞かせないとすまない性質で、中々シューから離れてはくれなかった。

「ようはさ、俺達は使い勝手の良い部隊だってことさ。準備が整うまでは馬車馬のごとく働かされてよ、時期が来ればぽいって奴」
「面白い話だ。脚本家になったらどうだ?」
「おい……!」

 くだらない話に付き合わされたと思いながら、シューは適当に言葉を交わしながら、その場を立ち去った。アイバーンが後ろで何かをいっているようだったが、雑音という事で処理した。
 ガジェットのせん滅が終了したからといって、それで仕事が終了するわけではない。今回現れた新型の残骸を回収して、調査隊に引き渡す仕事もあるわけだし、同時に安全が確認されるまでの間は周辺の状況を見ておかなければならない。シューもディゾンを起動させたまま、周囲の警戒を行っていた。木々に囲まれた郊外は首都とは違って穏やかなもので、都会独特の喧騒と言うものがない。そういえば、幼い頃は田舎の祖父母の家で裸足になって走りまわっていたなと、昔を懐かしみながら、シューは木々のかすれる音を聞いていた。

「……?」

 ふと、木々がざわめいた気がした。風が吹いたわけではないが、ざわざわと木と葉、草が揺れる音が聞こえる。小動物でもいたのだろうか、そう思いシューは目を凝らして木々の合間を見る。

「フム……?」
「どうしたんだい、シュー?」

 そんなシューの行動が気になったのか、コスター陸曹が肥満気味の体から汗を流しながら歩いてくる。これでモコー陸曹長と一番付き合いの長い隊員で、狙撃の名手だというのだから、侮れない。

「はっ、いえ……少し気になっただけで。特に変化は見られません。デバイスのレーダーにも反応はありませんでした」
「ウム……小規模でも戦闘があったから、小動物がいるとは思えないけど……」
「逃げ遅れでは?」
「そうかもしれないね……一応、報告はしておいてくれ。僕は向こう側を見てくるからさ」
「はっ、お疲れ様です!」

 シューの完璧な敬礼に対して、やや手順を省いた簡略な敬礼を返すコスターはジャケットの襟を緩めながら、その場をシューに任せて移動していった。シューも言われた通り、報告を行った。


「小動物?」

 シューの報告はウィルから通してアムロへと伝えられた。

「えぇ、シューの奴がそのような音を聞いたと。多分、逃げ遅れじゃないかって?」
「動物ってのは、人間以上に警戒心が強い生物なんだぞ? それが小動物ななおさらだ。こんな短時間で戻ってくるはずがないし、逃げ遅れならそんな簡単に人目につく行動をするはずがない」
「気になりますね?」
「あぁ……シャーリー」

 杞憂であってほしいが、それを確認するためにもアムロはシャーリーに通信をつなげると、周辺エリアの索敵をかけ直すように言った。シャーリーもそれを承諾して、キーボードを操作し始める。

「…………」
「一尉?」

 シャーリーからの連絡を待つ間、アムロは言い様のない感覚を感じていた。人ではない何かに見つめられているような、奇妙な感覚だった。その奇妙な感覚を追うように視線を移動させていくが、アムロの目には何も映らなかった。ウィルがいぶかしげに声をかける。それと同時につられるように視線を移すが、ウィルに目にも何も映りはしなかった。
 その内、シャーリーがいつもの調子で変化なしを伝えるとほぼ同時だった。アムロはシャーリーの返信を無視するように一気に視線の先へと飛び出す。

「一尉、どこへ!」

 急いで後を追うウィル、刹那、隊員の悲鳴が響く。ウィルの行動は早く、デバイスを射撃モードに変形させながら、怒鳴りつけるようにシャーリーに通信を送った。

「攻撃を受けている、オペレーター、レーダーは見ていたのか!」
『こちらでは反応が検出されません! どうなってるの?』

 怒鳴り返すようにシャーリーのつんざくような声が耳に響く。反応がないわけがないだろうと言い返してやろうかとも思ったが、実際自分たちのデバイスのレーダーも反応していないのを見ると、シャーリーたちがサボっていたわけではないのがわかる。だとしたら、何が自分たちに起きているのか……しかし、考えている暇はなかった。


 無機質な敵意とでもいうのか、アムロは今それを敏感に感じ取っていた。急いで駆け付けた現場では、血を流して、錯乱状態の隊員が魔力弾をでたらめに放ちながら、叫んでいた。

「駄目だ、やられるぞ!」

 人間のような熱のこもらない敵意を追いかけながら、アムロはリジェを虚空へと狙いを定める。錯乱する隊員の背後、見えないそれは確実に存在していた。アムロは弾速の素早い魔力弾を無数に発射すると、見えない敵が隊員から離れるのを確認した。

「一尉!」

 少し遅れてウィルが到着する。アムロはウィルに錯乱した隊員を任せると、本人はそのまま加速をかけて見えない敵を追う。一型のように浮遊するわけでもなく、新型のように飛行するわけもなく、多脚型の脚で地面をうがちながら移動するそれは、中々身のこなしが軽い存在である事を理解させる。

「厄介だな……リジェ、バレットバルカンを掃射!」

 とにかく散弾をばらまき、敵に牽制を与え、大体の大きさを確認しようとするアムロは感覚に従いながら、バルカンを発射する。無数の魔力弾は木々に命中し、葉を貫くように降り注ぐ。その瞬間、一瞬だけだが、散弾の一部がかたい装甲に弾かれるように四散する。

「そこか!」

 すかさずアムロはその場所へと狙撃を仕掛けると、バンッという音と共に姿が見えなかった敵が徐々にその姿を見せ始める。無機質なカメラアイがアムロを睨みつけるように光った。その時、アムロは観察でもされているような違和感を覚えた。

「なんだ、あれを通して、誰かの思念を感じる……誰だ、俺を見ているのは!」

 敵意ではない、悪意でもない、もっと純粋な何か、それが何なのかはわからないが、アムロにとってみれば不愉快な感覚である事は間違いなかった。舌打ちをしながら、アムロは再度魔力弾を放つ。いくつかの魔力弾が命中するが元々の装甲が高いのか、カツンカツンと弾かれて終わってしまう。それを確認したアムロはデバイスを近接モードに変形させると、一気に距離を詰めると、デバイスを一閃、多脚型の脚の一本に切りつける。がりがりと金属が削れる音と共に多脚型のガジェットはその脚をパージすると、鋭い鎌を振りあげる。アムロはその背後を回るようにホバー走行で振り下ろされる鎌を回避すると、至近距離で、魔力弾を放つ。直撃の衝撃が多脚型の機体を揺らし、装甲のきしみが悲鳴のようにも聞こえた。すると、多脚型のガジェットはとびはねながら、木にしがみつくと、野生動物のように、木々の合間を飛び越え、またも姿を消した。ガサガサと遠ざかる機械音を耳にしながら、そのあっさりとした撤退の仕方に唖然としながらも、追撃は不可能だと判断したアムロは即時撤収をグリフィスに求めた。

「指令室、こちらはアンノウンの攻撃を受けた。負傷者もいる、この区域は危険だと判断する、撤収の許可を」
『許可します。残骸の回収は現時点で可能なものを除いて、破棄して構いません。一尉たちが遭遇したアンノウンの事も聞きたい』
「了解」

 各員に撤収を伝えたアムロはパージされた脚を回収すると、ふと、多脚型の逃げた方角を睨む。嫌な感覚だった。観察されているような、値踏みされているような、奇妙な視線。ふと寒気を感じたアムロはそれを振り払うように、分隊と合流する。いつしか寒気は消えていったが、妙にしこりの残る感覚だけは忘れることが出来なかった。


「ふぅむ……四型のステルスを自力で見破るか……アムロ・レイ、勘が鋭いというだけでは説明できないな」

 巨大なスクリーンだけが唯一の光源となっている巨大な空間で、白衣と来た男は身から湧きあがる知的好奇心を押さえられずにいた。湧きあがる興奮は笑みになり、男の口から歓喜の声が漏れだす。

「興味深いじゃないか。完璧なステルスを備えた四型を見破るなんて……彼らが気にかけるのもわかるよ。そうだろ、ウーノ?」

 男は白衣をひるがえしながら、傍らの女へと同意を求めた。金色の目をした長髪の女は表情を変える事もなく、感情すらない返事を返す。

「アムロ・レイは何かしらの能力を持っている……ですが、現状では勘が良いだけの男という判断しか下されていません。レアスキルというものはよくも悪くも目に見える形でなければ評価はされませんから」
「それは俗人共の傲慢だよ。目に見えるものが全てではないのさ」
「科学者とは思えないお言葉ですね」
「科学者ほど非論理的な生物はいないさ。自分の仮説は信じさせようとするのに、他人の仮説は信じないのだからね」

 男は再度モニターの視線を移す。

「機動六課……楽しみじゃないか……これほどまでに興味をそそられた研究対象は中々いない」

 虚空を見上げ、男は嗤った。腹の底から声を出しながら、自身の欲求を満たす存在の出現に対して、新たな知識を知る機会を得て、男はそれら全てに感謝するようにただただ嗤い続けた。



[25865] 第四話
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/02/26 21:31
 聖王教会はミッドチルダ北部のベルカ自治領に存在する宗教団体である。『聖王』と呼ばれる存在を崇め、次元世界にも多くの信者がいるこの組織は、別の顔として管理局と同じくロストロギアの調査や保守を使命としており、管理局とはそれなりに友好な関係を築いている。機動六課設立に関してもこの聖王教会の協力もあり、地上本部がおいそれと六課の事を非難できないのは、本局の権力者の存在以外にもこういった背景があるからであった。地上本部としても、聖王教会の騎士団やその影響力は無視できない存在であり、関係を崩す事を恐れている。八神はやてがこの事に関して、意図的にそうしたのかは不明だが、教会所属であり、管理局少将の地位にあるカリム・グラシアと懇意な関係にあるのを見れば、そう疑う者も少なくはない。

「やはり、そちらにも現れたようね?」

 紅茶を口にしながら、カリムは静かに言った。はやてにしてみれば、優しい姉のような顔ではなく、騎士、そして少将としての顔のカリムがそこにはいた。はやても機動六課部隊長として「はい」と頷いた。
 カリムはティーカップを置くと、パネルを操作してカーテンを閉める。薄暗くなった部屋に複数の画面が表示され、そこにはスラウギ分隊が接触した新型のガジェットの姿もあった。

「こちらでも確認は存在だけは確認できていたわ。この空戦の『二型』に……」

 再びパネルを操作すると、他の画面を押しのけるように、別の画面がアップに写し出される。そこには球体型のガジェットが映し出され、その大きさは常人より一回りほど大きなものだった。

「これ、教会が発見した三番目のガジェット、通称『三型』。こちらの戦力はまだ不明だけど、AMFが装備されている事は間違いないでしょうね。まだ正式な報告はしていないけど、クロノ提督にはさわりだけお伝えしたわ」

 そう続けながら、カリムは次の画面をスライドさせる。他のガジェットとは違って、アムロのデバイス『リジェ』のデータに映ったものを流用している為、若干荒いものとなっていたが、はっきりと全体像が映っていた。

「過去、あなたたちが接触して、なのはさんの事件のきっかけになったアンノウン……こういう形で再び現れるとはね」
「うん、これでレリック事件がつい最近起きているもんじゃなくて、随分昔から活動を始めていたもんやってことがわかったんや」
「『四型』とでも呼べばいいのかしら。敵の戦力は着実に上がってきていると見て、教会の方も警戒しているの」
「ン……これは?」

 はやてが別の画面に視線を向ける。何かを収めたケースであることが分かる。

「ミッドチルダに運ばれてきた不審貨物よ」
「レリック……かな?」
「可能性は多いにあるわね。それに、こちらの調査で分かったのは、ガジェットたちがこれを発見する時間、おそらく今日明日と推測されるわ」
「予想より大分早い……」
「えぇ、だから会って話したかったの。これをどう判断すべきか……今後待ち構えている事件の規模を考えると、対処は間違えられないのよ」
「…………」

 気負った表情をするカリムはその声音にも感情が現れていた。この先に起きると彼女が予想する事件の事を考えれば、不確定要素と言うものには注意しなければならない。そういう考えがカリムの中にはあった。そんなカリムを見つめながら、はやてはパネルを操作すると、カーテンを開ける。日の光が差し込み、カリムが少し驚いた様な顔を向けてきたので、はやては微笑しながら、答えた。

「大丈夫や。確かに新型ガジェットの出現とか、不確定な要素はあるけど、六課はいつでも動けるし、隊長たちや新人たちも頼りになる。地上からの出向で、アムロ・レイ一等空尉とベテラン魔導師も沢山おるし、むしろ予定していた時よりも豊富な人材で、迅速な対応が可能になった。そやから、心配はない。私は六課のみんなを信じとるから」

 その笑顔には部隊への信頼と自信に満ち溢れていた。カリムはそれを見て、憂鬱げだった表情をほろころばせ、はやてに答えるように頷いて見せた。


 本局は管理局内でも最重要施設であり、デバイスの開発、研究などの施設もここにある。アムロは技術部を訪れ、久しい友人と再会していた。

「チャメル!」
「アムロさん、お元気そうで、何よりです」

 かつてディゾンの開発スタッフであり、アムロと共に性能テストを行っていたチャメルがアムロを向かい入れる。再会を嬉しがるように、チャメルは未だに似合わない眼鏡をずらしながら、アムロの手を取った。白衣姿のチャメルは青年の面影は残っていたが、どこか大人びても見える。四年という月日は彼を一介の技術者から支部の一つを担う責任者へと成長させていた。

「いきなり押しかけるようですまない」
「いえ、こちらもお伝えしたい事もありましたし、ちょうど良かったです」
「そう言ってくれるとうれしいよ。デバイスの方はどうなんだ?」
「遅れてますね。プログラムの方が少し……容量を考えると、フレーム構造も練り直す必要があります」

 チャメルは歯切れ悪く答える。中々思うような成果が出ない事を申し訳なく思っているのだろう。アムロに軽く頭を下げながら、申し訳なさそうな顔を向けてきた。チャメルがこういった態度を取るわけとして、アムロの依頼が原因であるのはアムロ自身がわかっていた。ディゾン、リジェと最新鋭ストレージデバイスを扱ってきたアムロではあったが、どれも彼を満足させる性能はなく、こうして旧友の下を訪ねて新型のデバイス開発を依頼していたのである。

「デバイス本体を大きくすれば、問題はないんですが、そうなると取り回しが不便ですし、無理に機能を詰め込めばフレーム構造がガタガタになって強度が減ります。潤滑に活動させるためのシステムの組み込みも現状の段階では厳しいとしか」
「無茶を言って、急かしたのは俺の方だ。そう気に病むこともない」
「しかし、要求されたものを確実に作り上げなければ技術者としてのプライドが許せません」

 本来ならまだ時間的な余裕があった開発だったが、アムロの六課への出向、新型ガジェットの出現が重なり、任務の激化を予想したアムロが無理を言って開発を早めた。そんなアムロの無茶を快く引き受け、完成間近へとこぎつけた技術部の努力は称賛に値するだろう。だが、当然のごとくしわ寄せもあり、ソフト面であるデバイスのシステム開発が難航しているという状態だった。これがハード面におけるフレーム変更にも繋がり、結果的に開発に遅れが生じてしまっているのが現状であった。

「暫くはリジェで我慢してください。それだって、本来ならエース用のストレージなんですからね?」
「わかってる。これ以上の我儘は言わないつもりだ。良いデバイスだよ、リジェは」
「当たり前です。技術部の傑作デバイスの一つなんですからね」
「肝に銘じておくよ。時間があれば、また顔を出す」
「えぇ、その時は完成に近付けておきますよ。お気をつけて」

 チャメルに別れを告げ、地上へと戻る準備をしている途中だった。待機状態のリジェから電子音が流れると、通信画面がアムロの目の前に現れ、ぐりふぃすが映し出される。緊急事態なのか、切迫した雰囲気があり、画面越しにでもアラートがけたたましく鳴り響いているのが確認できた。

『アムロ一尉、至急六課まで御戻りください』
「ガジェットの出現か?」
『そうです。現在、スターズ、ライトニングが出撃準備を行っています』
「そうか、今日は彼女たちの初陣だったな。了解だ、スラウギ分隊は六課隊舎の護衛に回る。俺が戻るまでは、スラウギの指揮はウィルに任せてくれ」
『了解です』

 アムロは急ぎトランスポーターまで走った。


 鳴り響くアラートを耳にするのは慣れていると思ったがそれはどうやら間違いであるとスバルは思っていた。警備隊にいた頃と違った緊張感が部隊内には流れており、ティアナもエリオもキャロも普段の明るさはなりを潜め、表情が硬かった。かく言うスバルも出動を前にして、手が震えている事に気がついた。拳を握りしめて、震えを抑えるが、むず痒い感覚は中々収まらなかった。輸送ヘリの準備が整うまでの僅かな時間で何とかこの緊張をほぐす必要があった。硬い体じゃ十分な力が出せないからである。
 ふと視線を移すと、隊舎の護衛につくスラウギ分隊の面々が見える。あちらはなれたもので、さすがに軽口を叩くものをいなかったが、スバルたちに比べれば自然体に近い。視線を横にずらしていくと、デバイスの調整を行っているシューが目に入った。同期のはずだが、実戦経験の差なのだろう、表情に緊張と言うものがない。すると、シューがこちらの視線に気がついたのか、眉をひそめ、窺うように顔を向けたが、すぐにデバイスの調整に戻った。「冷たいなぁ」と心の中でぼやくと、「調子にのるよりはマシだな」とデバイスの調整をしながら、シューが言った。

「え?」

 急に声をかけられ、驚いたように目を見開くスバル。そんな事はお構いなしに、シューは言葉を続けた。

「調子に乗ってる奴はたいてい痛い目を見る。お前はまだマシだって言っている」
「それって、シューの事?」
「なんだと!」

 シューが声を荒げて、こちらへと顔を向ける。実際、シューの言葉に当てはまるのはシュー自身なのだから、スバルの言葉は何一つ間違ってはいない。

「だって、あの時の訓練……」
「あれは……忘れろ。俺の自業自得だ」

 赤らめた顔をそむけながら、口ごもるシューの姿を見て、スバルはなんだかおかしな気がしてきて、「フフ……」と小さく笑った。それに反応したシューが「笑うな!」と怒鳴ると、決壊したダムのようにスバルの笑いが爆発した。

「だ、だって……自分の事言ってるんだもん。ねぇティア」
「そうね。おかしくって私も笑っちゃいそうよ」

 笑いながらスバルはすぐ横にいたティアナに同意を求めると、ティアナも同じ事を思っていたのか、すまし顔でシューを見ていた。「ぐっ」と言葉を詰まらせながら、シューはさらに顔を真っ赤にすると、振り払うように口を開いた。

「貴様らなぁ……!」
「みんなー、出動準備が出来たから、ヘリに乗るよー!」

 さらに何かを言おうとしたのだが、それはなのはが現れた事で止められた。シューも流石に分隊長の前では礼儀を正す。だが、一度ツボにはいったスバルは中々笑いを止められなく、なのはも声をかけられずにはいられなかった。

「どうしちゃったのスバル?」
「いえ、シューが励ましの言葉をかけてくれたんですけど、それがおかしくって」

 返答どころではないスバルの代わりにティアナが答える。かく言うティアナも少し笑みを浮かべていた。なのはは苦笑しながら、「シュー君も心配で言ってくれているんだから」と言って、彼女たちをさっさとヘリの方へと向かわせる。「やれやれ」と言いながら、なのはがシューの方へ振り返ると、ニコリと屈託のない笑みを見せた。

「流石、年上だね。これからもあの子たちをお願いね?」
「は……はっ、了解であります!」

 サッと敬礼をするシューになのはも敬礼を返して、自身もヘリへと向かった。気が強い少年だと思っていたが、中々可愛らしいところもあるじゃないかと思いながら、やはり六課は良い部隊だと改めて認識した。


 輸送ヘリにて三十分、現場に到着したスターズ、ライトニング両分隊はまず、分隊長のなのはとフェイトによる制空権の奪取に当たった。これは陸戦主体の新人フォワードの負担を軽減する意味もある。若くしてエースと呼ばれる二人の手並みは鮮やかであった。新型の飛行タイプと言えど、所詮はガジェットであり、単純な思考回路のパターンはある程度分析済みで、遅れを取る事はまずない。なのはは高出力の砲撃で薙ぎ払い、フェイトは得意とする高速戦闘で迅速にせん滅していった。ある程度片づけると、フォワードを着地させるように指示を出す。

「ヴァイス君、二型が攻め込んでこないうちに、フォワードたちを!」
『了解です!』

 輸送ヘリが高度を下げつつリニアレールに接近するのを確認したなのはは、そのままヘリの護衛につく様に直上に飛ぶ。二型の接近はなかった。ふと、眼下を見下ろすと、新人たちが輸送ヘリから飛び出すのが見える。瞬時にデバイスを起動させ、バリアジャケットを着込むと、分隊ごとに分かれ各々目的を目指す。

「お手並み拝見……とはいかないかぁ」

 新人たちの心配もそうだが、なのはは接近する二型へと神経を集中させた。デバイス『レイジングハート』を構えると、瞬時に狙いを定め遥か前方の二型めがけ砲撃を開始する。極太の魔砲を避ける暇もなく、二型が閃光の中に消えていく。敵機の撃破を確認したなのはは、やはり新人が気になるのか、視線をリニアレールに向ける。スターズ分隊の動きは悪くない。どうやらシューの励ましとやらが功を奏しているようだった。反面、ライトニング分隊はかんばしくないように感じられた。動きが鈍い、エリオは問題ないのだが、キャロがどこかぎこちない。

「…………」

 明らかな緊張である事はわかったが、それ以外にも何かがあると見てとれる。なのはは不意に出撃前の会話を思い出した。思いつめるキャロを励ますように声をかけたが、スバルやティアナにくらべて幼いキャロにはまだ何かが足りなかったのかも知れない。一抹の不安を抱えながら、なのははリニアレールを飛び越え、崖の上に待ち構える二型の迎撃に移った。二型のレーザーの洗礼を受けるが、鉄壁を誇るなのはのシールドにことごとく弾かれ、誘導弾による反撃が開始され、四方八方から迫る弾丸に二型たちは碌な回避行動も取れずに撃ち抜かれる。

「こっちの二型はあらかた撃破できたけど。フェイトちゃんの方はどうかな」

 よもや遅れを取るとは思わないが、なのははフェイトの援護に向かうべく、身体をひるがえし、フェイトの下へと向かう。刹那、レイジングハートのアラートとロングアーチの警告が同時に耳に入った。

『右方ヨリ敵接近』
『不明機、高速で接近中、なのはさん、注意を!』

 なのはの反応は早かった。とっさに右方へと砲撃を放つと牽制に誘導弾も放つ。急上昇して、敵機の確認を急いだが、二型とは比べ物にならないスピードで飛行する敵の姿を見失ってしまった。

「速い、レイジングハート!」
『回避不能バリア展開』

 なのはの全身を包むように桃色のバリアが展開され、眼前に現れた敵の攻撃を間一髪で防ぐ。両腕の刃でガリガリとバリアを削る敵の姿は人型だった。人型、それだけでも今までのガジェットとは違うが、それ以上になのはを困惑させたのは、その風体だった。顔や胸、腰を覆うように機械の鎧をまとった人型は、しかし、その合間から見えるしなやかな身体からそれが生身の人間のようにも感じられる。機械と人、不釣り合いな敵を前にして、なのははその存在に当てはまるものを思い出していた。

「戦闘……機人!」

 思考を張り巡らせながらも、なのはは攻勢に転じる準備を怠ってはいなかった。なのはは展開しているバリアに魔力を集中させると、一気に解放する。瞬間、バリアが爆ぜ、人型を吹き飛ばす。その隙になのはは距離を離して、レイジングハートを向けて、立て続けに誘導弾を放つ。のけぞる人型に接近する誘導弾だったが、瞬時に姿勢を整えた人型は両腕、両足の刃を器用に使って誘導弾を叩き落とした。

「ンン、苦手な相手だ……」

 なのははその戦闘スタイルから高機動戦には向かない。鉄壁の守りと圧倒的な砲撃を得意とし、接近させる前に倒すのが基本だが、相手は高機動格闘タイプ、懐に潜り込まれたら、反撃が難しいのはわかりきっていった。誘導弾を防ぎ、攻撃の出の遅い砲撃は軽々と避けられるだろう。
 それよりも、気になるのはこのタイミングでまたアンノウンの出現である。恐らくは敵の一味である事は容易に判断がつくが、一体なぜこの場に出てきたのか。これほどの腕なら、一々ガジェットを使うまでもなくレリックの回収ができたはずなのだが。しかし、考える暇を与える程敵は優しくないようだった。両腕を交差させ、突撃の構えをとる人型になのはもレイジングハートを構えて応戦の意思を見せる。

『なのはちゃん! 無理はアカン、今フェイトちゃんを向かわせたから!』

 指令室に戻ってきていたはやての声が響く。

「お願い。ちょっと、厳しい相手かもしれない……」

 新人のフォローはできないなぁと考えながらも、すぐさまその思考は消え去る。目の前の相手はよそ事をしている暇などなかったからだ。なのはは久々に冷や汗が流れるのを感じた。殆ど無動作で誘導弾を発射し、同時に低出力の砲撃を放つ。相手は高機動だが、格闘しかできない。とにかく近づけさせなければ勝機は見えてくる。簡単にはそうさせてくれないのはわかっていたが、そうしなければ自分がやられるのだった。
 なのはが次なる砲撃の準備をし始めた瞬間だった。下方から悲鳴が響いた。しかし、なのはにはそれに構っている暇はなかった。チラリと下を見て、状況を確認するが、認識する前に敵が接近する。なのはは瞬時に自身の身体を急上昇させ、誘導弾を壁にするように放ち、距離を引き離した。

「ライトニング分隊は……!」

 なのはが叫ぶ。眼下には巨大な球体に捉えられたエリオの姿が見えた。


 キャロは身体の震えを止める事が出来なかった。眼前にした三型の威圧、訓練とは違う確かな恐怖、バリアジャケットとデバイスによる保護があるとは言え、九歳の少女が平然としていられる場所ではない。それが少し臆病なキャロにしてみれば、その恐ろしさは想像を絶するものなのかも知れなかった。

「あぁ……フリード!」

 そんな恐怖を振り払うかのように、キャロはフリードリヒに指示しながら、魔法陣を展開させる。フリードリヒは火炎弾を生成すると、勢いよく発射する。火炎弾が三型めがけて発射されるが、三型はアームを伸ばし、火炎弾を弾く。

「おぉぉぉぉぉ!」

 変わるようにエリオがデバイス『ストラーダ』を構え雄叫びをあげながら突撃する。槍先を帯電させ、稲妻の一撃を振り下ろすが、槍先が装甲に食い込む事はなかった。強固な装甲がエリオの斬撃を受け止め、無機質なカメラアイが不気味に光る。僅かな衝撃と共に三型を中心にしてフィールドが展開され、ストラーダの電撃を分解し、キャロの魔法陣をも消し去っていく。

「AMFがこんなに遠くまで?」

 キャロが驚愕の声をあげた。AMFの展開が何を意味するのかは日ごろの訓練でよく理解している。このまま留まるのは危険である事を理解していたが、リニアレールという足場の限定された場所では後退もできなかった。
 エリオもまた、後退するわけにはいかなかった。反撃として振り下ろされたアームをストラーダで受け止めながら、その場に踏みとどまる。背後に控えるキャロは直接戦闘が不得意な召喚師、AMF下においては有効な対応手段を持たないからだ。その分、接近戦を主とするエリオはある程度までなら、対抗できた。

「くっ……このぉ!」

 掛け声と共に三型を押し出すエリオの自力は中々のものであったが、三型はまるで遊ぶように浮遊して、されるがままにしていたが、遊びに飽きたかの如く、カメラアイが再度発光する。その姿にエリオはギョッとする。足腰に力を入れ、勢いよく三型の頭上を飛び越えると、それと同時三型がレーザーを発射する。一型以上の出力を誇るレーザーはリニアレールの装甲をやすやすと貫く。三型の背後の着地したエリオだったが、三型の反応は素早く、アームを振り回しながら、レーザーを連射する。転がるようにレーザーを避けるエリオだったが、狭いリニアレール内では満足に動ける広さはなく、接近するアームを完全に避ける事は不可能だった。

「アゥ……!」

 とっさにストラーダを盾とする事でアームの直撃を免れたが、その勢いを殺す事が出来ず、そのまま壁へと激突してしまう。意識が飛びそうな衝撃に必死に耐えるが、二度、三度壁にぶつけられ、遂にエリオは意識を手放す。その瞬間、エリオが見たのはこちらを不安げに見詰めるキャロの姿だった。
 対するキャロは完全に畏縮し、ただエリオがやられていく姿を眺めるだけしかできなかった。何度も身を乗り出そうとしたが、頭のどこかでそれを自制し、力を使う事を拒んでいた。この現状で何をしていると自分自身に言い聞かせながらも、キャロは三型の猛威を前に声を出す事も出来なかった。遥か前方にいるスターズ分隊を探すように周りを見渡し、上空を飛ぶ隊長たちの姿を探す。

「誰か……!」

 たまらず悲鳴に似た声を出すキャロ。

「誰かぁぁぁぁぁぁ!」

 リニアレールにキャロの絶叫が響いた。だが、誰もそれに答えるものはいなかった。


「声……?」

 本局から緊急時以外では使用許可の下りない転送装置を使い、地上へと戻っていたアムロは隊舎への帰還を急いでいた。その為に地上部隊の一つから輸送ヘリを借りていた。その方が普通に飛行するよりも早い時間で隊舎に戻る事が出来たからだ。
 ヘリを飛ばす事数十分、不意にアムロの脳裏に声が響く。それは久しく感じていなかった感覚ではあったが、アムロは飛んできた感情に対して反応せざるをえなかった。

「キャロ、他人に頼るのは自分の力が及ばなかった時だぞ!」

 届かない事はわかっていたが、アムロは叱咤した。同時にアムロはリニアレールの方角へと進路を変えていた。間に合うかどうかわからない。今は新人たちの力を信じるしかなかった。



[25865] 第五話
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/03/04 19:09
 キャロにとって九歳以前の生活は楽しいものではなかった。今よりも幼い頃に故郷を、部族を追い出されたキャロに楽しい記憶はあまりない。強すぎる力を危惧され、居場所でさえ定まらなかった彼女に心休まる場所はなかった。暫くして管理局に保護されても、それは変わらなかった。彼女は自身の力を上手く制御する事すらできず、どこへ行っても腫れもの扱いを受けていた。だからこそ、自分の居場所をくれたフェイト・テスタロッサ・ハラオウンには感謝もしていたし、今の居場所である六課は彼女にとって居心地の良い場所であった。だからこそ、その居場所を離れたくはなかった。だから、今まで居場所を奪ってきた己の力は彼女にとって疎ましい存在でもあった。

「誰か、助けて!」

 その言葉はエリオを助けて欲しいという意味と同時に己自身を助けて欲しいというキャロの心の叫びでもあった。今の彼女には自分の力を扱うという選択肢はなかった。三型への恐怖よりも、己の力への恐怖が強いからであった。もし、この力が暴走すればまた居場所を失う事になる。それがキャロには恐ろしかった。

「誰か……誰か!」

 涙を浮かべながら、キャロは狼狽する。狂ったように誰かに助けを求め、その場にへたれこむ。

「フェイトさん、助けて……!」

 不意に叫んだ言葉は姉代わりでもあったフェイトの名前だった。いつもなら優しい声と共に撫でてくれる柔らかい手はなかった。それが一層キャロを不安にさせた。通信で呼び掛ける事も、念話を飛ばす事も忘れたキャロは涙で滲んだ瞳でアームにつかまったエリオの姿を眺めるしかなかった。


「えぇぃ、通信圏外か。念話も繋がるわけもないか」

 全速力でリニアレールに向かうアムロはヘリの通信装置やデバイスを通して何とかキャロに連絡を取ろうとしたが、直通でつなげるには距離がありすぎた。

「キャロの思念がつかめなくなった……俺ではこれが限界なのか?」

 アムロは自身の能力の低下を嘆いた。十四、五の頃に比べて明らかに感受性のなくなった感覚はキャロの悲痛な思念を長く捉える事が出来ないでいた。だからと言って少女の危機を見過ごすわけにもいかず、どうにかしてキャロを助けなければならなかった。
 アムロはヘリの通信装置を操作すると、指令室へとつなげる。

「アムロ・レイよりロングアーチ、聞こえるか! 今からスターズ、ライトニング分隊と合流する!」
『こちらロングアーチ、アムロ一尉、今どこに! それに、何を言って……?』

 通信に出たのは薄紫色の髪をしたルキノであった。ルキノは困惑したような表情で聞き返してきた。

「すまない、今は時間がない。あの子たちが危ない!」

 詳しく説明をしている暇などなかった。アムロは殆ど一方的に通信を切ると、念じるように瞳を閉じた。かつての感覚を取り戻そうとしているのだった。

「人の革新か……俺はあんな過ちは繰り返したくない!」

 アムロの脳裏には若くして散っていった少女たちの顔が浮かび上がっていた。キャロはそんな彼女らよりも若く、幼かった。だからアムロは焦った。若い世代が消えていく事の悲劇を、またこの目で見ていく事は嫌だった。

「錆ついても、俺はニュータイプなんだろ! 腐り落ちるのはまだ早いはずだ!」

 自分自身の思念を伝えるように、アムロは叫んだ。キャロを助けたいという意思を、かつての感覚を信じて飛ばした。


「ウゥ……なに、声?」

 高町なのはへの救援に向かう道中、フェイトは奇妙な感覚を覚えた。どこからか声が聞こえる。まるで一方的に送られてくる念話のようにも感じられたが、普段使っている念話とは何かが違った。何かを訴えかけるような声がフェイトの頭に響く。

「誰……キャロとエリオが危ないの?」

 フェイトは急な胸騒ぎを覚えた。なのはへの救援に向かいながらも、フェイトは無意識にキャロへと通信をつなげていた。まだリニアレールの姿は見えない。

「キャロ……キャロ、聞こえてる?」
『フェ……フェイトさん……どこにいるんですか、エリオ君が……!』

 通信越しに聞こえるキャロの声は震えていた。

「落ち着いて、キャロ! エリオに何があったの?」
『エリオ君が捕まって……私、どうしたらいいのかわからなくて……怖くて! 助けてください、フェイトさん!』
「キャロ、エリオが危ないんだよね? だったら、まずは自分にできる事をやって!」

 エリオの身に何が起きているのかはまだ分からない。錯乱したキャロがそれを上手く説明できるとは思えなかった。フェイトは自分でも酷い事を言っている事は理解できたが、今すぐ二人を助けに行く事などできないのも事実である。

「キャロ、私たちは分隊で一人じゃない。いつだって助け合える。だけど、甘えちゃ駄目。エリオはキャロを助けてくれた?」
『はい……だから、私の代わりにつかまって……』
「だったら、次はキャロが助ける番なんだよ」
『だけど……私じゃ……』

 フェイトは言い聞かせるように優しく言葉をかけた。それは親代わり、姉代わりのようでもあったが、一分隊長としての重みもあった。しかし、キャロはそれでも踏ん切りがつかないのか、言葉を詰まらせ、震えさせた。

(やっぱり、キャロは敵が怖いんじゃない……自分の力が怖いんだ)

 フェイトは確信した。今のキャロは心を閉ざしていた頃と同じであると。その有り余る力を周囲から恐れられ、居場所すらなかった頃と同じだった。しかし、今は違うとフェイトは断言できた。今のキャロには居場所がある。一緒に訓練をしてきた仲間だっている。キャロだってそれは理解しているはずである。だったら、後は自分でそれを守るという一歩を踏み出すだけだった。

「キャロは何をしたい?」
『え?』
「今、キャロがやらなければいけない事はわかっているはずだよ? だったら、まずは自分でそれをやらなきゃ……頑張ってやって、それでも駄目なら……私が助ける! だから、勇気を出して!」


「私のやりたい事……」

 フェイトの言葉にキャロは僅かに落ち着きを取り戻した。だが、それだけで現状が変わるわけではなく、依然、エリオは三型のアームにつかまったままであった。

「私が今しなければいけない事……」

呟くキャロの事など眼中にないのか、三型は拘束していたエリオに興味をなくしたかのように大きく振り回すと、そのまま崖へと投げ捨てる。その瞬間、キャロは自らも飛び出していた。その光景をモニターしていた指令部には衝撃が走ったが、キャロは決して自殺行為に及んだわけではなかった。
その瞳には決意が現れていた。涙で真っ赤に膨れたまぶたで大きく目を見開き、力強く拳を握りしめる姿は先ほどまで泣きじゃくっていた少女とは違っていた。

「私のやりたい事、優しくしてくれた人を、私に笑いかけてくれる人を!」

 キャロのデバイス『ケリュケイオン』が輝く。

「私の力で守りたい!」

 落下するエリオを受け止め、キャロの宣言と同時にケリュケイオンの光は最大にまで達する。桃色の光がキャロを包み、そして連れ添うように飛ぶフリードリヒをも包み込む。怖くないと言えばそれは嘘になる。今でも震えが止まらないほど怖い。しかし、今踏み出さなければ後悔する事は明らかだった。
 キャロは瞳を閉じて、詠唱を開始した。それに呼応するようにフリードリヒも小さな体から雄叫びをあげる。それはまだ子どもの叫びであった。

『蒼穹を奔る白き閃光 我が翼となり、天を駆けよ 来よ、我が竜フリードリヒ』

 詠唱を受け、フリードリヒの身体に異変が起きる。雄叫びを続けるフリードリヒが巨大化し、雄叫びは咆哮に変わる。愛らしい鳴き声はなりを潜め、竜そのものの獰猛な咆哮が戦場に響く。

『竜魂召喚!』

 キャロの声で光が爆ぜる。巨大化したフリードリヒが翼を大きく羽ばたかせると、もう一度咆哮した。ビリビリと空気の振動が伝わるほどの衝撃の中、キャロはしっかりとフリードリヒにまたがり、その腕にはエリオが抱かれていた。威風堂々としたフリードリヒの真の姿をキャロはその小さな身体で完全に制御していた。もう涙は流れていなかった。
 その瞬間を眺めていた指令部もスターズ分隊も、アンノウンと交戦中のなのはも、そしてフェイトもその変化に気がつく。もう心配はいらなかった。

「ウゥ、クッ……」

 目が覚めたエリオが初めに目にしたのは、真っすぐな瞳をしたキャロの姿だった。僅かに頬を染めたエリオだったが、飛び起きるようにキャロの腕から離れる。そして、自身が空の上にいる事に気がつく。

「こ、これは……」
「エリオ君! よかった……」

 エリオの目が覚めた事に喜んだキャロはバッと抱きつく。さらに顔を赤らめるエリオだったが、それ以上に自身が乗っているフリードリヒの変化に驚いていた。

「これ、フリードの本当の姿……キャロがやったの?」
「う、うん……それよりも!」

 キャロはキッと三型を睨みつける。フリードリヒの手綱を握りしめ、魔力を集中させると、普段のフリードリヒ以上の炎が形成されていく。

「ブラスト・レイ!」

 圧倒的な炎が吐き出され、三型を包み込む。だが、三型の装甲には傷一つつかなかった。それでもキャロはひるまなかった。反撃を避けるため、フリードリヒを巧みに操り一時上昇する。

「装甲が硬い!」
「あの形状の装甲じゃ、砲撃は不利だよ。僕が行く!」
「お願い!」

 二人の息はぴったりだった。エリオはストラーダを構え、キャロは再度詠唱に入る。ケリュケイオンが光、エリオの身体を包み込む。湧きあがる力を確かに感じながら、エリオは飛び出した。

「ツインブースト!」
「おぉぉぉぉぉぉ!」

 ストラーダの槍先に桃色の刃が形成される。エリオはストラーダを一閃すると、鞭のようにしなる桃色の刃が三型のアームを切り裂く。すぐさま着地したエリオはそのまま突撃の構えを取って、自身の魔力を集中させる。バチバチと魔力が電撃に変換され帯電すると、エリオはカートリッジを装填し、勢いよく突っ込む。

「一閃必中!」

 掛け声と同時にストラーダの槍先は三型の装甲とAMFを貫く。それを確認したエリオが力任せにストラーダを振りあげると、三型の装甲が鈍い音を立てて切り裂かれ爆散した。


「ライトニング分隊がやった!」

 アンノウンの攻撃をバリアで防ぎながら、なのはは爆発した三型を見た。僅かに顔をほころばせると、なのははすぐさまアンノウンに視線を戻す。フルフェイスのマスクのゴーグルに光の筋が入り、まるでなのはを睨みつけるようだった。だが、なのはも不意に笑みを浮かべる。

「今度はこっちの反撃だよ!」
「はぁぁぁぁぁ!」

 瞬間、アンノウンの背後からフェイトが大鎌『バルディッシュ』を大きく振り上げながら接近していた。一瞬にしてレンジ内に収めたフェイトはそのままバルディッシュを振り下ろす。

「…………!」
「きゃっ!」

 それは予想すらできない行動だった。アンノウンはなのはの強固なバリアを足場にして跳躍、その勢いのままフェイトとすれ違い、一瞬にして彼女の背後を取った。

「こいつ!」

 フェイトはそのまま振り向きざまにバルディッシュを振り払う。しかし、アンノウンはバルディッシュの柄を刃で受け止めると、斬撃を防ぐ。そして空いた片方の腕の刃を光らせると、フェイトの首下を狙った。

「ウッ……!」

 身体をのけ反らせながら、フェイトは間一髪で刃を避けるが、回し蹴りをもろに喰らって弾き飛ばされる。

「あぁ!」
「フェイトちゃん!」

 飛ばされたフェイトを受け止め、なのはが誘導弾を壁のように放つ。それを刃で弾き、避けながらアンノウンは距離を取る。誘導弾をさばき終えたアンノウンはゴーグルを怪しく光らせた。

「動きに切れが増している。本気……!」

 迫るアンノウンを前になのははフェイトを抱きかかえたままバリアを展開する。刹那、両者の間に砲撃が放たれる。なのはは、ハッとなりながら、砲撃が放たれた方角に視線を移す。そこには白亜のバリアジャケットのアムロがリジェを構えていた。

「高町、テスタロッサ、援護するぞ!」

 数発の砲撃を放ちながら、確実にアンノウンをなのはたちから引き離すと、アムロは壁になるように立ちはだかる。

「チッ……掠りもしないか。二人とも、大丈夫だな?」
「は、はい」
「こちらも、なんとか……」
「よし、一気にたたみ掛けるぞ!」

 なのはは多少疲労が見え、フェイトはわき腹を押さえていたが、戦闘続行は可能だった。アムロはそれを確認すると、リジェをアンノウンに向けてなのはと共に砲撃を放つ。それと同時に両者は誘導弾を繰りだすと、アンノウンの逃げ道を奪っていく。火線の中に閉じ込めるように追い詰めながらも、中央部分はフェイトの突撃の為に開けておく。アンノウンは危険と判断しながらも、そこに逃げ込むしかなった。

「お返し!」

 大振りしたバルディッシュの斬撃を回避する事が出来ず、アンノウンは両腕をクロスさせてそれを受け止める。しかし、勢いのついた攻撃を受けきる事が出来ず、そのまま砲撃の中へと吹き飛ばされる。何発かの砲撃が鎧に命中し、吹き飛ばされながら、爆発が起きる。

「逃げられた……あの敵、巧い」

 確認できたわけではなかったが、鎧の爆発にしては過剰な閃光は恐らくダミーである事がわかる。爆煙が晴れると、そこにはアンノウンの姿はなく、身に着けていた鎧の残骸がパラパラと落ちていくのが見えた。

『し、周辺に敵反応なし……レリックもスターズが確保しました……』
「一応……任務完了って事かな?」
「そうだと良いけど」

 シャーリーの報告を聞きながら、フェイトが呟く。すぐになのはが駆け寄るとその言葉に続くように言った。四型や今回のようなアンノウンの出現が続けば嫌でも警戒はする。気が抜けないのは当たり前だった。
 それでも、終わったと言う解放感が抑え込んでいた疲労を噴出させる。なのはとフェイトは汗をぬぐうとアムロの方を見た。アムロもこちらの視線に気がついたのか、すぐ近くまで飛んでくる。

「敵は完全に撤退したようだな。蹴りをくらっていたようだが?」
「バリアジャケットがあります。大した事はありません。先ほどは援護感謝します」
「無断で来た身だ。言い訳をする理由がないと立場がない」
「そのおかげでの私もフェイトちゃんも助かりました。はやてちゃんは、八神部隊長は話のわかる人ですよ」
「フフ、はやてが苦労しそう」

 冗談っぽく笑いながら言うアムロになのはも同じように答えた。フェイトも同じく笑っていた。

「なら安心だ」

 笑いながらアムロはふと大空を舞う竜の姿を見た。巨大なフリードリヒの背にはキャロとエリオが乗り、笑顔を向けあっていた。その光景を見て、アムロは安堵の表情を浮かべた。心配していた事は起きなかったようだ。自分の力が及んだ結果なのかどうかはわからないが、屈託のないキャロの笑顔を見るに、そうそう心配するような事は起きないだろうと思えた。

「キャロには酷い事をしたのかもしれません」

 フェイトはどこか表情を曇らせながら言った。

「だが、君は親代わりとして、隊長として立派な事をしたと思う。あの子の顔を見ればわかるさ」
「声がなかったら、私はキャロたちの事に気がつかなかったと思います」
「声?」
「自信はないんですけど、誰かがキャロが危ないって教えてくれた気がしたんです。それで、キャロに通信を送って……」

 その言葉を聞いて、アムロは錆ついた自分の力が役立った事を確信した。ニュータイプの力がフェイトとキャロを結びつけたのなら、それはニュータイプとして正しい力の使い方なのではないだろうかと思う。そして、キャロの危機を受け取ったのがフェイトであるのならば、それはフェイトのキャロたちを思う優しさがあるからだと思う。だから、アムロは人間を嫌いにはなれなかった。

「君があの中で一番キャロやエリオの事を思っていた証拠じゃないか。だとしたら、それは君の優しさだと俺は思うがね」
「優しさ……ですか?」

 そう呟きながら、フェイトはキャロたちの方を向く。二人が笑顔を向けて、手を振っていた。フェイトもそんな二人を見て、笑顔を返してやった。隊舎に帰ったら、うんと抱き締めてやろうと思った。
 主戦隊の初仕事は慌ただしいながらも、終わっていった。


 マスクを乱暴に外し、スクラップ同然の鎧を床に投げ捨てながら、女は廊下を歩いていた。もはや鎧としての機能などない等しい以上、邪魔なだけであった。捨てられた残骸を一型が回収していくのを横目で見ながら、女は自動扉をくぐって巨大なモニターの前で嗤い続ける男に詰め寄った。

「なぜ撤退命令を出したのです?」
「おやおや、ト―レ。君の戦いたいなんて無茶なお願いを聞いてやったんだ、僕の命令に従うのは当然だろう?」
「アムロ・レイとは満足のいく戦いをしていない」
「やられてしまうところだったじゃないか」
「私はまだインヒューレントスキルを使っていません」

 女、ト―レがぶっきらぼうに答えるとスカリエッティは「ククク」と喉を鳴らした。それが癇に障ったのか、ト―レは鋭い視線を彼に向けた。

「奴らはまだその力の半分も出していない。それじゃ君だって満足できないだろう?」
「奴らは手を抜いていたと?」
「色々と事情があるのさ……それよりもデータの収集機はどうしたのかね?」
「先ほど一型どもに回収させました」
「随分と鈍い音がなっていたね。データが破損していなければいいが……まぁ良い。恐らく連中は戦闘機人の事に勘づいているだろうが、まだ顔がばれるのは避けたい。暫くは仮面をつけてもらう。データの収集も兼ねているんだ、余り壊さないでくれたまえ」
「努力はします」

 ト―レはそれだけ言うと、さっさと部屋から出て行った。それを見ながら、スカリエッティはパネルを操作して、ウーノへと通信をつなげた。

「あぁ、今ト―レが帰って来た。シャワー室を使わせてやってくれ。あぁ、そうだ、収集機は一型が回収しているようだ。コンピューターの方に移しておいてくれ」

 言ってスカリエッティは再度モニターの顔を向けた。先ほどの戦いの記録映像を眺めながら、スカリエッティは湧きあがる好奇心を押さえる事などしなかった。喉を鳴らし、次第に声をあげて嗤った。

「生きているプロジェクトFの残滓か……私はついているのかも知れないな」



[25865] 第六話
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/03/19 19:24
 リインフォース・ツヴァイは、通称リインと呼ばれ、六課の皆から親しまれている。これで曹長だというのだから驚きだが、それ以上に彼女は他の隊員たちとは違って、身体が小さい。それは子どもだからというわけではなく、いわゆる妖精のような姿で、その愛らしい容姿と合わさって、マスコットのような位置にもいた。性格も子どものそれではあるが、マメな性格であることには違いなく、今も日誌をつけている最中であった。ちょこちょことパネルを打ち込む姿は可愛らしいもので、通り過ぎる隊員たちもほほえましくその姿を眺めていた。
 暫くして、きりの良いところで日誌を区切ると一旦休憩に入り、身体を大きく伸ばす。パネルから視線を外すと、綺麗に掃除された廊下や手入れの行き届いた観葉植物が心をなごましてくれる。そんな光景の中、妙な影がリインの視界に入って来た。ポーン、ポーンとゴムボールが弾むような音が廊下に響く。何だろうと思い、リインは音のする方向へ視線を向けると、黄緑色の丸いボールがこちらに向かってきていた。その後、二、三回程跳ねて、続いて転がりながら、リインの前方までやってくる。

「ムム、誰かのボールですか?」

 そんな奇妙な物体をいぶがしげに見つめるリインであったが、不意に変化が訪れる。黄緑色のボールはその場でゆっくりとその身を回すと、つぶらな瞳がリインを捉えた。二つの目と口のようにも見えるゆるかやかな曲線が刻まれた表面部分は無表情な顔にも見えた。

「ムム!」

 ボールではない。そんな奇妙な物体を目の当たりにした、リインは宙に浮かぶと、さらにその物体を注視した。警戒を強めるリインの意思に従うように、一本だけ伸びた髪が跳ね上がる。じーっと見つめあう形になる両者であったが、その沈黙を先に破ったのはボールの方であった。

「ハロ!」

 目を点滅させながら、機械的な音声を発する物体、ハロはコロコロとボディを揺らしながら、何度も「ハロ、ハロ」と言っては、リインを見つめていた。

「な、何ですか……!」

 そんな突然の行動にリインはバッと身を引きながら、ハロを凝視する。ハロが転がってリインに近づくと、リインは距離を離す。そんな奇妙な進退を繰り返していると、不意にハロがリインの傍まで大きくとび跳ねてくる。

「ひゃっ!」
「ハロ、トモダチ、トモダチ!」
「あ、あなたような友達は知らないです!」
「ハロ!」
「きゃっ!」

 機械的な音声が連呼されると、リインにひっつくようにハロが近寄る。リインは小さな悲鳴をあげながら、ハロから離れるが、ハロは大きくとび跳ねて、彼女の退路の前に降り立つ。まるで手玉に取られているような錯覚を覚えたリインはハロに恐怖した。ずいっと近寄るハロは口を開閉させ、機械音声で笑っていた。

「アハハ、ハロ!」
「やぁぁぁぁぁ!」

 リインは涙を浮かべながら、ハロから逃げるように飛ぶ。そんなリインを追いかけるようにハロは転がってついていった。そんな丸い不明物体であるハロに追いかけられ続ける事数分、リインは当てもなく逃げ惑っていると、曲がり角から現れたシャーリーに激突してしまう。

「あれれ、リイン曹長……どうしたんです?」

 体格差から、さほど衝撃を受けずにリインを受け止める形になったシャーリー。リインのあわてた姿に首をかしげていると、子どものような泣き顔でリインが飛びついてくる。

「シャーリー!」
「わわ! 一体どうしたんです、そんなにあわてて?」
「丸い奴がおっかけてくるです!」
「丸い奴?」

 シャーリーの胸に顔をうずめ、リインは逃げてきた方角を指差す。シャーリーもそんなリインの頭を撫でてやりながら、指差す方向に視線を向けると、ポーン、ポーンと弾みながらやってくるハロを発見する。

「き、きっと、新型のガジェットですよ!」

 リインは小さな悲鳴をあげながら言った。

「それはないですよ。多分これ、ペットロボットですよ」

一体どんな目にあったのかはわからないが、シャーリーは苦笑しながら、答えてやった。シャーリーはハロの前でしゃがみ込むと、興味深そうにハロに触れてみた。リインは怖がって、シャーリーの背後に隠れるように、その光景を眺めていた。

「へぇ、中々凝った作り……私はシャーリー、君の名前は?」
「ハロ、ハロ! シャーリー、トモダチ!」

 ハロは耳をパタパタと動かしながら、答える。名前と顔を認識できる機能があるのは、ペットロボットしては中々優秀だ。シャーリーは自分の中の知的好奇心がうずくのを感じた。手当たり次第にハロを触りながら、感触を確かめ、その都度話かけては反応を確認し、遂には口が開くのを発見すると、そのまま大きく開ける。ハンドメイドコンピューターに早変わりしたハロのディスプレイは初期状態であり、物珍しいプログラムはなかったが、それだけでもシャーリーはこのハロというペットロボットの性能をいたく気に入った。

「気になる……少しくらい調べてもいいよね?」
「おや、シャーリー。こんなところでどうしたんだい?」
「はいぃぃ!」

 遂には内部構造でも調べてみようかなと思いもしたが、その考えは実行する前に背後からのアムロの声で止められた。ハッとなったシャーリーはあわてながら立ち上がると、アムロの方へと振り返る。そんなシャーリーの行動を不思議に思いながらも、アムロは彼女の腕に抱かれたハロを発見する。

「ハロ、こんなところで。まだ部屋から出るなといったろう?」
「アムロ、アムロ。シャーリー、リイン、トモダチ!」
「友達?」
「そ、そうなんです! 友達になったんです、ね? リイン曹長!」

 シャーリーはひきつったような笑顔を見せると、リインに視線を向けた。合わせてくださいという意思が込められていたが、リインがそれを読み取ることはなく、「え?」と首をかしげていた。それを見たシャーリーはすぐさま、次の言葉をつなげた。
「リイン曹長はさっき、ハロと戯れていたんですよ。楽しそうに、笑顔で!」
「えぇ、シャーリー……」
「私もさっき名前を覚えてもらいまして!」

 シャーリーに押し切られる形で、なし崩しにハロと友達にされたリインは反論する間もなく、あたふたと説明するシャーリーを唖然と眺めるしかなかった。ハロは感情のない瞳でそんなシャーリーを見上げて、「トモダチ、トモダチ」と言っては、「アハハハ」と耳を動かしながら笑っていた。

「そうか。ハロ、早速友達が出来てうれしいかい?」
「ハロ、ウレシイ! ウレシイ!」
「それは良かった。だがハロ、勝手に外に出て言っては、他の人に驚かれる。次からは注意しろよ?」
「リョウカイ、リョウカイ!」

 ハロはそう答えると、シャーリーの腕からとびはね、アムロに受け止められる。アムロの腕の中でハロはシャーリーたちの方へ向くと、「バイバーイ!」と言った。シャーリーもそれに答えるように、笑顔で手を振ってやると、ハロも耳をパタパタと動かして返した。

「このペットロボット、ハロは一尉がお作りに?」
「あぁ、元々は俺の世界の物でね。子どもの頃に親父に買ってもらった物を思い出して、自分で作ってみたんだ。基本構造は覚えていたし、暇つぶしとデバイス構造の勉強を兼ねて作っていたんだが……思いのほか、やんちゃな性格になってしまってね。俺も少し驚いているんだ」

 シャーリーの質問に答えながら、アムロはハロを撫でながら苦笑した。そんなアムロの心配を知ってか、知らずか、ハロはアムロの腕の中でコロコロと揺れていた。アムロもそんなハロの姿を見て、苦笑から微笑に変わり、懐かしそうにハロを見つめていた。

「アムロさんにとっては思い入れの深いものなんですか?」
「ン……そうだな。あまり人気はなかったんだが、妙に記憶に残っていてね」
「そうなんですか? 私は可愛いと思いますけど」
「ペットロボットのブームなんて、そんなものさ。実際、再熱したブームだってすぐに冷めた」
「デザインがシンプルですからね。ニーズっていうんですか?」

 機能はどうあれ、丸いボールに線と点がついただけのハロは可愛らしいが、言ってしまえばそれ以上の魅力はない。好みの移り変わりが激しい大衆のニーズに長く答えられる程、ハロに魅力はなかったと言うことだった。

「コアな人気はあったみたいだが……とやかく言う俺もその一人だったという事だろうさ」
「物を大切にするって意味では、素敵だと思いますよ。思い出を大切にするみたいで」
「そうかい?」

 なんだか照れくさくなったアムロは頭をかきながら笑った。ハロに対する思い出など、大したものではないと思っていたが、それをシャーリーは素敵だと言った。そう言われると悪い気はしない。アムロは父にハロを買ってもらった時の気持ちを思い出して、あまり感じる事はなかった父への感謝を思った。

「そうだな、ハロは初めての友達だった……リイン曹長」

 シャーリーの後ろに隠れるリインに声をかけたアムロ。

「は、はい」
「少しやんちゃだが、またハロと遊んでやってくれないか? 人と遊ぶ事が、ハロにとっては喜びなんだ」
「えと……」

 リインは恐る恐るハロに近づくとゆっくりと手を伸ばした。ハロの無表情な瞳がリインを射抜く様に見つめるが、リインはそれを堪えてハロのボディを撫でた。すると、ハロは喜ぶように耳を動かし、瞳を点滅させた。

「ウン……な、仲良くしてあげます。でも、驚かせるのはやめてくだいさい」

 弟に言い聞かせる姉のように、ハロに対して年上ぶった態度を取ったリインはここぞとばかりに先ほどの注意を促した。ハロがそれを理解しているのかどうかはわからないが、答えるように「ハロ、ハロ」と言った。


 訓練学校での訓練でも重たい荷物を持ってグラウンドを走るなんて事はやってのけたが、あれにはペース配分もあったし、疲れにくい走り方や荷物の重さだって考えられている。しかし、日常、重たい荷物を運ぶ際にはその重さを一々計算する事などないし、決められたコースを走るわけでもない。勝手が違う事で体力の消費が激しいのは当たり前だったのかも知れないが、シューは弱音を吐く事はなかった。それはシュー自身の性分でもあったが、何よりアイナ・トライトンの前でそういった姿を見せるのが恥ずかしいという事もあった。

「いつも手伝ってくれてありがとうね。本当に助かるわ」
「いえ、自分は自分にできる事をやっているだけですから」
「訓練も大変なんでしょう?」
「この程度で根をあげていては戦闘部隊なんてやってられませんから……」

 強がって見せるシューであったが、額ににじんだ汗は彼の疲労が大きい事を表していた。進んで面倒な荷物を運んでいたからそれも当り前だったが、アイナに良く見られたいという打診もあった。
 いくつかの荷物を運び終えて、小休憩に入ったシューは荷物の整理をするアイナを眺めた。まだ二十代と言っても通用する容姿を持ったアイナはシューにとっては理想的な女性だった。モデルのようなスタイルというわけでもないし、白く綺麗に見える肌も日々の生活で多少の傷があるが、着飾ったような肌よりは美しいと感じる。エプロン姿のアイナには女としての魅力だって見えるし、子育ての経験がある為か、母性だって感じられる。そんな優しい魅力にあふれたアイナをただ茫然と眺めているだけでも、シューは満足であった。

『やっぱ、女って言うのはおしとやかじゃないとさ』

 シューは頬杖をつきながら、腕から腰、尻、脚へとアイナの身体のラインにそうように視線を移動させながら、そんな事を思った。ふと、自分が破廉恥な事を考えている事に気がついたが、それを自制する意志はどこかへと消え失せていた。少しくらい不真面目でも罰は当たらないだろうと思う。

「シュー!」
「んぁ?」

 不意に声をかけられ、シューは視線を移した。廊下の先には訓練終わりなのだろう、ラフな服装をしたフォワード陣たちがいた。先頭にいたスバルが大きく手を振っていた。楽しみの時間というわけではなかったが、それを中断された事に多少腹を立てたシューは面倒臭そうに立ち上がると、「なんだ!」と大声を出した。

「これからお昼なのー! シューもどぉー?」

 昼食の誘いであったが、返事をする前にシューはチラリとアイナへと視線を向ける。アイナも彼女たちの存在に気がついたのか、整理を中断すると、こちらに近づいてきて「元気がいいわね」とスバルたちを見て微笑んだ後、「言ってらっしゃいな」と優しい声をかけてくれた。

「いや、しかし……」
「あとは片づけだけだし、荷物も軽いものばかりだもの。同じ隊の仲間なんですから、仲良くしなさい」
「は、はぁ……」

 ふっと微笑みをかけてくれるアイナに頬を染めながらシューは頷いた。スバルたちが催促するように呼びかけてくるので、シューもそれに腕をあげて答えるとアイナへと振り返り、ピッと敬礼した。アイナがもう一度シューに笑顔を見せ、手を振ってくれたのがうれしかった。名残惜しかったが、スバルたちの下へと駆け寄る。

「アイナさんのお手伝い?」
「あぁ、暇だったからな」
「やらしい目つきだったけど?」

 そんな風に冷静に答えてみるが、ティアナが目を細めながら睨むように言ってきた。

「お、俺はそこまで破廉恥でじゃない!」
「むきになると、怪しいだけよ」
「なにを……」
「まぁまぁ、ティア。アイナさん美人だし、見惚れてもしかたないって」

 両者をなだめるように割って入ってくるスバルだったが、その言葉はシューのフォローにはなっていなかった。シューは抗議の声をあげようとしたが、事実でもあったので、それ以上は何も言わなかった。ティアナの言うとおり、むきになるとあらぬ疑いをかけられるし、何よりアイナが近くにいるのだ。これ以上の失態は見せられなかった。

「昼飯だろ、行くんだったら、さっさとしろ……」
「シューさんって年上が好きなんですか?」
「だったら何だって言うんだ……貴様、生意気だぞ」

 意味もなく服の襟を正しながら、シューは先頭を切って歩き始めた。だが、その出だしを挫く様に、エリオが何気なく言葉を発した。悪気はないのだろう、シューは額を押さえながら、力なく言ってそのまま食堂を目指した。
 六課の空気は和やかなものだった。


 シャーリーと別れ、ハロを自室へと戻したアムロはそのまま、コーヒーを沸かすとレポートの作成に取り掛かった。スラウギ分隊の報告書や今までの任務の内容など書く内容は多いが、アムロは手なれた物でサクサクとレポートを完成させていた。しかし、それでも時間はかかるもので、気がつけば昼は過ぎ、太陽も随分と下がっていた。淹れていたコーヒーも冷めており、口に運びかけたところで止めた。随分と長い間画面を眺めていた事を意識するとどっと疲れが流れ込んでくる。目頭を押さえ、こりをほぐしながら、自分の歳を実感する。若い頃のようにはいかない事を自覚しながらも、ついついその調子で仕事を続けるのは最近の悪い癖であった。コーヒーを入れ直しながら、アムロはレポートのデータを保存して、コピーを取った。

『アムロ一尉、いらっしゃいますか?』

 突然、ドアをノックする音とともにウィルの声が聞こえる。

「鍵は開いている」
『失礼します』

 アムロが入室を許可すると一声おいてウィルが部屋に入ってくる。手にした封筒を確認すると、報告書の提出である事がわかる。アムロは席を用意して、コーヒーを淹れてやると、手渡された封筒の中の書類に目を通す。ウィルも礼を言いながらコーヒーを一口飲みながら席に座る。

「ン、結構だ。スラウギの備品が少し足りないようだ。俺から言っておこう」
「ありがとうございます。怪我をした隊員たちも無事復帰します、少し多めにお願いします」
「早かったな」

 肋骨の骨折といった重傷にしては早い。治癒魔法があるとは言っても数週間の療養が必要となってくる事を考えれば非常に早い復帰であった。

「処置が早かったですから。内臓に傷もありませんでしたし、後方勤務なら支障はないでしょう。それに、新型のガジェットに続き、戦闘機人でしたか? 奇妙な敵も出てきました。早い復帰はむしろ喜ばしいですな」
「戦闘機人か……」

 戦闘機人とは、先日遭遇した人型のアンノウンの総称である。管理局でも過去にそれらの関係の事件を取り扱った事があるらしいが、近年ではめっきり聞かなくなった単語であった。

「機械的に身体を強化した……サイボーグとでも言えば良いんでしょうか。厄介な相手です。資料で読んだ程度ですが、AMF下でも魔導師並みの戦闘機動が可能だとか」
「あぁ、俺も実際接触して恐ろしさはある程度理解したつもりだ」

 アムロ自身もある程度戦える自負はあったが、高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと共闘しても取り逃がしてしまった事を考えるに、あの戦闘機人は実力を出し切っていない事が予想される。

「厳しくなりますね」
「あぁ、ウィルたちの活躍にも期待しているよ」
「はは……あなたはまだ若い。寧ろ、私の方がアムロ一尉や新人共に期待しています」
「俺が若い?」
「えぇ、まだまだ男盛りでよ」

 言いながら、二人は笑いあった。長い付き合いの中、こうやって話す機会も多い。階級を無視して対等な友人として話せる相手は貴重であった。アムロにしてみれば、先輩でもあり、今は頼れる副官のような存在であるウィルはかけがえのない存在でもあった。

「男盛りついでに伴侶でも見つけたらどうです? 気立ての良い女でも捜して」
「中々モテないんだよ」
「そうですか? すぐに見つかりそうですがね。妻はいいもんですよ。喧嘩もしますがね……なにより子どもと一緒です」
「羨ましいな、そういう関係は」

 家庭も大切にする男だからこそ、人間も良いのだろう。アムロはウィルの魅力をそう感じた。いつかウィルの家族にも会ってみたい。そう思える位、ウィルが家族の話をする時の顔はいつも以上にうれしそうだった。自分もいつかはウィルのような父親になりたい。アムロは機会があれば結婚についても考えてみようと思った。


 その日の夜、フェイトはシャーリーを連れて地上本部のデータベースで今までの戦闘データのまとめと自身が追っている事件、容疑者との関係性を調べていた。レリックのデータからガジェットのデータを閲覧しながら、フェイトは別の思考を張り巡らせていた。

『六課編成から短期間で、二機の新型……内一つはなのはの事件に関わりがある。つまり、相手は六課のメンバーを知っている可能性もある。それに戦闘機人の出現も考えれば、今回のレリック事件にあの男が関わっている事は確実か』
「それにしても、レリックって奇妙な存在ですよね」
「あぁ……そうだね」

 シャーリーの一言にフェイトは現実に戻される。画面に映るレリックのデータを読み取りながら、フェイトも頷いて見せた。

「動力機関としてもエネルギー結晶としても、わからない点が多いですし。もっと別の目的で使用されるものなんかじゃないでしょうか?」
「まぁすぐに用途がわかればロストロギア指定はされないよ。ン、これはガジェットの残骸?」
「えぇ、鹵獲されたものです。新型も内部機構は変わりないものですから、特に新しい発見はないですねぇ」
「ふぅん……あ!」

 次々と映し出される画像の中に気になる物を見つけたフェイトは声をあげて、シャーリーを止めた。

「さっきの画像、少し戻してくれない?」
「え、あぁ、はい」

 三回程画像を戻したところで、フェイトが目当ての画像を見つける。そこにはガジェットに内蔵されていたチップが映し出されていた。そのチップの中央には青い結晶体が埋め込まれているのが確認できた。

「これ、何ですか?」
「ジュエルシード……」

 フェイトにしてみれば因縁めいた宝石、ロストロギアであった。

「なぜ、これが……」
「ご存じなんですか?」
「以前、私やなのはが集めていたロストロギア……今は本局で管理されているはずなのに」
「そんなものが!」
「あ、シャーリー、この部分を拡大してくれない?」

 驚きもそうそうに、フェイトはまた別のものを発見する。同じ画像内、ちょうどチップの斜め上の金属板に何か、文字が刻まれているのが見てとれる。

「これ、名前ですか?」
「ジェイル・スカリエッティ……広域指名手配の次元犯罪者……先日の戦闘機人の一件やこのジュエルシード、四型の出現……間違いない!」
「フェイトさん?」
「シャーリー、すぐに隊舎に戻ろう。隊長たちを集めて緊急会議を開く」
「ええー! ちょ、ちょっと待ってくださいよ、データのコピーを……!」

 慌ただしく動くシャーリーを急かしながら、フェイトは確信を持った。この事件の背後にいる存在はまさしく、自分の追っている人物、まさかこんな形で接触するとは思わなかったが、ある意味では僥倖とも言える。

『だけど……よくよく考えれば、今回の事件、私たちと因縁のある要素が集まっている……偶然とは思いたくないな』

 そう考えると、嫌な予感しかしてこない。まるで自分たちが敵の掌の上で踊らされている錯覚が来る。そうでなくても、管理局で厳重に管理されているはずのジュエルシードなる物がこんな形で目の前に現れる。もしかしたら、回収されなかった個体かも知れないが、どちらにせよ、敵は六課の構成員をよく知っている事は、不気味な感覚であった。


 夜遅くまでの訓練は新人たちにとっては一番疲れる仕事である。元々が新人という経験の少ない人材を扱う以上、平均並みに動けるようにするためにはこれくらいは普通とも言える。しかし、そうは言っても疲労は大きく、同時に教育する側の負担も少なくはない。ヴィータも長い戦いを続けてきた実力者ではあるが、疲労に対しては慣れる事などできはしない。疲れ切った新人たちを見送りつつ、自身は顔色一つ変えずに言葉を投げかけるが、彼らの姿が見えなくなれば、一転、疲労を表すように、肩の力を抜いた。軽くため息をつきながら、視線を移動させると、涼しい顔をしながらパネルを操作するなのはの姿が見える。流石だと思う反面、無理をしていないかと心配になって来たヴィータは声をかけた。

「今朝から新人たちと付き合ってるけどよ、疲れないのか?」
「私は戦技教導だし仕方ないよ」

 なのはは悠然と答えた。そんな風に答えられるとヴィータは何も言えなくなってしまう。仕方なく、ヴィータは話題を訓練内容の方に変えた。

「訓練の方だけどさ……前に一度スラウギ分隊の訓練を覗いてみたんだんだが、同じ教導隊だってのに、なのはとアムロじゃ全然違うんだな」
「あぁ、そうだね。アムロさんって、どっちかって言うと教官みたいな人だから。細かいところまで気配りのできる人みたいだし、直接会った事はなくても噂は結構聞いてたから」
「ふぅん……年齢の違いって奴なのか?」
「それを言うなら、ヴィータちゃんはアムロさん以上に大人だから、もっと気配りができないとね?」
「あたしがババァだって言いたいのかよ?」

 少しムッとなるヴィータに苦笑しながら「違うよ」と制するなのははパネルの操作を止めて、言葉を続けた。

「私は、まぁ、教導隊の教えと管理局の教育プログラムで訓練してきたから、それ以外の事はわからないけど、アムロさんは、多分もっと別の訓練方法を受けてきたんだと思う。それも私たち以上に実戦的な」
「実戦的か……そういや、アムロは現場の事を戦場っていうよな」
「軍人さんだったんじゃないかなって、私は思ってる」
「なるほどなぁ……そういやさ、アムロの出身世界ってどこなんだ?」

 納得しながらも、ヴィータは別の疑問を投げかけた。

「それ、私も知らないんだよね……元々次元漂流者だったらしいから、出身世界の捜索もされたみたいなんだけど、結局見つからなかったみたいだし……本人もそれについては何も語らないみたい。だけど、なんとなく想像できるんだよね、アムロさんの世界」
「そうなのか?」
「うん……多分、怖い世界なんだと思う」
「怖い世界?」
「アムロさんって、戦い慣れている気がするんだよね……前に一度、新人の訓練で一緒にプログラムを組んだんだけど、その時に、シャーリーがね、アムロさんを怖いって言ったの。私もなんとなく、アムロさんと私たちの間には大きな違いがあるじゃないかなぁって思って少し考えてみたの」

 なのはは言葉を一度区切ってから、空を見上げた。満天の星空がバッと広がる綺麗な空だった。

「アムロさんの世界って、戦争してたんじゃないかな?」
「戦争……か」

 なのはと同じようにヴィータも空を見上げた。自分のあまり思い出したくない記憶がよみがえるのを防ぐように星を見つめた。別になのはもヴィータもそれが事実だとして、アムロを嫌う理由にはならない。アムロは決して人を傷つける事を楽しむような人ではないとわかるからだ。
心配するような事はないと思いながら、なのはは胸の中の不安を飲み込むように大きく息を吸った。


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