アニメ作品から生まれた名台詞は数多い。僕が高校時代、今から20年以上も前の話になるが、「北斗の拳」が大人気だった。「北斗の拳」といえばもちろん「お前はもう死んでいる」である。インパクトのあるその台詞と「あべし」などの奇怪な悲鳴が相当流行った。その時代で言うと、「キャプテン翼」の「ボールは友達!」や、「ルパン三世」の五右衛門がボソッと口にする「またつまらぬものを斬ってしまった」など。心に残る名台詞は沢山ある。
沢山の名台詞がある中、やはり注目したい名台詞はアニマックスで今月から1話スタートした「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイが言ったあの台詞。
「親父にもぶたれたことないのに」
である。
この台詞は是非後世に残したいと思う。広く後世に残す為に、色々な国の言葉に訳しておく必要があるのでは? と勝手に考えた。
そこで、ある翻訳者のもとを訪ねた。語学教室「リトル・ヨーロッパ」を主宰する吉田茂さんである。吉田さんは翻訳・通訳を33年間続けていて、その間、通訳ガイド試験6カ国語に合格し、33カ国語を翻訳してきている。1人で33カ国語である。言葉の1人万博状態である。
吉田さんが習得している言語をざっと挙げると、
英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、韓国語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー 語、インドネシア語、マレー語、フィンランド語、タガログ語、タイ語、フィンランド語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語、クロアチア語、セルビア 語、ブルガリア語、ハンガリー語、トルコ語、ルーマニア語、ギリシャ語、アラビア語、ペルシア語、ヒンズー語、ウルドゥー語、ヘブライ語、スロベニア語、 ラテン語。
更に、1880年代に創案された国際共通言語であるエスペラント語と、その派生で生まれたイド語(日本で話す事が出来る人は10人ほど)という非常に珍しい言語に至るまで、先生は翻訳が出来るのだ。凄過ぎる。
吉田さんに企画の趣旨を説明した。ガンダムというアニメがあって、その主人公のアムロ・レイという男の子がブライト少尉の命令を拒否したら2度殴られてしまい「親父にもぶたれたことないのに」と言うんです。で、その台詞を色々な国の言葉で聞いてみたくて…。
吉田さんはガンダムを知らないようだったが、快諾してくれた。
どの言語でも良いと言われ、以下の国でお願いすることにした。
英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ロシア語、中国語、韓国語、トルコ語、エスペラント語、イド語、ギリシャ語、アラビア語、ヒンズー語
これらの言語で「親父にもぶたれたことないのに」はどうなるのか? その表記と実際の発音を聞いていただきたい。
ただ、しゃべっているのが吉田さんなので、グッと年輪を重ねたアムロ・レイになっていることはご了承下さい。
これがワールドワイドな「親父にもぶたれたことないのに」である。
とても楽しい。
例えば東京ディズニーランドに「親父にもぶたれたことないのに」に限定された「イッツ・ア・スモール・ワールド」みたいなアトラクションがあったら、こういう感じになるのだ。「親父にもぶたれたことないのに」のWe are the worldでも良い。とにかく、一つの台詞を15カ国語で聞くという今までにない体験を出来てとても満足である。
2008年の12月から約2年に渡り、アニマックスウェブマガジンにて執筆させていただきましたが、
今回の原稿を持って一旦終了となりました。今まで読んでいただき本当にありがとうございました。
1回目の連載で掲載いたしました、「段ボールで実寸大のガンダムを作
る」がまだ完結していません。
人差し指1本分しか出来ていません。いつか、連載再開の時が来ましたら、次は親指を作るつもりです。
長い間、本当にありがとうございました。