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シャープ 片山幹雄社長と東芝 西田厚聰社長による、液晶パネルと半導体部品の相互補完型業務提携の記者会見がホテルニューオータニで行われた2007年12月21日は、日本電機メーカーと日本半導体メーカーの強者連合による再編が実現した歴史的な日である。
この会見は、東芝のIPS連合からの離脱を意味する。日立製作所、松下電器産業、東芝の3社共同出資で2006年8月22日に立ち上げたIPSアルファテクノロジは荒波の中を船出したわけだが、約16カ月で座礁したことになる。これが、第2弾の日本電機メーカー再編の幕開けとなった。
当日筆者は、この記者会見を受けて日経CNBCの「夜エクスプレス」に、元米国副大統領アル・ゴア氏が執筆した書籍『不都合な真実』の翻訳者であり環境ジャーナリストでもあるイーズ社 枝廣淳子代表とともに生出演し、この業務提携に関する分析と評価をコメントした。販売量が伸びない薄型テレビを抱える電機メーカーは、継続した巨額の設備投資に耐えられず、資本体力と技術のある陣営とのアライアンスを強めていくしか生き残りの道はない。
今回は、日本電機メーカーのサプライチェーンの中で起こる、日本半導体メーカーの「川上統合」を分析し、ニッポン産業乱世をどう生き延びるかを読者の皆さんと真剣に考えていきたい。
関連情報 | |
日経CNBC 夜エクスプレス http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/yoru/ |
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イーズ社ホームページ http://www.es-inc.jp/ |
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シャープと東芝が業務提携、東芝は大画面有機ELを「見送り」(ITmediaニュースより) http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0712/21/news135.html |
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IPSアルファが開所式を挙行──第6世代液晶パネル工場に関係者を招く(Tech-Onより) http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060822/120361/ |
日本電機メーカー再編と液晶パネルの歴史
2007年7月24日に経営統合に向けて資本・業務提携することが決まったケンウッドと日本ビクター、そして同年9月20日にシャープとパイオニアが発表した資本・業務提携は、日本電機メーカー再編の第1弾といえよう。これらの分析に入る前に、少し液晶パネル生産の歴史に触れてみたい。
1997年(技術移転開始)〜1999年(量産開始)にかけて、東芝、日本IBM、松下電器、シャープ、三菱電機、富士通など日本電機メーカーから台湾企業(中国企業も含む)に、液晶パネルの生産技術が移転された。1989年に東芝と日本IBMはディスプレイ・テクノロジー(DTI)社を合弁事業で設立したが、2001年8月に合弁契約を解消し、両社は液晶事業を分割した。日本IBM側はインターナショナル・ディスプレイ・テクノロジー(IDTech)社、東芝側はティー・エフ・ピー・ディー(TFPD)社がそれぞれ液晶事業を引き継いだ。この合弁解消の理由は何であったのか? 日本IBMがハイエンド用途の大型液晶パネルを目指し始めていたのに対して、東芝は携帯電話などの小型液晶パネルを目指し、両社の思惑にズレが生じていたためと分析している。
2001年7月4日に日本IBMと台湾のChi Mei Optoelectronics(奇美電子、以下チーメイ)社は、液晶パネルの開発製造を行う新会社を日本に設立すると発表し、その直後、IDTech社がチーメイに買収された。チーメイはIDTech社の前身であるDTI社の技術力を高く評価していたのである。現在のチーメイの技術力は、シャープと同等(応答速度などの性能比較では、シャープ以上)であり、これらの技術は、日本生まれのDTI社の基礎技術で培われたものである。
このことは、日本の量産技術水準が非常に高く、日本人技術者の優秀さを世界に証明したものともいえるが、台湾・中国へ液晶パネルの技術を供与したのは、日本電機メーカー経営陣の失策であった。日本企業はこの貴重な技術をアジア企業に安易に売り渡し、現在の利益が生みづらいビジネス環境を自ら作ったのである。筆者が説く、グローバル・ビジネスにおける日本企業の弱点、この連載コラムのメインテーマである“戦略マーケティングの欠如”からこのような事態を招いた。
関連情報 | |
ビクターとケンウッドが経営統合へ 正式発表(ITmediaニュースより) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/24/news072.html |
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シャープ、パイオニア筆頭株主に(ITmediaニュースより) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/20/news068.html |
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東芝とIBM 液晶製造のDTI社について合弁解消、事業分割へ(マイコミジャーナルより) http://journal.mycom.co.jp/news/2001/07/04/10.html |
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東芝、松下、液晶事業を統合、合弁で新会社設立へ(マイコミジャーナルより) http://journal.mycom.co.jp/news/2001/10/17/20.html |
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日本IBM、台湾CMOとTFT液晶ディスプレーの開発製造で新会社(ASCII24より) http://ascii24.com/news/i/mrkt/article/2001/07/04/627589-000.html |
台湾の成長株を日本テレビ王国のパートナーとして取り込め
台湾の液晶パネルメーカーの状況は、チーメイのみが成長を続けている。ライバルの台湾AU Optronics Corporation(AUO)社は巨大化学会社であり企業規模は大きいが、第8世代の投資はチーメイが先行している。台湾の液晶パネルメーカー上位4社は、旧日本IBMインダストリアルソリューション(現日本IBMサービス)の工程管理システムを導入していることも、日本と同等のパネル品質を実現できた要因であろう。液晶パネル市場の伸びが期待される有望業界においてチーメイは有力企業であり続けるだろう。
日本電機メーカーで公に液晶パネルの調達先が台湾企業であることを明らかにしているのはソニーと三洋電機である。Qisdaグループ(旧BenQグループ)傘下でPC周辺機器製造を受け持つ佳世達(Qisda)社は、両社から32型液晶テレビの組み立てを受注している。同社はLG電子からも液晶テレビの組み立てを受注しており、ソニーと三洋電機からの組み立て受注を加えると、出荷台数が急成長することが見込まれる。
ソニーは2006年の液晶テレビ出荷台数が600万台余りだったが、2007年は900万台余り、2008年は1500万台に成長すると予測している。ソニーは米Wistron社と米AOC社に組み立てを委託していたが、今年からは主に米Wistron社とQisda社に軸を移していくものとみている。ジェイスター(当社)としては、日本電機メーカーがグローバル市場で継続的な成長を行うためには、伏兵であるチーメイを強力な日本のパートナーとして構築する戦略を提言しよう。
関連情報 | |
台湾の奇美電子、「第8世代」液晶パネル工場を着工(NIKKEI NETより) http://it.nikkei.co.jp/digital/news/tv_dvd.aspx?n=AS2M25022%2025042006 |
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液晶ディスプレイ分野で台湾AUO社と提携(富士通のプレスリリースより) http://pr.fujitsu.com/jp/news/2003/01/28-1.html |
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